ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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次回は未定、まだしばらく不定期になりそうです。


アンストッパブル

 工房でミニッツメンからメールマンへと出向中のジミーに来てもらい、僕はミニッツメンが持っている最新の連邦の状況を理解しようとしていた。

 

「……だいたい、こんなところです」

「うん――うん」

「なにかありますか?聞きたいこととか」

「聞きたいことってのはないけれど。なんだね、ミニッツメンは順調。そういうことだ」

「ええ、そういうことです」

 

 おかしな話だけれど、レオさんやガ―ビーがボストンで襲撃を受けて大騒ぎしている間も。命令を受けたミニッツメン達は粛々と任務をこなし続け、結果を出していた。

 喜ばしい事だが。となるとレオさんも簡単にはファー・ハーバーとやらに向かう準備には取り掛かれないのかも。

 

「ところでメールマンは?そっちはどう?」

「まぁ、良くも悪くもって」

「順調ではないんだ」

「信用出来て、腕にも自信がある奴ってのもなかなか大変です」

「けが人は?」

「多いです。でもまだ死人はひとりだけ」

「ふん」

 

 落ち着いている連邦北西部とはいえ、思ったよりもうまくやれているみたいだ。

 

「スーパーミュータントの一団に出くわして、運がなかった。手傷を追って必死に逃げたようですが。居住地まで引っ張ってきちゃったもんで」

「うわぁ」

「そこにはミニッツメンが居たんで対処は出来たんですが。助からなかった」

「そうか――残念だったね」

 

 確かに優秀だな。僕は心の中でそうつぶやく。

 元はミニッツメンに全部おっかぶせたかったが、ガ―ビーが嫌がり。また生まれたばかりの組織に多様な部門を作る余裕はないということでレオさんと僕の共同で設立した支援団体というか、会社みたいなものがメールマンの誕生経緯である。

 

 将来的にはミニッツメンと合流させる、くらいの考えで野心的に始めたことだったが。こんなに上手くやれてるならそのまま続けさせたほうがよさそうだ。

 そうなると問題は……。

 

「人足りてるの?」

「予備戦力が足りないですね。でも、こればかっりは――」

「だよね」

 

 当初は元ミニッツメン、もしくは候補生から選んでいたが。

 今はバンカーヒルの大商人、ストックトンから信用できる傭兵を紹介してもらう形へとかわってきている。やはりミニッツメンとは仕事がまるで違うので、数人を覗くとミニッツメン関係者は傭兵よりも劣って見えるらしい。

 

 人数に関してはまた何か考えないといけないだろうが。現状維持で、しばらくは様子を見るか。なにかあればレオさんの方でもなにかやるだろうし。

 

「B.O.S.は。奴らはミニッツメンとどうなった?」

「そっちも別に何も。出くわすことは多いですけど、特にもめ事はないです」

(今のところは、か)

 

 おそらくだがB.O.S.は目的であるインスティチュートとの決戦に集中したいだろうから。自分たちの地元にミニッツメンが足場を伸ばしても最初は見て見ぬふりをしてくれるかもしれない。

 

 だが、それも程度による。

 

 順調に動いている物を邪魔するのは良い事とは思えないが。だからといってうっかり相手の我慢の線を読み間違えて踏み越えてしまうのはなんとかしたい。

 

(……レオさんとガ―ビー、頑張って)

 

 結局分かったことと言えば、今のミニッツメンに僕が口出しする必要はなさそうだし。つまりは自分の仕事をさっさと終わらせることがなによりも重要ということが改めてわかった。

 

「ああ、そういえばレオさんにメールマンからひとり空港に見張りを張り付けてみては?って提案してたんだけど」

「聞いてますよ」

「どう?出来そう?」

「やれそうなのはいますけど、余裕が――」

「わかった。ありがと」

「いえ……すいません」

 

 なぜ謝るんだ。

 

「謝らなくていいよ。できればいいなって思っただけだからさ。それにレオさんと違って僕は君と年齢の近い若造って呼ばれる奴さ。それも利口そうで、ムカつくタイプのね……肩の力を抜いてよ」

「はい」

 

 答えながらジミーは興味深そうに改めてアキラを見つめている。

 

 レオから――将軍から何度も聞かされている。

 自分と年の離れていないこの若者は、巷に流れる将軍のおこしたとされる多くの騒ぎに関係していたり。もしくは同じ出身であることで将軍と勘違いされて、彼がやっていたことだったりするらしい。

 

 その証拠にミニッツメンの立ち上げにも尽力し。

 あのガ―ビーに請われて一応はミニッツメンに籍を置いている。実際にミニッツメンから追い出されかかっている今の自分とはまるで違う、居住地をまかされた幹部扱いだ。

 

「うーん、ミニッツメンは良いけど。メールマンはそれだと装備がもっと必要だよね」

「そうですね、東部が開かれたら新人も多く入りますから」

「むぅ」

 

 メールマンの装備には僕がDIAから持ち帰ったバリスティック・ウェーブ仕様のスーツを与えている。それは先日までこのコベナントの僕の工房に置かれた製造機で生産していた。

 ところが襲撃でコベナントの倉庫は空っぽ。なにか作るとか、とんでもない話だ。

 

「ストックトンには会う必要があるなぁ。大量のゴミが必要になる――人もね」

 

 商人の当てはあるが支払いに関してはこちらが用意しなくちゃならない。

 ところが僕のキャップはほとんど奪われてしまい。奪還することなく炎の中に沈めてしまっている。

 

 クソ、なんであんな馬鹿なことやってしまったんだか。

 

「キャップですか?」

「うん。ここの立て直しにも必要だし、どこかからまとまったキャップを用意できないとなぁ」

「そうですね」

「実はいくつかないことはない!」

「おお」

「まず一番最悪だけど、すぐにできるヤツ。

 レキシントンに入って、出会ったレイダーを片端からブチ殺し。身ぐるみをはぐ」

「え?」

「20時間ぐらい頑張れば、結構な量になるはず。どう思う?」

「――それ、思いつく最悪なんですよね?俺もそう思います」

「そうか。まぁ、確かにレイダーどころか誰にも出会いませんでした。空振りですってなっても困るし。いや、むしろ待ち構えられて襲われたら、そっちの方がヤバいか」

 

 ジミーは背中にうすら寒いものを感じた。

 確かに目の前の若者は自分とはまるで違うと、話してわかる違和感で理解する。

 

 いくらレイダー憎しのミニッツメンが居たとしても、あのレキシントンにキャップが欲しいからレイダーの身ぐるみをはぐ、行かないかい?こんなことを真面目に提案する奴はどうかしてる。

 

 レイダーに負けて殺される、その恐怖心は絶対にあるからだ。

 だがこの目の前の若者からはそれが全く感じられない。

 

「本気じゃ、ないですよ、ね?」

「え?もちろんだよ。最悪って言ったでしょ」

「ああ、良かった――」

(それじゃ、最善の方法はっていうと。これはこれでなぁ)

 

 そっちは簡単だ、ヌカ・ワールドだ。

 あそこでレイダー・ボスたちにさっそく上納金を出せと要求すればいい。

 ただそれだけでまとまったキャップを手に入れることが出来るだろうが。問題があるとすればこの後だ。ゲイジは当然だが僕がまた連邦に戻ることにいい顔をしないだろう。

 またあいつらから逃げてくる新しい理由を探さなくてはならない――これはかなり難しい。

 

 いや、しかしそう思うとあの時。ハンコックらが襲われたことは僕にとっては最高のタイミングであったという一面が見えてくる。あそこで癇癪をおこしたふりをして飛び出さなければ、おそらく僕はまだあそこでクソ共の王様をやっていただろう。

 

 いや、そんなことはいい。今は集中することがありすぎる。

 

「その、ここの復興。どうなってるんです?」

「なにもないよ。防衛システムは電源とスイッチで戻せたけど、人も武器もガラクタもキャップも根こそぎやられちゃったから……とりあえずガ―ビーとグレイガーデンのグール代表に相談して両方から借金するか」

 

 ダイアモンドシティのマーケットにも預けてあるが。雇用主としてケイトやマクレディに支払いを安心するように伝えている手前、そっちは手を付けたくなかった。

 

「それで足りますか?」

「足りない。でもないよりはましだし、そうしないと動けないよ」

「――だったらうちからならどうです?」

「???」

「メールマンです。俺、よく飛び回ってるんで、もしものためにと自由に使っていいキャップを持たされてるんです。それでどうです?」

「――いいの?返済のあてはないよ、今はまだ」

「将軍の友人である、あなたなら。多分、いいですよ」

「ありがとう」

 

 すぐさま礼を述べることでこの話を決まったものとして終わらせる。

 

 助かった。

 内心ではホッとしていた。

 

 

「じゃ、どうします?」

「そうだね――数日中に考えをまとめて皆にも色々手伝ってもらうつもり。その時、僕と一緒に商人のところに付き合ってほしい」

「財布ってことですね」

「そうなるね。いいかな?」

「こっちも予定あるんで。あんまり引きずり回されるわけにも――」

「ああ、そりゃもちろん。バンカーヒルだけでいいよ。その後はベルチバードで送ってもいいから」

「了解」

 

 よし、これでなんとかなりそうだ。

 僕は椅子に寄りかかって大きく伸びをする。

 

 ファー・ハーバーへ向かうにはいくつかの任務を同時並行で進めるしかない。そうなると最も新しく不確実な要素の多い計画はもっと詰めないといけないだろう。

 ミニッツメン復活から、メールマンに続く面白そうな計画。

 

――プロジェクト・アンストッパブル

 

 実現すれば、それはきっと愉快な騒ぎを起こせるはず。

 

 

――――――――――

 

 

 数日後、コベナントの発着場にはジミーを含めた全員の姿があった。

 最近はスロッグでじっと待機していたベルチバードは、あと20分ほどでここにやってくる。

 

「それじゃ、全員に出発前の最後の確認をする。ここを出たらしばらくは別行動だからね」

「そりゃ構わないけどよ、アキラ――ここに誰も残らなくていいのか?」

「留守番はあの人造人間たちがいるし。今回はエイダもいる。大丈夫だよ」

「エイダを信用しないわけではありませんが。せめてミニッツメンから誰か来てもらう方が安心できませんか?」

「どうせ僕は2日のうちに戻ってくる予定だ。大丈夫だよ」

 

 パイパーやガ―ビーを信用しないわけじゃないが、今はコベナントに気の置けないものは出来るだけ近づいてほしくない。

 うっかり好奇心が強くて有能なミニッツメンが、僕の工房にある冷蔵庫の中を覗いて大騒ぎしない可能性がゼロであることが、僕には重要だった。

 

 今回は警備システムも自分が戻って解除しない限りは電源は落とせなくしている。

 いや、そもそも今のコベナントの倉庫は空っぽのままだ。壁があってもここに入るなら、それなりの物と人を一緒にいれなくちゃならない。

 そうしてくれるのなら、喜んで何度でも取り返してやるのだが。

 

「それより集中してよ。今回ばかりは皆に協力してもらわないと困るんだ」

「アンタが、ってことだよな」

「まぁ、そうだなケイト。つまり雇用主が困ると役に立たなかった君ら傭兵への支払いも、困ったことになる」

「うへぇ」

「必死にやって来いって事だよな。わかったよ、ボス」

 

 苦笑いを浮かべるマクレディに僕はうなづく。

 

「それじゃ確認する。

 3つのチームを作った。それぞれに目的を与えてあるから、それをやってきてほしい。

 どれも簡単な事ではないから。ここに戻れるかは任務の状況次第って事になる」

 

 解決すべき問題のリストが出来ると僕はその中で最重要なものを選び出し、3つのチームを作った。

 

 ハンコックとキュリーにはVault88の様子を見てきてもらう。

 マクレディとケイトにはこれから必要になる重要なひとりの人物を探して連れてきてもらう。

 僕はバンカーヒルでストックトンとの会談。これでどこまでやれるかで、当面の資金や資産。さらにまだ残っているスターライト・ドライブインを片付けられるかどうかが見えてくるはず。

 

「お前が俺達にVault88を見てこいっていうなら構わないがな――あの監督官、殺すのはナシで本当にいいのか?」

「ハンコック……」

「暴走してるんだろう。想像したくないがな。ああいうのは、どうしようもないぞ」

「私は――その結論には賛成できません。市長の結論は短絡すぎます」

「お嬢さんの手をわずらわしたりはしないさ。当然、俺が終わらせるさ」

 

 ハンコックは期待半分なのだろうが、やっぱりまだそんなことを口にした。

 僕としても複雑なものがあるが。今はその考えには賛成できない。

 

「あのVaultに人を入れたということは当然だけどなにかを始めている。恐らくは人体実験をね。

 そのデータもとりあえず回収したいけど。監督官はどこまでやるつもりなのか、それを確認しないことにはどうにも、ね」

「あれは200年を地下で閉じ込められていたグールだ。マトモなわけがない。

 お嬢さんやお前はあれに期待して、ある日突然に目覚めて『あら、私ちょっとイカレてたわ』なんてことはないぞ」

「恐らくはね――」

「なァ、あの正義が大好きな記者に張り倒されて。マッドサイエンティスト扱いされたからって、本当にそんなことをやることはないんだ。Vaultやらの実験何て、捨ててしまえ。お前には必要ないさ」

「ハンコック……」

「それじゃ、いいな?」

「ダメ。今回はそこは引かない」

「可愛げないな。まぁ、いいさ。聞いてもガッカリするか、失望するか。不愉快な報告を楽しみに待っていろよ」

「キュリー、頼むよ」

「はい。出来るだけ話を合わせつつ、バース・トゥ監督官の真意を探ってきます。アキラ」

 

 Vault88では何が起きているのか、正確なことが知りたかった。

 あそこはあまりにも広大な地下トンネルが広がっているせいで、そのすべての調査も終わっていないのだ。

 そして僕はバース・トゥのことは――迷いがあった。憐れみとは少し違うのだが、言葉にしにくい。

 

 

「マクレディ、ケイト。君らは人探しだよ」

「――どうしてさ」

「おい、ボスには『わかりました』だろ?」

 

 マクレディが訂正させようとするが、聞くつもりはない。

 ケイトは任務にあまり乗り気ではないようだ。

 

「問題?」

「こっちはアンタが何を考えてるのかわからないのが気に入らないのさ」

「話があるんだよ。それだけだ」

「で?話してもアンタの思い通りにいかなかったらどうするの?」

「別に――それじゃ、幸運を。それからサヨナラ。本当だ、嘘じゃない」

 

 答えながら空を見上げた。

 急速にこちらに向かってくるベルチバードの姿を確認した。

 ケイトは僕の答えにまだ完全には納得していないようだが、マクレディが背嚢を突き出すとそれを渋々受け取った。

 

「ケイト、マクレディはジミーと僕とバンカーヒルまで一緒だ。キュリー達はそのままVault88へ。

 帰りは歩きになると思う。気を付けてくれ」

 

 レオさんを襲ったコンドウという暗殺者のことが頭をよぎる。

 本当は何かしらの対策を講じたいところだが、今回は何も用意がない。不安があるとすればそこにつきるが、この連中ならおめおめとやられたりはしないだろうとも信用している。

 

 ベルチバードはコベナントへ、ゆっくりと着陸態勢に入った。 

 

 

――――――――――

 

 

 ガンナープラザでは、ここ数日ボスのキャプテン・ウェスの機嫌が悪い。

 数時間おきに思い出すのか、激発すると机の上の武器に手をのばすか。薬物で鎮めようと――まぁ、ほとんど逆にもっと怒ってしまうことの方が多かったが――している。

 

 どちらにしても迷惑な話だ。

 

「ボス――いい加減にしてくれ」

 

 間抜けな上に運さえなかった部下のひとりが。ついにボスの癇癪で発射された流れ弾で死体が作られると、仕方なく部下達はこのボスをたしなめることにした。

 

「あいつら、あいつらっ!」

「どいつらです?」

「グールだ。あの役立たず共っ!」

「ギブスっすね」

「そうだ!そのクソ野郎だ!」

 

 あのB.O.S.が使ってるベルチバードをガンナーズでも使えるようにしてやる――そう約束したグールのギブスたちは先日。ついに約束した第1号機を完成させていた。

 キャプテン・ウェスは大変機嫌よく。さっそくそれを使い、かつて軍がおこなっていたというヘリボーンの基礎演習を行うように指示を出した。

 

 ギブスらはいきなりの演習嫌がったが、キャプテンはそれを許さなかった。

 これがまずかった。

 

 機体を運用するパイロットと兵士たちはキャプテンの命令でガンナーズの中から選びだされた。

 新人パイロットはマニュアル通り。見事に離陸はしたものの、演習が始まるといきなり兵士たちを乗せたまま地上に墜落し――ひどいことになった。

 

「あいつらのせいだ!ちょっと地面から浮かんだだけで15人も死んだぞ!失敗だ!」

「……」

「これまで好き勝手要求しやがったくせに、まともなものも用意できねないクソ。クソがっ」

 

 ギブスらの果たした仕事は間違いなさそうなので部下が気をきかせ。すでにくず鉄となったベルチバードを修理しろと言いつつ、このキャプテンの目の届かないようにプラザからは退去させていた。

 だがそれがかえってウェスの機嫌を損ねてしまったらしい。

 

 修理はどうなってる?2機目はいつ完成する?

 

 ちなみに修理はまだ始まったばかりで最短でも1ヵ月はかかるだろうというし、2機目はこのせいで大幅に遅れが出ているという報告が来ている。

 これをそのままウェスに伝えることは難しい。

 

「調子に乗りやがって。俺をナメてるな……」

 

 正直言うと相手をしたくはないが。このまま放っておくといつ「あのグールをぶち殺してこい」などと誰かに命じてしまう。そうなったら誰にも止められなくなるわけで、今回ばかりは部下たちが並んでキャプテンの気を紛らわせてやらねばならない。

 

「キャプテン。ギブスのオモチャも重要でしょうが。そろそろ俺達も考えないといけませんぜ?」

「ああン?」

「ミニッツメンですよ!あいつら、うまい具合にB.O.S.の連中とやっていて。連邦の北半分を収めようって勢いです」

 

 ガンナーズはやはりB.O.S.との対決を想定して計画をたてていた。

 彼らの予定では、北ではミニッツメンとB.O.S.が激突し。その間にガンナーズは南部の大小レイダーをたくさん吸収して、のちに北で生き残った奴を相手に連邦の王の座を巡って決戦へ。

 

 これがキャプテン・ウェスの考えであったのだが――ところが現実では2つの組織は激突などせず。

 ミニッツメンは順調に北部でその影響力を強めていき。B.O.S.は独自に東海岸沿いにしっかりと根を張って簡単には崩せそうにはなくなりつつあった。

 

「南はちょいちょいやってますが。北の方は深刻です。今じゃ俺らガンナーズはレキシントンとメッドフォードにわずかに話せる奴がいるってくらいで。今からどうやってあそこに戻るつもりです?」

「そりゃお前――」

 

 そこまで言いかけるが、肝心の内容が口から出てこない。

 するとウェスは周囲を見回し、机の上にある薬物に飛びついていく。これでひとつ、ひらめきを得ようとでもいうのだろう。

 

「ボストン……そう、ボストンと。それに辺境、そこに兵を送り込むんだ」

「またですか?以前もそれはやりましたよ」

 

 良い成果はでていなかったはず。

 

「足場だよ!足がかりってやつのためにな、ボストンだ。それにB.O.S.」

「は?」

「誰か使える奴はいないか?話が出来る奴だ、どうだ?」

「――話ですか。それならジュディス姉妹ってのがいますよ。傭兵団をやってるんですがね」

「できるか?」

「なにをさせるのかによります」

「あっちのボスと話をするんだ。手を組めないかってな」

 

 キャプテン・ウェスがエルダーとかいう奴と会談だって!?

 

「本気ですか!?」

「なにもしないわけにはいかないだろ、あン?」

「わかりました。すぐにやります」

「おお!急げよっ」

 

 ハイになっているキャプテン・ウェスを置いて部下たちはとりあえず部屋を出る。

 廊下を歩きながら、誰からともなくつぶやき声がした。

 

「ありゃ、なんだ?」

「薬か?あの人、もうサイコやジェットじゃ物足りなくなってチャンポンしたやつを使ってるのさ」

「マジかよ――まだ使えるのか?」

「ま、大丈夫だろ。時々混乱することもあるが、まだイカレちゃいない」

 

 複数の含み笑いが廊下に響く――。

 

「とりあえず例のマスク、いつでも使えるようにしておくか?」

「まだ大丈夫だろ。それに今は情勢が見えない。未来のボスは急ぐことはないさ」

 

 彼らがこれまで襲ってきた被害者たちの中には当然だがグールもいた。

 そのひとりに、明らかに大きな頭をした奴がいて……それを確認して悪い事を考える奴はガンナーズではいくらでもいた。

 

――お前、面白い頭してるな

 

 あとはもう、楽しい話はあまりない。

 様々な方法で楽しんだ後、最後にこのグールは頭部の皮膚を丸ごと引きはがされた。そうして加工もされ、恐ろしく醜いグールマスクがひとつ完成する。

 

「アレを使うのはまだ先になるか」

「ああ、楽しみだよな」

「そうだな――『おい、見ろ。ボスがクソッタレのグールになっちまった』」

「次はこうか?『俺達はカリカリ頭をボスにする気はないぜ』」

「なァ、ちゃんと俺がいる時にやってくれよな。仲間外れは恨むぜ」

「そうだな。お前に恨まれたら、俺がボスになった後。ケツを見せるのが怖くなる」

 

 ゲラゲラと笑い声が上がる。

 ガンナーズに必要なのは力であり勝利だ。

 力があり、勝利がある限り仲間は大切だ。ボスだって、大切だ。

 

 

――――――――――

 

 

 観測者は室内に入ると改めて、中の住人――老人の様子を探ろうとする。

 

 ”小さな宝物”その創設者。その名は恐ろしくて思い出すこともかなわない。

 そんな在りし日の彼は老人ではあっても背中はしゃんとし、足腰もしっかりして、なによりも身綺麗にスーツに白衣をまとって自信を持った笑みを浮かべていたというのに。

 

 ここ何年も調子は良くはなかったーー。

 

 体に異常はなかったが精神が――人格を、すべてをボロボロにさせていた。

 なんとか症状を改善しようとキンジョウらが知恵を絞って色々と試したが、全部が無駄に終わった。

 

 張りのあった皮膚が失われると肉が落ち、骨が浮き出し。かなり低いレベルの健康体をなんとか今は維持している。これでもまだ本人がしっかりしていれば。武器を持って敵を前にしても戦う力は残してはいるはずなのだが。

 

 しかしそんなことは無理だろう。期待は出来ない。

 

 アキラの最悪の帰還後。老人は自身の過去からの記憶と幻覚によって正気でいられることはほどんどなくなっている。

 その証拠によりにもよって戻ったばかりの彼の廃棄とキンジョウにその後を継ぐようにとの言葉を残してしまった。それが組織に不協和音を生み出す。

 

 この連邦では完璧だった”小さな宝物”は、急速に厳しい時を近くしている――。

 

 

 盛り上がったベットから出てくる気配がないとわかると、観測者はすぐにテーブルの元に駆け寄り引き出しを開ける。

 そしてケロッグから持ってくるのが遅れたアンプルのケースをそこに滑り込ませた――。

 

 隣にある鏡に己の姿が――ガスマスク姿の自分を見る。

 老人にかつての姿がないように、自分も同じくこのような姿になってしまったと今更だが改めて思い知る。

 無意識に指がマスクに触れ、それを脱ぎ捨てたいという衝動に駆られるが。急速に理性が波のように襲って衝動を上から洗い流していくと、指は震えただけですぐにそれも収まった。

 

――何を考えてる

 

 自分への問いかけ?

 次に心臓が飛び跳ねた。声は衝動に戸惑う自分に向けた自らの言葉だと思ったが。実はいつのまにか隣に立つ、正気を失った目をした老人の口から放たれた言葉であった。

 観測者の体は凍り付く――。

 

「アンプル。アンプルの確認を、数が……気になって」

「なにを、考えてる」

「あ、あの……」

「あの子は、アキラは何を考えているんだ!どうしてっ」

 

 

 老人は叫ぶようにそういうと、思った以上に強い力で観測者の両肩を掴んできた。

 

「なぜあの子は、あんなっ……!?」

「――わかりません」

 

 観測者は目の前にいる老人の顔を見返すことが出来ない。

 顔を背け、なんとか小さな声で問いに答えるだけで必死だった。怪人のひとりであるくせに老人を恐怖しているのだ、心の底から。

 

「あの子を失ってしまったのか?我々は失った?希望を?」

 

 ガクガクと体を揺さぶられるとそれだけで頭がくらくらして視点がぼやけた。

 老人の態度を観測者はただひたすら受け身になるだけで何も言えなかったが。それで飽きたのか、彼は観測者から離れると再び自分の世界へ。幻覚の世界へ戻っったか。黙りこくると、ふらふらと寝床へ戻っていってしまった。

 なにもなかったかのように――。

 

「会議があります――」

 

 恐怖に満ちた声でそれだけ口にすると観測者も老人の部屋から退出する。

 早鐘のように打ち続ける心音に静まれと何度も念じながら、無菌室のような美しく伸びる廊下を早足で歩く。

 

――失ったか、希望を

 

 老人の言葉に観測者は傷ついている。

 完璧であったはずの我ら”小さな宝物”に希望が無くなったとするなら。これから先の未来は、どこまでも暗いまま――。




(設定・人物紹介)
・アンストッパブル
旧世界の人気コミックのキャラクター、ヒーローチーム。ボードゲームもある。

グロッグナック、マンタマン、シルバーシュラウド、ミステリーの女王、ザ・インスペクターがメンバーだと思われる。

・ギブスのベルチバード
作中では「ガンナーズが墜落させた」と表記したが、恐らく誰がやっても同じ運命は避けられなかったと思われる。

完成度は7割強、アキラのように安定して使えないものだった。


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