ISアドベンチャー 聖騎士伝説   作:イナビカリ

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第046話:銀の黒兎の光

 太一が束の元に向かった後、IS学園では千冬達がシェルターに避難させた生徒や賓客達を外に出していた

 外に出てきた人達…特に賓客達は案の定、真っ先に太一やコロモン、デジモンの事を問い質してきた

 だが、それに対して千冬は…

 

千冬

「その件に関しては後日、篠ノ之束から説明されます。こちらも事後処理をしなければなりませんので、こちらを終わらせなければ説明する事も出来ません。準備が整い次第連絡しますので申し訳ありませんがそれまでお待ちください。」

 

賓客達

「………」

 

 後で説明すると言うだけでは彼等も納得出来ないが、束の名前を出されては何も言えなかった

 更に…

 

千冬

「…それに………あの馬鹿共の事も片付けなければならないんですよ!!」

 

賓客達

「!?」

 

 最後にそう言った千冬の怒りの形相とオーラに気圧され、彼等は本当に何も言えなかった

 むしろこれから千冬に説教される生徒達を憐れに思う程に同情するのだった

 その為、賓客達は大人しく連絡が来るまで待つ事にしたのだった

 しかし、それはあくまで賓客達に限った話だった

 生徒達の方も今回の一件で太一に疑問を持ち始めていた

 その中でも…

 

一夏

「出て来い太一!!!」

 

 千冬の予想通り太一の部屋の前で一夏が騒いでいた

 千冬達は生徒や賓客達に、太一は戦闘による疲れで休んでいるから暫くそっとしておくように言ったのだが一夏はそれを聞き入れずこうして誰もいない部屋の前で大声で叫んでいた

 その余りにも予想通りの行動をした一夏に千冬は内心溜息を吐きつつも…

 

 ガンッ!!

 

 この忙しい中、相手をするのも面倒だったので拳骨を振り下ろし無理矢理大人しくさせた

 それでも何かを言おうとする一夏に…

 

千冬

「お前には後で箒と一緒にブーイングした馬鹿共と纏めて説教してやる!それまで反省文200枚を書いていろ!!再三に渡って避難指示を無視したお前達もあの馬鹿共と同罪だ!!」

 

一夏

「!?」

 

 説教するまで反省文を書いて待っていろと言い、その理由も話した

 その理由に一夏は何も言えず大人しく部屋に戻って行った

 千冬は漸く一夏が戻るのを確認すると…

 

千冬

「はぁ~…あいつ…ココまで来てまだ自分と相手の力が分からないとは…」

 

 深い溜息を吐いた

 そこに…

 

オータム

「【白式】を取り上げる事も考えた方がいいんじゃねえか?」

 

 オータムが現れた

 

千冬

「…だがそれは…」

 

オータム

「今のアイツにこれ以上ISを持たせておくのは危険だと俺は思うけどな?」

 

千冬

「うっ…」

 

オータム

「俺は別にずっと取り上げるとは言ってねえぜ?授業や訓練、後は外出の時には渡すけどそれ以外の時は持たせない方がいいって言ってんだ。」

 

千冬

「………」

 

オータム

「それに凰からさっき聞いたがあの馬鹿、【スリープモード】の【ベルフェモン】が眠っているからって言う理由だけで自分でも倒せると思い込んでたみたいだぞ?」

 

千冬

「何!?アイツそんな事考えていたのか!!」

 

オータム

「ああ、【ベルフェモン】を見て、あれなら自分でも勝てると思ってコッソリ補給して太一達の戦いに乱入しようと企んでたみたいだぞ?【バルバモン】の時はビビッて何もしなかったのによ。随分セコイ事考えてるなアイツ。」

 

千冬

「ああ全くだ!あの馬鹿!そんな事をすれば八神に殴り飛ばされるだけだぞ!今迄の事を忘れたのか!」

 

オータム

「忘れてんじゃねえか?まあ、今回はそうする前に凰が止めたけどな。けどあの様子じゃ次の魔王が現れたらまた同じ事を繰り返すぞ?そうなったら今度こそあの馬鹿は取り返しのつかない事を仕出かすかもしれねえぞ?」

 

千冬

「だが…私は…」

 

 一連の一夏の愚行を聞いてもまだ弟を信じていたい千冬はオータムの提案に頷く事が出来なかった

 

オータム

「…弟を信じたいお前の気持ちも分からなくはない…だから最終的な判断はお前に任せるぜ。俺はあくまで提案しただけだからな。」

 

 そう言ってオータムは仕事に戻って行った

 一人残された千冬も暫くしてその場を後にしていった

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

千冬

「ハァ~…」

 

 千冬は現在、医務室に向かっていた

 保険医からラウラとシャルルが目を覚ましたと連絡が来たからだ

 だが、当の千冬は先程のオータムとの話の事で頭が一杯だった

 

千冬

(…一体どうすればいい…確かにオータムの言う通り今の一夏にISを持たせておくと何をするか分からん…被害がアイツ自身だけなら自業自得と言えば済むが周りを巻き込んだらそれこそシャレにならん…だが、取り上げた隙を狙って一夏を拉致する奴が現れる可能性もある…そう考えるとおいそれと【白式】を取り上げるのは…)

 

 今迄の事とこれからの事を考えるとどれが正しい判断なのか答えを出せずにいた

 そんな考えをしながら歩いていると目的の医務室についていた

 

千冬

「(今はコイツ等の事を考えるか…)入るぞ。」

 

 仕方なく一夏の事を後回しにし、医務室に入るとそこには意識を取り戻したラウラとシャルルの二人がいた

 二人は千冬が入って来たのに気付くと上半身だけ起き上がった

 

ラウラ

「教官!!」

 

千冬

「無理をするな…だが、どうやら無事なようだな?」

 

シャルル

「は、はい…あの、何で僕達はココに居るんですか?」

 

千冬

「何?デュノア、お前覚えてないのか?」

 

 シャルルのその質問に千冬は首を傾げた

 先に倒れたラウラならまだ分からなくはないが、少なくともシャルルはラウラが医務室にいる理由を知っている筈だからだ

 にも拘らずシャルルは自分の今の状況が分からずにいた

 それを聞いて千冬は…

 

千冬

「…デュノア…お前最後の記憶は何時だ?」

 

 最後に覚えているのは何時頃だと聞いて来た

 

シャルル

「え?…何時って…そう言えば最近の記憶が曖昧で…えっと…ハッキリ覚えているのは…八神君の部屋に呼ばれた日までです…」

 

千冬

「そうか…あの日か…(つまりあの時からコイツは【ベルフェモン】の影響を受け始めたという事か…となるともしかして原因は私達なのか?まあいいか、どうせこうなっていた事だしな…)」

 

 シャルルの答えに千冬はシャルルが【ベルフェモン】の影響を受け始めた時期が分かった

 それが自分達が原因かもしれないと思ったが、どっちにしろ【ベルフェモン】が目覚めていたので気にしない事にした

 だが、それと同時にあの日からのシャルルはすでに半分は正気でなかったという事も分かった

 それなら自分が今、医務室にいる理由が分からなくて当然だと千冬は思った

 

千冬

「…なら何があったか教えてやる。簡単に言えばお前達二人もオルコットと凰と同様に【SINウイルス】で化け物になって暴れていたんだ。」

 

ラウラ&シャルル

「なっ!?」

 

 自分達も化け物になった

 その言葉に二人は驚愕し、呆然となった

 

ラウラ

「そ、そんな…何故…私が…」

 

千冬

「お前達は当事者だから話してやってもいいが…」

 

ラウラ&シャルル

「え?」

 

千冬

「その代わり他言無用だ。特にラウラ、軍への報告も禁止だ。それを守れるなら話してやる。」

 

ラウラ

「わ、分かりました!」

 

シャルル

「は、はい!」

 

千冬

「まあそんなに身構えるな。数日後に同じ事が束の口から公表されるからそれまでの間だ。」

 

シャルル

「し、篠ノ之博士が!?」

 

千冬

「そうだ、それをお前達にだけ先に話してやる。いいな?」

 

ラウラ&シャルル

「は、はい!!」

 

千冬

「ではまずあの化け物共の正体だが………」

 

 そう言って千冬は二人にデジモンと言う生物の事を話した

 デジモンが別の世界の生物だという事…

 その中の【七大魔王】と呼ばれるデジモンがこの世界を侵略する為に現れた事…

 デジモンの存在を誤魔化す為に束が説明したのが【SINウイルス】だったと言う事…

 そして自分達にその【七大魔王】が憑りついていた事…

 可能な事は話してあげた

 ただし、太一の正体に関しては千冬は何も言わなかった

 

千冬

「………以上が真実だ。」

 

シャルル

「…異世界の地球だなんて…」

 

ラウラ

「…デジモン…そんな生物が存在するのか…」

 

 デジモンの事を聞かされた二人は騒然となっていた

 

シャルル

「…あの…織斑先生…」

 

千冬

「何だ?」

 

シャルル

「さっきの話でその【七大魔王】って言うのは【七つの大罪】を司っているんですよね?…僕達は…どの魔王が憑りついていたんですか…」

 

ラウラ

「!?」

 

 するとシャルルが自分達にどの魔王が憑りついていたのか聞いて来た

 シャルルのその質問にラウラも反応した

 

千冬

「…【強欲】と【怠惰】だ。」

 

ラウラ&シャルル

「え?」

 

千冬

「ラウラ、お前は【強欲のバルバモン】…デュノアが【怠惰のベルフェモン】だ。」

 

ラウラ

「…【強欲】…」

 

シャルル

「…【怠惰】…」

 

千冬

「身に覚えがあるんじゃないか?」

 

ラウラ&シャルル

「!?」

 

 千冬のその言葉に二人はギクリとした

 千冬の言う通り二人にはそれぞれの大罪に心当たりがあるからだ

 ラウラは力を欲し、更に千冬を手に入れようと言う強い欲望があった

 シャルルは今の自分の現状を諦め全てがどうでもよくなっていた

 自分達には【強欲】と【怠惰】の罪を持っていたと気付いたのだ

 

千冬

「………何度も言うが誰にも言うなよ?事情を知ってる奴となら別に構わないがな。」

 

シャルル

「他にも知ってる人がいるんですか?」

 

千冬

「ああ、お前達と同じ依り代になったオルコットと凰、後はマドカにオータム、山田先生、理事長と私、そして八神だ。」

 

ラウラ

「教官…あの八神太一と言う男は一体何者なんですか?」

 

千冬

「………アイツに関しては私からは何も言えん。」

 

ラウラ&シャルル

「………」

 

千冬

「一つ言えるのはお前達を助けてくれたのがアイツだという事だけだ。後で礼を言っておけよ?」

 

ラウラ&シャルル

「…はい…」

 

 何も教えられないと言う千冬に二人はそれ以上何も聞けなかった

 これ以上は聞く事が出来ないと判断した二人は素直に頷く事しか出来なかった

 

千冬

「それからラウラ、八神から伝言を言付かっている。」

 

ラウラ

「え?」

 

 すると千冬は学園を出る前に言われた太一の伝言を伝える事にした

 太一からはラウラの様子を見て伝えるかどうかを判断しろと言われていたが、今のラウラはシャルルと共に【七大魔王】に憑りつかれた事に心底後悔していると言った様子だった

 その為、これなら大丈夫だろうと千冬は判断した

 

千冬

「『心の中の光を見つめろ』だそうだ。」

 

ラウラ

「心の…光…何ですかそれ?」

 

千冬

「(分からないか…)八神が言うには人間は心に光と闇の二つを持つそうだ。どちらか一方にのみ染まっている人間は普通はいないそうだが【七大魔王】の依り代になったお前達は闇の面が強い様だ。その中でもラウラ、お前は特にその傾向が強い。」

 

ラウラ&シャルル

「………」

 

 千冬のその言葉に二人は何も言えなかった

 マドカも言っていた事だが【七大魔王】に憑りつかれる様な人間なら心は闇の面が強い傾向にあって当然だった

 中でもラウラはこれまでの言動や行動からも分かる通り、魔王の依り代となった4人の中でも特に闇の面が強かった

 

ラウラ

「…それなら…私に光がある訳無いでしょう…無い物をどうやって見つめろと言うのですか…」

 

 今迄の話からラウラは自分に光が無いと思い俯いていた

 だからこそ太一の『光を見つめろ』と言う言葉は自分には意味のない言葉だと自嘲していた

 だが…

 

千冬

「いや、お前には光がある。」

 

ラウラ

「え?」

 

 そんなラウラに千冬は光があると断言した

 

シャルル

「何故そう言い切れるんですか?」

 

千冬

「八神がお前に光があると証明したからだ。」

 

シャルル

「証明したって…一体どうやって…普通はそんな事…」

 

千冬

「そうだ、普通は証明する事は出来ない。だが八神にはそれが出来る。…黄金の聖騎士の奇跡の光を使えばな。」

 

ラウラ

「黄金の聖騎士?」

 

シャルル

「奇跡の光?」

 

 二人は千冬の言う事の意味が分からず首を傾げた 

 

千冬

「お前を取り込んだデジモン…【バルバモン】との戦いで八神は【ロイヤルナイツ・マグナモン】で戦った。」

 

ラウラ&シャルル

「【マグナモン】?」

 

千冬

「【マグナモン】は『奇跡』を司ると言われる黄金の聖騎士だ。八神は【バルバモン】と戦う際、奴が取り込んだお前を人質に使う可能性を考え、【バルバモン】だけを倒す方法を持つ【マグナモン】を選んだ。」

 

シャルル

「【バルバモン】だけを倒すなんて…そんな事が可能なんですか!?」

 

千冬

「ああ、【マグナモン】の《エクストリーム・ジハード》を使えばそれも可能だ。」

 

ラウラ&シャルル

「《エクストリーム・ジハード》?」

 

千冬

「【マグナモン】の必殺技だ。この技は奇跡の光で闇を消滅させる事が出来る。」

 

ラウラ

「闇を…消す…」

 

千冬

「そうだ、そして八神の予想通り追い詰められた奴はお前を人質に使って来た。ココまで言えば分かるな?」

 

ラウラ

「…八神は…取り込まれた私ごと…《エクストリーム・ジハード》を撃ったんですね…」

 

千冬

「そうだ、もしお前の心に一欠片も光が無ければ【バルバモン】諸共お前も《エクストリーム・ジハード》の光で消滅していた。だから八神は《エクストリーム・ジハード》を使うのは少なからず賭けになると言っていたな。」

 

ラウラ&シャルル

「………」

 

 ラウラも【バルバモン】諸共消し飛ばされたかもしれないと言う千冬の言葉にラウラはもとよりシャルルも驚きはしたが何も言えなかった

 話を聞く限りその方法しか思いつかなかった

 他の3人の場合はセシリアは【リヴァイアモン】の体内に入ると言う方法が使えた

 鈴は【デーモン】の体を斬り裂いて力づくで引きずり出せた

 そしてシャルルの場合はそもそも【マグナモン】がダメージを受けすぎて使えなくなってしまった事と、相手が頑丈な【ベルフェモン】だった為、【エグザモン】で物理的に助け出していた

 ましてや相手は【七大魔王】の中でも狡猾な【バルバモン】だったので下手な救出法は使えなかった

 

ラウラ

「…《エクストリーム・ジハード》…闇を照らす奇跡の光…だから教官は私に光があると仰るのですね…私がその光を浴びたのに無事だったから…」

 

千冬

「そうだ、それが八神の伝言に繋がる。そしてラウラ、お前はあのままでは心が闇に染まり二度と戻れない道に進んで行くだろう。だからこれを機会に自分の中の光に目を向けろと八神は言っているんだ!」

 

ラウラ

「…私の中の光…」

 

千冬

「お前がこのまま闇の道に進めばどうなると思う?」

 

ラウラ

「…分かりません…」

 

千冬

「なら一週間前の鈴との模擬戦の時の事を思い出してみろ。」

 

ラウラ

「え?」

 

千冬

「あの時は鈴がお前の撃った砲弾を防いでくれたが、あの砲弾が客席に命中したらどうなったかもう一度考えて見ろ。」

 

 千冬にそう言われラウラはあの時の事を思い出しながら言われた通りになった場合を想像してみた

 その瞬間…

 

ラウラ

「あ、あ、ああっ!!」

 

 大勢の生徒達の悲鳴が聞こえて来た

 それが聞こえた瞬間、ラウラは自分の耳を塞ぎ叫び声を上げた

 ラウラの姿にシャルルは慌てるが、千冬はラウラが落ち着くまで黙って見つめていた

 暫くしてラウラが落ち着くと…

 

千冬

「今のお前の反応が正常な人間の反応だ。だが、あの時のお前なら例え同じ状況になっても罪悪感の欠片も感じなかったと思うが?」

 

ラウラ

「………そう…です…ね…」

 

 千冬の言う事にラウラは否定出来なかった

 それは千冬の言う通りあの時の自分なら巻き込まれた方が悪いと言って罪悪感を一切感じる事も無く、生徒達がどうなろうと全く気にしないだろうと容易に想像出来てしまった

 そう思うとラウラはあの時の自分に心底嫌気が差した

 それと同時にあの時、身を挺して生徒達を守ってくれた鈴に感謝していた

 

千冬

「今のお前ならもうあんな愚行は侵さないだろう…ラウラ、もう一度八神の言葉を伝える…『心の中の光を見つめろ』!!そして…闇ではなく、光の道を往け!!」

 

ラウラ

「はい!!」

 

 ラウラは太一の言葉を再び聞くと今度は力強く頷いた

 それを見て千冬は笑みを浮かべた

 

千冬

(そうだ…それでいい…お前はまだ過ちを犯してはいない…正しい道を歩ける…私にはもう…その道を歩く事は出来ない…お前には私と同じ道を歩んで欲しくない…)

 

 千冬は10年前に起こした【白騎士事件】によって自分には既に光の道を歩く事が出来なくなっているのだと分かっていた

 だからこそ、ラウラが自分と違う道を選んだ事に心の底から安堵していたのだ

 

千冬

(…感謝するぞ八神…コレでラウラは光の道を歩いて行ける…出来れば私も…この言葉をあの時聞きたかったよ…)

 

 同時に自分もその言葉を聞きたかったと思うのだった

 

千冬

「(いや、今更だな…道を踏み外した私のつまらない未練でしかないな…)フッ…」

 

 だが、自分には聞く資格が既に無いのだと自嘲していた

 

ラウラ

「教官?」

 

千冬

「いや、何でもない…さて、これで私の話は終わり…と言いたいが実はなラウラ、お前にはもう一つ伝えておかなければならない事がある。」

 

ラウラ

「まだあるんですか?」

 

千冬

「ああ、だがこれは他の奴には聞かせられない内容でな…仕方無い、明日になればお前達も動けるようになるだろうからその時に話す事にしよう。」

 

 千冬はシャルルを見ながら残りの話は後日する事にした

 千冬の言うもう一つの話とはラウラの機体に積まれていた【VTシステム】の事だった

 【VTシステム】に関してはドイツの内部事情に関係する為、フランス人のシャルルがいる前では話せなかった

 

ラウラ

「わ、分かりました!」

 

千冬

「では私はもう行く。事後処理が大量にあるんでな。お前達は今日はココでゆっくり休め。ラウラ、さっき言った用件は時間が出来たら連絡する。」

 

ラウラ

「は、はい!」

 

千冬

「うむ、デュノア、お前も養生しろよ。」

 

シャルル

「あ、ありがとうございます!」

 

千冬

「ではな。」

 

 そう言って千冬は医務室を後にしていった

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 残されたラウラとシャルルは…

 

シャルル

「…デジモンか…そんなのがいるなんて信じられないよね?」

 

ラウラ

「…ああ…」

 

シャルル

「…僕達がそんな生き物に憑りつかれていたなんて驚きだよね?」

 

ラウラ

「…ああ…」

 

 改めて自分達の身に起きた事を振り返っていたのだが何故かラウラはシャルルの言う事に相槌を打つのみで上の空だった

 

シャルル

「………どうしたのボーデヴィッヒさん?織斑先生の言ってたもう一つの案件が気になるの?」

 

ラウラ

「…それも気になるんだが…」

 

シャルル

「…八神君の事?」

 

ラウラ

「…ああ…何故アイツは私を助けてくれたんだ?…私は今までアイツに難癖をつけて敵視していた…助けて貰える理由なんて一つも無い筈なのに…」

 

シャルル

「…それを言うなら僕もだよ…」

 

 ラウラの疑問にシャルルも同意した

 太一を敵視していたラウラは自分を助ける理由が思い当たらなかった

 同じく、全て諦めた態度のせいで太一から見限られていたシャルルも助けて貰える理由が分からなかった

 2人は太一からの自分達の印象が悪いと言う自覚があった

 にも拘らず助けてくれた太一の行動が分からずにいたのだ

 

ラウラ

「…アイツは…一体何者なんだ…」

 

 二人が悩んでいると…

 

千冬

「スマン、言い忘れた事があった。」

 

 千冬が戻って来た

 

ラウラ

「教官!?」

 

千冬

「ん?どうした?」

 

シャルル

「い、いえ、何でも…あのそれでどうしたんですか?」

 

千冬

「ああ、お前達に言い忘れた事があってな。」

 

シャルル

「言い忘れていた事?」

 

千冬

「そうだ、束が後日、デジモンの事は説明する事になっているがその時に【七大魔王】についても話す事になっている。」

 

ラウラ&シャルル

「!?」

 

 【七大魔王】の説明…それが何を意味するのか2人はすぐに気付いた

 それはつまり以前会議の時に太一が言った依り代になった人間が持つ大罪も説明されるという事だった

 自分達の【強欲】と【怠惰】が暴露されると聞いて二人は激しく動揺していた

 

千冬

「…フォローは入れる。だが覚悟はしておけ。」

 

ラウラ&シャルル

「…はい…」

 

 千冬はそう忠告すると再び医務室を出ようとした

 

ラウラ

「きょ、教官!!」

 

千冬

「ん?」

 

 ラウラが千冬を呼び止めた

 

千冬

「何だ?忙しいと言っただろ?」

 

ラウラ

「す、すみません!ですがどうしても聞きたい事があるんです!」

 

千冬

「言ってみろ。」

 

ラウラ

「何故八神は…私達を助けてくれたんですか?」

 

 それは先程まで二人で話し合っていた太一の事だった

 

シャルル

「そ、そうです!僕達はその…彼には余り良い印象を持たれてはいませんでした…そんな僕達を何で助けてくれたんですか!!」

 

千冬

「助けた理由か…」

 

ラウラ&シャルル

「はい…」

 

千冬

「…それは私にもよく分からん。だが、以前アイツはオルコットと凰に『自分のやるべき事をやっただけ』と言っていたな。」

 

シャルル

「…自分のやるべき事…」

 

千冬

「…私の勝手な解釈でいいならアイツは自分に出来る事と出来ない事を理解しているだけだ。自分では出来ない事は出来る人間に協力を頼み、出来る事は自分で何とかしているだけだろう…」

 

 二人の問いに千冬は今迄の太一の行動から自分なりに推測した答えを話した

 太一の正体を知っている千冬ではあるが太一が何を考え行動するのかは完全には理解出来ていなかった

 だがそれも仕方なかった

 太一と千冬では年齢による生きてきた時間が違い過ぎた

 それだけではなく【白騎士事件】何てものを起こした千冬でも【デジタルワールド】を旅してデジモンと命懸けの戦いを繰り広げてきた太一とでは互いの経験の差が歴然としていたのだ

 

ラウラ

「では私達を助けたのはそれが出来たからだけだって言うんですか?」

 

千冬

「私はそう考えている。」

 

 そう言って千冬は今度こそ医務室を出て行った

 残された二人は再び太一について考えを巡らせる事になるのだった

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 医務室を出た千冬は…

 

千冬

(出来る事と出来ない事か…そうだな、八神はそれが分かっている…だが一夏はそれが理解出来ていない…それがあの二人の一番の違いだ…今迄もアイツは自分では出来もしない事を任せろと言って来たからな…仕方無く私と束が何とかしてきたがそのせいでアイツはあんな愚行をするようになってしまったんだろうな………八神がコレを知れば説教確実だな…甘やかし過ぎだと…)

 

 自分が先程口にした台詞を考えながら歩いていた

 

千冬

(恐らくアイツは誰かに頼るのはカッコ悪いとかつまらん見栄に拘ってるんだろうな…その考えこそが本当にカッコ悪い行為なんだが…今のアイツが気付く訳も無いか…どうすればアイツはそれを理解するんだ?)

 

 それによって一夏の愚行の理由に察しがついたが今の一夏にそれを言っても認めるとは千冬には思えなかった

 そして、どうすれば一夏がそれを理解するのか頭を悩ませるのだった

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 翌日、ラウラとシャルルの二人は無事回復し、それぞれの部屋に戻っていた

 そしてラウラの部屋では…

 

千冬

「ラウラ。」

 

 前日の通り千冬が訪ねて来た

 幸い、ラウラの部屋は現在同居人がいない一人部屋の状態になっているので千冬はココで話す事にした

 千冬は部屋に入ると早速ラウラの【シュヴァルツェア・レーゲン】に積まれていた【VTシステム】について説明した

 自分のISに違法システムが組み込まれていたと知ってラウラは…

 

ラウラ

「…そんな…私のISにそんな物が…」

 

 強いショックを受けていた

 だがそれも仕方なかった

 ラウラ自身には【強欲の魔王バルバモン】が宿っていた上にISにまで【VTシステム】と言う違法システムが積まれていたのだ

 その衝撃は他の依り代になった3人とは比べ物にならなかった

 その後も千冬から更に詳しい説明を受け【VTシステム】の発動条件が【バルバモン】の復活と

重なっていたと聞き、【バルバモン】が居なくても自分は【VTシステム】を発動させていたのだと言われ更にショックを受けていた

 そして、全てを話し終えると…

 

千冬

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!!」

 

ラウラ

「!?」

 

千冬

「お前は何だ!!」

 

ラウラ

「え?」

 

千冬

「何者でも無いのならお前はラウラ・ボーデヴィッヒになれ!!【VTシステム】を使おうと、魔王の甘言に乗ろうとお前は他の誰かになる事は出来ん!!お前になれるのはお前だけだ!!!」

 

 ラウラが光の道に進む為の説教と言う名の最後の一押しをした

 

ラウラ

「…私になれるのは…私だけ…私は…他の誰にもなれない…」

 

千冬

「今のお前ならこの意味が分かるな?」

 

ラウラ

「はい!!!」

 

 千冬の言葉にラウラは力強く頷いた

 それを見て千冬は満足そうに笑うと部屋を後にしていった

 そして一人残ったラウラは…

 

ラウラ

「…ありがとうございます教官!私は…私になります!そして…誰にも恥ずかしくない…光の道を歩いて行きます!!」

 

 千冬の言葉を胸に意気込むのだった

 

ラウラ

「まずは八神と…後は織斑一夏に謝らないとな!フフッ♪気分が軽い…何で私はあそこまで織斑一夏に拘ってたんだろうな?教官は教官、アイツはアイツなのにな…まあいいか!もうアイツに絡む理由も無くなった事だしさっさと謝ってしまおう!」

 

 まずは自分が何をするかを決めたのだが、それと同時に一夏に対する今迄の拘りや興味も消えてしまっていた

 

ラウラ

「後はクラスの全員にも謝る必要があるな!よし!まずはそこから始めよう!!その後は八神に感謝を伝えないとな…だが、ただありがとうと言うのもな…よし!ココは…」

 

 だが、闇の道とは違う変な方向に進みそうな雰囲気も出していたのだった…

 

 




 <予告>

 太一と七大魔王の戦いの後始末に追われるIS学園

 そんな中、太一と束によってキレイに掃除されたデュノア社のニュースが飛び込んで来た

 驚くシャルルに突如かかって来る父からの電話

 枷の無くなった父は今まで言えなかった娘への想いを伝える

 父の言葉を聞き娘はどう答えるのか



 次回!《ISアドベンチャー 聖騎士伝説》

 金の淑女の解放

 今、冒険が進化する!


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