ギルドに着いた三人、早速エイナに会うために受け付けに向かう。
不思議なことにロビーには人がそこそこいるのに、相談受け付けは人がほとんどいない。
おかげでエイナとはすぐに話が出来た。話のはじめに聞いてみた。
「今日、いやここ数日は王国絡みのミッション終了を受けて、各ファミリアの報告で大忙しよ。
それであなたたちの用件は何かしら?」
「ロキファミリアの団長にお会いしたいんです。先日のお礼もしたいですし…」とベル。
「今ギルドに来てるわ、都合を聞いてくるからちょっと待ってて。」
フィンがいる応接室はすぐに分かったが、中の状態が解らないためドア前で躊躇していた。
すると中からリヴェリアが出てきた。「エイナではないか、どうした?」
「ディムナ氏に少しお話が有るんですが。」
「今ならいいぞ、部屋の中にいる。フィンこの娘の話を少し聞いてやってくれ。」と言ってリヴェリアは出て行った。
「失礼します。私の担当のベルクラネルがただ今ギルドに来ていまして、
お会いしたいとのことです。如何致しましょうか?」
フィンは親指を見つめてつぶやいた。「こちらの方だったか。」「何か?」
「いや独り言だ。ギルドに報告は終わっていて、裁定待ちだ。ちょうど時間は空いている、連れてきてくれ。」
エイナは一礼しベルたちを呼びに行った。ノックの後ベルたちは入ってきた。
部屋にはフィンとリヴェリアが居た。
ベルはフィンの前まで来ると「主神を助けていただきありがとうございます。」と言い深々と一礼した。
ヴェルフ達二人もそれに倣言一礼した。
「その件はミッションの一環で行った事だ、気にしなくても良い。話はそれだけかな?」
「いいえちょっとお尋ねしたいことが」
フィンが苦笑して言った。「まんざら知らない間柄ではないし、公式の場でもないよ。ざっくばらんに話をしよう。」
ヴェルフが言った。「それじゃ遠慮なく、単刀直入に聞くぞ、パルゥムに合った武器は何だ?」フィンは首を傾げた。
「それでは話が通じませんよ。順を追って説明しないと、恥ずかしながらリリは冒険者として伸び悩んでいます。
そこで武器を変えて見てはどうかと言うことになりました。」ヴェルフが引き継ぐ。
「本来ならすべての武器を試すんだが時間が足りねえ、そこで『エルフなら弓』みたいなものは無いか。やっぱり槍か?」
「そう言う事か、その答えは『知らない』だヒューマンと同じで特に偏った適正は無いように思う。
僕の槍はガレス、リヴェリアとのパーティで消去法で中衛になり選んだだけだからね。」剣も使えると言い添える。
「僕はこの前ギルドから、レベルUPの過程を聞かれました。なんでもそれを参考にして冒険者の底上げをしたいらしいです。
前にパルゥムの復興を目指していると聞きました。なら効率的な成長方法を知っているんじゃないですか?
それをぜひ教えてください。」とベル。
「僕は一族に旗印として『勇気』を掲げてこれまで活動してきた。個々に対してではなく一族全体を対象にね。
だからパルゥム個人に関する事柄は関心がなかった。だから秘術的なものは知らないな。」
「そうですか……、だったら『勇気』を掲げるフィンさんのこれまでの活動内容を聞かせてもらえないでしょうか?」
「最近の活動は機密扱いのものがほとんどなんだが。」
「最近の者でなくて結構です。むしろレベル1の頃の方が参考になるかと。」
ならいいかとフィンは語りだした。横でリヴェリアが懐かしそうに時折合いの手を入れ話していた。
当初本物の英雄譚が聞けるとワクワクしていた(特にベル)が話が進むにつれて微妙な雰囲気に。
要約すると、危機が訪れる、フィンさんが事前に察知、策をめぐらせ勝利となる。
あらかじめ危機を察知するフィンさんの能力に完全依存の上に、『勇気』とは違うと感じさせるものだったからだ。
三人は顔を見合わせ、代表してベルが言った。「話の腰を折るようですみませんが『勇気』とは違う気が…」
「そうです『勇気』と言えば強い相手に正面型立ち向かう、そうベル様のあのミノタウロス戦の様な。」
リヴェリアが言った。「あの戦いは見事だったが、あの真似は非常に危険だ。現に複数のパーティが奴に全滅させられている。」
黒のゴライアス戦を思い浮かべながらヴェルフが言った。
「だが『勇気』と聞いて思い浮かべるのはそっちだ、パルゥムは違うのか?」
「りりはパルゥムのコミュニティ育ちでは無いので、確かなこと判りませんがたぶん違うと思います。」
ベルが言った。「ハッキリと言えませんがそのまま『勇気』を掲げるのは危険な気がする。そのままだと死人がたくさん出る様な。」
リヴェリアが考え込みながら言った。「つまりこう言う事か。『勇気』に賛同した者たちは少数だけしか生き残れない。
大半が死に、あるいは心を折られるか。このままではどんど人口が減ってしまうな。フィンも嫁さがしに苦労している。」
リリが叫んだ。「じゃあパルゥムが衰退したのって、『勇気』を掲げたから?」
「そんな感じだね。何か欠けているような気がします。」ベルが言った。
リヴェリアが言った。「パルゥムが言っていた『勇気』とは一般的な物とは違う、あるいは付帯条件が付くのかもしれんな。
フィアナ騎士団が全滅したときにそのあたりが失われてしまったのかもしれん。」
「極端だが『逃げるのも勇気』とかか?」とヴェルフ。「さすがにそこまでは…」とベル。
「いや逃げる勇気は大事だ、特に対人では。モンスターは駆け引きしないが人はするからな。」とリヴェリア。
「パーティで逃げる時、『逃げるのも勇気』て叫ぶと人相手だと逆効果なのかな。」とベル。
「そうですね、逃げると判るには不味いです。ですが『勇気』とだけ叫べば敵は混乱してうまくいくかも。」とリリ。
「その後酒場で『今日は勇気で上手くいった。』とか言って盛り上がるのか。」とヴェルフが混ぜっ返す。
「元アポロンファミリアのルアンを考えると、大いにありそうで不愉快です。」と見栄っ張りなルアンを思い浮かべてげんなりするリリ。
話を元に戻そうとベルは言った。「フィンさんの偉業は、危機を察知することが肝のようです。リリは事前に危機が解るの?」
「そんな力は持ってません。持ってたらミノタウロスにも会わなかったし、あの中層の決死行も避けられたはずです。」
固まって動かないフィンを見ながらベルは言った。
「そうだよね。フィンさんに聞けば上手くいくと思ったんですが、思い道理には行かない物ですね。
今日はどうもありがとうございました。それでは僕たちはこれで。」ベル達は退室した。
フィンとリヴェリアはしばらく固まったままだった。