異端児を追ってダイダロス通りへ行った春姫は、瓦礫の中でハーフエルフの女性にひっぱたかれるベルを見た。
ルナールの聴力はかろうじて2人の会話を聞くことができた。
一切の弁解をせず異端児をかばったベルの姿に、改めて英雄を見た。
異端児に自分を重ね合わせていた春姫は、共に居たい『私の英雄』をついに見つけた。
リリがヘスティアを連れ帰るとフェルズが部屋に現れた。今も続いている監視を避けるため姿を隠し付いてきたのだ。
ギルドの布告により追跡が事実上ガネーシャ達に限定されたため、リド達に任せてフェルズは事態打開に動くことになった。
そしてフェルズはヘスティア達に現状を語り救援を求めるために来た。
ヘスティアが言った。「ギルドまたはガネーシャは頼れないのかい。」
「イケロスファミリアに仲間を殺され、彼らの人間不信に拍車がかかった。それとガネーシャ達とは18階層でやりあってる。
この状態で投降を勧めるのは無理がある。私ですら警戒されるほどだよ。」
「リドさんやレイさん達はどうですか。彼らは好意的に感じましたが。」と命。
「リヴィラの冒険者たちに手を出した時点で発言権を失っているようだ。グロス達人間嫌悪派の意見が優勢だよ。
他には現在かろうじて君たちだけが信用されている。それで君たちならと言う事で協力してもらう許可が出たんだ。
さらに問題はウィーネだ。何とか復活させたが今だ目覚めない。これが問題を複雑にしている。」
「何故そんなことに。」とヘスティア。
「魔法による復活だがここまで成功したのが初めてだ。どうなっているのか私にもわからない。」
「ウィーネ様が。」涙目の春姫。
「後はいまだ合流できていない者たちがいる。それでグロス達からダイダロス通りの近くに隠れ家を用意しろと要求が有った。
飲めない場合は、一か八かにかけて騒ぎを起こし仲間を集めダンジョンに逃げ込むと言っている。これはリスクが高すぎる。
だが生憎その辺りに私の拠点はない。借りるにしても、このなりではすぐには不可能だ。何とかならないだろうか?」
「昔ならともかく、広すぎる所に住んでるボク達が別に家を借りるのは不自然すぎる。ミアハ、タケ…だめだ。
……あんまり頼りたくないんだが、ヘルメスを頼ってみるよ。予算も含めて詳しい条件を教えてくれないかい。
それとヘルメスには正直に言った方が良いかい?だだし下手な嘘は通用しないぜ。」
フェルズは考え込んだ。ここでリリが発言した。
「神ヘルメスには何も知らせないでおきましょう。聞かれても教えられないの一点張りで。」
「だがあの抜け目がない神ヘルメスの事だ、必ずばれるだろう。」とフェルズ。
「ですから嘘をつくのではなく教えられない事にします、こうすれば嘘のペナルティも無いですし、表だっていろいろ要求されません。」
「よく判ったよ、だけどそれをヘルメスに納得させられるかな?」とヘスティア。
「そこはヘスティア様の交渉力でと行きたいところですが、『迷惑を掛けられない』で押し通してください。
今回の件でこれ以上はとか、以前の18階層でのことを持ち出しても構いません。後期限を切ってください、ベル様が戻られるまでで。
フェルズ様これで何とかしてください。そしてその間に問題を解決するなり、新たな隠れ家を見つけるなりしてください。」
協力はここまでと告げるリリに、フェルズは「了解した。」と答え詳しい条件を語った。
今にも泣きだしそうな春姫をちらっと見てヘスティアが言った。
「今からボクがヘルメスに会ってくる。そのまま屋台のバイトに行くからサポーター君、後で変身してフェルズ君と一緒に来てくれ。
そこで情報を渡すから2人には隠れ家の調査をしてもらいたい。何か問題が有ればバイト中に知らせてくれれば良いから。
春姫君、君はバイト終わりを見計らってボクを迎えに来てくれ。ダミーとしてミアハの所にでも寄ってきてくれ。
問題なければ一緒にウィーネに会いに行こう。」
フェルズが手を差し出し、いくつかの宝石樹の実を渡し言った。「神ヘスティアこれを、賃貸料として使ってほしい。」
それを受け取りヘスティアは出て行った。
「俺は?」「私は?」ヴェルフと命が尋ねたが、リリが言った。
「ヴェルフ様は武器のバリエーションを増やしてください。命様は春姫様と一緒に留守番を。」