ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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次回は来週を予定。


対立 Ⅰ

 オバーランド駅へと先に帰還したガ―ビーは、さっそく以前の生活へと戻っていた。

 早朝には目を覚まし、新兵と共にどやしながらのランニング。河原で女たちが水仕事をしているかたわらでライフルの講習を簡単に行う。

 食事を終えるとこの日は早朝にスロッグから深夜に移動してきた調査部隊が帰還するので、それを迎えないといけない。

 

 本来であれば将軍でもあるレオに出席願いたいところではあるが。彼はある親子との関係もあったのだろう。ここではなくVault81からの通いを願っており、残念ながら時間には間に合わないだろうと思われた。

 

 午前9時半、居住者たちを新兵が整理し。彼らが向かい合うように並ぶとその時を迎えた。

 誇りと泥にまみれた若き精兵たちは、新兵の万雷の拍手の中を行進し。ガ―ビーの前で部隊長が進み出て敬礼を交わす。

 

「任務、ご苦労だった」

「ありがとうございます」

「将軍も大変喜ばれている。今日はここには間に合わなかったが、後で必ず。直接のお褒めの言葉をもらえると思う。とにかくよくやってくれた。よく帰ってきてくれた!」

「はいっ」

 

 あの日、サンクチュアリでガ―ビーが自らが鍛え上げた若者たちは。この短期間でも厳しい戦闘を生き延びてこの栄光の日を迎えていた。

 今は多くの仲間がここにはいるが。しかし彼らとガ―ビーの間には特別の感情があったことは間違いないだろう――。

 

 

 レオとガ―ビーが危惧していた北東部の調査はついに7割を越えた。

 今日ここに持ち帰られた報告書で、本部に置かれた地図も最新のものへと置き換えられる。

 

 これを元に東部の居住地の解放、またはその周辺にあるであろう脅威の排除。どちらもこれから考えなくてはならない。

 当然だが、そこだとこれまでと違い。B.O.S.の反応も気にしなくてはいけないし、なにより今まで頑張って調査を行ってきてくれた精鋭部隊は使わず。別の部隊でおこなわなくてはならない、という条件が付くことになるだろう。

 

 それでもこの作戦がすべて成功すれば、事実上ミニッツメンは連邦の北部を掌握したと見ることが出来る。

 

(ガ―ビー、南部へ。つまりガンナーズの支配する地域に踏み込むには。クインシーの虐殺から立ちなおった今のミニッツメンが前とは違うと決定的に皆に知ってもらう必要がある。

 

 ガンナーズのやり方はまさしくレイダーのそれと一緒だ。だからこそ今のミニッツメンのやり方は真逆をいってこそ人々によく見られる)

 

――ああ、そうだな将軍

 

(だがこの方法だと逆に身動きも取りにくくもなるんだ。

居住地という土に根っこを張るわけだからね。君が知る以前のミニッツメンのような身軽さは無理だ。

 これはどっちがすぐれているという話じゃない。ミニッツメンの名誉を取り戻すにはこの方法しかないんだ。だからそれに合わせて、以前にはできて今は出来ないことを理解し。そういう状況に対して別の方法で出来る事を増やしていくしかない)

 

 回り道とは考えず、選択肢を増やしていこう――だったか。

 彼の戦術での指揮にも学ぶことは多いが、こうして説得してくる戦略眼もたいしたものだ。だからこそわかる。彼が率いる限り、ミニッツメンのこの勢いが殺されることはない、と。

 

 その将軍がここに到着したらすぐにも報告会を開き、最新情報を計画と合わせてみなおさなければならないだろう。

 兵士達にはそれまではこの近くで休むように伝え、自身は本部の自室に戻って会議の準備を始める。

 

 

 口元に自然と笑みが浮かぶ。

 本当に順調だ。このまま東部への入植が開始されれば、当然だが南部に拠点を置くガンナーズとの戦いも始まるだろう。

 あぶれた傭兵、危険なレイダー。そういった連中を吸い込んで巨大化していったガンナーズには旧ミニッツメンは大いに悩まされ、苦しんだ。

 だがその相手にも新生ミニッツメンは互角に近い状態で対峙するまでに力をつけようとしている。

 

 その事実に興奮し、身震いしないと言えばうそになる。

 数年前には想像でしかありえなかった。強大なガンナーズを、ミニッツメンが堂々と正面から戦場で迎え撃つ瞬間があるかもしれないなんて――。

 

 遠くで何か言い争う声が聞こえた。

 銃声などではないから問題はないと思われたが、ガ―ビーの体は自然とかたわらに置いたレーザーマスケットに腕を伸ばす。

 

「――いいからさ!知らない仲じゃないんだよ!」

「困りますよ。困ります」

「なんだ?どうした?」

 

 声を上げると、扉が蹴り開けられたのでガ―ビーはライフルを構えた。だが、様子も見たかったので銃爪には指はかけていない。

 

「よォ、ガ―ビーの坊や。ひさしぶりだね」

「!?」

「すいません!止めたんですが――」

 

 いいよ、彼女は知りあいだ。

 そう言いながらガ―ビーは懐かしさに目を細めて喜んだ。

 

「ロニー・ショー。サー・ロニーじゃないですか!」

「なんだい、とっくにババァはどこかでのたれ死んだとでも思ってたかい。残念そうな顔だね」

「昔の知りあいに会えて喜んでるんですよ。わかってるでしょう?」

「ハッ、どうだかね――聞けばアンタ、巷じゃ伝説のミニッツメンと呼ばれて。たいそうな人気者になってるそうじゃないのさ」

「そういうあなたも元気そうだ。嬉しいですよ」

「見りゃわかるだろ、そんなこと。それより新しいミニッツメンであんたが大暴れしてるって聞いたら。さすがにあたしも無視はできないさ」

 

 この覇気に満ちた老婆ならそうだろうと、ガ―ビーは大きな笑い声をあげた。

 

「ということは参加してくれるんですか?そうなんですね?」

「どうしようかねぇ。悩んでるよ」

「もちろん、力を貸してくれるだけでもいいのです。俺も将軍も、前のミニッツメンの力を必要としてます。今いる仲間の中にはそういった昔の連中もいるんです」

「そのようだね。さっき下で見知った顔があった、覚えているよりも老けてたし。体型も顔つきもだらしなくなってたけどね」

 

 自分はそうじゃない。

 年をとってもあの頃のように肩で風を切っていく。

 

「さ、とにかく席へ。話をしましょう」

「ああ、いいさ。あんたそればっかりだね」

 

 なんてことだ!今日は最高の日になるぞ。

 

 

――――――――――

 

 

 早朝にVault81を出ると、外で待っていたコズワースとカールと合流して散歩気分でオバーランド駅へ歩きだす。

 このあたりもボストンの範疇に入れてもいいくらいに危険なエリアではあったが。

 私についてくれているこの1匹と1台がいれば、まず恐れる理由は私には思いつかない。

 

 だがそれとは別に私には問題があった。

 あのコンドウという暗殺者の襲撃でまたもや武器を失ってしまったことだ。

 

――武器は消耗品。使い捨て。命を懸けて守るようなものじゃない

 

 この考えは軍隊の時代から叩き込まれたことのひとつだったが。それでも実際に手にあるのがレーザーライフル一1丁だと――もうこの愚痴は何度目だろう?

 

 Vault81でも武器は買えたのだが、マクナマラとの関係があって。そこに高額なキャップを払うというのは、なにかとマズい気がしてできなかった。

 普通にダイアモンドシティのマーケットに行くべき、なのだろうが。あそこに行くと一日がかりの大仕事になってしまい。さらに必ず手に入るかと言えば――断言はできない。

 

 そうなると選択肢は残り少ない。

 私は本部の外にあるミニッツメンの武器倉庫を訪れた。

 

「実弾……ですか。将軍、ご存知かと思いますがうちも基本。レーザーを主体とした装備なんですが」

「ああ、わかってる。だが全部じゃないだろう?なにかないかな」

 

 倉庫番は首をひねりながらも、私の要求にかなうものを棚の中をあさって探してくれた。

 

「――最近は、プラズマライフルをよこせって生意気な奴が多いんですよ」

「そりゃ、贅沢だな」

「ええ、レーザーマスケットも満足に使えないのが。ナマ言いやがってって、俺も思うんですがね」

「実弾系は人気ないか」

「というよりですね、うちだとパワーアーマー用の支援としてアサルトライフルですね。コンバットライフルは良いものもあるんですけど、武器の知識がないとすぐに壊れるんでもう取引してません」

「どのくらいの量が取引されてるんだ?」

「まぁ、ごくごくたまに数丁ってかんじですかね。使ってるのも今は東に言ってる連中が中心ですし」

「――なるほど」

 

 ということはにわかに活気だっているスロッグでなら、期待は出来たのに。そういうことか。

 

「将軍、やっぱりないみたいですね」

「それは困ったな」

「あ、いや。これはどうかな――奥にひとつ見つけましたけど、見ます?」

 

 頼む、そういうと彼が持って来t奈緒は10ミリ弾を使用するサブマシンガンだった。

 

「ピストルタイプだね」

「そうですね。思い出しましたよ、だいぶ前の取引でうちとの取引でまとめ買いに商人が気をよくしてサービスでおいていったものでした。

 

 私は手に取ると素早く構えたり、振り回し、薬室をのぞかせたりしてみた。

 

「どうです、将軍?」

「……悪くはないが、これだと命中率が悪い。銃口を伸ばせば多少はマシになるかな」

「ですねぇ。スコープはどうします?」

「いらないな。これだとそもそも飛距離が足りないし、当たっても貫通力も破壊力も期待できない」

「工作室がすぐそこにありますから、作業するなら俺が手伝いますよ」

「ありがとう――ほかにないかな?」

「うーん、そうですねぇ。銃身のばすっていうなら、パイプ銃でもつかうドラムマガジンはどうですかね?」

「ああ、なるほど」

「重量は増えますが、思う存分。弾丸をばら撒けますよ」

「そうだな。それでやってみるか」

「じゃ、こちらへ」

 

 私は銀に輝くそれを手に、工作室へと案内されていく。

 

「どれくらい時間がかかるかな?」

「2.3時間もあれば多分。昼までには終わらせたいですねぇ」

「そうだね」

「将軍はあれでしょ。休暇中だとか」

「ああ、長期休暇さ」

「でも大けがしたって話も聞きましたよ?」

「ああ、それも本当だ。見ればわかるだろ?」

 

 そう言って茶目っ気たっぷりに両手を開いて見せる。

 見ての通り、服の下には新しい片腕をはやしている――ま、わからないだろうが。

 

「凄いですね。強いんだ、将軍さんはぁ」

 

 その声にたまらず私は噴き出してしまった。

 

 

――――――――――

 

 

 場は白けていた……始める前からこれだ、どうしようもない。

 ほとんど崩れ落ちたビルの廃墟は、ボストン・レイダーズが集会の場所に選んだそれだった。

 

 この集まりは以前からそれほど熱心におこなわれるものではなかった。それは認める。

 年に1回、もしくは4回。それくらいでやっていた。

 

 目的は情報交換というより、その後のそれぞれの計画のためによその動向を探るための”賢い”レイダーたちのどうでもいい雑談を提供する集まりだった。

 

 だから幾度も「これで消滅か?」という時があったが。

 そういう時は決まって次に勢いのあるレイダーが音頭をとることで、この場は終わることなく続けられてはいた。

 

「――どうする、始めるか?」

「まだ待て。時間前だ」

「来ると思うのか?」

「勝手に始めやがってと騒がれるのは御免だ。ケツの取り合いはないんだ、もう少しだけ我慢しろよ」

 

 そんな生き馬の目を抜くボストンのレイダー達は、少し前に驚くことに全員一致で手を取り合ったことがあった。それは言ってみれば過去最大の珍事件でもあった。

 

 遠く北の果てで追い詰められていたはずのミニッツメンを名乗る奴らが。

 レキシントンでちょっとばかり大物をひとり食った勢いだけでボストンの隅っこにやってきたのが始まりだ。

 

 ボストン・レイダーズの知るミニッツメンは行き場のない惨めな放浪者、夢と希望とやらのお花畑な頭を持ちながら結局はガンナーズに這いつくばった敗北者でしかなかったが。

 巷ではまだ大昔の奴らの築いた栄光とやらを忘れていない少数がいるのが気に入らなかった。

 

 新兵を集めているなら丁度良いと、連合を組んで一気呵成に踏みつぶさんとした。

 が、なぜか。今、思い返しても信じられないが

 攻撃は失敗した――自分たちが負けたのだ。

 

 そこからレイダー達は大混乱に陥る。

 連合を組んでいた大ボスたちの何人かは誰かに殺され。大きな組織のほとんどは分裂し、かつての味方を取り込もうと互いを攻撃しだしたのだ。

 

 そしていつもの通りのことが起きる。

 自分こそ新しいワルだと考えるチンピラが、また新しい集団を作り。自分たちの土地を求めて混乱に参入する。

 

 最近、連日の騒ぎもようやく落ち着きを見せるようになった。

 どうなっているのかとボスたちが集まってみれば以前の半分以上は別人で、さらにその半分はいわゆる新人というべきクソ生意気で舐め切った態度のアホ達がいた。

 

 

 時間が来ると、革ジャンのいい年をした白髪の男が立ち上がり「よし、集会をはじめるぜ!」と大声で吠えると、その場に集まっていたボスたちもその周りに立って。その場で足を数回踏み鳴らす。

 

 会はまず集めた奴があいさつを兼ねて進行を務め、それを受け入れる儀式としてこれがおこなわれているが。新人のうち、間抜けな奴らはこれを知らなかったようで慌ててまねたり。なにもしなかったりと無様をさらしている。

 

「まずは聞いてくれ。俺が今回の集会を提案したウィザーズのロン・グレン。ここにまだ残ってる古株なら知ってるし、そうじゃない奴もまだ生きていたのかと。まぁ、わかるよな?」

 

 低い笑い声が聞こえてくる。

 

「今日は――」

「うるせぇよ、爺ィ!ペチャペチャとよォ。腐った女みてぇな声、出すんじゃねーよ。ボケてんのかっ」

 

 進行を遮る無礼な若い声に場は鎮まる。

 どうやら儀式も知らず、この会の意義もわからず。なにやら勘違いして潜り込んでしまった大馬鹿者がしゃしゃりでて来たようだ。

 

 グレンと名乗ったレイダーボスは、なぜかやたらと自信ありげに胸を張り。”老人”として見下す若者の前に進むと静かに語りかけた。

 

「おい、坊主。今何かわめいたのは、まさかお前か?」

「――へっ、耄碌してると心配しちまうぜ、爺さん。この俺、がっ……!?」

 

 最後まで言う前に、新人の顔が脇に感じた痛みに声を詰まらせる。

 視覚の外にいたボスのひとりが刃物でいきなり警告もなく刺してきたのだ。何をしやがる、そう口にする前に四方八方からボスたちが迫って同じことをしてきた。

 

 わずか十数秒だったが、さっとボスたちが再び離れるとグレンが崩れ落ちようとする無礼な新人の腕をとって座ることを許さない。

 

「いいか、坊主。ここは頭のある、賢く礼儀を知っている大人の社交場なんだ。わからなかったんだよな、わかるよ。

 お前のろくでもないオヤジと、どんな野郎でも咥えたがる淫売だったオフクロじゃ。当たり前の事すら教えてもらえなかったんだろう?いいさ、いいさ。

 今日は見学していくといい。お前の人生じゃ理解できないものを、今日は学んで帰ってくれ」

 

 進行役として会を尊重しないクズにグレンは優しくそう諭した。

 出血の激しい相手はそれにこたえる力は残ってない。

 

 

 本日の”見学者”が静かになり。呼吸を止めると会は再び仕切りなおされた。

 

「さて、最近は皆。忙しかったということはここにいる奴なら全員が知ってる。

 楽しい話は少ないだろうから、こいつは後回しにして本題に入りたい――そう、ミニッツメンだ」

 

 周りから悩ましいため息が漏れた。

 

「不愉快だが思い出さないわけにはいかない。この会で以前、俺達は互いに手を組んで奴らを。北から調子に乗ってやってきた連中を追い出してやろうとし――失敗した。

 負けたことで俺達はツケを支払う羽目になったが、問題は俺達に勝ったとさらに調子に乗ったミニッツメン。奴らの事だ!

 

 奴らはあの後、ダイアモンドシティに警備用の重武装したロボットをさらに何台も提供した。おかげで今は3ブロック先から町に近づくことが出来なくなっている。

 

 おいしいエモノだったバンカーヒルの商人たちも、大物は北上してレキシントンを迂回し。そこから南下してダイアモンドシティの西から……ミニッツメンの活動領域から出ないようになった」

 

 さらにあえてグレンは口にしなかったが。グッドネイバー市長を名乗るあのジョン・ハンコック。

 あいつはあろうことか「長期休暇」などと称して闇取引の一切を引き上げてしまい。彼が闇ビジネスから手を引いたせいで市場の価格が乱交下している。

 

 問題はグッドネイバーには依然と変わらず品物は揃っているということだ。

 これはつまりハンコックはどこかの誰か、とんでもない奴と組んで自分の町には変わらず供給しているということになる。

 レイダー達の儲けは次第に目減りしていっているというのに――。

 

「正直に俺自身の考えをここで言わせてもらうが……これは良くない。

 ミニッツメンの勢いは止められない。今や北はレキシントンとメッドフォードを奴らは取り囲もうとしている」

「グレン、ミニッツメンの奴らはあの町を両方手に入れると?」

「いや、そうはならないだろう。奴らは恐らく、このボストンから分断し。孤立させようとしているに違いない。

 その準備は着々と進んでいる。間違いはない」

「それくらい俺達だってわかってる。だが何が問題だ?このボストンには俺達がいる。奴らは俺達に手を出せない」

「ああ、それは俺も同感だ。だがな、同じことをレキシントンやメッドフォードにいる奴らも以前はこんな感じで集まっちゃほざいていたに違いないんだよ。

 わからないか?

 

 奴らが干上がって、泣きわめきだすころには。ミニッツメンは次にこのボストンにも同じく包囲を敷くかもしれないって話だ」

 

 シン、と一気に静まり返った。

 恐れるべき未来、だがそれはこのままなら避けられないのかもしれない。

 そしてこちら側に近いと、何の根拠も考えてなかったハンコックの不可解な動きを見ると。ミニッツメンと秘かになんらかの約束をしていないとは断言できない。

 

「情報がいる。あらゆる情報だ。

 奴らの弱み、次の動き。それで揺さぶり、可能なら突き崩さにゃならない。どうだ?」

 

 グレンの問いに答えはなく。静寂が続いていた。

 本人はそれを予想していたのだろう。流れる空気を感じ、顔をうつむかせ頭を切り替えようとした。

 

「わかった――この後は好きに話してくれていい。

 いつものように酒は用意してある。だが女はナシだ。そうそう、隅っこでお休みの坊やは俺が責任をもって家に帰してやるが。一緒に行きたいって奴は俺のところに来てくれ。ちょっとした親睦を深める2次会になるはず、皆で楽しもう」

 

 笑い声が上がる。

 もはや息もせず、黒ひげ危機一髪のように腹部に多くの穴をあけられても、そこからあふれ出る血がなくなっている死体は無表情のまま。

 きっとこの後、自分がやっとの思いで手にした(ねぐら)をレイダー達によって蹂躙されてもこのままだ。

 弱肉強食――暴力に生きる彼らのルールだ。

 

 

 一気に場が砕けると、終始無言だったボスのひとり――シンジンはワインをひと瓶だけ手に取って帰路についた。とてつもなく不機嫌な様子のまま。

 

「まったく!クソッタレな集まりだったぜ」

「……」

「もうあそこも終わりかもなぁ。なぁにが、ミニッツメンは止まらねぇだ!くだらねぇことをいいやがってよゥ」

 

 意外に悪くない酒のようで、早くも酔いから言葉尻が跳ね上がってく。

 あの古株のグレンがわざわざ声をかけてきたのだから、きっとグッドネイバーのことに違いない。

 このシンジンはそれを信じての参加だったが、結果はこの通り。まるで期待外れであった。

 

「おい、知ってたか?アンジーのメス豚、くたばってやがった」

「本当ですか、ボス!?」

「ああ、間違いない。アタシが先にグッドネイバーをいただく、なんて言ってたが。どこの馬の骨とも知らねぇガキにやられたってよ。

 全く信じられねぇ、メス豚だった」

 

 言いながらもそこには若干の失望が見えた。

 あのハンコックが堂々と「自分は連邦に飛び出して、ここにはいない」と宣言したというのに。誰も、まったくあの町に手を出せないでいるのが腹立たしかった。

 

 それだけじゃない。

 市長がいないのにあの町は全く変わらない。こちらが品物を提供しようと申し出ても、そんな劣悪なものはいらないとこれ見よがしに同じものを取り出して見せてくるのだ。

 

 なんとかこちらの味方をあそこで作ろうとしても、ある日突然そいつは消え。墓守が新しい墓と葬式の準備をしている。

 信じられないがまったく付け入る隙が無いのだ。

 

 こうなるとあの町に執心しているレイダーボスは、あの時の連合を再び作り上げ。力でもって強引に攻め落とすしかない。

 だが期待は裏切られた――ミニッツメンだ?それよりボストンの、目の前の問題はどうした!?

 

「それで、どうします。ボス?」

「……考えるさ。なんとかする、なんとかしないとな」

 

 グッドネイバーをあきらめるわけにはいかない。

 あの町を手にすれば、それはすなわちボストンを手にするのと一緒だ。裏世界の情報はほとんどすべてが手に入るし、当然だが目と鼻の先にあるバンカーヒルやダイアモンドシティにも手を伸ばせる。

 

 ミニッツメンなど、それからでも十分に対処できるんだ。

 だがアイデアがない。何にもない――力がない、我慢するしかない、まだ今は。

 

「俺が――どこまで我慢できるか、結局それだけなのかもな」

「ボス?なにか?」

「なんでもねぇ!戻るぞ!」

 

 シンジンは怒鳴り声をあげると歩く速度を変えないままワインを煽った。

 

 

――――――――――

 

 

 汚染された海につかり、信者たちは声を上げる。

 

「アトムは信仰深きものを浄化する!」

『アトムは信仰深きものを浄化する!』

「かの輝きの炎で我らの不幸は燃え尽きる!」

『かの輝きの炎で我らの不幸は燃え尽きる!』

「アトムは悪しき者を焼き尽くす!」

『アトムは悪しき者を焼き尽くす!』

 

 朝の祈りの後は、朝の言葉の時間だ。それがこのコミュニティのやり方。

 だが今日はおかしな緊張をはらんでいた。

 

「それでは伝道師様、今日のアトムのお言葉を。我らにお伝えください」

「……友人達、アトムの声を私は聞いた。彼の声を確かに私は聞いた!」

 

 どこか正気を失ったような、危険な響きのある言葉に信者たちは早くも不安そうに一斉に体を揺らし始める。

 

「アトムのお言葉はまさしく我らの未来への警告であった。私はそれを確信する」

「なんですか?警告とは、なんのことですか?」

「恐ろしい破壊者が、西より軍団を率い。我らの住む場所を奪い、アトムの輝きを否定する。

 我らはなすすべもなく倒れ、この連邦からアトムの教えを滅ぼさんと勝利の歌を我らの死骸の上で高らかに歌いながら、勝利の踊りと共に笑うつもりなのだ」

 

 西から恐るべき軍団だって?なんのことだ?

 

「アトムを信じよ、アトムの声を聞け!

 アトムは深淵の奥地から我らを気遣い、訪れる破壊に憂慮しておられる。彼の手が我らの助けとなることをあの方は望んでいる。

 我らはこのことをまず正しく理解せねばならない」

「アトムの教えを。アトムの教えを」

「アトムの言葉を奴らは聞かない。アトムの教えを奴らは嘲笑する。奴らは我らを獣として狩る。

 

 我らは信徒。

 だが奴らは異教徒なのだ!

 

 アトムは我らに決断を求めている。我らはアトムに、我らの忠誠を示さねばならない!」

「……」

「我らはこれから聖戦に入らねばならない。我らを守るアトムの加護の元、我らを襲う闇を、我らの力と剣で。切り払うのだ」

 

 ワッと歓声が上がる。

 涙を流すものも、「必ずそいつを八つ裂きにします」と声を張り上げる者もいる。

 そんな信者たちの様子に満足したのか、伝道師は笑顔で頷く。

 

「伝道師様、お教えください。アトムの言葉を。我らの敵の名を」

「友よ、ガンマ弾をとり、銃に込めろ!我らの平和を乱す敵に、アトムの輝きの偉大さを知らしめよ。

 敵は強大で、自らを解放者を自認する悪魔なり。

 

 奴は凍り付いた地の底から蘇ると、ミニッツメンと呼ばれた虐殺者の生き残りに力を与え。自らを彼らの将軍と呼ばせている。

 

 アトムの力を知らしめよ。

 フランク・J・パターソンを緑の輝きの炎で浄化するのだ!」

 

 伝道師の叫びにまるで合わせたかのように、近くのキングスポート灯台に奇怪な緑の光が灯り。灯台周辺にその輝きを知らしめた。




(設定・人物紹介)
・ウィザーズのロン・グレン
オリジナルキャラクター。
ボストンのレイダー集団のひとつ。元が戦前のバイカーギャングの流れを汲んでいて、薬物と武器で商売もしている。

チームは家族つながりの結束の強いのが特徴。
普段は発言などしないタイプだが、今回は勢いの止まらない脅威への警鐘とアイデアを求めずにはいられなくて声を上げた、という経緯があった。

恐らく出番はここだけ。


・見学者
この場所に新人が多くやってくると、こういうのが出る。
ボスたちの前で何をしていいのか知らないのが騒ぎ出すと、こういうのは増える。その運命もまた同じ。


・問題はグッドネイバー
ハンコックの仕掛けた罠のひとつ。
現在のグッドネイバーに入ってくる品物はミニッツメンの。正確に言うとグレイガーデンを経由したものばかりとなっている。
バンカーヒルもこれに絡んでいるため、情報がないという状況なのだ。

・シンジン
原作のクエストに登場するレイダー・ボス。

最近、彼の部下や関係者がグッドネイバーを中心に殺され。ある場所から個人放送をしているグールに笑いものにされて苛立っている。

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