ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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Here's to you

 新しくできた墓の前へ、再びハンコックは新しいウィスキーのビンを持って訪れたが。今回は後ろに3人のトリガーマンたちがそれに付き従っていた。

 彼らはハンコックの目となり耳となるだけではなく、声にもなって動く古参の部下達である。

 

 かつては彼らの上に彼らよりもずっと若い娘だったファーレンハイトがNo.2として立っていたが。彼女を失ってからハンコックはそれに代わる誰かを任命することはなかった。

 

「ここですか――」

「ああ、まぁ、なんだ。ついで何でお前らも挨拶していってやれ。どうせ俺も来るのは今日までだ――そういうことなんでな。俺から差し入れだ、好きなだけやってくれ」

 

 ハンコックはそういうと、死者となったかつての自分の町の住人の墓に、ウィスキーを丸々ふりかけた。

 

「それでどうなってる?町の方は」

「動かないですねぇ。動きがないわけじゃないんですが――」

「自分の事だが。ジョン・ハンコックはいなくとも恐れる存在であり続けてる、わけか。嬉しいが、同時に少し困ったことになるな。

 レイダーの連中、なにやってるんだ?」

 

 ハンコックが町を出た最大の理由は、連邦におこるであろう戦争が始まったとき。グッドネイバーに生き残れるだけのものを手にするためだが。

 しかしNo.2のいない今の彼が外に出れば、必ずどこかのレイダーがしびれを切らしてグッドネイバーに手を出すと思ってトリガーマンたちと罠を張っているのだ。

 問題はその罠に近づく獲物がちっともいないということで――。

 

「そうですねぇ。恐らくですが、ミニッツメンの攻勢と、B.O.S.の動きに過敏になってるのかもしれません」

「それは北の話だな。どういうことだ?」

「いえ、バンカーヒルでの噂なんですがね。

 最近あそこの傭兵たちがそろそろ自分たちも商売替えの時じゃないかと、そう不安がっているらしいんですよ」

「傭兵が?なにをやるっていうんだ」

「さぁ……南に行くか、連邦を出るか。もしくはレイダーになるってのもありですかね」

「よくわからんな。何に追い詰められてるんだ?」

「やっぱりミニッツメンでしょうか――連中が居住地の護衛なんかも見るようになって。自分たちの仕事がやりづらくなってるんでしょう」

「ふん」

「それと、連中が外から来たB.O.S.と手を組むかもと」

「なんだと?」

 

 なんだか面白い話が飛び出してきた。

 

「説明してくれ」

「B.O.S.の奴ら、空を使ってあちこちに兵士を送ってるんですが。まぁ、大抵はトラブルになってるんです」

「ああ、らしいな」

「ところがミニッツメンとはあまり騒ぎになってないってのが、どうもこの噂の根拠だと」

「なるほどな。裏でつながってるから、仲良しではないが。問題も起こらない、か」

 

 恐らくだがレオの指示をガ―ビーあたりが必死に守らせた結果がそうなっているのだろうが。なるほど、そう考えると北部は事実上。ミニッツメンとB.O.S.によってほぼ掌握されていると他人は考えるようになるわけだ。

 

「そうだ。シケット・エクスカベーションに人はやったんだろ?どうなった」

「行かせたスカベンジャーから報告がありました。あなたの思った通り、ひどいことになってたそうです」

「そうか――報告を俺も聞きたい。そいつと話せるか?」

 

 レオが今、アキラの説得に向かっているが。彼が何をしてきたのかは詳しくは知らなかった。

 それでなんとなくそんなことを口にしたのだが、部下たちの顔色が一斉に曇る。

 

「すいません、ハンコック。それは無理じゃないかと」

「なんだ?死んだのか?」

「いえ――ただとにかくビビってまして。話すのが偉く面倒で」

「どうしてだ?」

「それがよくわからないところなんですが。どうもあそこでそいつ、あのピッグマンに出会ったようなんで」

「なにィ?」

 

 半ば冗談、半ば殺す気でピッグマンの画廊に様子に行かせたアキラが戻ってきた時のことが頭をよぎる。

 

「とにかく『あそこじゃみんな死んでた。ひでぇことになってた!』こればっかりで」

「あのスカベンジャー、元はレイダーやってたやつらしくて。それで自分も目をつけられたとかなんとか……」

「そうか。残念だな」

 

 ということは報告して報酬のキャップを受け取ると、スカベンジャーはすぐに走り出したのだろうと予想できる。きっと気のすむまで地の果て目指し、疲れたとしても動く限り足を止めることはないだろう、探すのは面倒になりそうだ。

 

「他には?」

「ガンナーですかねぇ。クインシー以来、抑え目だった連中。とにかく人が集まってるとすぐに襲っているようですね。ボストンの連中もそれに刺激を受けたのか、グッドネイバーに目がいかないみたいで」

「なにかあったのか?」

「わかりません――ガンナーズは元々はっきりとした方針を打ち出したりはしませんから。ボスから部隊に……」

「直接命令するんだったな。わかってる――それじゃ、しょうがないか」

「アンテナは張ってますんで、何かわかれば報告します」

「頼むぜ」

 

 こんなところだろうか――空き瓶を墓の隣に並ぶようにしておくとハンコックは立ち上がった。

 

「そういえば南と言えばもうひとつ」

「うん」

「ちょっとしたオカルトっぽい噂がありますね。なんでも毎日、ごく短時間の間だけ。安全な場所があるので、ここに来たらいいって放送が流れてるらしいですよ」

「それを言うのかよ!どっかのレイダーの罠だって話で決着ついただろ!?」

「おい、死者の前だぞ。仲良くケンカはしなくていいさ――それで?どこの愉快な奴がそんなミエミエの手を使ってるんだ?」

「オカルトですよ。だから確認はしてません」

「でもちょっと不気味なんですよね。それ、大昔に作られた地下の施設があるって話で――」

 

 地下の施設?安全な場所?

 2つの言葉が、ハンコックのなにかに危険信号を発した。

 

「ちょっと待て!それはまさかVaultシェルターの事を言ってるのか?」

「さぁ?でも確かにモグラ人間たちの巣のことを言っているようにも聞こえますよね」

 

 今回は部下への確認に否定が返ってきて欲しかった。まさかこんな時に――まさか勝手なことを!?

 

――バレリア・バーストゥ

 

 存在しないシェルターの監督官として派遣され、200年以上も地下で生き続けたグール。

 自分の都合ばかりで、こっちの話をちっとも聞こうとはしない女だった。アキラはわざとポンコツロボットを建築員として残し、施設は未完成のまま放り出してきた。わざと何もできないように!

 それを……なんてことだ!

 

「アキラ――こりゃ、お前の力がないと」

「えっ、ハンコック?」

「なんでもない……そのオカルト話だがな、俺に心当たりがある。信じたくはないが。どんな放送が流れているのか、すぐに調べてくれ」

 

 ジョン・ハンコックには生き方がある。

 死者に生きていてくれたらなどと嘆いたりはしないし。それでこうして困ったときにも、ため息と弱音をセットで吐き出したりはしない。それがジョンだ。

 

 だがそれでも、だ。

 この忙しい時になんて忌々しいんだ!

 

 

――――――――――

 

 

 心穏やかに――そんな日々は自分にはもう残されていないのだろう。

 Dr.アヨの”経過報告”という名の皮肉と批判、それにわずかばかりの助力がこもったそれを聞きながら男は考える。

 

「もうわかった。報告は聞かせてもらった」

「ですが――」

「ありがとう、君の仕事ぶりについては信頼もしているし。満足もしている」

 

 こうして褒めたたえないとこの口は止まらないのだ。

 

「では引き続きということで?」

「ああ、そうだな――それと例のエージェントは戻ってきたそうだ。報告を受け取ったら君のところに戻すつもりだ」

「わかりました」

「それじゃ、また」

 

 とにかく離れたかった。

 だから手を振り、もう話すことはないと伝える。向こうも自分の職責と、評価は手に入れたと満足したのだろう。思った通り縋り付いたりはしてこなかった。

 

 

 地上の脅威について一時期ここにいる多くが不安から神経質になり。色々とみっともない姿をさらしてウンザリさせられたが、最近は元の穏やかさが戻ってきたような気がする。

 現在はプロジェクトを無理に推進させることで、全員の目標と気持ちをひとつにし。同時に余計な野心を刺激しないようにまた気を遣わねばならない。

 

 今こそ強さが自分に必要だった。

 弱気なリーダーに彼らはすぐに敏感に察知する。そして不安になり、余計な考えをめぐらしだす。それを許してはならない。

 

 

 それにDr.ディーン・ボルカートがまだいくつか考えがあると言っていた。

 どこまで期待していいのか疑問はあるが――まだ、運命が近づいてくるのに時間が必要のようだ。

 

 

 今はここの誰も使っていない部屋に入る。

 すると待っていた人――人造人間は、こちらを確認して表情もかえずに立ち上がって迎える。

 

 コーサ―。

 

 ケロッグをはじめとした特別なエージェントを、やはり地上から手に入れるには大変な時間と労力が必要であり。人造人間がそれになり替わるようにと研究を重ねた結果。

 困難な地上での任務達成のため。特に常識を超えた戦闘能力を備えた戦闘機械が誕生した。

 

 今ではケロッグのような純粋な人間のエージェントは消耗して数を減らしており。新たなコーサ―達がその代わりを務めるようになっている。

 

(ケロッグか――そういえば言っていたな。『あんたら、ついに俺達をも過去のガラクタにしちまおうっていうんだな』だったか)

 

 男は前に立つと、コーサ―を見下しながら命令する。

 

「報告を。その前に――終わったら今回の任務内容については一切の口外を許さない。秘匿案件だ」

「了解」

「よし、そしてお前はDr.ボルカートのところでメンテナンスを受け。元の任務へ復帰する。私の任務、それはこの報告で終わりだ、わかったな?」

「了解しました。報告を聞きますか?」

「聞かせてくれ」

 

 そう言うと、自分が緊張しているのが分かる――。

 

 あの”小さな宝物”――特に問題ではないからと放っていたわけだが。

 まさかいきなり巷で話題のワンダラーに暗殺者を送り付けていたとは驚くしかなかった。

 

 本来であれば自分はその状況について知りたいなら部下に報告させなくてはいけないのだが。立場上、地上の一部の個人に執着していることを知られるのは危険だった。

 

「任務、フランク・J・パターソン Jrの安否」

「まぁ、間違ってはいない。続けろ」

「はい――フランク・J・パターソン Jrは先日、ミニッツメンの作戦中。何者かからの暗殺者に襲われていました」

「彼は無事か?」

「はい」

「そうか」

「この襲撃は2度……」

「2回?何度も襲われたということか。なにがあった?」

「最初の襲撃は複数の雇われた暗殺者からのものでした」

「2回目は?」

「所属不明、ですが自らをコンドウと……」

「エージェント自らが動いたかっ」

 

 唇を無意識に噛んでいた。

 あのケロッグでさえ止められなかったと聞いた時。不思議な感覚に包まれ、困惑したものだが。

 今回は、はっきりと怒りがわいてくる――。

 

 あの”小さな宝物”、彼は確か地元の民兵を率いる立場にいるはずなので、なんらかの障害になると排除する動きに出たのかもしれない。彼らに見て見ぬふりをするよう、依頼するべきだったか。

 

「どうなった?」

「深い傷を負ったという話がありましたが、詳細はわかりませんでした。片腕を失って戦えなくなったとも聞きます」

「怪我をしたのか……それで今はどこに?」

「グッドネイバー。しかし町からは消えました。この続きは任務の継続が必要です」

「――そうか」

 

 これは単に見逃したという事だろう。

 任務の継続など問題外だ――周りに自分が気にしていることを怪しまれ、探られてはやっかいなことになる。

 

 だが怪我をして、それも重症だというなら。こちらからの助けが必要か?

 いや、手を伸ばすにしても何をどの程度、そこを見極めなければ。自分の職責を裏切る結果を招くかもしれない。

 

「最後に聞こう……君は。

 お前はフランク・J・パターソン Jrは大丈夫だと思うか?」

「?」

「感じたことでいい。私に教えてくれ」

「すいません。私が任務対象になにかを感じることは何もありませんでした」

「そうか――よし、戻っていい」

「了解。失礼します」

 

 コーサ―は背中を向けて出ていくと、今度こそ大きなため息を吐き出した。

 実直に任務をこなせそうな奴を選んだつもりであったが。期待以上の働きを求める相手を選べなかったか。

 目立たず、興味をひかせないことが重要だったのでこんな結果になってしまったが――心配だ。

 

 

 気が付くと心臓が早鐘の如く打って、息苦しさを感じていた。

 胸に手をやり、それを抑えようとして落ち着こうとする――冷静さが、必要だった。

 

「運命だ。そう、すべては運命に従う事。それがそもそもの始まりじゃなかったか」

 

 希望はまだある。あの人ならばきっと、無事だったはずだ。

 運命はすでに大きく動き出しており。奇跡は徐々にその姿を現そうとしている。

 

 

 だが変わらないことはただひとつ。

 自分はここにいて、待ち続けるしかない――。

 

 

――――――――――

 

 

 キュリーはそれでも考えた。

 レオが来てくれたから、アキラはきっと大丈夫だ。でもなにか自分も力になりたい。

 それならやっぱり――。

 

「なんだと?狩りだぁ?」

 

 すっかりやる気をなくしているマクレディやケイトに相談すると、どうにも受けがよろしくない。

 これは自分の考えを理解してもらえていないからだと結論付けた。

 

「そうです!彼はもうすぐ牢から出てきます。そしたらきっとお腹がすいているはずですから――」

「手料理を食べさせたい?そりゃ、気持ちはわかるけどさぁ」

 

 ケイトの顔が曇る。

 コベナントは生憎のこと、武器も食料もスッカラカンの状態だ。

 自分たちの分はここまで来るまでに手に入れた肉と、携帯食料だけ。料理をすると言っても、肉に火を通し、缶詰の中身を熱して混ぜたら終わり。それではこのキュリーが満足するとも思えない。

 

「悪いが、狩りってのは必ず成果を手にするってわけじゃないからな。意気込んでも空回りするだけだ。やめとけよ」

「キュリー。この傭兵の言う通りだよ。いきなりそんな思い付きを――」

「いいえ!思い付きではないんです。心当たりがあります」

「へん、なんだ?一応聞いてやるよ」

 

 ありがたいことに一番難しいと思われたマクレディがやる気になっているようだ。話も聞かずに、ごろりと横になって背中を向けられるまで覚悟していただけに、キュリーにとってこれは嬉しい誤算だった。

 

「はい、あのですね。覚えてますか?

 以前ここでの食事事情でアキラが文句を言ったことがありましたよね」

「ああ――あれか。俺達をほったらかしにして、仕方なく退屈しのぎに狩りをやってたら。その日はなんにもなかったと、やけに絡みやがったんだよな」

「そのあとどうなりましたか?」

「どうなりましたかって、あのバカ。いい方法が――って、おい。お前、まさか!?」

 

 思わず周囲を見回すが。なんてことだ、こんな時に限って自分たち以外の誰もここにはいない。

 

 

 

 コベナントから道沿いに北に行くと、そこに東と西へ伸びる大きな街道へと突き当たる。

 そこから少し道から離れた茂みの前に3人は並んでいた。その表情は色々混ざっていて、複雑である。

 

「マジかよ――」「これは冗談じゃなかったんだ。呆れた」マクレディとケイトはそこに並ぶコンテナ状の装置を見て呟く。

 このコンテナの正体はアポミネーション専用の檻であり。ここにアキラは以前、テストを兼ねて罠として仕掛けていたのであるが――並んでいるコンテナのうち、2つは破壊され、中に閉じ込められていたと思われるバラモンやヤオ・グアイがその入り口のあたりで引き裂かれて腐りかけていた。

 

「この事件に探偵はいらないぜ。これなら俺でもわかる――まずバラモンとクマが間抜けにも罠に引っかかって。そのあとでさらに間抜けな奴がやってきて、自分の隣に入ってたこいつらを引きずり出して食っちまった」

「食いしん坊なのは間違いないようだね。それでも足りなかったのか、自分用の檻にも入っていっちまったみたい」

「それでは2人とも、準備はよろしいですか?」

「は?準備はよろしいかって?まったくよろしかねぇよ、キュリー」

「え?」

「あのさこの中身って、ようするにデスクローだよね?本気でやるつもり?」

 

 残る最後のコンテナは一番大きくしっかりと作られている。暴れても出られないようにしているということだ。

 長く閉じ込められた上、腹などもすかしてさらに凶暴になっているであろう中の奴と殺し合いなどしたくはない。

 

「ダメなのですか?でも、アキラはひとりで回収すると、そういってましたからおふたりならと思って声をかけたのですが」

 

――ああン!?

 

 2人の表情が険しくなる。

 わかってる、キュリーは言い方がよくないだけだ。しかし問題は確実に存在している。

 アキラがひとりでできることを、なんでキュリーはそいつに雇われた2人の傭兵に頼んだのだ?これでは傭兵として、護衛としての立場がなくなる。

 

「キュリー、ちょっと、それは――あんたねぇ」

「?」

「へっ、へへへ。別にいいぜ。そうか、アキラはひとりでやれるって言ったか。なら俺達なら瞬殺だよな」

「???」

 

 プライドを傷つけられ。今、3人は夕食の材料をその檻から解き放とうとしていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 オカルトじみた通信の正体。

 それは短い座標を告げるものでしかなかった。

 

 もちろんそれは強大なガンナーズの耳にも入っていたが。地図を開いて場所を確認すると、鼻で笑ってすぐに興味を失った。

 そこは彼らの領地。

 放射能の被害が強いため、グールどもに任せていた場所だった。ならそれはつまり、間抜けな連中に向けた「こっちに出てこい」というメッセージに違いない。

 ならばそれを助ける意味を込めて。「安全な場所に違いない」って噂を広めておけばいい。あとは勝手にやってくれる。

 

 

 ずっとそれが始まることを待っていた。

 気が付けばとっくに数百年を過ぎてしまったと言われたけれど、今からでも遅いなんてことはない。

 

 壊れた世界でも、アメリカは立ち上がる。

 強く、より強くそれは成し遂げられる。Vault-Tecの計画はそのためにあったのだから未来に間違いはない。

 

 不安になる動きと、緩慢な動作で遅々と進む建築現場は、想像以上に小さいシェルターだったが。

 あの若者が見せてくれた設計図の通り。それは完璧な新しいVaultとなるのは間違いがない。ただ問題は、あの協力者たちに熱意が足りないということだろう。

 

――建築完了までの間は、彼らに任せればいい

 

 そう言ってどっかに行ってしまった。

 彼らも地上での生活があったのだろうから、きっとやることがあったのだとは思う。だがすでに計画発動まで長い時間を無駄にしてきてしまったのだ。

 

 ならば少しでも結果を出さないといけないだろう。

 

 

 そう考えたら決断はすぐに下ったも同然だった。

 バーストゥは新たなVault居住者を現在の地上から集める計画を考え。問題点のいくつかについて検討を終えるとすぐに実行に移した。

 

 彼女は自分のターミナルで新たに用意したプログラムを用い。仕事を休むことなく、しかしゆっくりと進めているロボットたちにアクセスし、今の作業を中止してすぐに放送システムの普及するものに変更した。

 協力者たちには無断で進めることになるが――なに、この計画に賛成してくれた彼らである。別に特に問題がないのだから、きっと喜んでくれるだろう。

 

 

 ロビーにバーストゥは立つと、皆が「グールか?」「大丈夫か?」とささやいて不安を見せた。

 やはりこの用紙を見て不安になったか。バーストゥは彼女自身が、普段見せないような笑顔(本人なりの)を見せ。不安にならないようにと語りかける。

 

「皆さん、ようこそVault88へ。私は監督官のバレリア・バーストゥです」

「あんたが、監督官さん?」

「そうですよ。これから皆さんにそれぞれひとりずつ面談を。質問もします」

「俺たちは全員そいつの住人になれるってことか?」

「あせらないで。まずここでは皆での共同生活が待っているということ。それにあなたたちが耐えられるかどうかを、私にこれから判断させてください」

「それはあんたに気にいられなきゃ、帰れって意味か?」

 

 優しく、わかりやすく伝えたはずなのに。

 どうもこの地上人たちの知性は想像以上に期待外れのもののような気がする。しかめっ面をしないよう、声の調子を変えないように気を遣う。

 

「違うわ。何を聞いているの?

 あとでVaultの生活は耐えられない、などと口にしない人は選ばないと言ってるの」

「それなら問題はないと思うぜ。

 地上は、連邦はもう地獄さ。そのVaultとやらで安心して食って、寝られるなら。俺は、俺達はみんな大歓迎だと思うぜ」

「そう。それはよかった」

 

 とにかくここから始めるしかないのだ。

 感情に乱されず、的確に計画を進めるため――新たなVaultで試される実験体を彼らの中から見つけ出さなければならない。

 

「では、さっそく始めましょう。最初のひと、前へ」

「ここが、つまり新しい”あんた”のVaultってわけ?」

 

 視線はおどおどと落ち着きなく左右に動いていたが、若くない女性は疑う様子を見せながら背中を丸めている。

 

「そのとおり。そしてあなたは幸運をつかむ最初の新しい居住者候補、ということになるわね」

(女性だが、妙齢もいいところ。若くないから子供を期待できるのかわからないし、なによりもすでにこちらを疑っているから実験には非協力的でしょうね)

 

 いきなりだが強い失望を感じる。

 だが、まだ終わりじゃない。

 

 彼女のような相手が今の地上の住人たちの兵器であるとするならば、これを制御できなければVaultに必要な人間を増やしていくことが出来なくなってしまう。

 

「質問を言いかしら?」

 

 いくつかの質問にいくつかの答えが返り。

 バーストゥの失望はさらに強く、そしてより困難な状況であることを思い知らされる。

 

「それで、まだ質問があるの?」

「どうかしら――ええ、もういいでしょう。あなたはあまり協力的ではないし、疑り部会問題を持っているけれど。ようこそ、幸運の居住者第1号さん」

 

 そういうと足元に置いてあったトランクから新しいVaultスーツを一枚取り出して、彼女に渡した。

 

「着替えたら奥へ。そこでまた説明をするけれど、それまでは自由に見てもらっていいわ」

 

 やった!の声と共にバーストゥの手からスーツを奪うと女性は足取り軽く奥へと進んだ。

 この監督官への敬意の欠片もないとは――あれを使い物になるように成長させなくてはならないとは頭が痛い。

 

「次は俺だよな。俺だろ?」

「ええ、皆に聞くから心配はいらないわ」

「それじゃ俺だな。さ、何でも聞いてくれ。俺が男で最初の幸運な男だ」

 

 これまた知性の欠片もない奴か。

 どうやらVault居住者として選ばれるという栄誉から理解させなくてはならないらしい。

 

 それでも――。

 少しずつだが喜びもある。

 彼らが入るごとに必要とする人材のレベルを徐々に上げていけばいいだけのことだ。劣って使い物にならなくなった材料は破棄し、次はもっと優れた結果を出すために協力的な実験体を招いていく。

 

 協力者たちが戻ってきたころには少しだけでも実験の成果を彼らにも確認できるようにしておきたい。

 

「そうだな……俺が信頼できる相手であるなら、俺は指示に従ってもいい。これは本当だ」

「そう。わかったわ」

「で、結果は?当然俺も合格だろ?」

 

 消えろ、カス!

 そう口に出したかったが、バーストゥは苦笑いを浮かべると

 

「難しいところだけれど。あなたは素直であることは理解したわ。そうね、今はあなたはここにいてもいいと思うわ。でも、求めている人物ではないから気を付けて」

「ああ、感謝するよ!」

 

 多分、自分が口にした警告の意味は全く理解していないのだろう。

 今回も又、男はバーストゥの手からスーツを奪うと癇に障るヘタクソな鼻歌と共に奥へと進んだ。

 

「ええ、では次」

 

 次回の募集する放送からはランクを上げるが。

 最初の放送で集まってきたこの者たちは全員合格にすることをこの時点でバーストゥは決めていた。腹をくくる必要があることが分かってきた。いまはそれで、十分と考えるべきなのだ。

 

 

――――――――――

 

 

 久しぶりにレオに会えた。話も出来た。だが、まったく喜びはない。

 それどころか今の自分はこのコベナントに履いてはいけないような存在のような気もする。

 

 そんな居心地の悪さを感じていながらも、それでもなお歯を食いしばるようにコベナントから離れないのはパイパーの中の”なにか”が。今はここにいないと大ネタを逃す――そしてなによりも大切な友情にヒビが入るような気がする。

 

 アキラのことは――あの若者についてはまだ整理がつかないでいる。

 彼が見せた残虐性は背筋を凍らせるに十分な吐き気を催す類のものだが。一方では彼はその狂気を誰に向けても発しているというわけでもなく。つまりはそこになんらかの補正を与えてもよいのでは……まぁ、理屈はわかった。

 

 レオのこの考えは正しいと思う。

 だいたい実際に前回も同じ結論に至ったから、自分もコベナントへの誘拐犯について沈黙していたのだ。今回だってそれは出来るはずである――将来的には。

 

 

 しかし大きくない襲撃後の居住地の中で人を避けようとすると、これもまた難しいことがわかる。

 気が付くと言えや納屋の裏側にある細道で所在なさげにしてしまい。慌てて自分は堂々とするべきだと中央へと進み出るも、そうなると誰かの視線が気になりだす。

 

――あたしは大人だよ?小娘みたいなことやってどうする!?

 

 先日の失敗からプライドが傷つけられて思った以上に自分がガタガタになっていることを思い知り、さらに自分に失望してしまいそうだ。

 そんな負の連鎖の中で悩むだけだった彼女を観察する目があった。

 

「あんた、なにやってんだ?」

「ひゃっ!?」

 

 声をかけてきたのは、いつの間にか小汚い白と黒のストライプの入ったスーツ姿でヌカ・コーラを持つディーコンである。

 

「ちょ、ちょっとね。なんてーの、調査かな。うん」

「なるほどね。さすが記者さん、記事には綿密な取材が必要って事かい」

「そーだね。うん、その通り」

「――いいさ、それで。あんたも大変だな、気持ちはわかるぜ」

 

 そういうときれいな水の入ったボトルを差し出してきた。礼を述べながらそれを受け取り、少し飲む。

 とりあえず誰かと話せて、冷静になることができた。助かった、と思った。

 

「ちょっと今ね。悪いサイクルに入ってるみたい。ツキに見放されてるみたい」

「それならちょうどいいかもな」

「え?」

「実は今、面白そうな3人組が出ていったばかりでね。ちょっと興味がないか?」

「3人?誰?」

「マクレディ、ケイト、それにキュリーだったな」

「どこ!?」

 

 パイパーはやはりまだ本調子ではなかったのだろう。

 ここで3人に興味を持つのは良いが。なによりも重要なのは、なぜこのディーコンがそれを彼女に教え。自分も一緒に底についていこうとしているのか、であっただろう。

 

 

 道沿いに北に向かった3人を追ったが、大通りにぶつかるT字路のあたりで見失ってしまった。

 

「これは見失ったな。距離を取りすぎたようだ」

「まだ近くにいるはずだよ。別に遠出するような様子は見えなかったから」

 

 彼らが動いたということは、つまり彼らを動くように指示した奴がいるに違いない――きっと!

 だが結論から言えば彼女のこの考えは間違っている。

 そしてそれはすぐに証明された。かなり近いところから、キュリーらの悲鳴と騒ぎが始まったからだ!

 

 

 夕食の材料探し、あくまでもこの意識でやってきた3人には思いもよらない展開があった。

 一番大きく”封印されたまま”のコンテナへの電源供給を止めると。ゆっくりとふたが開いていく。

 

 最初それが何なのかよくわからなかったが。入り口が大きくなるとゴロリと音を立てて外に転がり出たことでわかった。

 なんてことだ、一匹用の罠に2匹が入っていたのだ。

 

 転がり出てきた方はよく見るデスクローの――しかし少しだけ体格が小さかった――それであったが。自分が解放されたことがまだわかってなかったのか、地面の上でバタバタともがいた後で機敏に立ち上がり、周囲を睨みつける。

 だが問題は後か出てきた方だ。

 

 壁に賭けた腕は大きく、恐ろしい爪もまた大きく、そしていつも以上に鋭い。

 転がり出たのはとは違い、皮膚の表面が赤色かと思えば。位置によっては青にも黄色にも緑色にも見えなくもない。

 人の技術が生み出したアポミネーションの最高峰。元はジャクソンカメレオンの遺伝子を生物兵器化したものだが、この個体は先祖返りでもしたのだろう。

 

――カメレオン・デスクロー

 

 そう呼ばれる個体はまさにデスクローと呼ばれる種の中でも伝説に伝えられるレベルの希少種であり、最大級の危険物でもあった。

 ケイトもマクレディもこの個体についての正確な知識こそなかったが。その大きさ、離れていても感じる凶暴性、さらにそれが仲間を連れて目の前に出現したということで一気に戦闘モードになる。

 

――だけど無理だ。これじゃ、死ぬ

 

 アキラは言っていた。こいつは確か兵器だ、獲物の恐怖を感じるとしつこく殺しに来る。

 一匹ならば自分がひきつければいいだろうが。2匹いて、片方がやっかいそうと最悪な状況にある。

 

「これはっ、これは、想定していませんでした!」

「わかってる、キュリー!目を離しちゃだめだよ、絶対!」

「なぁ、そりゃ名案とは思えないぜ。こりゃ俺達だけじゃ――」

「やるしかないんだよ!」

 

 ジャスティス――ショットガンを片手にし、反対側に背中の改造バットを握る。

 マクレディは大丈夫、自分の戦い方を知っている。問題はキュリーだ、彼女は戦闘は得意じゃない。それにそもそもセンスもあまり感じない。

 アキラはヘタクソでも、暴れだすと手が付けられないが。キュリーにそれと同じことを望むことは出来ない。

 

「集中しな。さすがにあんたを守れるか自信はないからね」

「はい、はいっ。努力します」

 

 いい答えだ、そう返そうとしたとき。ついに態勢を整えてこちらを値踏みしていたデスクロー達が咆哮を上げる。

 

 

 獣の声がした、そう思った瞬間に動いたのはディーコンだった。

 彼は的確に場所を特定すると駆けつけた。タイミングはベストではなかったが、状況の最悪さに苦笑を浮かべながらも2匹のデスクローの分断にかかる。

 

「面白そうなパーティだな、小さい方はまかせてくれ」

「ちょっと!こんなか弱い女にあんなデカくて変なのをやらせるっていうの!?」

 

 言いながらもケイトの顔に余裕が戻ってきている――。

 デスクローらはいざ襲う段階でいきなり相手が増えたことにわずかに戸惑いの色を見せていた。その間にもパイパーも到着し、「なにやってんのよ!?」と抗議の声を上げながらも、彼女も戦闘態勢に入った。

 

 

 ディーコンはレールロードでもトップクラスの戦闘経験を積むエージェントである。

 組織はしばしばエージェントに困難な任務を与えるが、彼はそれを表情を変えずにやってのける男なのだ。

 体格が小さいとはいえデスクローは一匹ならばこの広い世界を使って対処する方法がある。残るはカメレオン・デスクローだが。こればかりはケイト達で何とかするしかない。

 

「ひょっとしてこれ、ヤバい奴なんじゃない?」

「なによ、見ればそんなの分からないのパイパー?それじゃどっちがヤバい女か、勝負だね」

「は?頭おかしいんじゃないの。だいたいこいつ、メスなの!?」

 

 パイパーのツッコミはこんな時でも的確で、どうやら調子はだいぶ良くなってきているようだ。

 腹は決まった!ケイトはショットガンを背中に回すと、バットを両手で強く握りしめた。

 

 

 なんて女だ、マクレディは内心では秘かに舌を巻いていた。

 ケイトの事だ。粗暴な女、レオやアキラに拾われなければどこかでレイダーのボスかなにかをやってたような奴。

 傭兵、殺し屋としてプロを自任する彼はこれまで彼女の評価は決して高いものではなかった。ガンナーズのような傭兵の皮をかぶったレイダーのようなやつらのなかでは、彼女のような女はゴロゴロしている。そいつらは欲深で傲慢、そしてうぬぼれて居て男と等しく誰も救いようのないバカ――。

 

 そんな女にレオやアキラは妙に肩入れして、顔だちも美人だし。「助けてやるか」みたいな考えで傭兵扱いしていると、割と本気でそう考えていた。傭兵としての考え方や振る舞いも、新人ってことで少しばかり仕込んでやらなきゃと、面倒くさいものとしてとらえていた。

 

 だが、どうやらまたしても自分は見るべきものをこれまでちゃんと見ていなかったらしい。

 

 

 巨大な殺意の塊の前に立ちふさがって接近戦を見事に演じてみせていた。「彼女には才能がある」だったか、レオがそう言ったと聞いて内心では「どんな才能だよ」と笑っていたが。これがそうなのだろうか。

 正直、デスクローを相手に接近戦をやろうとするのは最近、剣を使うようになったちょっとどころじゃなくおかしいアキラくらいだと思っていたのだが――。

 

 空間を切り裂こうとするように、左右に振りぬかれる鋭い爪は何度も空を切り。2回ほど珍妙なバットに触れるも破壊することは出来ず。

 ケイトは強気を見せたまま、逆に噴射音を何度か響かせて気色悪いトカゲのような皮膚とその下の分厚い筋肉を打つ。

 

「パイパー、お前らは背後に回って攻撃しろ!味方にあてるんじゃねーぞ、良く狙え。ケイト!いい調子だ、カッコよすぎるぜお前!」

「ハハッ、まだまだこれからだって。見てなさいよ!」

 

 ケイトの声にはまだまだ余裕を感じられる。

 だがマクレディ自身は少し焦りを感じ始めていた。

 

――パワーが足りねぇよ

 

 彼が使うライフルは基本的に308口径弾を使用している。ラッド・スタッグやバラモンのような獣はもちろん、人、ロボットを相手にしても十分に効果があると感じて信用して使っている。

 しかしこのデスクローを相手にすると、頼もしいはずの一発の効果が軽いものに感じられた。全弾命中しているにもかかわらず、皮膚に着弾したそれは分厚い筋肉にめり込んでもそれを破壊して引き裂くまできっと至っていないのだ。

 

(俺も腕の見せ所ってか)

 

 こうなったら仕方がない。

 動きに予想のつかない獣を相手に、急所である目を狙っていくしか――。

 

 

 戦闘開始から15分を経過……状況に大きな変化は生まれていなかった。

 ディーコンは余裕を見せながらも小さい方をレーザー銃だけで引きずり回し。”伝説の”カメレオン・デスクローは残りの全員で対処している。

 だがようやく均衡が崩れる。

 

 マクレディの一発がようやく片目を潰すと、その動きはようやく鈍さと疲れが見え始め。そこに裂ぱくの気合と噴射音と共にうなりを上げるケイトのバットが、カメレオン・デスクローの右ひざに叩き込まれ――武器と一緒にその太い膝を水の詰まった袋のように粉々に粉砕して見せたのだ。

 

 立っていることもままならず、崩れ落ちたデスクローは這いつくばると初めてゼーゼーと苦しそうな表情を見せる。

 一方、ケイトは信じられないという表情で相手の膝と共に破壊されてしまったバットの残骸を見て――なぜか次に激怒した。

 

「こっ、壊れちまっただろうが!?どうしてくれるっ」

「ちょ、ちょっとケイト!?」「なにやってんだ、お前!?」

 

 パイパーもマクレディも焦っていた。

 ようやくここからは距離をとって息の根が止まるまで攻撃すればいいだけだと、そう思っていたのに。ケイトは背中に残っていたコンバットショットガンのことなどすっかり頭にないらしく。両腕のこぶしを強く握りしめると、過去に屈強な男たちをぶちのめし。時には殴り殺しもしたそれを自分の体の何倍も大きなデスクローの顔にもめり込ませた……。

 

 

――――――――――

 

 

 ああ、あったぞ。

 私は牢を出て、アキラの工房に。棚に揃っておかれていたボードゲームのいくつかを手にすると再び牢へ戻る。

 

「本当に持ってきたんですか?」

「ああ、そうさ。やるって答えただろ?」

「そうですが――ここでボードゲーム?牢の中で?」

「なかなか経験出来る事じゃないからね」

 

 お互いまだ顔色がよくないが、雰囲気はだいぶ良くなってきていた。

 

「何を持ってきたんですか?」

「キャッチ・ザ・コミ―とアンストッパブルだな」

「僕はどっちでもいいですけど――」

「ならキャッチ・ザ・コミ―だ」

「……アンストッパブルじゃないんですか?一応聞いておきますけど」

 

 私はにやりと笑う。

 

「私がシュラウドをやっていいならね。でも、君も諦めるつもりはないだろう?」

「まぁ、そうですね」

「ひとつ言っておくが、シュラウドは大柄の男って設定があるんだ。悪いけど君、そういう意味でシルバー・シュラウドらしくないと思うんだよね」

「――それは聞き捨てなりませんね。だいたいそれはラジオの脚本家が”暗がりで相手からはそう見えた”ってやっただけですから、本当に背が高かったかどうかは不明ともいえるでしょ」

「せめて私くらいの身長があればね、アキラ」

「納得はしませんよ。でも、そうですね。

 僕が人造人間になろうって血迷ったときは、レオさんぐらいの大柄の男をホストに選びますよ」

「ほら、もめた。ゲームをしたいだけなんだから。今回はキャッチ・ザ・コミ―だ」

「了解しましたよ、ショウグン」

 

 考えることが、未来に備えることがお互いにあまりに多すぎる。

 不安はある。負けるかもしれない、間に合わないかもしれない。なにより戦えないかもしれない、と。

 

「それじゃさっそく、ルーレットを――おやおや、6だ」

「いきなりですね。それじゃ次は僕が……」

「1だね」

「なんで――」

「そして”1回休み”だって。悪いね、若者よ。先頭は私が行くよ」

「ええ、老人ですからね。別にいいですよ、すぐに追い抜きますから」

 

 ここで1回休み。

 今はそれでいいのだと思う。

 

 私はそれを学んできた――次の戦争の前に、次の次の戦争の前に。私達の、僕たちの戦争はまだ続くのだから。

 


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