ISアドベンチャー 聖騎士伝説   作:イナビカリ

35 / 133
第031話:相反する思い

一夏

「太一っ!!!」

 

 朝、教室にやってきた一夏は開口一番太一に怒鳴って来た

 

太一

「ん?何か用か?」

 

一夏

「用かじゃねえ!!何でシャルルの話を聞いて何もしねえんだ!!!」

 

太一

「何だお前も知ったのか?」

 

一夏

「ああそうだ!!お前俺よりも前にシャルルの事情を知ったのに何とも思わないのか!!シャルルが可哀想だとは思わねえのか!!!」

 

太一

「思わないな。」

 

シャルル

「!?」

 

 あっさりと答えた太一に一夏の後ろにいたシャルルは動揺した

 

一夏

「何だと!?」

 

太一

「俺はそいつに同情なんかしない。慰める気も無い。」

 

一夏

「何でだ!!何で何とも思わねえんだ!!」

 

 一夏は太一の襟をつかんで睨みつけながら叫んだ

 

太一

「そいつの眼だ。」

 

シャルル

「え?」

 

一夏

「眼、だと?」

 

太一

「そうだ、そいつの眼は何もかも諦めた人間のする眼だ。現状を変える事はおろか逃げる事さえも諦めた奴の眼だ。そんな奴に手を差し伸べるつもりは俺には無い。」

 

一夏

「なっ!?」

 

太一

「お前がデュノアを助けたいなら自分で何とかしろ。似た者同士頑張るんだな。」

 

一夏

「俺とシャルルが…似た者同士だと!?」

 

太一

「そうだろ?お前もこの学園では自分じゃ何もせずに他人任せにしている怠け者だろ?諦めて何もしようとしないデュノアとそっくりじゃないか?」

 

一夏

「くっ…」

 

 一夏は太一の言う事に反論出来なかった

 怠け者と言われればその通りの事をしてきたからだ

 太一は襟を掴む一夏の手を放すとシャルルに向き直った

 

太一

「デュノア、俺は手を貸して欲しいならされるだけの行動をしろと言った筈だが?」

 

シャルル

「そ、それは…」

 

太一

「それでした事が自分の身の上話を一夏にする事か?言っとくが似た様な話なら世界中何処にでもあるぞ。一夏ならともかく話をする程度で俺は動かんぞ。」

 

シャルル

「!?…何処にでも…ある話…」

 

太一

「当り前だろ?まさか世界で自分だけが不幸だとでも思ってたのか?」

 

シャルル

「………」

 

太一

「俺が手を貸すのは自分で今の状況から動こうとする奴だけだ。その場を動かず、立ち上がらず、抗いもせず、逃げる事すらもしようともせず、ただ手を差し伸べてくれるのを待っているだけの奴がどうなろうと知った事か。」

 

シャルル

「………」

 

太一

「まあそう言う訳で俺は手を貸す気は無いからお前達で勝手にやってろ。」

 

 太一はそう言うと席に戻った

 

全員

「………」

 

 クラスの他の生徒達も今の太一の言葉に何も言えなかった

 だが、事情を知らない彼女達にも一つだけ分かった事があった

 それはシャルルの事情に太一は関与しないという事だった

 だが、そんな太一の態度に一夏は納得いかなかった

 

一夏

「お前…見損なったぞ!!!」

 

 そう叫んだ時…

 

 ガンッ!

 

一夏

「ガッ!」

 

 突然一夏は後ろから殴られた

 

千冬

「朝から何を騒いでいる?」

 

 それは出席簿を持った千冬だった

 

一夏

「ち、ちふ、織斑先生…でもコイツは!!」

 

千冬

「五月蠅い!もうHRの時間だ。さっさと席に就け!」

 

一夏

「…はい…」

 

千冬

「HRを始める前に八神、放課後になったら職員室に来てくれ。少し話がある。」

 

太一

「分かりました。」

 

千冬

「ではHRを始める。織斑、号令を掛けろ!」

 

 こうして授業が始まった

 ちなみにその日の授業中と授業の合間は一夏は太一を睨みつけていたのだった

 当然の事ながらそんな事をしていた一夏は千冬とオータムから鉄拳を何度か喰らっていた

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 授業も終わり放課後になると太一は今朝言われた通り職員室に来ていた

 

太一

「失礼します。」

 

千冬

「待ってたぞ。」

 

 中に入ると千冬が待っており、そのまま別室に太一を案内した

 

太一

「それで何の用だ?」

 

千冬

「うむ、実はな…来週、学年別トーナメントが開かれるのは知っているな?」

 

太一

「ああ。」

 

千冬

「実はそのトーナメントがタッグ戦に変更になったんだ。」

 

太一

「タッグ戦?それで何故俺を呼び出したんだ?まさかとは思うが…」

 

千冬

「そのまさかだ。お前は一人で参加してくれ。」

 

太一

「理由は?」

 

千冬

「言わなくても分かるだろ?お前が強すぎるからだ。」

 

 太一もある程度予想はしていたが、まさか本当に自分が強すぎるからだとは思わなかった

 

太一

「強すぎるからか…一夏やボーデヴィッヒが聞いたら反発しそうだな…」

 

 だが、それを聞いた時の一夏やラウラの反応が気がかりだった

 

千冬

「確かにアイツ等ならやりそうだが放っておけ。アイツ等にはハンデが与えられるだけの実力は無いからな。」

 

太一

「そうだな…」

 

千冬

「それで構わないか?」

 

太一

「構わんよ。」

 

千冬

「すまないな………所で今朝の騒ぎだが…一夏の奴はデュノアの正体を知ったのか?」

 

 千冬はトーナメントの話から今朝の教室での騒動に話を変えた

 

太一

「その様だ。それで俺がデュノアを突き放したのを聞いて怒鳴ったんだろ。」

 

千冬

「…そうか…それでお前どうするつもりだ?」

 

太一

「どうもしない。前に言った通り俺はデュノアの件には関わるつもりは無い。」

 

千冬

「だが、お前はそのせいで一夏に睨まれてるぞ。」

 

太一

「そっちも放っておけばいい。そもそも一夏がデュノアの件に関わるからと言って俺も協力する道理は無い。」

 

千冬

「確かにそうだが…」

 

太一

「それより俺が気になるのは一夏がどうやってデュノアの件を解決するかだ。」

 

千冬

「あ…」

 

 太一の言葉に千冬も気づいた

 普通に考えればいくら【ブリュンヒルデ】と言われた千冬の弟とは言えただの一般人で一学生でしかない一夏に一つの企業の問題を解決出来る訳無いからだ

 仮に千冬の名前を使っても【ブリュンヒルデ】の称号にそこまでの力は無い

 

千冬

「…アイツ…どうするつもりだ?」

 

太一

「…千冬…確かこの学園には外部からの接触は出来ないって言う校則があったよな?」

 

千冬

「え?…特記事項21条の事か?…確かにそう言う内容だが………まさか!?」

 

太一

「あれで時間稼ぎをする気じゃないのか?」

 

千冬

「だがあの校則は…」

 

太一

「自分の国からの命令に対しては役に立たないんだろ?ましてや代表候補生の立ち場なら?」

 

千冬

「その通りだ。だが恐らくアイツは…」

 

太一

「その事に気づいてないな。アレを盾にして3年間乗り切ろうと考えているんだろ。」

 

千冬

「はぁ…そうだな…あの馬鹿が!」

 

太一

「…本当にな…そもそもあんな校則1つで3年も持つ訳無いのに…少し考えればあの校則は何の役にも立たないと分かる事だぞ?それに夏休みの様な長期の休みの時とかどうするつもりだ?デュノアをずっとこの学園に閉じ込めるつもりなのかアイツ?…そんな事も分からないとは、どれだけめでたい頭をしてるんだ?」

 

千冬

「…面目無い…」

 

太一

「千冬…アイツ本当にどうにかしないといずれ取り返しのつかない事になるぞ?…アイツの困っている人を助けたいって言う気持ちは分かる。だがアイツはその場の勢いばかりで何も考えていない。鈴の事で懲りたかと思ったがデュノアの件も下手をしたら同じ事になるぞ?」

 

 太一はシャルルの事でまた鈴の様な事が起きるのではないかと考えていた

 

千冬

「………それならそれでいい。」

 

太一

「ん?」

 

千冬

「鈴の事で私も改めて分かった。アイツに分からせるには口で指摘しても駄目だ。直接体に覚え込ませるしかない。」

 

 だが、千冬は一夏に自分の間違いを分からせる為に暫く放置すると言って来た

 

太一

「…直接か…ならそうするか…」

 

千冬

「ああ!」

 

 太一もその意見に賛同し一先ず二人は一夏の考え無しの行動は放っておく事にするのだった

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それから少し話をした後、二人が廊下に出ると…

 

生徒

「ねえ聞いた?今、第3アリーナで専用機持ち4人が模擬戦してるんだって!」

 

太一&千冬

「ん?」

 

 生徒達が模擬戦の話をしていた 

 

千冬

「4人の専用機持ち?」

 

太一

「内3人はマドカ達だろうが、残りの1人は…一夏か?それとも他の誰かか?」

 

千冬

「他…まさかアイツか!?」

 

 千冬は今の話からアリーナにいる最後の1人が誰か気づいた

 

千冬

「また面倒な事を!!」

 

 千冬は慌ててアリーナに向かった

 

太一

「…なるほどアイツか…」

 

 その後を太一も追いかけるのだった

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 時間は遡り、太一が千冬と話している頃…

 第3アリーナでは、マドカとセシリアが鈴と合流していた

 

「は?一夏が太一に絡んできた?何で?」

 

 太一が来るまでの間、マドカとセシリアは今朝の騒動の話を鈴にしていた

 

マドカ

「分からん。だがデュノアが原因なのは確かだ。」

 

「アイツが?」

 

セシリア

「はい、どうやらデュノアさんには複雑な事情があるみたいなんです。」

 

マドカ

「それで一夏兄さんはデュノアの件には関わらないと言った太一兄さんが気に食わなかったらしくて絡んだようだ。」

 

「ふ~ん…アイツにどんな事情があるか知らないけどあの太一が関わらないって言うんならそれなりの理由があるんでしょ?」

 

セシリア

「はい。何でもデュノアさんの眼は全部諦めた人間のする眼らしくて、そんな人に手を貸す気は無いと言ってましたわ。」

 

「眼か…確かに『目は口ほどに物を言う』って言うし、太一の今迄の事を考えると説得力があるわね。」

 

マドカ&セシリア

「ああ(はい)!」

 

 太一の生前を知っているこの3人は太一の言葉に納得した

 

マドカ

「…で、お前は何時まで隠れているつもりだ?」

 

 話も一区切りついたところでマドカは後ろに隠れている人物に話しかけた

 

ラウラ

「気付いていたか…」

 

 するとISを纏ったラウラが出て来た

 

マドカ

「お前の気配くらいなら簡単に読める。」

 

ラウラ

「チッ!」

 

マドカ

「それで何の用だ?私達は兄さんが来たら訓練をするんだがお前も混ざりたいのか?」

 

ラウラ

「フン!私があんな奴と訓練だと?笑わせるな!」

 

「あっそ!なら邪魔だから向こうに行ってくれない?それとも何か用でもあるの?」

 

ラウラ

「…八神マドカ…お前に聞きたい事がある。」

 

マドカ

「私?」

 

ラウラ

「そうだ!私は教官がドイツにいた時、生き別れになった妹がいると聞いた事がある。お前がその妹なのか?」

 

マドカ

「違う。」

 

 ラウラの質問にマドカは違うと答えた

 

ラウラ

「だがお前と教官は瓜二つだ!教官も妹の名前はマドカと言っていた!お前と同じ名前だ!」

 

 だが、ラウラは更にマドカに問い詰めてきた

 

マドカ

「チッ!アイツ私の事をそこまで話していたのか…ああそうだ!確かに私とあの女は同じ血が流れている。世間で言う所の姉妹だ。忌々しい事だがな!」

 

ラウラ

「忌々しいだと!?貴様…妹とは言え教官を侮辱するのか!!」

 

マドカ

「フン!お前がアイツをどう思ってるのかは知らないが私はあの女を姉とは認めていない!あんな人間のクズ、どう言おうと私の勝手だ!!」

 

ラウラ

「ク、クズだと!?貴様っ!!」

 

 千冬をクズ呼ばわりされた事でラウラはキレかけていた

 

セシリア

「マドカさん…余り家族の事に口出しはしたくないのですが流石にクズは言い過ぎですわよ?」

 

「そうよ!」

 

マドカ

「む!確かにそうかもな…だが私にとってあの女が最低な人間である事に変わりは無いぞ!」

 

 事情を知らないとはいえ流石にクズと言うのは不味いとマドカを窘めるセシリアと鈴だった

 マドカも言い方が悪かったことに気付いたがそれでも千冬に対する態度は変わっていなかった

 普段のマドカは千冬の事を教師として接している為、礼儀を弁えた態度をするがそれ以外の場合は千冬に対して辛辣な評価と態度を取ってしまうのだった

 

ラウラ

「き、貴様…」

 

マドカ

「で?質問には答えてやったが用件はそれだけか?無いなら向こうに行け!」

 

ラウラ

「………お前達…あの八神とか言う奴に3人がかりで負けていたな?専用機持ちが3人がかりで手も足も出ないとは随分と情けないな?」

 

 ラウラを追い返そうとしているマドカ達に対してラウラは以前の模範演技の事で挑発してきた

 

ラウラ

「特にそこの二人は代表候補生の癖に負けるとは情けない。やはりただ古いだけの国と人が多いだけの国ではその程度の実力しかないのか?」

 

マドカ&セシリア&鈴

「………」

 

 挑発を続けるラウラに対して3人は何も言わなかった

 ラウラはそれを見て言い返せないのだと思った

 だが…

 

マドカ&セシリア&鈴

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

ラウラ

「!?…な、何が可笑しい!?」

 

 3人は突然笑い出した

 

セシリア

「いえ、貴方の下らない挑発が可笑しくて。」

 

ラウラ

「何だと!」

 

「こっちも言わせて貰うけどアンタの眼って節穴なの?それとも片目じゃよく見えないの?」

 

ラウラ

「何!?」

 

マドカ

「お前軍人の癖に相手の実力も分からないのか?太一兄さんの実力が分からないなんて三流もいいところだな?」

 

ラウラ

「三流だと!?」

 

マドカ

「まああの馬鹿女も最初は兄さんの実力が分からずに勝負を挑んで返り討ちにあったからな。その教え子のお前に分かれと言う方が無理があったな。教え子が三流なら教官も三流って事だな。」

 

ラウラ

「き、ききっ貴様っ!!一度ならず二度までも教官を侮辱するとは!!」

 

マドカ

「侮辱?私は本当の事を言っただけだぞ。三流軍人?」

 

 このように、この3人はラウラに言い返さなかったのではなく、ラウラの挑発に笑いを堪えていただけだったのだ

 そして太一の強さを分かっていないラウラに逆に挑発してきたのだ

 その結果、マドカ達の挑発に見事にかかってしまった

 

ラウラ

「貴様等…なら力の違いと言うものを思い知らせてやる!!纏めてかかって来い!!」

 

セシリア

「最初からそれが目的でしたのでしょう?あんなつまらない挑発をするくらいなら初めからそう言えばいいですのに。」

 

ラウラ

「くっ…」

 

 セシリアに自分の本来の目的を言われ言葉を詰まらせるラウラだった

 

「ホントよ。でさ、アイツ纏めてかかって来いって言ってるけどどうする?」

 

マドカ

「全員でかかる事無いだろ?すぐに終わるがそれではつまらん。」

 

「なら私が行ってもいい?アイツの機体ってドイツの最新鋭機なんでしょ?私の【メガロ・ドラグナー】とどっちが強いのか試したいのよ!」

 

セシリア

「そう言えばわたくし達何時も同じ相手とばかりでしたわね?【Dシリーズ】が従来のISとどのくらい違うのか試すいい機会ですわ!」

 

 因みにこの時、セシリアは訓練相手の中にいる一夏をあえて数に入れなかった

 その理由は未だに素人に毛が生えている程度の一夏が相手では【Dシリーズ】と通常のISの違いを比べる事が出来なかったからだ

 

マドカ

「そうだな…なら鈴、頼むぞ。」

 

 そしてセシリアのその考えはマドカと鈴も同じだった

 その為この3人はラウラでその違いを確かめようと考えたのだ

 

「まっかせなさい!太一が来るまでに終わらせるわよ!」

 

 鈴はそう言うと一歩前に出た

 マドカとセシリアはアリーナの壁際まで下がっていった

 

「てな訳で私がアンタの相手をしてあげるわ!」

 

ラウラ

「いいだろう!全員で来なかった事を後悔させてやる!!」

 

「ハッ!アンタの相手何て私一人で十分よ。…いくわよ!【メガロ・ドラグナー】!!」

 

 鈴はラウラを挑発すると【メガロ・ドラグナー】を展開した

 

「始める前に一ついい事を教えてあげる。私達3人は太一に訓練を頼んでるけどこの中では私が一番弱いわよ。」

 

ラウラ

「何?」

 

「私はマドカとセシリアよりも後から参加したから一番弱いのよ。つまり私に勝てないようじゃあの二人に勝てないって事。ましてや太一を倒す事なんて不可能よ。分かった?」

 

ラウラ

「減らず口を!貴様等の機体が篠ノ之束の手掛けた物なのは知っている!だがあんな得体の知れない男に負けた貴様如きが私の【シュヴァルツェア・レーゲン】に敵うものか!!」

 

「ならかかって来なさいよ。身の程ってものを私が教えてあげるわ。」

 

ラウラ

「くたばれえええええぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 こうして鈴とラウラの戦いが始まった

 




 <予告>

 売り言葉に買い言葉による挑発によって始まった鈴とラウラの戦い

 戦いを見守る太一と一夏は何を思うのか

 そして其々どのように動くのか



 次回!《ISアドベンチャー 聖騎士伝説》

 対決!メガロ・ドラグナーVSシュヴァルツェア・レーゲン

 今、冒険が進化する!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。