ヘルメスに会いに行ったヘスティアは、土下座せんばかりに頼み込みようやく妥協を引き出した。
「そう言う事なら俺も口を滑らそう。歓楽街の外れのダイダロス通り近くに面白い店が有る。
イシュタルに繋がっていた非合法な商人の支店なんだが、地下室がダイダロス通りの下水道に繋がっているんだ。
戻ってくるかと張っていたがその気配はない。一応商店所有の物件だ、半年やそこらはそのままだろう。
他にも幾つか仕掛けが有るようだ。地下室の入り口は二階の煙突からだよ。」と言って詳しい場所を告げた。
聞いた話をメモしヘスティアは出て行った。
ヘルメスはアスフィーとルルネを呼んだ。
「ルルネ、あの店の隣の地下に盗聴器をつけて来てくれ。壁伝いに彼らの会話を聞く。」ルルネは出て行った。
「これで彼らを探し回る必要は無くなったよ。」
「あの賞金のせいで今、ガネーシャファミリア以外の冒険者はダイダロス通りに迂闊に近寄れません。
少なくとも1~2か月は、あのロキファミリアでも調査は難しいかと。」
「被害を受けた貧民街の住人達はあの賞金の額だからね、目の色を変えて探し回るだろう。」
「これでしばらくゆっくりできそうです。」この言葉にヘルメスがにやりと笑った。
その日の夜、朝の言葉通りヘスティアは春姫を連れて地下室を訪れた。
リリが報告した。「大方メモの通りですね。この辺の住人達はあの騒動の後、逃げ出したようです。
2人で調べましたが、変なものは有りませんでした。闇商品の取引用と思われる仕掛けも解明しました。」
春姫が言った。「ヴィーネ様は?」
「そこだ。」空き箱を利用した簡易ベッドを指差した。
「刺激に反応はあるが目覚めない。このままでは食べられず衰弱して死んでしまうかもしれない。」
春姫が「ポーション」とつぶやき、ミアハの所でダミーとして買ってきたポーションの匂いをかがせた。
するとヴィーネは鼻を鳴らして口を開けた。春姫がゆっくり流し込むと喉を鳴らして飲んだ。
「ウィーネ様は、以前このポーションの匂いが好きと言ってました。」
ミアハのポーションは、以前のナァーザのゴマカシにより独自の香付けがされている。
全体にほっとした雰囲気が流れた。それを見ていたリドが言った。「俺っちにもくれないか。」
春姫が手渡すと、「これはうまい、こんなの初めてだ。」瞬く間にみんなが欲しがった。
「オイシイ」「うまい」とチョッとした騒ぎになった。
ヘスティアがフェルズに近づいて言った。「そうだ、ここは借りたわけじゃないからこれは返すよ。」
朝に渡されて宝石樹の実を差し出すと、フェルズは首を振り言った。
「それであのポーションを買って届けてほしい。」
「代金としては高すぎるよ、100本単位になるよ。」
「食べ物と違って日持ちがするんだ構わないさ。ここへの搬入方法は彼女が知っている。」とリリを見た。
「なら帰りに寄ってもらう、交渉も含めてサポータ君に任せるよ。それで納品は何時が希望だい。」
ぎゃあぎゃあと取り合っている様を見て言った。
「在庫分は今夜、残りはなるべく早くかな。今後のため送料込の価格表をつけてほしい。」
「おーい、サポーター君、春姫君そろそろ帰ろう。サポータ君にはお願い事が有るんだ。」
「神ヘスティア、御助力感謝します。明後日の夜に報告にうかがいます。」とフェルズ。
その夜ミアハファミリア内、ナァーザがダフネ、カサンドラを呼んだ。
カサンドラはそわそわし、ダフネは少し怒っている様だが、ままある事なのでナァーザは気にしなかった。
「大口の注文が入ったわ、二人にはお使いを頼みたいの、一人はバベルへ薬の原料の依頼、もう一人は薬を届けてほしいの。」
「届け先はどこですか?」ダフネが聞いた。
元歓楽街の外れよ、ダイダロス通りの近くね。
「私、そっちへ行きます。」とカサンドラが声を上げた。
「そう、じゃあお願いね。メモに詳しい場所と受け渡し方法が書いてあるから。」と言って荷物とメモを渡した。
「そうそう、これからミアハ様と薬の調合をするんで夕食は外で食べて来てね。」と言って二人にお金を渡した。
その夜カサンドラは、お使いの帰りに何かを拾いホームへ持って帰った。
だが忙しいミアハとナァーザ、調合時の匂いを嫌い遅く帰ったダフネはそれに気付くことは無かった。