箒
「………」
旅館を無断で飛び出した箒は現在【福音】に向かっていた
だが、その眼には一切の光が無く全くの無表情だった
太一達の推測通り箒は既にその身に宿る魔王の傀儡となっていた
その時…
一夏
「箒ぃぃぃっ!!」
箒
「!?」
後方から一夏が追いついて来た
箒が使っているのは量産型の【打鉄】なので専用機を持つ一夏は追いつく事が出来た
一夏の呼び声に反応し、箒の表情は元に戻った
箒
「一夏!?何故ココに?」
一夏
「お前こそ何してんだよ?」
箒
「私は【福音】を倒そうと思っただけだ!(【福音】を倒せば姉さんも私の力を認めて専用機を造る筈だ!)」
一夏
「じゃあやっぱり【福音】の場所を知ってるんだな!」
箒
「ああ、コッソリ立ち聞きしてな…お前とマドカが戦った場所から20Km離れた海上で静止しているそうだ。」
一夏が現れた事で魔王は体の主導権を箒に返した
だが、箒は自分が操られている自覚が無かった
操られている間の記憶はそれらしい記憶を植え付けられていた
一夏
「そうか!」
そんな箒の状態に一夏は気付いていなかった
箒ならそのくらいはやりそうだと思い、特に気にも留めていなかった
箒
「そう言うお前は何故ココに居るんだ?千冬さんから謹慎する様に言われたはずだろ?」
一夏
「…アイツは俺が倒すんだ!アイツを倒して俺の力を千冬姉や太一に思い知らせる為だ!それにアイツを倒せば謹慎の罰だって無くなるだろ?」
箒の問いかけに対して一夏は自分に都合のいい様に答えていた
箒
「フッ…そうだな!私の力を見せれば姉さんもISを造る筈だ!!」
そしてそれは、一時的に元に戻っている箒も同じだった
だが、実際はそんな都合よく事は進まない
ココに居る時点で2人は既に重大な命令違反を犯しているので手柄を立てたからと言ってそれが帳消しになる訳では無かった
しかし、この2人はそんな事も分かっていなかった
そして…
一夏
「見えた!!」
2人は【福音】を視界に捉えた
【福音】は未だ空中で静止したままだった
一夏
「今度こそ倒してやるぜぇぇぇっ!!!」
そう言って一夏は【雪片】を展開し斬りかかって行った
箒
『フフフフフ…』
そんな一夏の姿を箒は後ろから笑っていた…
だがそれは、
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方、【福音】へと向かっている太一達は…
太一
「皆さん、先に
全員
「了解!!…
太一の指示で4人は
ラウラとシャルロットは初めての発動という事もあって少し緊張していた
《E・V・O・L・U・T・I・O・N》
4人のISが輝きだし光が包み込んだ
セシリア
「【ブルー・ドレイク】超進化!!【クロスウォー・ドレイク】!!!」
鈴
「【メガロ・ドラグナー】超進化!!【メギド・ドラグーン】!!!」
セシリアと鈴はそれぞれ【クロスウォー・ドレイク】と【メギド・ドラグーン】へと進化を完了させた
ラウラとシャルロットも頭に流れ込んできた言葉を叫んだ
そして現れたISは…
ラウラ
「【ワー・フェンリル】超進化!!【メタルクロス・フェンリル】!!!」
ラウラの【ワー・フェンリル】は全身が青一色となり全身に重火器を装備した機体へと変わっていた
更に右腕の肘から先が狼の頭部になっていた
その姿は【ガルルモン】の究極体【メタルガルルモン】に似通った機体だった
シャルロット
「【ガルダ・ドランザー】超進化!!【ヴァルキリー・ドランザー】!!」
シャルロットの【ガルダ・ドランザー】は赤とオレンジの機体色から白一色へと変わり、白い鳥の頭部が目立つスマートな機体へと変わっていた
背中には白い翼のようなマントを羽織り、左腕には金色の手甲を付けていた
腰には一振りの剣と背中には巨大なボーガンを装備していた
進化したその機体は聖獣型の【ホウオウモン】では無く、戦士型の【ヴァルキリモン】の姿を模していた
ラウラ
「コレが…」
シャルロット
「進化した僕達の機体…」
2人は変化した自分達の機体に驚いていた
だが…
太一
「ふむ、どうやら束さんがデータを纏めて入れたせいで予想外の進化をしてしまったようですね。」
ウォーグレイモン
「そうだな…」
一方で太一とウォーグレイモンの方は予想外の進化をしていた事に驚いていた
鈴
「そう言うって事はこのISはあんた達の予想とは違うデジモンがモデルって事?」
ウォーグレイモン
「ああ、特にシャルロットの方は【ホウオウモン】かと思っていたんだが…」
太一
「ええ、この外見と名前から察するに…彼女の機体は【ヴァルキリモン】がモデルでしょうね。」
シャルロット
「【ヴァルキリモン】…」
セシリア
「ではラウラさんはどうなんですか?」
ウォーグレイモン
「太一、この機体のモデルはもしかして…」
太一
「ええ、【ガルルモン】の究極体【メタルガルルモン】がモデルで間違いありませんが恐らく『Xデジモン』の方の【メタルガルルモン】ですね。」
セシリア&鈴
「ええっ!?」
ラウラ
「X…デジモン?」
【メタルガルルモン】のX体と聞きセシリアと鈴は驚きの声をあげたが、デジモンの進化について詳しく知らないラウラとシャルロットは首を傾げていた
鈴
「【メタルガルルモン】ってX進化出来たの!?」
ウォーグレイモン
「驚く事じゃない。俺自身は出来ないがウォーグレイモンのX体も存在するぞ。」
セシリア
「ウォーグレイモンさんのXデジモンもいるのですか!?」
更にウォーグレイモンのX体がいると知り二人は更に驚いた
しかし…
太一
「本来ならモデルとなったデジモンの事を教えて差し上げるのですが今の状況ではそれが出来ません。申し訳ありませんが急ぎますよ。」
全員
「はい!!!」
現状ではこれ以上の説明は出来なかった
4人もそれに納得すると再び移動を開始した
太一
「皆さん、先に指示を出しておきます。目的地に着いたら皆さんは全員で【福音】の相手をお願いします。出来るだけ早く戦闘不能にして下さい。」
その途中で太一はセシリア達に作戦を指示した
セシリア
「わたくし達全員でですか?2人くらいは太一様達のサポートに回った方がよろしいのでは?」
だが、セシリアが太一の作戦に異議を唱えた
セシリアの意見に他の3人も頷いた
進化した自分達なら魔王に操られている軍用ISと言えど2人もいれば十分と判断していたからだった
太一
「確かにそうかもしれません…ですが嫌な予感がするんですよ…あのISを残しておくのは危険だと…私の勘が告げているんです…」
ウォーグレイモン
「俺も同じだ!アイツは早めに倒しておいた方がいい!」
鈴
「勘か…普通ならもう少しまともな理由をって言うけど…あんた達2人が揃って同じ事を言うなら分かったわ!皆もいい?」
鈴がそう聞くと3人は頷いた
根拠の無い理由だったが太一とウォーグレイモンは4人の何倍も生きてきた経験があるので、そこから来る勘は無視出来ない事を彼女達は知っていた
その為、4人は太一の指示通り全員で【福音】を仕留める事に賛同した
太一
「感謝します。私達は今頃返り討ちに合っている
ラウラ
「待て!!私達も下がるのか!!」
シャルロット
「僕達も魔王を倒す手伝いを…」
太一が自分のやる事を放すと4人は再び異議を申しだした
ウォーグレイモン
「駄目だ!今回の魔王は【七大魔王】の中でも『
全員
「最強!?」
だが、ウォーグレイモンは4人の参戦を認めなかった
それは太一も同様だった
何故ならこれから戦う魔王こそ【七大魔王】最強のデジモンだからだ
4人はウォーグレイモンの口にした『最強』の一言に全員の表情が固まってしまった
鈴
「【傲慢】が最強の【七大魔王】だったの!?」
太一
「ええ、しかも奴は最強でありながら『完全体』です。」
セシリア&鈴
「完全体!?」
セシリア
「完全体なのに最強なのですか!?」
太一
「そうです。」
【傲慢の魔王】が完全体と知りデジモンの進化の段階を知っているセシリアと鈴は更に驚きの声をあげた
だが、それを知らないラウラとシャルロットは首を傾げていた
シャルロット
「あの…完全体って言うのが一番強いんじゃないの?」
鈴
「違うわ!完全体の上に『究極体』って言う段階があるのよ!!」
ラウラ&シャルロット
「究極体!?」
セシリア
「そうです!ウォーグレイモンさんやわたくし達に憑りついていた魔王がその究極体です!ですが【傲慢の魔王】が完全体なのに最強の魔王だとすればその力は今迄の魔王とは比べ物にならないという事ですわ!」
ラウラ&シャルロット
「………」
軽く説明されただけだがラウラとシャルロットも完全体と究極体の力の差を理解した
そして、自分達が今からどんな相手と戦うのかも理解したのだった
太一
「分かりましたね?」
全員
「…はい…」
その為、4人は太一の指示通り【福音】を倒した後は一夏を回収して離脱する事にしたのだった
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
鈴
「いた!!」
そして太一達は目的の場所に到着した
そこでは一夏と箒が【福音】と戦闘を行っていた
ラウラ
「2人は無事の様だな?」
シャルロット
「そうだね…でもあの戦い…何かおかしな気が…」
一行は一夏達の戦闘を見て違和感を感じていた
その理由は…
セシリア
「篠ノ之さんが『まだ無事』だからですわ!量産型の【打鉄】で軍用の【福音】を相手にココまで持つ筈ありません!」
シャルロット
「あ!それだ!!」
セシリアの言う通り箒がまだ無事な事だった
【打鉄】ではどう頑張っても【福音】を相手に善戦する事など不可能だった
しかも箒の持ち出した【打鉄】はIS学園で使用している訓練用の機体の為、リミッターがかけられていた
箒では【打鉄】のリミッターを外せる筈も無く、ましてやリミッターの掛けられた状態で【福音】を相手にココまで持ち堪える程の実力が箒に無い事は全員が分かっていた
太一
「それは当然でしょうね…【福音】を操っているのは彼女なんですから。」
セシリア
「ですわね、それに…」
鈴
「うん、あの馬鹿男がまだ無事なのもおかしいわ…明らかに【福音】は手を抜いてるわね…」
ラウラ
「だがあの男…それに気付いてないな…」
鈴とラウラの言う通り一夏に対しても同じ事が言えた
一夏では太一達が到着するまで戦い続けられる筈がなかった
その為、太一達は【福音】が手を抜いているのだとすぐに分かった
だが、戦っている一夏はそれに気付かず自分は【福音】と互角に戦いを繰り広げていると思い込んでいた
太一
「そうですね…では皆さん…打ち合わせ通りお願いします。」
セシリア&鈴&ラウラ&シャルロット
「了解!!!」
そして太一達も戦いに参戦する為に動き出した
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一夏
「うおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」
ガキンッ!
一方、【福音】と戦っている一夏はと言うと…
一夏
(よし!俺の攻撃が通ってるぞ!この調子ならイケる!イケるぞ!!)
【福音】が手を抜いている事にも気づかず善戦していると思ったままだった
そんな一夏の姿を一歩引いた場所で箒は笑みを浮かべていた
勿論一夏はそれに気付いてはいない
その時…
太一
「一夏っ!!!」
一夏
「!?」
太一達がやって来た
一夏は太一達に気付くと…
一夏
「手を出すな!!!コイツは俺が倒すんだ!!!」
自分が【福音】を倒すと言って来た
一夏は今の状況をやはり理解していなかった
鈴
「あの馬鹿!!…!?」
その時、太一達の視界に一夏の後ろにいる箒が笑みを浮かべながら近接ブレードを振り上げているのが映った
だが箒の向いている方向は【福音】では無く
太一
「一夏!!!すぐにそこから離れなさい!!!」
一夏
「うるせえ!!コイツは俺の獲物だ!!お前等に横取りされてたまるか!!」
太一の忠告も一夏には手柄を奪われるものに聞こえたようで動こうとしなかった
鈴
「馬鹿っ!!!『
一夏
「…え?」
だが、鈴の一言の意味が分からず一夏は後ろを振り返った
振り返った一夏の目に映ったのは笑みを浮かべながら自分に向かってブレードを振り上げている箒だった
一夏
「箒?」
ブンッ!
状況を呑み込めていない一夏に対して箒はブレードを一夏に向かって振り下ろした
ザシュッ!
一夏
「がはっ!」
箒
「フフフ…」
一夏
「ほ、箒!?何するんだ!!」
箒に斬られた一夏は状況が理解出来ず混乱していた
そこに…
「La~♪」
ドカッ!
【福音】が一夏を蹴り飛ばした
そのまま【福音】は箒の前に移動したが、【福音】は箒に背中を向けた
だが、箒は【福音】に攻撃を仕掛けようとしなかった
一夏
「な、何で…何で【福音】が…一体どうなってんだよ…」
まるで箒を守るような位置にいる【福音】に一夏は更に混乱していた
鈴
「見ての通りよ!!」
そこに太一達6人が現れた
一夏
「見ての通りって…な、何を…」
ラウラ
「アレを見てまだ分からないのか!!」
一夏
「だ、だから…何をだよ!?」
シャルロット
「君さ?いい加減現実を見たらどうなの?それとも本当に馬鹿なの?」
箒に斬られ、目の前の光景を見てもまだ一夏は現状を理解しようとは、いや、受け入れようとしなかった
そんな一夏にセシリア達は呆れ果てた
鈴
「ならハッキリ言ってやるわよ!この事件の黒幕…【福音】を暴走させたのは…そこにいる『箒』よ!!」
一夏
「!?」
業を煮やした鈴は一夏に真実を突き付けた
一夏
「り、鈴?お、お前何言ってるんだよ?ほ、箒にそんな事出来る訳無いだろ?」
だが、一夏は尚も真実を受け入れようとしなかった
その時…
パチパチパチパチ…
箒が笑いながら拍手をしだした
しかもその笑いはとても不気味なものだった
一夏
「ほ、箒?」
箒
「フフフ…やはり気付いていたか…」
一夏
「!?」
その一言は鈴の言う事を認めると言うものだった
一夏
「な、何で…何でこんな事したんだ!?」
箒が認めた事で漸く一夏も【福音】を暴走させたのが箒だと認めた
箒
「クククッ…私もそちらと同じ事を言おう…君は…まだ分からないのか?」
すると箒は先程ラウラが一夏に言った事と同じ事を一夏に問いかけた
一夏
「な、何を…」
だが、やはり一夏は箒の影に隠れる存在にはまだ気づいてはいなかった
太一
「分かっていますよ…貴方の正体もね。」
一夏
「え?え?え?」
ただ一人分かっていない一夏は太一と箒を交互に首を振る事しか出来なかった
箒
「フッ…流石は…」
その時…
箒
『【イグドラシル】が選んだ人間だ…』
箒の声が変わった
女の箒の声が男の物へと変わったのだ
一夏
「声が…変わった!?」
箒
『お前達は私の正体に以前から気付いていたな?』
太一
「ええ、以前から怪しいと睨んでいましたよ。」
箒
『フッ…やはりこの世界で最も厄介なのはお前達だ…そこにいる『道化』とは違うよ…』
『道化』と言いながら箒は視線を一夏に向けたが、すぐに太一とウォーグレイモンに戻した
それは箒に宿る者とってもはや一夏は眼中に無いという意味だった
一夏
「ど、道化だと!?…お前…箒じゃねえな…一体誰なんだ!!!」
道化呼ばわりされ漸く一夏も目の前にいるのが箒であって箒では無いと気付いた
箒
『やれやれ漸くか?そこにいる君以外の人間は全員私の正体に気付いているぞ?』
そんな一夏を箒は見下した目で呆れていた
一夏
「なっ!?本当なのか!?」
一方で自分以外は全員が気付いていると知り一夏は太一達を見渡した
だが、太一達の誰も一夏の問いに答えなかった
一夏
「オ、オイ!何とか言えよ!!」
誰にも相手にされないので怒鳴る一夏だが太一達は一夏の相手よりも目の前にいる箒の方が重要なため相手にする暇がなかった
太一
「…いい加減姿を現したらどうですか?…【
そして太一は一夏を無視し、遂に核心を突く言葉を口にした
一夏
「!?…【ル、ルーチェモン】だと?」
箒
『クククッ…ハハハハハハハハハハハハハハッ!!!』
太一が魔王の名を呼ぶと箒は大声で笑いだした
そして額には赤い紋章が浮かび上がった
今迄と同じように太一達の目の前で紋章から黒と赤の光が溢れ出し箒を包み込むと【デジタマ】へと変わった
だが箒を取り込んだ【デジタマ】は今迄と違い一回り膨らんだだけでそれ以上膨らむことは無かった
一夏
「そんな!?箒…お前まで!?」
その光景で一夏は漸く全てを理解した
箒もまた魔王の宿主であったのだと理解したのだ
だがそれでも一夏は目の前の光景を信じられずに見つめていた
そして…
ピシッ!…バリイイイィィィ―――ン!!!
【デジタマ】が割れると中から現れたデジモンは…
?
『ふ~…やはり自分の体は心地良い…』
黒と白の服に金色の髪…
背中と頭に翼が生えており、右側が天使の翼、左側は悪魔の翼と対になっていた
しかも今まで現れた4体と違い完全な人型のデジモンだった
このデジモンこそ完全体でありながら【傲慢】を司る【七大魔王】最強のデジモン…【ルーチェモン:フォールダウンモード 】(以後、ルーチェモンFD)だった
ルーチェモンFD
『私の名は【ルーチェモン】…【傲慢の魔王】にして最強の魔王…【ルーチェモン】だ!!!』
<予告>
箒を依り代に遂に復活した傲慢の魔王ルーチェモン
箒を自分の為に存在する人間と言われ激高した一夏はルーチェモンに斬りかかる
だが、一夏ではルーチェモンに太刀打ち出来る筈は無かった
次回!!
ISアドベンチャー 聖騎士伝説
折れた
今、冒険が進化する!