ヘスティアは春姫の事をずっと気にかけていた。故郷を離され一人ぼっちで花街に入った少女。
己の神性(ヘスティアは孤児の神でもある)に触れるので拒むことは出来ない。(アイシャと違って)
己に比べてすらりと伸びた手足、胸だけは勝っているとはいえ抜群のプロポーション。
どこか剣姫を思わせる金髪、そしてベル君に特別な思いを持っている、サポータ君とは比べようがないほど危険。
ヘスティアの結論は、パーティメンバーとして一緒にダンジョンに潜っていた方が100倍マシだ。
へステイアと二人残された春姫は、溜っていた思いを相談することにした。
「へステイア様、リリ様の問題は私の問題でもあります。」
「なら同じことをすれば良いんじゃ無いかい、ルナールはタケのやつが知っているだろう。…ホントの事を話しなさい。」
「ベル様は英雄です。破滅の象徴の娼婦だった私が一緒に居て良い者かどうか…」
ヘスティアは自室に招き入れ、一冊の本を広げて見せて言った。
「これは君に会う前、ベル君が歓楽街で一夜を過ごした後に見ていた本だよ。」
春姫はそれを見て言葉を失った、そこにはまさに春姫が言った通りの事が書いてあったからだ。
「『破滅の象徴として娼婦』が描かれてるね。だけどだったらなぜ英雄は娼婦を切って捨てなかったんだい?
外聞が悪いなら山の中へ誘い込んででもすればいいだろう。聞かれたらモンスターに襲われたことにすれば良いしね。」
「それは…」春姫は言い淀んだ。
「ボクの考えだけど、破滅は娼婦に係るんじゃあない。少し前から話を要約すると、英雄に惚れた娼婦が一緒に行きたいと願う。
英雄は危険だからと拒む、だが娼婦は命なんかいらない、ただ一緒に居たいと言う。押し問答の末さっきのページになってる。
破滅はこの娼婦の心、命なんかいらないこの一点なんじゃないかと。そしてこの後娼婦の姦計に嵌り破滅するんだが、
初めから破滅させるのなら、この告白は要らないんじゃないかな。わざわざ正体を明らかにする行為だからね。
そして共に破滅していく。ある意味娼婦の願いは叶ったのかも知れない。そういう意味では破滅の象徴なのかもね。
今度の事で親しいひと(神)に目の前で死なれて、その事をずっと後悔していた人に会ったよ。
目の前で死なれるのは辛いことだよ。ベル君もおじいさんに死に別れたことを気にしている様だった。」
春姫はベルに言った言葉を思い出していた。『死にたくない、助けて』
「それに有名なダンジョンオラトリアの英雄には、アマゾネスがそばに居ただろう。」「女帝ですね。」
「そうだけど、キミの方がアマゾネスの事は詳しいんじゃないかい。女帝だからって清楚だなんてとんでもないと思うよ。
むしろ破天荒な性格の方が合ってる気がするよ。じゃないとあのアマゾネス達が皇帝にしないよ。」
春姫は心の中にずっと有ったもやもやが晴れた気がした。
少しの沈黙の後春姫は聞いた。「では私とベル様は何が違うのでしょうか、英雄へのあこがれは同じはずなのに。」
「それはね春姫君、ベル君の願望は英雄になりたいだ、より正確には英雄になるために強くなりたいなんだ。
あのスキルを発動させた日、ベル君は朝までダンジョンに潜ってたんだ。防具も付けずにだよ。
案の定大怪我をして、ぼろぼろになって帰ってきてボクに言ったんだ『強くなりたい』って。
だからボクは借金をしてまであのナイフを贈ったんだ、直接力になれないボクの分身としてね。
それにただスキルの影響だけであんなに強くなった訳じゃない。大変な思いをしているんだ。」遠い目して続ける。
「剣姫に扱かれていたなー。ボクも観た事が有るけどあれは拷問の一種だと思ったね、一方的にボコボコにされていたんだ。
そんな思いをしても強くなりたいと言う思いは消えず、さらに加速した気がするよ。
…英雄に危険は付き物、実際君に会うまでにもベル君は何度も死にかかってるよ。」
春姫にヘスティアの言葉が溶け込む。初めて本当にヘスティアファミリアになった気がした。
「その本は図書室へ帰してくれればいい。」春姫は退出した。
この日から、春姫は新たな視点で英雄譚を読むことになった。
次の日、早速春姫はタケミカヅチの所を訪れ武器の適性を聞いた。薙刀と弓を勧められた。
指導はなぜか千草が志願してきたため任せることに。その甲斐もあって順調にうまくなっていった。
ただなぜか、モップがけ等の家事と併用の訓練が多かった。