オラリオを発って2か月が過ぎた。ここのところは連日雨だ。
かろうじて薬草採取は間に合い、村長からは大変感謝された。
ただ今年は雨が多いらしい、村の傍の川の水位がかなり上昇している。
ただ長く続いた雨だがようやく小降りになってきたようだ。
雨が上がった後のクエストについて村長と話を始める。
その時村人が駆け込んできた。
「村長、川が、川が…」
「落ち着け、川がどうしたんだ。」
「川の水位が急に下がったんだ。10年前と同じだ。すぐに逃げないと。」
「なにーー」と言って村長は川へ走り出した。
皆慌てて付いて行く。川べりで何人かが集まっている。
「如何したんだい。」とアイシャが聞いた。
「川の水位が下がっている。」村長が難しい顔で言った。
川には濁った水がちょろちょろと流れている。
「その様だね、それがどうかしたのかい?」
「洪水が来るかもしれない。それで10年前は大きな被害が出たんだよ。」
「何故そんな事に?」ベルが聞いた。
「判らない、上流になんか在ったんだろうと思う。ただ10年前はこの後一気に増水して村を飲み込んだんだ。」
ベル達は話し合いを始めた。
「今の話どう思う?」とアイシャ。皆首を横に振った。
「上流を調べるしかない。この中で一番早い私が行こう。皆は村長を手伝ってくれ。」とリュー。
ベル達は慌ただしく動き始める。
やがてリューが帰ってくる。村長を交えて話し合いを行う。
「状況は大体分かった。上流で土砂崩れが有って川をふさいでいる。
それでそこに水が溜まり出している。不安定なダムだ、このままではいずれ崩れるだろう。」とリュー。
「そうですか。では避難を急がせましょう。」と村長。
「ここら辺の地図は有るかい。」とアイシャ。
「有りますが如何するんですか?」
「ちょっと気になる事が有ってね。」
「では持って来ます。」と言って出て行った。
村長が地図を持ってきた。
「皆には避難を指示しておきました。これをどうぞ。」
「土砂崩れはどのあたりだい。」
「川の様子からこのあたりだろう。」とリューが指差した。
それを見たアイシャは考え込んだ。
「あの黒い谷はこのあたりじゃないかい。」
「はいおそらくは。」と村長。リューは怪訝な表情だ。
「なら壁を壊して水をあの谷へ導き時間を稼ぐ。」
「あの壁ですか。かなり固いですよ。」
「こっちの火力は十分だ。」レフィーヤを見ながらアイシャが言った。
黒い谷の壁にたどり着く。ベルはエイナには来てほしくなかったが、押し切られた。
念のためククリにエイナの事をお願いしておく。
アイシャは壁を調べている。その内、ほぼ垂直な壁を器用によじ登って反対側も調べてから言った。
「思った通りあの壁の向こうに水が溜まってるね。壁を半分ぐらい壊せば水がこっちに流れ込んで一息つける筈さ。
その間にたまってる土砂を片付けようか。」
{来たれ蛮勇の覇者……ヘル・カイオス}爆炎が壁を包む。だが壁はほぼ無傷だ。
「さすがクロッソに耐えただけの事は有るね、次。」アイシャはレフィーヤを見ながら苦々しげに言った。
{一条の聖木……アルクス・レイ}再び爆炎が壁を包む。だが変わらず壁はほぼ無傷だ。
「こうなったら2人で力を合わせる。タイミングは任せろ。」とアイシャが言った。
{アルクス・レイ}{ヘル・カイオス}派手な爆炎が上がったが状態は変わらない。
「なんて硬さだいこの壁は。」悔しそうにアイシャが言った。
「クラネルさんあの力を。」とリューが思いつめた表情で言った。
「…分かりました。リューさん後はよろしくお願いします。」とベルは不壊属性の剣を構えて言った。
英雄を思い浮かべスキル英雄願望を発動させる。剣に白い光が集まり、どこからかリンリンと音がする。
アイシャとレフィーヤはその音と光にハッとする。エイナは初めて見る光景に唖然としている。
どんどん白い光が集まって来る、そしてベルが言った。
「溜まりました、いきます。」遠くの山を目印に剣を振り下ろす。
質量を感じさせるほどの光を伴って剣戟が放たれる。今度は壁の3分の2ほどが切り裂かれている。
その威力はそれに留まらず、溜まっていた水を蒸発させ遠くの山を削っていった。
ベルの言葉にアイシャとレフィーヤはこのスキルの本質を悟った。
そしてベルは膝から崩れ落ちてその場に倒れた。あわててリューが介抱する。
それを見たアイシャはレフィーヤに行った。
「あっちは任せようかね。今のうちにこっちは土砂の方を何とかしようか。」