ミアハの所から帰ってきたリリは、みんなを集めてこれからの事を会議にかけた。
「これで厄介者(ゼノス)の件も何とかなりました。後はあちらで何とかしてもらいましょう。
問題はこちらの方です。ベル様がおられない間の事を決めないと。」
「武術の鍛練をするのでしょう。明日、バイト前にタケミカヅチ様をお呼びしているのですが。」と命。
「小型の武器は試作してみた。幾つかは試すことは出来るはずだぜ。ただ大型武器は金が足りねえ。」とヴェルフ。
「ギルド長の話は知っていますね?ベル様へのミッション解除についてはギルドが握っています。
神ヘルメスの話では2~3か月で帰ってくる予定ですが、ギルドが了承しない限り追加のミッションもあり得ます。」
「そんなー」と春姫。
「ギルド長の言う通り、このファミリアはギルドへの貢献が殆どありません。」ヘスティアを睨みながら続ける。
「ギルドの反感を買うことは厳禁、むしろ積極的に貢献する必要が有ります。明日ギルドへ行って聞いてこなくては。」
「そう言う事なら、バベル店舗はまだ閉鎖の筈だからボクも行くよ。」とヘスティア。
「後の方たちは留守番です。それとギルドへの税金の件を考えておいてください、稼ぎ頭のベル様はいませんから。」
団員の浪費癖に、ちゃっかりと釘を刺すことも忘れないリリであった。
約束通り翌朝早くに、タケミカヅチがホームへ来た。もちろん武術を教えるためだ。
「お前たちが知りたいのは武器についてだったな。まずは簡単な理論からだ、命、武器の威力は何で決まる?」
「はい威力は武器の重さ、それとスピードです。」と命。
「おしい、あと一つある。それは打点の小ささだ。一点に集中した方がその点での破壊力は大きくなる。
つまり重い武器を素早く動かし相手の弱点を狙えばいい訳だ。ここまでは良いか?」みんな頷く。
「重い武器を使うには『力』が、素早く動かすには『敏捷』が、ピンポイントで狙うには『器用』が重要になる。
武器はこの3点を如何するかで性質が決まる。分かりやすい例は鎚だ、これは『力』特化と言える。
つまり各々のステータスを見れば、おおよそ武器の方向性が見えてくる。」
「次に考えることは自分のポジションだ。冒険者としては基本パーティで行動する、その為自分のポジションは重量な要素だ。
その時考えなければならないのは武器の攻撃範囲だ。前衛は近接、中衛は中距離、後衛は遠距離が最も重要になる。
基本的には距離が長い方が高いステータスが必要になる。ただし攻撃を受けにくい利点はあるが。
ただし前衛だから近接武器だけで良いかと言うとそれも違う。接敵する前に攻撃できるのは有利だからだ。
逆に後衛の場合は、後ろからあるいは壁から奇襲される場合もあるから対策は必要だ。
これ等の事を考慮して武器を決めるんだが、ステータスは向上させることが可能だし、ポジションも不変と言う事はない。
だから最後は個々人の感性で決めるしかないだろう。状況が合ってもフィーリングが合わない武器では良くない。」
あらかじめ聞いている命以外がその言葉に深く肯く。今まで作る側だったヴェルフはとりわけ深く感銘を受けたようだった。
「時間も無い、では実践だ。先ずは基本となる短刀を。」リリが短刀を手にタケミカヅチに向かう。
「短刀は、携帯性に優れサブの武器としても優れている。またツールとしても使いやすい。覚えておいて損は無いはずだ。
先ずは君の実力を測る、かかって来なさい。」ほどほどの殺気を放ってタケミカヅチが言った。
リリは、短刀を両手で握りしめタケミカヅチと正対する。
隙を窺って胴体めがけて体ごと突進する。難なく避けられ反撃される。(寸止め)
タケミカヅチが言った。「相打ち覚悟ならそれで良いが、冒険者としては失格だ。」
リリが言った。「ファミリアではこんな風に習いましたが。」
「これは命を捨てて敵を討つ、いわゆる鉄砲玉の戦い方だ。これでは治療費が馬鹿にならんだろう。
ダンジョンで稼ぐと言う意味では良くない。それにこれでは命がいくらあっても足りないぞ。」
リリはうなだれた。ソーマファミリアではそういう扱いだったのを再認識したためだ。
「さっきの話を思い出してくれ。短刀は軽い、だから体重をかけて突き刺すのは有りではある。
しかし攻撃範囲が狭く反撃されやすい、その対策なしに飛び込むのは、威力は上がるが自殺行為だ。
それで短刀での戦いは、敵とは正対せずに敵の攻撃範囲外または死角を突くことが基本だ。
逆に短刀を持つ相手には、常に正面に、そして自身の攻撃範囲に相手を追い込むのだ。
それを踏まえると短刀での攻撃は、フェイントを交えて死角に回り込むか、カウンターを狙う。
そのの場合は武器または周辺、人間でいえば手または小手を狙う。それであれば踏み込まなくても攻撃できる。
さらに相手が攻撃するには武器を一度引く必要が有るので、反撃されず攻撃しやすい。
そうして武器を無効化してとどめを刺す。ただしこれは1対1の場合だ。
次に多数が相手の場合だ。同格以上ならの相手なら逃げる、もしくは逃げる事により敵を分断し1対1を複数回行う。
相手が格下の場合は、さっきダメ出しした方法が有効だ。隙をついて正面から一撃で倒せれば反撃は気にしなくて良い。
相手の懐に入れば、同士討ちを嫌うその他の敵の攻撃を避けられる。また倒した相手を盾や鎚にすることもできる。」
リリはこの言葉にサポーターとしての劣等感が軽くなるのを感じた。今までサポーターとして冒険者への嫉妬があった。
ベル様がキラーアントを瞬殺していく様は、単に『俊敏』が上回っていただけの事だった。
早朝自分が眠りこけていた時間に、一人鍛練していた姿を思い出し、何もせず嫉妬していたことが恥ずかしくなった。
ここで時間切れとなった。命が言った。「タケミカヅチ様、これからは千草殿にお願いしても良いでしょうか?」
「おう俺は構わん。桜花と相談して決めてくれ。」そう言い残してバイトに行った。