戦闘が終わった気配を感じてアイシャは、近づきながら声をかける。
だが返事が無い。あわてて駆け寄るとベルは十数匹のアルミラージの死体の中で佇んでいた。
「無事でよかったよ、どうしたんだい?」少し明るく大きな声でアイシャは言った。
片手剣ではなくナイフを握りしめてベルは何も言わない。
声を聞きつけて村長の妻たちが駆け寄り、アルミラージの死体たちを見て怯えて言った。
「きょうはこの位にして帰りましょうか。」
アイシャはベルの傍に散らかっていた物を回収して言った。
「だそうだ。一緒に帰ろうか。」ベルは黙ってアイシャ達の後に続いた。
村へ帰るなりベルは、リューに神様への拝謁を希望した。
希望は直ぐ叶い、ベルはククリの事を話した。
神様は手にとっていろいろ調べていたが、やがて考えが纏まったのか告げた。
「大丈夫だよ、人で言えばマインドダウンとおんなじじゃ。一晩寝れば元通りになる。」
ベルはほっとして言った。「ありがとうございます。」
「ワタシは何もしてないよ。それにあれも喜んでるみたいだね。」
ベルは判らないと言う様に首を傾げた。
「お前さんの役に立ったのが嬉しいらしい。
あれからどんな事が有ったんじゃ、詳しく聞かせておくれ。リューや。」
「分かっております。」と言って部屋を出て行った。
ベルは請われるまま語った。ただし黒い谷の事は話さなかった。何故だかベルにもわからない。
エルフであるリューに配慮したのかもしれない。
神は興味深そうに聞いていた。ただベルは話すことで、問題が少し整理できることになった。
「お前の話は面白いな。時間が有ったらまた話を聞かせておくれ。」
今日レフィーヤさんが町へ行って何か棒状の物を買ってきた。
対ベル君用の物らしいんだけど、これで関係が改善されれば良いんだけどね。
次の朝、神様の言う通りククリは復活していた。話を聞くと形態変更は出来るが元に戻るには時間がかかるらしい。
今日は薬草が見つかってほしいが、昨日あんな事が有ったから気を引き締めて行かないと。
昨日の事もあって別の場所を慎重に探索。午前中、アイシャを先頭ベルが殿で周りを警戒しながら探す。
「アイシャさん如何しますか。昨日の半分ぐらいしか調べられていませんが。」
アイシャは少し考えてから言った。「安全第一だ。少し開けたところを探してそこを調べようか。」
午後は打ち合わせ通り開けた場所を探しながら行く。
効率は上がったが薬草は見つからない。しばらく探した後、立ち止まってアイシャが辺りを見回してから言った。
「あっちの方が開けているみたいだね。今度はそこへ行こうか。」
方向を変え慎重に歩き出す。すると突然ベルが鋭く言った。
「アイシャさん、何かいるみたいです。そこの草むらで音が聞こえました。僕が見てきます。」
「わかった、ここらで待機する。」ベルは腰をかがめて草むらに慎重に入っていく。
アイシャ達が固唾をのんで見守っていると、突然ベルがすごい勢いで駆けてくる。
途中不自然な場所であたりを見回し、黒い谷の方へ逃げて行く。
その直後、何かが後を追いかける。しばらくして黒い谷の方で甲高い音が聞こえてきた。
呆気に捕られていたアイシャ達だが、不自然なベルの行動に疑問を感じ、その辺りを調べることに。
程なくして薬草が見つかる。村長の妻が言った。「あの子は持ってるね。」
この間にいつまでたっても戻ってこないレフィーヤを心配してエイナが合流した。
「アイシャさん、レフィーヤさんを知りませんか?」
「ああ、後で回収に行こうか。」エイナは訳が解らず首を傾げた。