アナザー11   作:諸々

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ククリ10

……黒の巨人に出番はなかった。

……この後、無理やり引き離されて眠りにつく。

……ようやく戻ってみれば、彼は飛躍を遂げていた。

……あの神(ひと)の代わりにボクが助けるはずなのに。

 

 

翌朝、村長の妻と同年齢らしい女性5人と山へ薬草を取りに行く。

先ずは村のそばを流れる川岸を、上流に向かって1時間ほど歩く。

前方に切り立った崖が見えた。川はそこでカーブをしているらしく上流は見えない。

その少し手前から山に入って行く。すると奇妙な景色が広がっていた。

幅数百Mにわたって谷の様に酷く抉れている。谷底は黒く、植物は全く生えていない。

上空から見ると緑のキャンパスに墨で直線を描いたように見えるだろう。

ただ片方、川の方は数十Mの高さの崖の所で止まっている。女性たちは特に気にせず谷を抜けて林に入る。

少し進むと木が疎らに生えている場所に着いた。村長の妻が言った。

「ここら辺で探します。護衛をお願いします。」

アイシャが聞いた。「そういえばどんなモンスターが出るんだい。」

「一角兎と追いつめられると火を吐く犬です。」

「アルミラージとヘルハウンドか、外だから6階層位の強さかね。」

ベルは、アルルとヘルガを思い浮かべて鬱な気分になった。

喋れない彼らはベルに良くじゃれついてきていた。

それを見てアイシャが言った。

「そいつらなら来るのは草原の方だ。あたしがそっちに就くよ。」

ベルはアイシャに礼を言い、木の生えている急な斜面の方に行った。

 

レフィーヤとエイナは距離を置いて追跡していた。

黒い谷には二人とも驚いた、ただレフィーヤは魔力的な何か感じていた。

エイナ達はベルの様子を崖の上から窺う。

以前エイナに漏らした通り、ベルは視線に敏感でなかなかうまく調べられない。

レフィーヤは次第に焦れてきた。ベルが他所を向いたとき思わず身を乗り出してしまう。

ここでまた杖が淡く光る、ただレフィーヤもエイナもなぜか気づかない。

レフィーヤが身を乗り出したとき、杖がエイナに引っ掛かり突き落すことに。

エイナは悲鳴を上げてベルに向かって落ちていく。

悲鳴を聞きベルはエイナを抱き留める。勢いを殺すために半回転。

抱き留めたお蔭でエイナは無傷だ。暫しエイナとベルは見詰め合う。

お互いに顔を赤らめる。「ありがとうベル君。」とエイナ。

 

一方レフィーヤは、エイナを止めようとしたが一緒に落ちてしまう。

ただ止める人もいないのでベルより下数Mの所で、ひっくり返って止まった。

スカートはまくれ上がり下着は丸見えだ。

エイナに気を取られていたベルがそれに気が付いた時レフィーヤが目覚める。

初めはぼんやりしている様だったが、エイナと抱き合っているベルを見てハッとし、

顔を赤らめている事で自分の状況を認識する。

あわてて立ち上がり身だしなみを整えて、怒りの形相で近づいてくる。

ベルは顔を赤から青に変えて逃げ出す。黒い谷で追いかけっこが始まる。

 

薬草捜索メンバーは、エイナの元に集まってきた。

皆はエイナから事情を聴いて脱力する。

その時そばで薬草を発見し、ベル達そっちのけで地下茎を掘り始める。

ずいぶん時間が経ってベルが息も絶え絶えなレフィーヤを背負って戻ってきた。

このタイミングで休憩することにして黒い谷へ向かう。ただしエイナ達は別だ。

村長に妻達は黒い地面を削って袋に詰めていく。

話を聞けばここの土はモンスターが嫌うと言う事。

少量であれば襲ってくるが、大量になると寄ってこなくなるらしい。

 

アイシャが言った。「それにしても不思議な土地だね。何か曰くが有るのかい?」

村長の妻が言った。「エルフではないあなたたちなら話しても良いかもしれないね。

ここはラキアとエルフの対立の始まりの場所、いわば呪われた土地なんです。」

ベルが聞いた。「ラキアは何故エルフと敵対したんですか?住む森を焼き払ったと聞いてますが。」

アイシャが言った。「征服の一環じゃないか?あの当時あちこち侵略していたじゃないか。」

「でもそれなら焼き払う意味が解らないんだ。森を焼いたら使えないし、

そもそもエルフの森が必要なのかな?ヒューマンには不便なところだと思うし。」

「そう言われればそうだね。ラキアの住人だったあんた達なら何か知らないかい?」

村長の妻が言った。「お連れの中にエルフの方達がいらっしゃる。お話しするわけには…」

「あいつ等とは仕事上の関係で仲間じゃないさ。それにこれのパーティにもエルフはいないぞ。」

アイシャがベルを指差して言った。ベルも苦笑して頷く。

「であればお話ししましょう、ラキア側に伝わるこの地の話を。

先ず初めにラキアは、その少年の言う通りにここに来た当時、エルフに敵対する気は有りませんでした。

理由もその通りで意味が有りません。それと魔剣と同じ力を持つ魔法を操るエルフが怖かったのかもしれません。

「それにしてもよく判ったね。」とアイシャ。

「僕の育った村は、こことおんなじ田舎ですが、ラキア王国の事は聞いていませんでした。

おそらく攻めて来なかったからだと思います。それなのにここには攻めてきたのが不思議なんです。」とベル。

「ラキアの兵がここへ来たのは、ある王国を征服する為の遠征で野営する為でした。」

「街道から離れたこんなところで?魔剣の力でゴリ押ししていたんじゃないのかい。」

「魔剣には限りが有ります、それに征服される国も対策をし始めましたから、奇襲をかける予定だったと聞いてます。

そのためこんな田舎を経由する事にしたそうです。

ただこのあたりはエルフの支配する地域でした、使者を立ててエルフの領域を聞き、その外の森で野営をしたそうです。

だがここのエルフは何が気に入らなかったのか、夜襲をかけラキアの兵に大打撃を与えました。

その報復としてラキアはここを徹底的に破壊しました。そう、この谷は魔剣攻撃の跡なんです。

この事が有ってからラキアはエルフに非寛容になり、周囲のエルフに絶対服従を要求し始めました。

それに反発したエルフと全面戦争へ、そして多くの命が失われることになりました。」

「よく判ったよ。しかしエルフ、孤高と言ってもやり過ぎだろう。」と怒るアイシャ。

「みなさんはエルフの方達をどう思っているんですか?あんまりよく思っていないようですが。」とベル。

「私たち夫婦はそれほどではありませんが、怖がっている人は多いです。

突然攻撃してきた事もそうですが、巨大な王国を解体した時に、後始末をして行かなかった事が大きいですね。」

「後始末ですか?魔剣が壊れてから、ほかの神のファルナを受けて攻撃したことは知っていますが。」とベル。

「本当によくご存じだ。その前に我々がその昔、ほかの国の住人だった事は夫が話したと思います。

その変更に当たって当然ながらそれまでの国自体は無くなりました。我々農民が一番変わったのは兵役が無くなったことです。

魔剣のおかげで兵士の損失は殆ど無く、少数で事足りたため我々には要求されなかった為です。

その状態でエルフの方達はラキアを追放した。それは我々を守ってくれる兵士を取り上げることも意味したんです。

その為、盗賊団の格好の獲物になってしまいました。それで我々は故郷を捨てていわば呪われたここに来たんです。

ラキアの兵士に復讐するのはある意味仕方がないのかの知れません。ですが我々には関係ありません。

何の手当てもせず放り出されて、被害を受けた人がこの村には多くいるんです。」

2人は押し黙ってしまった。

重くなった雰囲気を変える様に村長の妻が明るく言った。

「それにしてもうまく薬草が見つかりましたね。いつもは村人総出で3日で一株見つかれば良い方なんですが。」

「そんなに見つからない物なんですか。」ステータスの幸運を思い浮かべてベルが聞いた。

「今回は頼もしい護衛が居るので、今まで行っていない場所を探してるからかも知れないけどね。」笑いながら答えた。


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