ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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連邦東海岸にいるアトム教との決着。
しかし戦いを終わらせるには必要なものが多すぎて――。

次回投稿は数日中を予定。


Complete and total Victory(完全なる勝利)

 連邦がミニッツメンとアトム教との対立で湧いている中。

 ケイトとマクレディ、そしてグールのトミーは平和で退屈な旅を続けている。

 

 当初、トミーを連れて真っすぐ西へ。コベナントでアキラと合流。話し合いの結果、スターライト・ドライブ・インへと向かう手はずになっていたが。トミーの要望もあり、そうはならなかった。

 時間的にこの時、彼らが真っすぐ西に向かっていれば。強行軍でスロッグに向かうレオと出会う可能性が高い。またそうなれば――少しはその後の展開にも影響はあったかもしれない。

 

 しかし、とにかく彼らの旅は続き。そしてついに目的地へ到着する日が来た。

 

「あれは、町か。ケイト」

「そう、みたいだね」

「……」

 

――スターライト・ドライブイン・シアター

 

 彼らから見て北に位置するそれは、記憶の中では荒野に残る残骸。ところがしばらく見ない間に大きく様変わりしていた。

 荒れ地にはいつのまにか鉄製の建物が並び、そこには人影も見える。

 

「ガ―ビーがしくじってから廃墟のままじゃ、ない。マクレディ?」

「俺が知るかよ、クソッ」

 

 ケイトにそう返事をしながらマクレディは――俺は、油断なく周囲を確認する。

 

 まったく理解を越えた現実が目の前にあった。

 この連邦で。いや、この世界で居住地をゼロから立ち上げるというのは簡単な事ではないはずだった。少なくとも、キャピタルでもそのルールは有効だった。「誰かがどこかに居住地を作ろうとしている」と聞けば、しばらくすると決まって「ああ、あれはダメになったよ」といわれるものだ。

 

 なのにアイツは。俺のボスは俺達の前に居ながらちょいと自分の手を伸ばし、声をかけただけで。こんなにも簡単にあのガ―ビーですら失敗したことをやってしまうものなのか。

 正直言って、背筋に冷たいものを感じる。

 

「な、なぁ。その人は――俺なんかここに呼び出してどうしたいんだ?」

「……マクレディ?」

「いちいち俺に聞くな!俺だって知らねーよ。お前もそうだろ?」

「それじゃ――その人を。アキラだっったよな、俺はいつまで待たされるんだ?」

 

 これまでになく不安そうなトミーに何も答えられない2人は、とりあえず目的地に近づくことだけ決める。

 

 近づいてみると、居住地内では走り回る幼い子供たち。その隣で木材に金づちを振るうまだ若い彼らの父親らしい若者を見つける。

 相手はケイト達を見て、グールのトミーがいるのを確認したのか。顔をしかめつつ、立ち上がった。

 

 無理もない話だが、こっちは相手を。相手はこっちを怪しむ。

 そして手探りで互いの素性を探りあう会話を続けていると……居住地の中からドシドシと足音を立てて近づいてくる存在がいた。

 

「ニンゲン、敵ハドコダ?ストロング、トテモ戦イタイ!――ケイト?」

「誰かと思ったら緑の巨人じゃないのさァ!ひさしぶり、あんた元気にしてた?」

 

 人間のやさしさのミルク。

 それを求めて仲間たちと決別し、レオ達と共にボストンコモンを歩いたあのスーパーミュータントがそこにいた。

 

 

 ボストンコモンを歩いた後、レオはしばらくストロングを連れてミニッツメンを率いた時期が短い間あるにはあった。

 だが、結論から言うとこれがあまりうまくはいかなかったのだ。

 

 ただでさえスーパーミュータントという危険な存在である上。ストロングの言動はいちいちどこか不穏な響きがある上、強い闘争心をあっけらかんと見せびらかすせいで彼に怯える人々がいっこうに減ることはなかった。

 そこで仕方なく――本当に仕方なく、ミニッツメンは番犬ならぬ。番人としてこの廃墟となっていた土地にストロングを送り込むことに決めたのだ。

 

 それまでは申し訳程度にパトロール中のミニッツメンやメールマンが入るようにして。ここにいるストロングを訪れる人たちが短い時間、相手をすることで平和が保たれていた。そう聞いていた。

 つまりここには彼しかいないはず、マクレディたちはずっとそう考えていたのだ。

 

「ありゃなんだい。驚いたな」

「まぁな。でもあんたが本当に驚くのはこの後かもしれないぜ」

 

 ケイトと明らかにガッカリしているスーパーミュータントが親しげに話しているのをトミーは見て驚いていたが。おそらくこのグールが次に会う奴と話せば、さらに驚かされるに違いない。

 まぁ――これについては詳しく説明しなくてもいい事だよな。

 

 

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 キングスポート灯台から500メートル。

 私はジミーから受け取った彼のマスケットについているリコンスコープを覗き見る。

 

「……灯台までは一本の坂道。電磁式のゲート、ターレットは7台」

「なかなかの防衛体制だな」

 

 パラディン・ダンスの感想はいつものように面白味がない。

 

「将軍、でしたら砂浜から近づきますか?」

「ダメだ。海岸で接近を気付かれたらそこで動けなくなる。上からたたかれ、全滅だ」

「だそうだ、少年。やはりここは――」

 

――正面突破しかない

 

 結論は出た。足元のカールは後ろ足で耳を掻く。

 敵に気づかれることなく索敵は出来た。私はジミーにマスケットを返すと、ダンスらと共に仲間の元へ戻っていく。

 

 

 ミニッツメンの調査によって東海岸、クレーターハウスを中心に活動するアトム教の存在はわかっていた。

 アトム教、なるものは聞いたことがなかったが。どうやら全員が平和と平穏を愛する人々ではなく。武器を手に略奪、襲撃、誘拐を繰り返し。北に位置するセイラムを狙ってるのか、その周辺に手を伸ばしているという話だった。

 

 キングスポート灯台はそんな彼らの前線基地といえる。

 こことスロッグとフィンチ家の農園の間にある空白地帯にはレイダー、ガンナー、スーパーミュータントらアポミネーションがしょっちゅう騒ぎを起こし。

 ミニッツメンが東部の居住地を開いていくことになれば、ここは間違いなく最も頭を悩ませる場所になると考えられていた。

 

 そんな場所で戦争しようというのだ。

 攻める側としては、余計な横やりが入らないよう。短時間で決着をつけねばならない。兵力に余裕がないことを考えると、簡単な作戦ではないが――私には頼れる友人たちがいる。

 

 

 あの”小さな宝物”の小さな会議が終わってから数時間後。

 クロダはセイラムの入り口を見下ろす建物の屋上にいた。最新情報によればすでにこの時、ミニッツメンは灯台に迫っているという。

 あとはいつ、どうやって戦闘が始まるか――。

 

 背後に気配を感じ、クロダは一瞥する。そこには困惑した表情のキジマがいた。

 

「ここでなにをしてる」

「キジマ……」

「お前は俺達に誓った。なのにまだここにいる――まさか何かするつもりなのか?」

「当然だ」

 

 クロダは平然と問いかけに首肯する。

 だがそれこそこの男の本質なのだ。やると言えば絶対にやる、だからこそサカモトはあの会議で。こいつに「やらない」と言わせることにこだわったのだ。

 

「嘘をつくのか?お前が?」

「違う。何を言い出す」

「ならっ!?」

「――俺は確かに約束した。今回は、あきらめる。アキラは、殺さない。暗殺も中止だ。しかしこの機会を利用しないとは言わなかった」

「クロダ。それは屁理屈だ」

「どうだろうな」

「俺がここにいるということは、サカモトや観測者も恐らくお前がどこにいるのか。何をしようとしているのか見ているぞ」

「そうだろうな。わかってる」

「――おれはここで見ているぞ。お前が何をするか」

「好きにしろ。俺は構わない」

 

 クロダは再び正面を向く。

 彼の視線の先にあるのは、キングスポート灯台か。それとも別の、場所か。

 

 

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 集まってもらった全員の顔を今一度確かめる。

 メールマンの訓練生たち、パイパー、スロッグの住人であるグール、コズワース、エイダ、カール。そしてジミーとパラディン・ダンス。

 これはミニッツメンの正規軍だったはずなのに、随分と個性的な顔が揃ってしまった。だが、それだけに彼らを全員。無事に帰してやりたい――それが可能かどうかは、もうすぐわかる。

 

「それでは作戦を説明する。まず、相手の装備について」

 

 そういうと私はパラディン・ダンスに視線で合図を出す。

 

「皆、こちらを見てくれ。アトム教徒といえばこのガンマ線銃だが、あそこでは数名。レーザー銃を装備しているのを確認した。

 恐らくそういうのは元レイダー、もしくは傭兵か何かだったのだろう。戦闘が始まれば、指揮官の役割も持っているはずだ。周囲の確認もいいが、うかつに頭を出さないように注意しろ。戦い馴れた連中はそういうのをカモにする」

 

 全員、緊張しているのが分かる。

 私は努めて明るい声で、続けて作戦の段取りを説明する。

 難しいことを頼むつもりはないが、それでもこれから話す約束事は守ってもらわねばならない。それがひいては生き残ること、勝利することを難しくする。

 

「灯台には一本道。これだと正面突破で行くしかない。

 だから作戦を用意した。勝利を手にするにはあの灯台の前にあるゲートを突破すること。勝つ方法はこちらで考えたから、あとはみんなで勇気をもって私の指示に従ってほしい。それでは説明する――」

 

 

――午後13時42分、晴天。

 

 海は穏やかで、灯台のアトム教徒たちは静かな午後を迎えていた。

 が、いきなりゲートわきから爆発音が連続する!

 

 

「私が第1狙撃ポイントから壁沿いのターレットの攻撃を開始する。これを合図に、灯台に向かう一本道に向かって歩兵チームがジミーを先頭に大声で騒ぎながら進んでくれ。敵は彼を見ればミニッツメンだとすぐに判断するはず――警報が鳴り響くだろう」

 

 

 灯台から500メートルほどの手前の草むらからジミーを先頭にパイパー、訓練生、グール達が果敢に飛び出していく。押し寄せてこようとする敵の存在を感知したのだろう、灯台は不気味なサイレン音を響かせた。

 

 

「この距離なら、相手の武器をそれほど恐れる必要はないが。かといって当たればやはり怪我をするだろう。それでも頭を低くして、狙い撃ちされないように注意だけはしてほしい。大丈夫、それほど長くはかからない。すぐに突入部隊が登場する」

 

 

 灯台がサイレンを鳴り響かせると、確認したパラディン・ダンスは行動開始と草むらから立ち上がる。

 続いて文字通りトカゲのように地面に張いつくばっていたエイダが。距離を取ってコズワースも準備を開始する。

 

「よし、行くぞ。諸君」

「了解です」「了解」

 

 最新のT-60パワーアーマーに続き、凶暴な4脚を備えたコズワース。

 電子音を響かせ、エイダはステルスフィールドを展開する。

 

 

「ダンスたち突入部隊は別方向から一気にゲートの攻略にいってもらう。歩兵チームは最初のポイントである灯台手前、100メートルほどで一旦停止。次の指示が出るまではそこで身を隠して頑張ってもらう。ただし、ジミーはダンスらが突入するのを確認したら、第2狙撃ポイントへ。私は交代で前線に突出する」

 

 

 ゲートに向かう一本道に足音高くコズワースとダンスが駆け上り始めると、崖の上からは狂ったようにガンマ弾やレーザーが彼らに降り注がれていく。しかし重装甲に身を包む彼らの足を止めることはできない

 それどころか――。

 

 

「ダンス、実はエイダから面白いものを提供されたんだ。君に使って欲しい」

「これはこれは。民兵は面白いものを持っている」

 

 答えるダンスの口元は緩むが、反対に目は輝いていた。

 エイダが差し出してきたのはガトリングガン。かの発明家リチャード・ジョーダン・ガトリングが量産した最初期の機関銃である。

 

 なぜエイダがこれを持っているのかというと、少し説明が必要となるだろう。

 ミニッツメンがT-45パワーアーマーの回収にひと段落つくと、これらに持たせる武器について、問題となった。すぐに思いつくのはB.O.S.のナイトたちを真似してミニガンを集めることだったが。ひとつ市場から手に入れるにしても値段は高いし、なにより数を揃えにくいという問題もあった。

 

 そこでアキラという私の危なっかしい若い友人が登場する。

 ジョン・ハンコック市長の有名な誕生秘話を本人から自慢話として何度も繰り返し聞かされていた彼は、バンカーヒルの傭兵団を雇い、州議事堂からこれを回収させてきた。別に本人はあるとわかってたわけではないらしいが、傭兵団は「つかえるもの」としてそれを回収した。アキラはそれをミニガンでも使用する5㎜弾を発射できるように手を加える。

 

「連射速度はミニガンと比べると――」

「ああ、わかってる」

「骨董品かもしれないが。うまく使ってほしい」

 

 ダンスの指がガトリングの表面をなぞる。新しいのに古い、浮かべる笑みは夢心地のそれだった。

 

 

 パラディン・ダンスは崖の上から身を乗り出すようにして攻撃してくる相手に対し、引き金の代わりであるハンドルを握りしめると。それを回してゆっくりと砲身を回転させていく。

 

 ドカッ、ドカッ、ドカッ、ドカッ!

 

 一発一発が重々しく、腹の底に響く衝撃。

 そこから発射された弾丸は簡単に頭上の岩と肉を砕き、さらに飛び散る破片が信徒たちの皮膚を裂く。悲鳴、痛みに苦しむ声。思わぬ侵入者からの反撃に、先程まで激しかった攻撃の手がわずかに緩む。

 

 

「崖の上から攻撃してくる相手はダンスが引き受ける。ゲートはコズワース、エイダ。君たちにやってもらう」

 

 

 自作とはいえ鋼鉄の門は電磁錠式に改造してあった――だからこそアトム教徒らも頼りにしている。

 これまで多くの襲撃者たちはこの門にとりつくことはあっても、破ることは出来なかった。門の前でレイダーはガンマ弾の放射線によって崩れ落ち、死の恐怖に駆られて背中を見せて逃げ出し。スーパーミュータントは門を殴りつけはしたものの、門の中に入ることは出来なかった。

 

 しかし今回は違った。ステルスフィールドを展開し、一足先に門に体当たりしていくエイダの一撃は、あっさりと扉を変形させ。頑強な壁に初めて大きなへこみを作ってしまう。。

 さらにそこにコズワースが入ってきて――。

 

 最後にスコープ越しに計画が予定通りに進んでいることを確認すると、私は狙撃銃をその場に放って走り出した。

 続いて飛び出してきたカールは、私を抜くと一歩前を走る。

 最初の難関に成功した。計画は想定通り、次の段階へ進む。

 

 

「ジミー、君が第2狙撃ポイントに到着することはゲート攻略に必要な事だ。可能な限り素早く位置にたどり着き、素早くゲートの敵を排除してもらわないといけない。早ければ早いほどいいし、遅くなればそれだけこちらの有利さは失われてしまう」

 

 

 兵士達からひとり離れた後、崖に飛びつくと狙撃ポイントの位置まで途中何度か滑り落ちかけた。それでもなんとか怪我をすることなくたどり着くことが出来たのは上出来だ。灯台が良く見えるようにと体を地面へと放り出し、リコンスコープを早速ゲートに向ける。

 手にするのは自慢のレーザーマスケット、ミニッツメンの証。

 

 スゥゥ……。

 

 息を止め、狙いを定め――が、発射されない。

 

(俺の馬鹿!エネルギーを充填させてないぞ)

 

 この若きミニッツメンは焦りすぎていた。レーザーマスケットは撃つ前に必ずハンドルを回してエネルギーを充填させなくてはいけなかった。こんな基本を忘れてしまうなんて!

 自分への怒りと悔しさをかみしめながら、しかしジミーはそれでも自分の役目を果たそうとする。

 

 崖の上から赤いレーザーが灯台めがけて飛んでいく。

 

 

「正面突破は門を抑えることがとにかく重要になる。コズワース、パラディン・ダンス、エイダ。君たちにやってもらえなければ、完全な勝利はない。進むんだ、もし足が止まって撤退するにしてもその時は――」

「私は兵士。戦場で何が起きるのかは知っている」

「ダンス……」

「大丈夫だ、レオ。いや、将軍閣下。私は君を信じている。君が勝利すると、だからここにいる」

 

 エルダーにはとても聞かせられない言葉だが、それがダンスの嘘偽りのない本心だった――。

 

 

 キングポート灯台に作られたゲートの攻防はすでに佳境に入りつつあった。

 おそらくだが、電磁錠でなければ。最初のエイダの体当たりであっさりと勝負はついていただろう。

 しかし攻撃はそれでは終わらない。

 

 エイダは頭部と腕から発射されるレーザーでゲート上部から攻撃してくるアトム教徒たちをけん制しつつ。彼女の危険な尻尾にみえる凶暴な腕を扉に叩きつけ、掴んでは引き裂こうとしてる。

 そこにコズワースが到着、その凶暴な4脚を振り上げてから一気に振り下ろす。扉は変形を始め、小さくない穴が出来る。吸着して離れまいとする左右の鋼鉄の壁は悲鳴を上げ続けている。亀裂はもう隠せない。

 

 だが当然なのだ。

 そもそも最強の力を望むエイダのためにアキラが用意した危険な体がここには揃っている。

 

 セントリーボットに負けない高火力、セントリーボットに負けない体格、セントリーボットに負けない作戦能力を有する存在。上半身、下半身と今は別れてしまってはいるが。それは間違いなくここにあって、2台は自分達の力を振り絞っている。

 それを押し止めるのに電磁錠でも普通の門では役不足だ。

 

 さらにさらに「手伝おう」と声が欠けられ、T-60パワーアーマーが門にとりつく。

 運命の時が訪れようとしていた。鋼鉄の悲鳴は絶叫へとボルテージを上げていく――。

 

 紙を破くようにだらりとだらしなく引き裂かれた傷口に、コズワースは容赦なく足を突き入れて広げる。

 それが消えると。慌てて穴をふさがんと集まろうとした信徒たちの前に、穴から首を突っ込んできたエイダのアイ・レーザーが出迎えた。

 

 信仰に支えられるアトム教徒たちの士気こそ変わらなかったが、彼らの持っていた強みはこの瞬間に消えた。

 

 ダンスはゲート内に入り込むと、ガトリングを四方に向けて発射して牽制を始める。

 その間にロボットたちは信じられない俊敏さを見せ、門の両側にある空間を埋めるために積み上げられたガラクタをよじ登って越えてくる。

 

「あれだ!アレを出せ!急げぇっ」

 

 アトム教の中から悲鳴に似た指示が飛ぶ。

 そしてちょうど門の上に立ったエイダは存在を確認する。起動音を響かせて進む巨体のロボット。

 

「――!?」

「おい、なんだ!?」

「セントリー・ボットです。私にお任せを」

 

 答えながらエイダのステルスフィールドが再び展開する。

 しかし――おかしな話ではあるが――このロボットの声には歓喜が、隠しきれぬ闘争心があらわになっていたのではないだろうか。ステルス装置は巨体を隠しても、ひとつ目のまがまがしい赤い輝きは隠せていない。

 

「ロボットにはロボットだ!パワーアーマーの相手もさせろ!」

 

 建物の陰から必死にガンマ弾を発射する教徒たちの横をゆっくりと黒のボディは追い抜いていく――かに思えた。

 

「ホアン ト、ホウシ 二、ツトギャ……マッ」

 

 今度は誰の目にもわかった。ステルス装置を作動し、エイダは門から飛び降りると足音を隠すことなく再び先ほどのようにガルパーを思わせる突進からの一撃をセントリー・ボットにくらわせていく。

 さらに敵を破壊する喜びの声を上げ、相手の巨体に絡みつくようにしてよじ登ると。両腕にステルスブレードを装着して振りかざす。

 

 その迫力、その恐怖!

 

 自分達の隣にいきなりデスクローか、ベヒモスでも現れたのではないかというスーパーファイトが開始され。さすがの信徒たちもショックから一瞬だけ身動きができなくなる。

 そこにきて、セントリーボットは早々にこの襲ってくる凶悪な敵を抑え込めないと判断したか。自爆を構わずに全力攻撃(フルオープンアタック)を開始しようとしていた。

 

 

 パイパー・ライトは自分が決して運のいい女ではないことを知っていたが。さすがに今回は失敗だったかも、などと訓練生のひとりと隠れる大木の陰でギャーギャーさけびながらちょっぴり思っていた。

 戦いが始まる前、ブルーに何度も確認されたのだ「本当に参加するのかい」と。

 自分にだけそう言ってくれる彼と、彼にいい顔がしたくて思わず――もちろん、とあまり役に立っていない胸板を強めに叩いてしまった。

 

 前線に付き合えばきっとなにか違う発見があるかも、と良い面だけを思ったが。正直、アドレナリンが噴出するのをやめてくれない。何も考えられない。これが戦争なのか、思い知っている。

 そこにきてあのゲート前での大騒ぎ!

 恐怖、不安、それを吹き飛ばそうと繰り返し叫ぶ。なんかもうよくわからなくさせている。

 

 いきなり耳元で獣特有の荒い息遣いが聞こえた。

 思わず体の向きを正反対にひっくり返しながら、銃口を向けるが――そこには見慣れた犬が「なにビビってんだ」と余裕を見せたいのか、くるくると円を描いて小走りしていた。

 

「ゴ、ゴメン」

 

 なんてことだ。パイパーは自分が思わず犬に謝ってしまったことにショックを受けている。

 でも続いて天国のような瞬間が来る。全力疾走で追いついてきたブルーがパイパーのそばまできてくれた。

 

 周りは戦場。男は鋭い目、荒い息を吐き、自分のすぐそばにいる。そしてこっちは鼓動が無駄に早鐘を打ち、興奮もしてるのかも。こんな状況にあるのに妙な妄想が刺激されているのをはっきりと感じる。

 ああそうだ、馬鹿を言うな。場所をわきまえろ、パイパー・ライト!

 

「パイパー」

「ブ、ブルー」

「ダンス達が門を破った。終わらせよう」

 

 そうだ、終わらせよう!

 なにを?

 

 

 追いついた。皆の横を抜き去りながら声をかけて通り過ぎると、私は一番心配だったパイパーの元へたどり着く。

 やはりこうした戦場の空気はなれていないのだろう。少し混乱しているように見えたが、彼女の持つ強さはまだまだいけるようにも見えたので、とりあえず安心した。

 

(やるぞ、ここからだ!)

 

 コートのポケットから私は薬剤を取り出した。

 バファウトとサイコと呼ばれる混ぜ物、サイコバフ。

 残念ながら戦場に立つまでもなく自分の力についてはすでに把握している。Vaultの冷凍技術から瞬発力こそ取り戻せているが、スタミナや馬力に関しては今でも見る影もなくなっている。だからこそ、こういうものが必要になる。

 

 それを心臓に近い場所――左の脇の下に針を突き立てる。

 地獄のような戦場で学んだ技術のひとつだ。ヤバい薬を効果的に使うなら心臓に近いところにヤレ。しかし今の私の体ではそれには耐えられないだろうから――こうやるしかない。

 

 私のやることが思いもしないものだったようで、パイパーの目が丸くなって言葉を失っていた。

 珍しい事だ。

 私は立ち上がると声を上げる。

 

「門は破った!仕上げの時間だ!声を上げろ、奴らに押し寄せるぞ!続けぇぇぇ!!」

 

 走り出せばもう何も考えない。

 敵を見つけ、素早く処理する。それだけ。たったそれだけだ。

 

 

 ジミーは何を言っているかまではわからなかったが、その声を聞けば理解できた。

 彼がミニッツメンになってから連れまわされた戦いで何度も見た光景。将軍が最後の攻撃を開始する時間だ。つまり正念場、勝利は目前にあるということ。

 

 それまで3発撃っては一発当てる、をなんとか目指していたジミーの体に熱いものが湧き上がった。

 さらに集中しろ。さらに多くの敵を倒せ。

 

 見たわけではないが、ライフルを構えた視覚のの外側で兵士達が門に殺到していくのを感じた気がした。

 抵抗を続けるアトム教徒たちの中から獲物を探していると、ジミーの意識の隅に不快感のような雑音が入ってくる。

 

――なんだろう?

 

 本当ならばリズムよく当たろうが当たるまいが、発射しなくてはいけなかったが。その時間をあえて雑音の正体を探ることに集中する。

 

「っ!?」

 

 長距離リコンスコープとはいえ、遠景にあるすべてを詳細に映すわけではないが。かつて商人だったジミーにはわかった。

 海岸から駆け上ってくる顔色の悪い女――よたよたして頼りないが。だが目には負けるものかというはっきりとした決意を見る。その手に握られていたものは――ヌカ・ランチャー。

 

 小型核弾頭をカタパルトでもって射出する最悪の兵器。

 

 あんなものをつかわれたらどうなるか?

 奴らはきっと全滅するだろう。しかしこちらもきっと――。

 

 チクショウ!知らずに声を上げ緊張が走る。同時にジミーは問答無用で銃爪を引いた。

 赤い線は女の右足の内側に入っていったかに見えたが、致命傷ではなかったようだ。まだ足を引きずっている、動いている。

 

「畜生、畜生、畜生っ」

 

 声を上げながら自分を落ち着かせつつ、マスケットに次々とフュージョンセルを放り込んではレバーを回す。その回数、実に6回。レーザーマスケットで可能な最大チャージ。

 

 それを構えながら大きく息を吸い、吐き出す。

 将軍はミニッツメンに勝利をもたらしてくれる。だから兵士は戦う。

 

 スコープの中の女が壮絶な笑みを浮かべつつ、立ち止まるとランチャーをフラフラしながら構えるのを見る。

 

――まだだ。

 

 狙いでもつけているのだろうか。そんな武器では必要ないというのに。

 この間もジミーは我慢を続け。集中力を高めていく――。

 

 時を刻む針が、急に遅くなっていくのを感じる。このままなら全てが停止してくれるんじゃないだろうか、そんな気さえしてくる。

 だがジミーはじっとスコープを覗き続けていた。狙っている女の姿を捕らえていた。

 

 女の表情が変わった、と思った。

 口を開ける。最後の捨て台詞だろうか?ジミーは彼女がこちらを「クソ野郎」と叫ぼうとしているんだと思った。

 

 するとごく自然に指が動いてくれた。

 

 

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――負けた

 

 夜の訪れたセイラムの屋上で、クロダはついにうつむくとため息をついた。

 南の方角にあった戦闘の気配が完全に消滅したと感じていた。一晩も持たずに決着、あまりにも短時間で戦いは終わった。どちらが勝ったのか、ここからでは予想するしかないがなぜだろう。アトム教徒の守備側が勝ったとはどうしても思えない。

 

「やはり勝てなかったようだ、クロダ」

「……」

「ヤツ――フランク・J・パターソン Jrは記録によると元は優秀な軍人だったそうだ。こうなることもわかっていただろう」

「キジマ、そんなことは言われなくてもよくわかっている」

 

 ここにきて強がり?と思ったが、どうやら違うらしい。虚勢というのも、この男には似合わない言葉だからだ。

 

「あの会議でサカモトが止め、俺は約束を守ると誓ってなかったとしても。この結末に大きな変更はなかっただろう」

「謙虚だな」

「アトム教は負ける、それはほとんど決定していたといっていい。だがそれでも――」

 

 なんとかなるのではないか?そんな期待はあったのだ。ミニッツメンにも弱点はあった、かき集められた寡兵ばかり。ミニッツメンでは唯一忠実である右腕への失望。状況の変化に対応しきれぬ組織の硬直。あげれば今ならいくつもまだ出せるだろう。

 

 だが無意味だ。

 

 何という実力、なんという強運。フランク・J・パターソン Jr。

 アキラは規格外の相棒を見つけ出してきたというわけだ。

 

「変更はなかった?本当にそうか?」

「ああ……ただひとつ。アキラがここに来ていれば、直接俺が会いに行く。変更はそれだけだった」

「――そうか」

 

 とはいえもはや戦いは終わった。終わってしまったのだ。

 アトム教徒など、どうとなっても知ったことではないが。コンドウを倒した男は、またしてもこちらの思惑を超えて見せたという事実だけ変わらずに残った。きっと奴は今夜は勝利の美酒を交わし、美女の腰にでも手を回しているのだろうか。

 

(そして我々は何もできないまま、去っていかねばならないのかっ)

 

 負けたわけではない。決して負けたわけではないが、この湧き上がる悔しさをどうしたらいい?キジマは苦しそうに顔を歪めた。

 

 

 キングスポート灯台、陥落。

 

 この最悪のニュースは本拠地であるクレーターハウスからみた灯台の方角からサイレン音が消え、不吉な黒煙が上り続けているというのに誰ひとりとしてここに経過報告に来ないことからでた結論であった。

 

――負けたんだ。

 

 わずか3時間。それが彼らにとっては砦であったはずの灯台が、決着まで要した時間だった。

 

 クレーターハウスに残っていたのは導師の信頼を得たか、お気に入りの弟子たちばかりであったせいだろうか。彼らは全員、本能的のそのことを理解してしまった。

 このクレーターハウスはアトム信者にとっては聖地だが、一般人から見たらただの放射能に汚染された入り江でしかない。

 

 これまでならば例え灯台で敗れたとしても、こんな汚染地域にやってきてまでアトム信者たちを根絶やしにするなんて考える気違いは誰もいなかった。しかし今回は少しだけ違う。

 

 事件は全て信者たちの側から起こされ、暗殺者まで送り込まれた将軍とやらが自ら率いてここまでやってきたのだ。

 その将軍とやらが憎しみをたぎらせてここまで来ないと誰が保証してくれる?

 

「導師様――」

「安心するのだ、弟子よ。我らはこの聖地で、いまなおアトムの輝きの中で守られている。それを忘れてはいけない」

「はい」

「灯台までは届かなかったかもしれないが。ここは違う――ミニッツメン、フン!

 どうせ奴ら、あの灯台を手に入れたことで満足し。ここまで来ることを恐れて引き返すことも考えられる」

「そう、なのでしょうか?」

「見ているといい。明日には斥候を出そう。奴らの浮かれた様子を探らせる、我らのアトムの輝きをあの灯台に取り戻すために」

「アトムの輝きは偉大なり……」

 

 不安を必死に払いのけようとする弟子の肩を、うんうんと自信たっぷりにうなずきつつ導師は口にする。「今夜の警備はしっかりとやるのだぞ」と。まだまだ序盤、本当の戦いはまだ終わってはいないのだ。それを知っているのは、ここにいる自分達だけ。

 

 

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――戦いはまだ終わってはいなかった。

 

 深夜、クレーターハウスの周りを犬のようにグルグルと見回っている信徒の姿を小さなスクリーンで確認していた。

 リコンスコープは暗視装置のようにはっきりと闇の中に何があるのかを映し出してくれるわけではないが。カメラを通して動くものを捉えるということに優れたこのシステムは、視認するよりもはるかにハッキリと闇の中に動く存在を見つけ出してくれた。

 

 速足で周囲に目をやり、ボロボロの衣服に似合わぬ。手にしていたのはヌカ・ランチャー。

 

 あまりにも危険なその装備を彼ひとりだけがもっているわけではない。

 さきほどから何人もの見張りが、同じ装備で目の前を通り過ぎていったのを確認していた。

 何かがクレーターハウスに近づいた、なにか見たと思ったら迷わずそれを撃つことに彼らにためらいはないだろう。それは同時に、彼らがまだこの戦いに負けたとは考えていないという事がはっきりと読めた。

 

「――随分と物騒な夜回りだな」

「……」

「あれでは子ネズミが横切るだけで、この辺りの地形を変えてしまいそうだ」

「それが冗談ではなく真実だ、ってところが問題だ。ダンス」

 

 パワーアーマーで私が確認していた映像を受け取って見ていたダンスに暗い声で私は返す。

 ジミーから借りてきた彼のレーザーマスケットを構えるのをやめた。しばらくすれば次の誰かがまた目の前を横切っていくのだろう。

 

 キングスポート灯台を手に入れた。

 ミニッツメンは勝利し、大きな犠牲も出さずに戦闘を終わらせることが出来た。しかし反対に、あそこを守っていたアトム教徒は全滅した。

 彼らは最後まで抵抗をやめないばかりか、撤退することすら拒否した。相手の指揮官は最後の最後で、自分たち全員を殉教者にすることに決めたのだろう。

 

「お前がここに2人だけで、と言った時はなぜ、と思ったが。正解だったな」

「彼らの聖地に兵士が近づいてきたとわかったら――」

「使うだろうな。あの兵器を」

 

 私はうなづく。

 

「アトム教はすでに抵抗する力はない。そう、思っていたんだが」

 

 違う、本当はそう思いたかったのだ。

 彼らは戦えないなら、これ以上は必要ない。そう考えておきたかった。

 だが期待は砕かれた――戦場にある冷徹な倫理がそれを知らせている。

 

「悩んでいるのか?お前らしくもない」

「――ダンス」

「民兵と言っても、今のお前は司令官だ。その判断の難しさに悩むのは当然だろうとは思う。同情も出来る」

「この戦いはまだ終われない。終わらなかった」

 

 ジミーの証言が、こうなってしまう可能性を生み出した。

 放射能に特に思い入れのある集団である。ひとりがそんなものを持ち出したとあれば、他にもあるかもしれない。それはつまり、彼らの鋭い爪も歯も、まだ残っていることを証明する。

 

 私はよほど深刻な表情をしていたのか、気を使ってくれるダンスは「それで、どうする?」と聞いてくる。

 私は懐からフレアガンを取り出して弾丸を込めていく――。

 

「コズワース、エイダ。頼むぞ」

 

 夜空にひゅるひゅると音が響き、炸裂音と共にパッと花火が散った。

 クレーターハウスの人々はこの音にびっくりして空を仰ぐが、そこにはもうきらきらと散って消えていく光があるだけだった。

 花が咲くように輝き、飛び散った火は燻ることなく消えていく。花火とはそういうものだ。

 

 それから数十秒後、いきなり大地を轟音が鳴り響く。

 クレーターハウスの方角に、不気味なキノコ雲がいくつもいくつも立ち昇って――。

 

 最後の作戦に必要だったものはたった一発のフレア弾。

 

 キングスポート灯台で接収したヌカ・ランチャーはそのままレオとコズワースに回収され。クレーターハウスへの最適な爆撃ポイントへと送り込まれていた。

 本当であればミニッツメンに向けられるはずだったその弾頭は、彼らの聖地のど真ん中へと落下。結果はこの通り。深夜の連邦を生み出された衝撃音が地表を走る。

 

 夜の闇の中、迫りくる敵に怯えていたアトム教は消える。

 同時にこの惨劇をもって、ようやく戦争は終わりを告げたのである――。

 

 

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 ロニー・ショーと彼女の若い兵士達がバラモンに積んだ荷物と共にキングスポート灯台に到着したのは、戦闘終結から数日後の事であった。

 

「勝ったのかい。やるじゃないか、あの将軍」

 

 この時、ロニーはまだどのような形で戦闘が終わったのかわかっていなかった。

 それでもすでに金鎚で釘をうつ、再建の雰囲気ただよう居住地が自分達を待っているとはあまり考えていなかった。

 

「きっと大勝利にご機嫌なんだろうね。やれやれ、帰りたくなってきたよ」

 

 少し冗談めかす。

 老婆がここまで来るのにも簡単ではなかったのだ。

 

 すでに将軍は兵士を連れてスロッグを発った、という情報は入ってはいたが。

 その後、なにかないかとここに来る前にわざわざスロッグへ立ち寄っていた。。なのにそこでは何もないと言われ。グール共はなぜかロニーたちに「今頃何しに来たんだ?」という目を向けてきて、楽しくない交流を味わってしまった。

 

 そこから灯台に向かいつつ、アンテナを張ってはみたものの。まったくなにもないときた。

 それでも用心深く斥候を出しながら進んだ結果、すでに平穏を取り戻した灯台を立った今。確認したところだ。

 

 

 自分達をミニッツメンだと告げながら近づくと、灯台のそばの壊れかけの住宅から若いミニッツメンがひとり飛び出してくる。

 てっきりレオが不満そうな顔で出てくると思ってたせいでロニーは若者に「あんたは?」と聞いてしまった。

 相手は――ジミーはそれを聞いてむっとした顔で逆にロニーに聞いてくる。

 

「あなたこそ誰ですか?」

「ミニッツメンさ。みりゃわかるだろ、後詰できたんだ」

「……随分とのんびりとした到着ですね。戦闘はもう何日も前に終わりましたよ」

「そのようだね。つまり勝ったわけだろ?よかったさ」

 

 言いながらロニーは周囲を窺うが、なにかおかしいと気が付き始めた。

 この灯台にいるのはこのジミーと3人のグールしかいないように見える――将軍はどこだ?

 

「それより将軍はどこだい?勝利のお祝いを述べたいんだよ」

「将軍は、いません」

「はぁっ!?」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「なんだい、そりゃ」

「いえ、むしろあなたが何を言ってるんです?将軍はすでに次の任務に就かれました」

 

 同時にここでするべきことをジミーに指示し。必要なことは訓練生たちを使ってすでにオバーランド駅のガ―ビーへ知らせを向かわせていた。

 

「それじゃ、ここにいるのはあんたらだけかい?」

「そうです」

「まぁ、いいや……ここは悪くないよね。皆、喜ぶさ」

 

 ロニーにしてみればジミーを褒めたつもりだったのだが。この言葉でジミーは完璧にこの老婆を嫌うことを決めたようだった。

 

「お言葉ですが。この居住地の使い方については将軍はすでに決定されました」

「へぇ」

「ここはこちらのグールの方々が中心になって運営するように、と」

「なんだって?」

 

 これにロニーの機嫌が悪くなる。

 別にグールを差別したりはしないつもりだが。連中は平和な居住地にとって犯罪の温床となる肥料みたいな存在だ。

 そこにいるってだけで、問題が増えていく。

 

 ガ―ビーはそんなのにグレーガーデンだのスロッグだのを用意してやっているというのに。今度は手に入れたばかりのここをグールにくれてやると?

 この――ついに海にまで到達した最初の居住地を!?

 

「そいつは冗談だよね?笑えないよ!」

「いえ、そう指示を受けてます。命令は実行されます」

「冗談じゃないだろ!あたしら血を流して手に入れたここをなんでよりに――っ!?」

 

 そこまで感情的な言葉を口にしてロニーは慌てて閉じる。だが、もう遅かった。

 

「誰が、血を流したのか。それは彼らです、サー」

 

 ジミーそう言いながら後ろで困り顔のグール達を示す。

 続いて――。

 

「そして戦ったのは将軍と我々です、サー」

 

 ミニッツメンは戦って勝利した。

 だがそこには”ガ―ビーのミニッツメン”はいなかった。

 まるでそう言っているような言い方だった。

 

「ああ、そうだったね。そうだった」

 

 ロニーは視線を外すと、自分達はバラモンに物資を詰め込んできたと改めて告げる。そして好きに使ってくれていい、とも。

 新しい兵士と古い兵士の話し合いはそれで終わってしまった。




(設定&人物紹介)
・ストロング
久々に登場。まぁ、ゲームでもコイツはだいたい放置されていたというか。どこかの居住地に放置することが多かった記憶しかない。

ですがお待たせしました。次章からは彼も活躍――する、はず。


・キングスポート灯台
原作では防衛する側としてターレットの位置どりが気になることの多い居住地。
こちらではちゃんと(?)した門を用意して、砦化させています。それでもまぁ……今回は相手が悪かったよね。


・ガトリングガン
はい、元ネタはご存知Fallout76から。
手回し式の連発銃です。

エイダはこれを肩に担いで、尻尾で使うことが出来ます。邦画「ガン・ヘッド」を見たことある人がいれば、想像しやすいかも。
あえて描写しませんでしたが、ラストのヌカ・ランチャーもエイダがこのように使っています。コズワースだと担げないので。


・パーフェクト・エイダ
打倒メカニスト。そのためにエイダはずっと自分自身のバージョンアップを望んでいました。そんなロボットに、あのアキラが何もしないわけもなく。


・ガルパー
ファー・ハーバーに生息するサンショウウオの変異体。
大きな体とタフさが特徴。攻撃力もバカにならない。コイツが前傾で走ってきて、這うようにして体当たりされるとゴッソリ削られます。


・アサルトロン・マンタガール(仮)
これは完成することのなかったエイダの情報です。
名前はマンタガール計画、とされていたから仮の名が与えています。マンタマンのサイドキック的な立ち位置?

4脚で尻尾を持つ巨大ロボット。
完成していればセントリーボットと並べると見下ろせます。
今回、エイダはガルパーの突進攻撃に似た動きを見せましたが。マンタガールの外見は同じくファー・ハーバーに登場予定のフォグ・クロウラーに姿が似ています。

あの主人公、何を考えてこんなキモいのを作ろうとしたんですかね?


・ヌカ・ランチャー
原作でも特徴的な小型核弾頭。
連邦の東海岸ということでついに撃ち合いが実現しました。

原作ではまれにレイダーがこれを持ち出してきて「馬鹿なの!?」となるんですが、この話だと気軽にそれが出来ません。生身に撃たれたら、やっぱ死んじゃう。


・将軍の命令
これによって今後、キングスポート灯台は連邦で3番目のグールの居住地という事になります。

当初の予定ではアキラがこのために色々と動き。最後のロニーは彼が相手をするはずでしたが、長くなるのでそのシーンはなくなりました。

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