「ん、おーい。おーい。」
ベルが気が付いて駆け寄っていく。
「確かベルと言ったか。久しぶりなのかな?」
「それが…」ベルは涙をこらえて事情を話した。
彼はそれを静かに聞いていた。
「ごめんなさい。謝ってすむ話では無いかもしれないけれど、ごめんなさい。」
「いや、あやまらなければならんのはこっちの方だ。
ベルと話していた時に気づいたが、どうやらこうしていられる時間は実はもうほとんど無いんだろう。
訳が判らない時間が増えて来ていた。おそらく後一回か二回で終わりだったろう。
ベルの話だとするとあの穴倉の連中と同じになったんだろう、それはもはや別の物だ。
だから別れる時、もう会うことは無いと思ったからああ言ったんだ。」
「でも…」ベルは苦渋を滲ませて言った。
「それに攻撃して迷惑をかけたのはこっちだ、それに長年の望みもようやく叶った。」
「あなたの望みとは?」
「言ったはずだが、ずっと一人だったと。だから望みは誰かと語り合うことだ。
今が正にそれだ。最後に望みが叶うとは運が良い、ベル、本当に感謝する。」
それだけ言うと静かに目を閉じた。やがて体は灰となって消えた。
ベルはそれを悲しげに見ていた。泣くのは違うと思ったから。
どのぐらいそうしていたのか分からなかったが、その内にリューが目覚めた。
「こ、ここは?」
「あ、気が付きましたか。ポーションです、飲めますか?」慌てて近づき体を起こしていった。
ベルはリューがポーションを飲み終えるのを確認した後、優しく地面に横たえる。
リューの状態が安定するのを見守った。
やがて状態が安定したのかリューがベルに言った、やや顔を赤らめながら。
「治療してくれてありがとう。で、これからの事なんだが、まず私の服装を整えてくれないか?
今の私は腕が動かせない、さすがにこのままでは少々恥ずかしい。」
鳩尾に布を巻いた所で話しかけられたから、リューの服ははだけたままだった。
慌てて直そうとするがしっかり見れないので時間がかかってしまった。
気まずい雰囲気の中、強引に話題を変えるべくリューが言った。
「この腕ではノアヒールが使えない。早く村へ帰るのが良いだろう。
私が下りてきたロープが有る。まずは外に運んでくれないか?」
リューさんが持ってきた片手剣を装備して、優しくリューさんを盾の中に。
ロープを伝い外に出ると、すでに日は傾いている。
「どうしますか?村へ着く前に夜になってしまいますよ。」
「…仕方ない、あのエルフの家に行こう。」
途中傷薬になる草や食べ物を採取しながら向かう。
比較的マシなベットを借り、シーツやカーテンなどの残骸から新しい包帯を作った。
家は壊れているのでベルはベットの傍らで寝ずの番をした。ただリューが漏らした一言が気になった。
「よく見ると暮らしは森のエルフらしく有りませんね。彼らも町から流れてきたんでしょうか?」
次の日の早朝出発し昼前に村にたどり着く。
すぐさまエイナ達にベットに追いやられた。
寝不足の酷い顔をしていたんだろう。
決して包帯を替える時に何度も見たリューさんの裸で眠れずギラギラしていたとは思われてはいないはずだ。
夕方、ようやく起きだして顔を洗いに外へ出る。
入り口のドア前でばったりとレフィーヤさんに会う。
レフィーヤさんは服はボロボロ、相当くたびれているようだ。
だがランランと光るまなざしと西日に発光するあの杖がプレッシャーを与えてくる。
その権幕にベルはドアの前まで後退、すかさずレフィーヤは鼻が触れるほど近づき目線を合わせてくる。
いわゆるガンを付けるというやつだ。ジト目のレフィーヤが正に何か言おうとした時、勢いよくドアが開く。
「おーいベル、起きたんなら話がある。早めに戻ってこーい。」アイシャだ。
言い終わってから気が付く。もつれあう二人を見て、無言でドアを閉める。
その日はいつもより激しく少し長かった。遂にあの杖が壊れるほどに。