ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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次回投稿は来週くらい。


スピーチ

 翌日、私はさっそくファー・ハーバーへの渡航について皆に説明する場に立っていた。

 なかなかに壮観な絵になる――そろっている人物はバラエティに富んでいる。

 

 生きながらにして、若くして伝説となったミニッツメン。インスティチュートの創作物、人造人間のために戦うレールロードのエージェント。悪徳の町、その市長にして創始者。ひどい世界で安全な町にいても正義を信じて戦う記者。

 殺し屋、傭兵。ロボットは人造人間に。そしてここにはいないが、人造人間の探偵――。

 

 私を見る彼らの視線を返しながら、私は自分の中にある確信を強くする。

 

(彼らとならきっとできるはず)

 

 それは簡単な事じゃない。だがやるなら今しかない。

 

「説明の場をくれたことにまず、皆に感謝したい。これから私が話すことはかなり……いや、相当にとんでもないことだということはすでに私もわかってはいるんだ。

 だけどみんな、今の自分の周りに誰がいるのか。それを見てほしい。

 この計画はまだ完璧ではないが――きっとやることに意義があるにちがいないんだ」

 

 そして私は探偵と助手の話をする。

 ニックの古い知り合いの娘が消え、ファー・ハーバーへと向かい。そこで見る異様な光景、絶望的な人の暮らし。奇妙にも自分たちの居場所を作り上げていた人造人間たち。そしてアトム教団――。

 

 カスミの依頼を受けたところで私は話を強引に終わらせる。この先はこれから作らないとないからだが、それだけではない。

 

「さて、依頼を受けた経緯はこれで以上だ。

 ここでまずみんなに謝りたい――この話を綺麗に忘れてほしい」

 

 いくつかの眉が動き、アキラは口元に悪い笑みを浮かべる。どうやら利口な若者はこの流れを予想していたようだ。

 

「ニックの依頼はこのまま私は手伝うつもりだが。皆に頼みたいのはこのことじゃない。

 ファー・ハーバーの状況については多少なりとも私の話から想像が出来ると思う。正直あのままでは数年ともたない。

 過酷な生存競争で一番に脱落するのが彼らだからだ。だからこそ、今ならまだ何とか間に合うと思ってる」

 

 パイパーは乗ってきたようだ。真剣な顔でメモを取り出している。ケイトはその真逆、呆れた表情を見せて鼻を鳴らす。でもそのほかが今は重要だ。

 ガ―ビーが皆を代表したように質問してきた。

 

「そりゃそうかもしれないが。将軍、実際に俺達に何をさせたいんだ?どうすると?」

「何をさせたいのか?それはあの島に住む住人達の未来を少しだけ明るいものにしたい。生存競争の最下位から少しばかり押し上げてやりたい。

 どうするのか?これが問題でね。私の頭では全ての地図を埋めることが出来ない。”誰か”の力が必要だ」

 

 別に個人をあてにしたわけではなかったが、なぜか皆の注目がアキラに寄った気がする。これはマズイ。

 

「その誰かってのが、ここにいる皆だ。

 ガ―ビー、ミニッツメンの精神は『人々が安全に平和に暮らせるように』力を貸すことだったはず。それは今の彼らにとても必要なものだ。

 ハンコック市長。あなたは連邦では誰もが知っているグッドネイバーを発ちあげた英雄だ。彼らにあるべき”市長の姿”を示して導いてほしい。

 マクレディ、ケイト。君たち傭兵はまさに即戦力。あそこには君たちの力なしではなにもできないよ。

 キュリー、君は生物学に興味を持っているとアキラに聞いてる。ファー・ハーバーの生態系はじつに個性的なものだった。きっと君も興味を引くものがあると思う。

 

 パイパー、見捨てられた島のことをこの連邦の人々に伝えてほしい。そして出来る事なら未来にわずかに明るいものとなる様子も。頼みたいと思っている」

「――アキラは良いのかい?」

 

 ケイトが聞くと、アキラは声を上げた。

 

「僕の答えはもう出てる。行くよ、皆が来ないと言っても僕はそうする」

 

 何人かが居心地悪そうに体を動かす――。

 

「ふむ、とりあえず決まっていることは何か。そこまで聞かせてもらわないとな、レオ」

「もちろんだ――ファー・ハーバーに活力を呼び込むには単純に人の活動拠点を増やしていくしかない。これが実に難しいことだが……すでに言ったが、ここにいるプロフェッショナルたちとなら可能だと思ってる。

 

 方針としてはシンプルだ。

 ファー・ハーバーは大きな島ではない。

 しかも島の中央部は危険地帯も多く、手を出すべきじゃない。そうなると自然、島の外周部。つまり海岸線を使うしかないと思ってる」

 

 島から持ち帰った古い地図を壁に貼り付けながら私は簡単な説明をする。

 

「それなら確かに現実的かもな。だが、それだけで足りるのか?」

「正直に言うけど、これ以上の詳しい説明は参加者によって変わってしまう。皆もどうするか決めてもいないのに、参加する前提で話を聞かされて愉快には思わないだろう?」

「そりゃそうだが、それだけじゃちょっとやる気にはならないね」

 

 ディーコンは飄々と言い、私は苦笑するしかない。

 

「言えることは準備をするって事だ。この連邦で、十二分にね。

 それでもきっと足りないだろうと思う。でも――初めに言った通り、今しかない。ここから上古湯は好転しないわけだから、いつ一気に転がり落ちてもおかしくなくなってしまう。あとは現地でなんとかしていくしかないだろう」

「最前線で戦う、か」

「困ったことに私はそこでの経験は軍人時代のスタートから味わってきたんでね。楽観はしてないが、希望はあると思ってる。もちろん君たち全員が賛成してくれるなら、その確率はさらに高いものにできると思う」

 

 何もかも足りないが、熱意だけは前面に押し出して伝えた。

 自分でも久しぶりに集中したので疲れも感じるが、それだけに手ごたえはあった。あとは――離れないようにするしかない。

 だがそれは”私にできる仕事”ではなかった――。

 

「将軍が提案し。それがミニッツメンの精神と合致するというなら俺が反対する理由はない。ああ、将軍。ミニッツメンは全力でその計画にサポートするよ」

「ありがとう。ガ―ビー」

「礼はいいさ」

「――ミニッツメンの勇気と希望がこの連邦を早くも飛び出していくって?そんな特ダネ、逃すわけにはいかないわ。私も参加する!」

「パブリックオカレンシアの報道に期待しているよ、パイパー」

「俺の仕事は傭兵だ。そして俺の雇い主はそこに座ってる。そいつがすでに行くと決めたっていうなら、俺の考えはないってことも同じだよな。俺も参加で」

「マジ――!?」

「感謝する、マクレディ。ケイト」

「あ、あのっ。連邦では見ることのない変異のある自然というものに興味があります。私も」

「ありがとう、キュリー」

 

 ハンコックとディーコンは沈黙し、無表情のまま。

 

「とりあえず今日、いや数日かけても真面目に考えてほしい。

 呼びかけた以上、決してみんなが”損をする”ことはないはずだ。それじゃ、今日はありがとう」

 

 ある程度の賛同者燃えることが出来たのだ。引き際は綺麗に、私の演説は終わった。

 

 

―――――――――

 

 

 さて始まるぞ!

 

 レオさんの話が終わると僕はすぐに自分の工房へと一直線で戻っていく。

 ファー・ハーバーに向かう前にやらなくちゃならないことが山積みだ。これをこなすには殺人的スケジュールってやつを覚悟しなくちゃならないだろうが――なに、僕にはサイコもジェットもたっぷりある。

 

 そう思っていたのだが……。

 なんなんでしょうねぇ!?これはっ。

 

「おいっ、なんでみんなここに来るんだよ!」

「……」

「なんだよ?邪魔だって言われなきゃわからないのか?」

 

 動向を宣言したマクレディ、ケイト、キュリーに続き。無言を通したハンコックまでもが入ってきて、幽霊のように部屋のあちこちからこっちに無言の圧力をかけてきた。

 

「――なぁ、おっとこれは。お邪魔だったかな?」

「ディーコンもか」

「あー、俺はそれじゃ後で」

「行くな、ハゲ!もうそのまま入ってきなよ、なんか話があるんだろ?」

 

 これが嫌だったから。こうならないようにと真っ先に工房に来たのに、まさか彼らが平然とそこに入ってくるとは思わなかった。どうやらこれまでは”気を使って”ここを避けてくれたが今日だけは特別、ということか。

 

「よし、話せ」

「なにを?」

 

 はぁとケイトはため息をつく。

 

「あのね、あのレオは言ってるんだよ。『連邦から離れた小島にいる気の毒な連中を、俺達で助けてやろうぜ』ってね。あんたはそれに同行するって、もう決めた。あたしたちになんの相談もなくね」

「ああ」

「なんでよ!?」

「悪いか?」

「あのな坊主、俺達のいる連邦でかなりのトラブルを抱えている。だいたいお前が言ったんだぞ『戦争が起こる』ってな。

 俺もそう思う、だからここにいる。なのになんでここよりも状況の厳しいよその面倒をみられるというんだ?」

 

 ふむ、なんとなくだがこの状況はレオさんにハメられた気もする。

 詳細な計画は言えない、なんてやってたのは。こうして代わりに僕に話させ、やる気になれない連中をその気にさせてくれということか――期待にこたえられるかわからないが、役割をもらったからにはやってみようか。

 

「確かに今、状況は良くない。

 自分も落ち込んだところから立ち上がったばかりだしね。今回はきつかったよ……とにかく色々と問題を解決しようとして、新しいもん弾が転がり出てきてしまった。ここで新しい問題に手を伸ばすのは馬鹿だってね、わかるよ。

 

 実は信じてもらえないかもしれないけれど、レオさんから話を直接聞いた時はどう断ろうか少しだけ考えた」

「少しだけ?」

「あの人、僕と違って話がウマいんだよ。まず最初に派手なネオン色の看板見せて、裏にある荒れ地をどうやって”爆破”するのかの説明に入る……まぁ、いいや。

 

 要するに僕はあの人に早々に口説かれちゃったんだよ、みんなの言う通りにね」

「へぇ、そんなに熱い口説き文句。あたしも耳元で囁いてほしいわ」

「美人の法律家を妻にした有能な軍人のなせる業だよ。僕みたいに自分の事すらわからない、ガキに期待するな。

 

 さっきのレオさんの話もその点ではよく考えられていた。

 ニックの依頼はカスミが見たという人造人間に寄る恐ろしい計画の真偽について。でもこれは言うほど簡単な事じゃない。

 聞けばそこでは人造人間たちはかなり有利な立場にあるからだ。追い詰められた人間に手を差し伸べ、島の異変について解決を模索しているとか。

 

 そんな連中に『君達、最悪のことしたいの?』とは聞けないだろ?」

 

 皆の顔を見ると「まぁね」といった賛成の色が見える。

 

「ここで恐ろしいことにあの人――レオさんは考えたのさ。小さな島の状況を変えることで、ニックの仕事を簡単にしたいってね。だから言ってたろ?この計画は別のものだって。

 救済を目的とした計画ではあるけど、ミニッツメンとも切り離して。悪そうな人たちも含めて”過激な方法”でやってみようってね」

「過激な方法、とは?」

「島の外から僕らがズカズカト入っていって、そこにあるダイスに手を伸ばし。僕らがふって放り投げる。あとは出てきた目が僕らにとっていいことが重要で、島の人たちに良いものであることは実は重要じゃない」

 

 何人かはすぐには理解できなかったようだが、理解できたのもいた。

 

「――つまりこういうことか。俺達が関わったことで島の連中が全滅することになっても、構わないと?」

「逆に言えばレオさんの目から見て、その島に人が住むには一発逆転が必要なほど追い詰められている」

「俺達は重篤の患者を相手にメスを手に切り刻めってわけか。殺してもいいと?」

「そういうことだね。

 なんなら手を汚したくないからとジェットをしこたまぶち込んで息絶えるのをじっと見守ってもいいよ。安楽死もまた一つの解決策さ、善悪は関係ない」

 

 うまく伝えられたかどうかはわからないが。レオさんの意思は僕というフィルターを通してここにいる仲間に伝わったことは間違いない――なんだかなぁ。

 

「わかった。つまりレオは自分が言った通りのことを俺達に求めているってことは理解した――。

 それじゃ話してくれ。お前は、この話のどこにひかれたのか」

「……難しいんだけど?」

「説明がか?頑張れよ、若いの」

 

 グッドネイバー市長にそう言われても、この場合は「わかった」とは言いかねる。

 ディーコンは友人で、今でも相棒と呼べる存在だが。あれは根っこからレールロードのエージェントなのだ。ここでついうっかり口を滑らせたら、新しいトラブルがそこから大挙して転がり出てきてもおかしくはない。

 

「色々あるんだよ、色々あってね――うん。

 ディーコン!今から聞くことに関してレールロードとしてのコメントを聞かせてほしいんだ。

 

 連邦の離れにある小島では人と人造人間が争わずに共存している。これについてどう思う?」

「――大変興味深い話ではあるな。

 だが、それだけだ。今の俺達にそこを気にする余裕はないんでね。インスティチュートにはやられっぱなし、今はB.O.S.もいて人造人間を根絶やしにすると叫んでいるんだ。しょうがないだろう。

 

 これからも幸運を、と祈ってやるくらいだな」

「なに、それ!?」

 

 ケイトは素っ頓狂な声を上げたが、僕の思った通りの答えが返ってきた。

 

「色々の中のひとつがそれだよ。僕は向こうの仲間からは見捨てられちゃったけどレールロードの顔がある。

 連邦とは違う人造人間たちのそのコミュニティとやらが本当にインスティチュートから離れたものなのかどうか。それに本当にそんなことが出来るのかどうか、この目で確かめておきたい」

「それを素直に信じろって言うのか、相棒?」

「ディーコン、先輩であるあんたをみならって僕の真心を聞かせたんだ。そこから別のものを探そうとはしないでくれ」

「なら、聞かない方がいいんだろうな。お前を裏切り者とは呼びたくない」

「そうして」

 

 過激な方法を考えるには情報が必要だ。そしてアカディアと呼ばれているそこでは人造人間たちが最新の情報を持っていると聞いている。当然だがそれを手に入れないと、計画は先には進めないだろう。

 

「色々っていったけどな。お前のミニッツメンとしてはなにがあるんだ?」

「……単純、リーダーである将軍をお助けしたい」

「ワオ、あいつの飼っている犬みたいだね。あたし泣けてくるわ、この雑巾ってね」

「同感だな。じゃ、お前のよく見せる悪党ではどうだ?」

 

 マクレディら傭兵たちにコミカルに肩をすくめて答えてやる。

 

「こんだけ大きな計画だ。なにか新しい儲け話があるのかも、間違いなくね」

「例えば?」

「そこにいる市長に聞けばわかることだけど、この時代に安全な場所を生み出すってのは大変だけど。同時に凄く儲かることでもあるんだよ。それを小さな島でいくつか増やすんだ、単純にキャップは百単位で毎月転がり込んでくる」

「おいおい。俺の偉業になんて言い草だ」

 

 空気が変わっていた。よかったこのまま終わってくれれば――。

 

「私からもいいですか、アキラ?」

「なに?」

「あなたには智者としての顔もあるはずです。私自身、そう思っています。

 私もあなたと同じくその島に興味をひかれていますが。あなたはどう考えているのか、聞かせてください」

「……うん」

「はい」

「――島では毎夜、霧が出てそれにまかれると人々は正気を失い。人造人間たちはそこに百年以上いるのにその原因を不明と考えているらしい」

「不思議な話ですね」

「ああ、本当に不思議だよ。なにがあるのか、知りたくなる」

 

 Vaultから持ち帰ったデータの中に面白い装置がいくつかあったが、使い勝手が難しいものがひとつ。

 地上から直情に打ち上げることで、周辺の天気を一変させるというものだ。連邦では輝きの海と呼ばれるそこにたびたび襲うラッドストームが有名だが。あれは南側の話、北で精一杯のミニッツメンではこれを使う理由はそれほどないのだ。

 

 

 話はそれで終わり、あとはそれぞれで考えて。

 そういうと傭兵たちは「雇い主があれじゃ、俺達の運命は決まりだな」「嘘でしょ」と変わらぬ会話を交わしながら出ていった。キュリーは「今日はちゃんと寝てくださいね」とだけ言って、僕をベットに連れて行きたそうだったが。背中を向けた。

 

 ディーコンはそんな僕らをなにやら味わい部下そうに眺め。「誓いを忘れるな、相棒」とどういう意味かを問う前にさっさと来た時と同じく立ち去ってしまった。なんだよ、あいつ。

 

「で、なんでグッドネイバー市長はまだここに?」

「……」

「僕にはもう何もないよ。あとはレオさんと――」

「お前、本当にもう大丈夫なのか?」

「!?」

「今回のことは本当にこたえているんだろ?調子だって万全には程遠いはずだ、無理に元気にみせているけどな。頑張ってると思う」

「なにを――」

「ファーレンハイトが死んでから、お前はいろんなことに手を出してたろ。

 近くで見ていて雑なやり方だなとヒヤヒヤしてみていたが、うまく結果を出していた。お前は傷ついている。俺が考える以上の怒りを抱えているのは知っている。

 それを仕事と、あのキュリーってのが抑えているだけだってな」

「僕は失敗したんだ」

「ああ、ちょっとしたミスだった。ひどい結果になっちまったがな」

 

 違う、イライラしながら僕は我慢できずに席を立った。犬のようにぐるぐると工房の中を回りだす。

 

「ちょっとどころじゃないよ、致命的な判断ミスだった。結果は最悪ではなかったというだけ。

 人は失ったけど、ここは残った。この役立たずの壁はそのままに!」「ああ」

「ゲイジ!あのヌカ・ワールドのせいだっ。でもそれは言い訳だ。

 自分の警備システムを過信していた。ガ―ビーに、ミニッツメンに兵士を送ってくれるように要請すればよかっただけだ。近くの居住地に声をかけたりして、打てる手はいくらでもあった。

 なのに、へっ……僕は何もしなかった。

 戦闘できないロボットに医者。無力な患者とそのわずかな家族。それを残して意気揚々とヌカ・ワールドへ!」

「その必要があったんだ。それにそこじゃ俺達はうまくやれた。誰もかけることなく戻ってこれただろう」

「代償はここで起こっていた――ここで奪えるものはすべて奪って、役立たずの壁だけ傷ひとつつけずに残していった。あのクソ野郎、サリーとかいう奴は大したクズだったさ。僕に屈辱を与えるにしても最高の形をやってくれたんだからね!」

 

 感情が噴き出してくる。熱い、憎い!

 

「レオさんもガ―ビーも責めてこないんだよ!

 僕は約束してたんだ。ここも、グレーガーデンも、スターライト・ドライブインも。レキシントンに面した重要な場所だから、僕がちゃんと機能するように何とかしてあげますよってね。なのにそのひとつを、僕はダメにした!」

「やめろ。見苦しい真似に意味はない。冷静になれ」「僕っ、僕はッ――」

 

 かなり苦しさを感じながら口を閉じる。頭に両手をやり、髪をかきむしる――レイダーらしく伸ばし放題だった。色も変えていたし、戻すべきだ。キュリーに切ってもらおう――。

 

「ケジメはひとりでつけたんだろ。シケット・エクスカベーション、確認してる」

「最悪さ。そう思っただろ?」

「お前がレイダーってことで何もかもを焼いたことか?別に責めないさ、武器をもってそんなことをやってりゃ。そのうちどこからか真実って奴が零れ落ちて、同じくらいにひどいことが起こっただろうからな。

 おそらくそれがミニッツメンから、お前というミニッツメンに変わっただけだ。俺にお前を責める理由はない」「うん」

「だいたい俺はグッドネイバー市長だぞ?

 汚い仕事なら俺はお前以上のプロなんだ。むしろお前をこうして心配するくらいにな」

「ありがと、ハンコック」

 

 そう答えながら、冷静になった僕の中ではなぜこの市長はなにかを聞き出そうとしているのか。その真意を測れないでいる。

 

「それとこれは伝えるべきかどうかわからんが――」「なに?」「その、そこにな。ピッグマンの奴がいたらしい。偉い上機嫌だったそうで、見に行かせた奴がビビッてさっさと雲隠れしちまった」

 

 ピッグマンが――なるほど、あの変態野郎か。

 採石場を丸ごと炎の鍋に変えた僕のやりようを見て、あいつはなんと名付けたのだろう?いつか聞かされる日が来るのかもしれない。

 

「まずかったか?」「いや、大丈夫だよ」

「ならこの機会だ。俺には聞かせろよ」

「?」

「ヌカ・ワールドだ。お前、本当はあそこで何を見て、何を聞いたんだ?」

 

 グッドネイバー市長、やっぱり油断のならないグールだ。

 

「報告は――」「聞いた差。そこには入ってなかった話を聞かせろよ、と言ってるんだ」

「まぁ、いいけどね」

 

 ハンコックは大悪党だ。個人の感情だけでは動くことはないが、取り扱いを間違えるといつ敵になるかわからない火薬庫みたいな存在だ。それに恐らく――この話はハンコックのような人にこそ知っておいてもらった方がいいかもしれない。

 

 判断はしたが、実を言えばここからが難しかった。

 話し出すのに僕は大きなため息が必要だった。

 

「なんだ。大げさにやってるが、悪い話なのか?」

「良くはない。良くはないけど――悪いかっていうのもちょっと違う」

「ますます面白そうだ」

「どうかな……まずあそこで馬鹿どもの王様やってたら、自分でも信じられないけれどあそこでどうして僕が王様をやれるようになったのか。思い出すことが出来たようなんだ」

「ほう、よかったじゃないか」

「どうかな。肝心の昔の記憶はちっとも戻らないのに、頭をいじられていた間だけ思い出すなんてね。腹が立つ」

「でもそれは悪い話じゃないだろ。本題に入れよ」

「――いくつかの施設を解放した結果。なんかあそこはとんでもない場所だってことが薄々わかってきたんだ」

「それは?」

 

 僕はハンコックの目を正面から見つめる。

 

「ジョン・ケイレブ・ブラッドバートンだ」

「そいつは誰だ?」

「旧時代の経営者、ヌカ・コーラの開発者でもある。あのヌカ・ワールドを作った元凶」

「それがどうした?」

「まだ予測だけで実際に自分の目で見たわけじゃないから断言はできないけど――あそこには恐らく戦前。最新式の、それも協力な原子炉があるようなんだ」

「それが、どうまずいんだ?」

 

 あ、そこはわからないのか。

 僕はちょっと安心したが――ま、だからって喜んでもしょうがない話だ。

 

「強力な電力を長時間にわたって供給することが出来るシステム。これならどう?」

「んん、それならだいぶわかりやすくなった。ふむ――あそこにいるのはハイテクレイダーだったな。連中に任せていていいのか?」

「良くはない。良くはないけれど、正直に言えばあいつらにとっては持て余すものだ。むしろこれが問題なのはインスティチュートやB.O.S.なんかがヤバい。

 技術開発部門を持っていて、それを活用するだけの知識も技術もある。このことがどちらかに漏れたら、すぐにでもあそこに兵が送り込まれるだろうね。最悪だよ」

 

 レイダーの天国に乗り込むのがパワーアーマーか人造人間の兵士達か。

 エルダー・マクソンという男は若いが大した人物だったとレオさんが言っていた。知れば間違いなく連邦を放り出す決断を下すかもしれない。

 何よりの問題はこのどちらかにあそこが占拠されれば、僕が付け入る隙間などなくなってしまうという事。

 そして間違いなくもたらされる膨大なエネルギーは、どちらにとっても新しい扉をたたき破るチャンスを与えてしまう。

 

「なるほどな……」

「想像するだけでも寒気が走るよ。恐らくインスティチュートは人造人間の兵士の量産がさらに進むだろうし。B.O.S.にとっても安定した高出力のエネルギーを利用したこれまでは実現不可能だった技術を用いた物騒な研究がいくつも始められる。

 そして最重要施設になったヌカ・ワールドには誰も入り込めない警備が入る――」

「お前は以前、ミニッツメンをあそこに送ろうと考えていたようだが?」

「無理だよ。B.O.S.とは戦えないし、インスティチュートを相手にしてもあそこでミニッツメンは戦えない。

 来るなら本気で全力で攻めてくるんだよ?ようやく武装が整いだした状態のミニッツメンが全滅しない理由はない。

 レイダーを排除してあそこにいた人々を解放したとしても、結局はまた強力な武器を持った兵士があらわれたら降伏するだけだ。役に立たない。皮肉だけどレイダーの方がまだマシ」

 

 なのにミニッツメンは連邦ではまだまだ不安定で、B.O.S.がいつインスティチュートへと近づくかドキドキしてる。

 そして僕自身、身軽にならなきゃならないのにコベナントを失って後退している。巻き返す、言葉にすれば簡単だが。どうしろというのか。

 

「まだ考え中か?」

「考えてまだ1日。名案はまだどこにもないみたいだ」

「ふむ――そうなるともうひとつばかり解決しなきゃならない問題が出てきたんじゃないか?」

「なに?見落としてた?これ以上は厳しんだけど」

「あの人造人間の2人のことだ」

 

 あの男女か。

 

「お前、アレをどうするつもりだ?」

「どうするって――レオさんはディーコンと。レールロードと取引する、僕も勧めたさ。彼らはミニッツメンが最初に引き受ける人造人間ってことになるだろうね。もちろん正体は秘密にして」

「そういう意味じゃない。あいつらがやったこと、わかっているんだろ?」

「まぁね――」

 

 口の中に苦いものを詰め込まれ、それを飲み干す感覚に眉をひそめた。

 そう、僕はわかっていた。このコベナントの警備システム。レイダーが近づいてきた時、それがまったく反応しなかったのは”誰かが装置の電源を切った”からだ。そしてそれを可能とするには、僕のプロテクトを解除できるだけの高いハッキングスキルがなければ不可能。

 

 どんな心変わりがあったかは知らないし興味もないが。

 少なくとも実行する直前まで、あの2人は仲間と一緒に行動していたはずだった。

 

「レイダーは殺す、そうだったな?」

「それ僕の口癖になってる?なら気を付けないとな――」

「笑い話じゃないぞ。お前、構わないのか?」

 

 僕は無言のまま肩をすくめた。

 構わないわけじゃないが……。不思議なことに僕はあの2人にはそれほど怒りを抱いてはいないようなのだ。恐らく、実行時にレイダーの側から飛び出したことを評価しているのだと信じたいが。

 ほかの逃げた人造人間たちに抱く憎悪を悪意に変えて彼らにぶつけてやろうという気はまったくない。

 

 だが、彼らは仲間と一緒に逃げたほうが良かったのかもしれないな。

 

「話をするよ、後で問題にならないように」

「大人になったな」

「からかわないでよ。自分でこっちの手元に残ったんだから、少しくらいはね」

 

 ククク、と笑いながらハンコックは立ち上がる。

 

「それじゃそろそろ名案を考える続きに戻ってもらおうか」

「もう聞きたいことはない?」

「今はな。またなにかあったら戻ってくるさ」

「たまには市長も一緒にそれを考えてみない?」

「俺には俺の流儀があるさ。とりあず今はおしゃべりに喉が渇いた、酒が必要だ」

 

 ヒラヒラと手を振りながら、ハンコックはさっそうと立ち去っていく。

 やっと僕はひとり。これでやっと静かになったわけだが――なんかあんまりやる気が出なくなっていた。

 

 

―――――――――― 

 

 

 数日後、私は話した全ての友人たちから参加の意思を聞くことができた。

 その間私はアキラに頼まれ、人造人間たちのトレーニングを見ていた。これから3週間、教えたメニューをこなすことが出来ればとりあえず兵士として最低限の体力を手に入れることが出来る。

 

 ファー・ハーバーへと向こう事は決定したが。しかしそれはすぐではない。

 とにかくこれは短期決戦でやる――この連邦を離れるにしても長くは無理だ。気が付いたら連邦で戦争が終わっていたではシャレにならない。それではショーンの救出の唯一のチャンスを失う。それは困る。

 

 ということは何もない島に居住地を作り。それを線で結ぶまでを可能な限り短時間で行う必要がある。

 人、資材。色々とこちらで準備していく必要がある。

 

 

 さらにミニッツメンとしての仕事もある。

 進めていた北東部の調査はそろそろ終盤だ。そろそろ新しい居住地のための住人の募集を始め、居住地を結ぶメールマンの用意もしないといけない。

 それも終わったとして、ミニッツメンには次の目標が必要となってくる――調査で自らを精兵であると証明した兵士たちを再編成。少しでも戦える部隊を増やさなければならない。

 今もミニッツメンはB.O.S.を相手に勝てる要素はほとんど皆無と言っていいが。連邦の南部――あのマクレディがかつて所属していたガンナーズとよばれる傭兵相手に戦えるようにしなければ、ミニッツメンはこれ以上の成長はありえない。

 

 

「そうなるとまたレオさんとはしばらく分かれて行動することになりますね」

「アキラ、君に手伝ってもらえるなら私はもっと楽が出来そうだ」

「将軍らしく部下をこき使うやり方を選ぶんですか?給料を上げてくれないなら嫌です」

「君が要求すれば、ガ―ビーも聞くんじゃないかな――まぁ、それは冗談として、君も時間が必要だろう」

「そうですね。レキシントン周りの居住地はコベナントを攻撃されたことでかなり後退した。遅れは取り戻さないと」

「――手段を択ばずに、ということかな」

「ガ―ビーには内緒にしてください。そのためにあんな約束を文書にしたんですから」

「わかった。君に任せたんだ、私も口は出さないよ。どうせファー・ハーバーではそれが必要になるだろうしね」

「あの人、怒るでしょうね」

「んん、そうだね」

 

 

 短い会話を交わした後、レオさんはディーコン、ガ―ビー、パイパーを連れてここを出ていった。

 ファー・ハーバーとやらに行くための準備を僕はしなくてよくなったが、それで楽になることはあまりない。

 

 仕事が山積みだ。

 

――その若者は自分をコンドウと名乗った

――君を知っているようだった

――彼らの組織には名前がないらしい

 

 僕の友人たちに暗殺者が放たれた。

 僕を追い、僕を知っているという奴らがそうした。

 そのことを考えると頭がおかしくなりそうだ。抱える怒りが、さらに大きなものとなる。いつしか正気を保てなくなる日もあるだろうが、しかし僕は奴らを追い続ける。

 

 互いに互いの背中を追い続けるというわけだ。

 それは円を小さく描く動きとなり、いつしかどちらかの手が先に背中に触れることになるのだろう。

 奴らにその機会を再び与えるつもりは僕にはない――。


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