ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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支援要請 (LEO)

 ピップボーイから繰り返し発信されている救難信号は、同時にそこにいる生存者たちの絶望の声でもある。

 元軍人の悲しさか、こう考えてしまうと自分がこれから行う行動も正しいと信じきれるものができてしまう。

 

 ケンブリッジの地図は覚えていないが、旧世界の警察署ということならばある程度位置の目処はつくことができた。

 ここにくるまで噂に聞いたように、やはり町の中にはフェラルとかいうグールたちがゾンビのごとく徘徊していることがわかっていたので、警察署へは町の外から裏道を通ることで、直接近づくことにした。

 

「それが安全なのでしょうか?」

「近づいて、もし全滅していても。こちらはそのまま撤退できるからな」

「撤退をされるので?」

「状況が不明だ、コズワース。なにより助けを求めている人が、本物かわからないし。なにがあったのかと近づいて、逆にむこうに襲撃者だと間違われて刺激したくない」

「なるほど。つまり、騒ぎがないなら。危険は冒さないということですね」

「そうだ。気に入らないか?」

「いえ、消極的ではありますが。旦那様のお体の安全が第一ですから、問題ないと思います」

「ありがとう、コズワース」

 

 そう言いながらショットガンに2発の弾を込め、パイプライフルのドラムマガジンを確認しておく。

 いよいよケンブリッジに突入する。

 

 

 私の計画では、警察署を目指して慎重に進むことを考えていたが。

 現実は裏切って、私とコズワースは足早に進入する羽目になった。

 

 明らかにこの近くで、何者かが戦っている。小さかったそれは戦闘音だとわかると、まだそこで生きている人がいるとわかって、急がねばならなかった。

 

「旦那様、旦那様。お待ちください、私が先頭に――」

「……」

 

 軍にいたときでさえ、私は相棒を従えて先頭に立っていた。

 引退したとしてもそれがかわることはない。

 レーザーの発射音とグールらしきうなり声、そして「下がれ、下がれ」という声を聞いて私は躊躇することなくそこへと飛び込んでいった。

 

 ケンブリッジ警察署の前はまぎれもない戦場であった。

 

 パワーアーマーを装備した兵士がフロントマンをしているようだが。それを援護すべき側面を守る兵士たちがいない。振り返ると、建物の正面入り口わきに負傷者を抱えて必死に抵抗している1人がいるだけだとわかった。

 

(なんてことだ)

 

 これでは前線を維持できない。

 いくらパワーアーマーを着ているとはいえ、次々と走ってくるグールの波に飲み込まれてしまえばそれで終わりだと思った。

 

「コズワース、彼の右につけ。こちらの背後に回ろうとする敵は攻撃しろ」

「わかりました」

「俺は左後方につく。フロントマン、そのまま踏ん張ってくれ」

「――なに?いや、了解した」

 

 パワーアーマーは前方を見たまま返事を返してきたが、私はそれを待ってはいなかった。

 玄関前の段差をのぼり、負傷者たちの前にたつと町の奥へと視線を動かす。

 

「左から8、右から5!5秒でくるぞっ」

 

 言いながらパイプライフルを構え、遠くから迫る敵の足を止めようと私は勢いよく引き金を引いた。

 

 

==========

 

 

 40分にもわたる激戦で、私は手持ちの弾丸の多くを使ってしまったが。警察署の前はグール達の屍で足の踏み場もなくなっていた。

 押し寄せる波が止まり、3分ほど待っても新しいグールの姿が現れなかったことで、ようやくこの戦闘は終わったのだと肩の荷を降ろすことができた。

 だが、困った話で次に待っていたのは、助けた相手からの感謝の言葉ではなかった。

 

「お前は何者だ。所属とここにいる理由を、話してもらう」

 

 そのあまりにも軍隊らしい反応に、驚きとあきれを感じながら。しかし私は心のどこかで、確かに喜びのようなものも感じていた。

 

 パラディン・ダンス。

 

 彼こそ、この連邦で私が出会った2人目の友人であり。私にも深くかかわる、B.O.S.(ブラザーフッド・オブ・スティール)のパラディンの称号を持つ男である。

 だがこのときの彼は、まだ自分達の危機に横合いから現れ。いきなり指揮権を奪った男に対して、深い疑念を抱いているのは明らかだった。

 

「あんた達の無線を聞いた。助けが要るんじゃなかったのか?」

 

 気持ちは理解できたが、それでも感謝の言葉がないのは不満でこちらも文句が口から飛び出す。

 

「手助けには感謝しよう。だが、ここで何をしていた」

「そっちこそ何者だ?」

「答えることにやぶさかではないが、まずこちらの質問に答えてもらいたい」

「――この場所で、生きるために必要なことをしている。それだけだ」

「本当か?戦闘中の我々の中に入りこんできて、私を指揮して見せた。それにグール共へのあの戦い方、ただのゴミ漁りとは思えないが」

「こっちは答えた。そちらが納得しなかったとしても。今度はこっちに答えてもらえるのかな?」

「もちろんだ――私はダンス。キャピタル・ウェイストランドのB.O.Sから派遣された偵察部隊を率いている」

「なるほど」

 

 私には彼が言っている意味が、さっぱりわからなかった。

 

「お前はこのあたりの住人なのか?」

「いや、違う。見てわからないか?Vault111から来た」

「Vault居住者か、なるほど――理解してもらえないかもしれないが、こういう会話を普通の人は不快に思うものだ。だが、それでも正直に答えてくれて感謝する」

「いや、気にしていないさ」

 

 気持ちは痛いほどわかった。

 軍隊では殺すこと、命令に従うことを徹底して教え込まれる。そうなるとどうしても、任務先での態度にいつも不信感をあらわにしてしまい。現地の住人達の反感を買ってしまう。

 

 ダンスも同じようで、続けて自分達の困難な任務についてかなりのことを説明し始めた。

 

 この連邦へ、送り込まれた彼ら偵察隊だが。

 厳しい状況が続き、次第に仲間は倒れ。ついにこの場所に押し込まれてしまったのだという。

 私は質問せずにはいられなかった。

 

「なぜ、この場所を活動拠点に選んだ?」

「旧世界で警察として使われた場所ならば、我々が活用できるものがそろっていると思ったからだ。つまり――」

「武器や、装備か。なるほど」

「そうだ」

「だが、私が聞いた話では。ここの一帯はグールが大勢なだれ込んできているそうだ。その割には―ーここの防衛施設は、十分とはいえないように見える」

「……グール程度ならば、我々にはパワーアーマーがある。そんな問題など、たいしたことではない」

「救援信号を送っているのに?」

「ああ――その、本当はその情報を知らなかった。それは認める。だが本部の意向もあって、地元の住人とは任務の性質から接触をしないようにしていたのでな。そうか、ここはグール共の餌場になっていたのか」

「しばらくは大丈夫だろうが、ここの周辺にもまた奴らは戻ってくるはずだ」

「わかった。それについては考える」

「そうしたほうがいい」

 

 長く話したせいだろう。太陽が西に沈もうとしている。

 彼らは危機的状況を乗り越えたようだし、自分はここから離れるべきではないか。そう思っていた。

 

「立ち去るつもりか?」

「戦闘は終わった。そうだな、そのつもりだ」

「こちらは礼をまだしていない。その、どうだろう。このまま引き続き我々に、お前の力を貸してはくれないだろうか?」

 

 私は即答を避けた。

 後ろに控えるコズワースに視線を送るが、このロボットは黙っている。私の考えに従うといっているのだろう。

 弾丸をかなり消費したので、礼とやらは是非欲しかったが。だからといって困難なミッションをまた抱え込むようなことはしたくなかった。

 

 そこで――。

 

「協力がいるなら、雇用契約をはっきりしてくれ」

「フン、まるで傭兵のようなことを言うんだな」

「傭兵じゃないとは、言ってない」

「いいだろう、こうしよう。中に入って我々の会話に参加して欲しい。そこで先ほどの礼と、お前のすべき任務を与える。任務が終われば、さらに仕事に見合った報酬を出す」

「わかった」

 

 私はこのダンスという男を信じることにした。

 彼のような男は昔にも大勢いた。私の周囲の大半は、こんな男ばかりで、皆が頼もしい仲間だった。

 それにアキラのようにこの場所を最適な空間に変えることなど、私にはできないが。彼らの困っている状況ならば手を貸せると感じていた。

 

 

 

 警察署に入ると、怪我人を見ていたヘイレンという女性兵士が近づいてきた。視線で「これは?」と後ろに続く私達を見たので、ダンスが説明する。

 

「彼に次の任務を手伝ってもらう。その前に、屋上のアレをいいか?」

「アレ、ですか?」

「そうだ――試してみたい」

 

 何のことかはわからなかったが、彼らに続いて屋上に向かう階段までついていく。同時に、ダンスは現在の状況について説明を始めた。

 

「連邦の任務において、我々の部隊は大きな被害を受けた。物資は不足し、隊員も半分を失ってしまった。だが、まだ失敗したというわけではない。

 今は、なんとかしてキャピタルの本隊に救難コールを送ろうと考えている。以前にも一度、試したが失敗した」

 

 すると隣にいるヘイレンがそれに続ける。

 

「原因はここの屋上にあるラジオ塔なの。修理はしたけれど、電波が弱くてそれで失敗した。

 でも、それは電波が強ければ十分に成功する可能性が高いということ。その方法を、私達はようやく見つけることができたの」

「ヘイレンはスクライブだ。彼女はこの連邦に現存する技術資料について、沢山の記録を記憶していた。今回もそれが役に立った」

「あなたにやってもらいたいことは、ダンスと共にアークジェット・システムにある送信機をとってきて欲しいの」

「ダンスと?君達はのこるのか。怪我人だけで、一人で大丈夫か?」

「ナイト・キースのこと?それなら心配ない。スティムを使ったけれど、数時間も寝れば彼は回復する。頑丈な人だから」

「問題は我々なのだ。場所的にスカベンジャー共があさっていないとは限らないし、そこまで行くにしても安全とは限らない。時間をかける余裕もない」

 

 そういうとダンスは屋上の扉を開けた。

 

「そこで先ほどの話に戻る。お前には我々の救難信号を聞いて駆けつけた礼をまずしたい。これを受け取って欲しい、使えるか?」

「これは――」

 

 そこに仁王立ちするものを見て、私は声を上げる。それは以前にもコンコードで見てサンクチュアリへと回収した、あのT-45パワーアーマーだった。

 装甲の表面に施されているものが剥がれ落ちてしまってはいるが、間違いなくパワーアーマーのフル装備一式がそこにあった。

 

「いいのか?これをもらって。すべて揃っているようだ」

「君がこれを乗りこなせるというなら、な」

「大丈夫だ」

 

 私はそう言いながら、傍らにあった作業台の上に置かれていたフュージョン・コアを手にすると、アーマーの背後に押し込んだ。

 

「すべてが完璧に整備されているようだ。新品だな」

「ただし200年前の新品だ。任務中、こいつを見つけたのだが。私の部隊では、誰も使いたがらなかった」

「本当に?なぜだ、戦闘で役に立つのに」

「わからないか?」

 

 どうも先ほどからダンスに試されているような気がしたが。投げかけられた質問の答えを探してみた。なるほど、すぐにその理由がわかってしまった。

 

「そうか。あんたのそのパワーアーマー。気が付かなかったが、T-45じゃなかったのか」

「そうだ、我々B.O.SではT-45の後継機となるT-60を使っている。性能が違いすぎるからな、正直ないほうがマシだと、ナイトたちは使いたがらなかった」

 

 私は内心、苦笑していた。

 この壊れた未来にあって、そんな贅沢がまだ許されるとはお笑いだと思った。

 アンカレッジで周囲を敵に囲まれる経験をすると、性能だけで道具のすべてをどうこう言う気にはなれないものだ。勢いよく飛び乗って、起動をさせる私を見て背後の2人が喜んでいた。

 

「どうやら口先だけではなかったらしい」

「そのようです」

「――厳しい任務のようだが、こいつがあれば何とかなりそうだ。ありがとう」

「どういたしまして。

 それでは、引き続き。夜のアークジェット・システムへ送信機を回収する任務を開始したいと思うが。かまわないかな?」

「ああ、行こう。ダンス」

 

 

 私はフランク・J・パターソン Jr。

 あの難攻不落といわれたアンカレッジを、私と私の部隊が叩き潰した。

 ただの送信機をひとつ回収するだけならば、何の苦労もなく終わらせて見せるさ。

 

 

==========

 

 

 夜が終わる。

 太陽が東の空から上がってくる。

 

 私とパラディン・ダンス、そしてコズワースは疲れた表情でアークジェット・システムの裏にある貯蔵庫から無事に連邦へと脱出した。

 コズワースもそうだが、私とダンスのアーマーも。だいぶ傷ついており、回収任務は成功したもののそれが簡単なものではなかったことをしめしていた。

 それでも――。

 

「終わったな」

 

 私が口にすると、ダンスは苦笑いを浮かべて応じてきた。

 

「もっとすんなりいくはずだったんだが――」

「任務は成功した。それだけでは駄目なのか?」

「どうかな。きっちりと命令に従う市民と共に働くという意味なら、我々はいいチームだったかもしれないな。気分転換にもなったし」

 

 夜の連邦もひどく危険な散歩であったが、アークジェット内はさらに難しいものとなっていた。。

 連邦の住人達を恐怖させているという、人造人間とよばれる存在が先に来ていて。こちらは彼らを背後から襲う形で戦闘する羽目になったのだ。

 それでも相手は手ごわい戦闘兵器で、こちらがパワーアーマーを持ち出していなければ一晩でその全てをスクラップにして終わらせるなんてことは不可能であったと思う。

 

 私は肩の力を抜こうと、軽口をたたいた。

 

「隊長さんは完ぺき主義者か。結果主義者のわたしとはどうしても合わないらしい」

「まぁ、冗談はここまでにしよう。まず送信機を私に。その後で、この任務における君の助力に報いよう」

「わかった」

 

 私は背後のコズワースに合図し、目的のディープレンジ送信機を彼に渡す。

 今度は向こうの番であった。

 

「ありがとう。それでは、お互いに議論すべき重要事項について意見を交わしつつ。まずはこれを受け取って欲しい」

 

 そういうとダンスは自分の手にしたレーザーライフルを私に差し出してきた。

 

「B.O.Sで使われているレーザー兵器だ。それは私が手を加えた一丁だ。是非、受け取ってもらいたい」

 

 譲られたレーザーライフルを私は早速構えてみる。

 実は私はこういうレーザー兵器の類はあまり好きではない。

 撃てるだけでいいなら、極端な話。この武器はリモコン程度の大きさと重さでも十分な威力を発揮する。それが私にはいけない、レーザー兵器はどうしたって軽すぎる。父や祖父から、狩りで火薬を用いた銃を学んだ自分としては、重さが必要のないこの系統には触れたいなどと考えたことはなかった。

 

 だが、時代はもう変わってしまった。

 苦手でした、では済ませられない日常に自分は生きているのだ。

 

「ありがとう。頂くよ」

「どういたしまして、市民よ」

 

 そういうとダンスは改まり

 

「さて、ここでひとつ提案がある。これまで山のようにいろいろなことがあったが。そのたびに君がしてきたこと、できることを私は観察してきた。

 任務は何度も危険にさらされたが、平常心を見事に保ち。その姿はまさに兵士のようだったと思っている。

 

 資質があることは間違いない。

 そこで君をスカウトしたいと考えるにいたった。我々の仲間に、B.O.Sに入り、これからの人生を真に生きた証を立てることに費やしてはみないか?」

「私を?」

「そうだ。どう思う?」

 

 私はしばし、沈黙した。

 全てが過去へと消え、サンクチュアリにいる中毒者の見たという未来にだけ、息子のショーンはまだ生きているのだと告げられ。

 それにしがみついている、今の自分。

 

 同時に、この連邦で私を助けてくれそうな組織はないと思っていた。

 愛国心と忠誠に値しない、そんな軍に失望した私に。この時代でも精強な軍が、私の実力を認めて手を伸ばそうとしていると思うと、なにやら胸にこみ上げてくるものがあった。

 

 だが――。

 

「わからない。すぐには決断できない、これは重要なことだ」

「そうだ。これは簡単なことではない。

 だが、そうだな。いきなり申し出たことに、イエスと答えろと迫るのは対等な扱いとはいえないだろう」

「すまない」

「いいさ。私はこれから戻って、本隊と連絡を取る。次の命令がどうなるかはわからないが、君の考えがまとまったらあの場所に来てほしい。この申し出の猶予期間は、我の部隊があそこを引き払うまで有効としたい」

「わかった。本当にすまない、よい返事ができなくて」

「構わんさ。だが、このことはまじめに考えて欲しい。私はこれでも本気で言っている」

 

 帰りはケンブリッジのそばまでは共に行動したが。そこでダンスとは別れた。

 ボストンに入った私は、そこからさらに南下するとチャールズ川を渡り、ついにグリーンジュエルに到着することになる。

 

 サンクチュアリを出て、もうすぐ2週間。

 私はようやく、最初の目的地へと迫ろうとしていた。




(設定)
・キャピタル・ウェストランド
今のアメリカの首都、ワシントンD.Cのことをこう呼んでいる。距離にすると、約650キロほどだろうか。
前作のFallout3の舞台。


・B.O.S
正式名称、ブラザーフッド・オブ・スティール。
総本部は西海岸にあるが、舞台は東海岸。つまり支部のひとつ。
元がアメリカ軍の一部であったことから、バリバリの戦闘集団である。旧世界の技術を根こそぎかき集め、自らの行いを正義と疑わない。細かい情報はそのうちに。


・レーザー兵器
文中では「リモコン程度」と評しているが、そこまで極端ではない。
それなりに高い火力と軽めの重量で、重量制限のある主人公には優しい武器。レオのようなライフルマニアには絶対に必要な一丁のはずなのだが。

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