IS世界に太一とアグモンがやって来てから既に半年が経過した
いや、半年しか経過していなかった
その僅か半年の間に世界は大きな変化が起き始めていた
束の公表によりいくつかの国々では現在の女尊男卑の風潮が近い内に崩れると考え始めており、その為、これまで『女』と言う事で好き勝手やっていた馬鹿な女達を取り締まり始めていた
更に束が男女両方使えるISを完成させると公言した事により各国の織斑一夏に対する重要性が薄れ始めていた
その代わり別の地球から来た未知の生物であるデジモンとそのデジモンをパートナーとしている太一に各国の興味は向けられていた
しかし、デジモンに関する情報を少しでも多く手に入れようと各国は躍起になっているのだが、肝心の太一とアグモンは夏休みの間はIS学園には居らず篠ノ之束のアジトに雲隠れしてしまったので一切の接触が出来ずにいた
その為、夏休みが明ければIS学園に戻って来る時を見計らって太一と接触を図ろうと各国は準備を始めていた
それが全くの無駄とも知らずに…
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして此処にも無駄な事を企む輩がいた…
?1
「お呼びでしょうか?」
?2
「うむ、待っていたよ。」
とある国の一室…
そこに水色の髪の少女が入って来て、役人らしい人間が迎え入れた
少女
「私を招集したという事は用件は『裏』の仕事ですね?」
役人
「その通りだ。早速依頼を…と言いたいが『ロシア』での用件は済んだのかね?」
少女
「終わりました…としか言えません。私の『表』の立場もありますので詳しくは話せません。」
役人
「それは残念だが…終わっているのならそれでいい。では改めて君に仕事を頼みたい。」
少女
「伺います。」
役人
「君も在籍しているIS学園…そこでここ最近立て続けに起きている事件は知っているな?」
少女
「別の世界から来たデジモンとか言う生物の起こした事件ですよね?俄かには信じられないのですが本当なんですか?」
どうやらこの少女はデジモンの存在に対して懐疑的である様子だった
役人
「残念ながら事実だ…学園周囲にはデジモンの戦いの跡が今も残っている…信じられないと言うなら登校した時に確認しておくといい。」
少女
「そうします…それで依頼と言うのは?」
役人
「そうだったな…君には2学期に入り次第デジモンと同じく別の地球から来たと言う八神太一の護衛を頼みたい。」
少女
「護衛、ですか?」
役人
「うむ、デジモンの事を知っているのは彼だけだ。それに別の地球から来た人間と言う希少性もあるせいか各国は彼と接触を図ろうとしているらしい。中には強硬手段を取ろうと考えている国もあるらしくてな…君にはそう言った連中から彼を守って欲しい。」
役人の男の依頼内容は一見すれば太一とアグモンの身を案じたもののように聞こえる
だが…
役人
「そして…君にはもう一つ『密命』を与える。」
そんな訳無かった
結局この男も…いや、この国も他の国と同じでしかなかったのだ
少女
「…護衛に関しては了解しました…ですが密命に関しては本当に大丈夫なんですか?聞いたところでは彼らに手を出せば篠ノ之博士の怒りを買うとの噂ですが?」
少女は与えられた密命に不安を覚えた
太一とアグモンの後ろにはあの篠ノ之束がいる…
束を敵に回す事の恐ろしさを目の前の男が知らない筈は無いからだ
役人
「それはこちらで交渉する。」
少女
「…承知しました…それではその時はお願いします。(本当に大丈夫かしら?)」
束と交渉して治めると言われてしまえば少女は大人しく引き下がるしかないが、それでも不安は消えなかった
その不安は当たっていた
この男は束と交渉すると言っているが不興を買った束相手に交渉の席を設ける事自体が不可能に近い事に気付いていなかった…
こうしてまた一つ地雷を踏もうとしている国が生まれたのだった…
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
少女
「…あの…一つお聞きしてもよろしいですか?」
依頼を伝え終わったので役人の男は席を立とうとしたのだが、少女が質問をしてきた
役人
「何かね?」
少女
「依頼の件は承知しましたが…織斑一夏に関してはどうされるんですか?流石に二人同時の護衛は私でも厳しいのですが?」
それは一夏への対処だった
だが、少女の質問に対して役人の男は…
役人
「織斑一夏?ああ、アレは放っておいて構わんよ。」
一夏の事を今思い出した様に言いながら放置すると言い放った
少女
「え?いいんですか?」
流石に今の答えには少女は驚き二度聞きしてしまったが…
役人
「構わんよ。あの男の価値は『男でISを使える』と言う事だけだ。篠ノ之博士が男女両方使えるISを完成させれば一々あの男に拘る必要は無くなる。違うかね?」
少女
「それは…確かにそうですが…彼は織斑千冬の弟ですよ?」
役人
「それがなんだね?今も彼には男性操縦者と言う事で護衛を何人かつけている。ブリュンヒルデの弟だからと言ってこれ以上優遇する理由は無い。何より、彼にはガッカリさせられたよ。」
少女
「え?」
役人
「専用機を与えられておきながら未だに何の成果も出せていないらしい。しかも学生の本分である学業の方も酷いそうだ。IS関連ならまだ分かるが一般科目まで最底辺らしい。まあ、篠ノ之博士の妹の方も同様らしいがな…姉が優秀でもその弟妹も優秀とは限らないと言う事だよ。」
少女
「………」
役人の言葉に少女は俯いた
役人
「…そう言えば君にも妹がいたね?別に君の妹を馬鹿にした訳では無いんだ。すまなかった。」
少女
「…いえ…」
その理由は少女にも千冬や束同様妹がいるからだった
今の言葉は自分の妹も貶されたように聞こえてしまったのだが、役人の方も自分の失言に頭を下げていた
そして気を取り直すと…
役人
「…それで話を戻すが…あの男はこれまでのデジモンの起こした事件でも場を引っ掻き回すだけで碌な事をしなかったらしくてな…臨海学校では命令違反を起こして勝手に【魔王】に挑んだ挙句専用機をスクラップにされたそうだ。」
少女
「ス、スクラップ!?」
1学期中の一夏の更なる行動を話した
【白式】がスクラップにされたという事は流石の少女も驚いて顔を上げた
役人
「そうだ。流石に学園側もこれ以上は許容出来ないとしてISは修理も兼ねて没収する事にしたそうだ。」
少女
「没収ですって!?(何よそれ!?それじゃあ…あの子が余りに惨めじゃない!?)」
一夏がISを没収された事に少女は内心怒りを高ぶらせていた
役人
「うむ、その事を知らされた私達はこれ以上彼に期待するだけ無駄と判断した。その内彼に付けた護衛の数も減って行くだろう。ISが完成すれば完全撤退する事になるだろうな。まあ、彼がこれから盛り返せば話は変わって来るがこれまでの彼を見る限り望みは薄いだろうな。」
それはもはや一夏には何も期待していないと断言したようなものだった
役人
「そう言う訳で織斑一夏を君が気にかける必要は無い。いいかね?」
少女
「はい…(気にしろと言われても無視してやるわ!!でも…時間を見付けて一度文句を言ってやる必要があるわね!!)」
実は少女と一夏にはある理由から僅かながら接点があった
その理由は【白式】が関係していた
その為、少女は専用機を没収されたと言う一夏に文句を言おうと心に決めたのだった
役人
「では、頼んだぞ。」
少女
「承知いたしました…」
こうして、太一とアグモンに近づこうとする人間が動き出した…
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『世界』とは本来、誰に対しても平等であり不平等である…
不平等だからと言って誰か一人の人間の為に世界は都合よく動く事は無かった…
だが、この世界はたった一人の人間に都合よく回る世界になっていた…
それが今、変わろうとしていた…
太一とデジモンの登場によって世界は本来の姿…全ての人間に平等であり不平等な世界へと
それはつまり…
『織斑一夏に都合よく動く世界』ではなくなる事を意味していた…
<予告>
夏休みが終わり遂に2学期が始まったIS学園
友との再会を喜ぶ生徒達は夏休みの間の出来事を話し合う
だが、2学期になる事は新たな出会いの時でもあった
次回!!
ISアドベンチャー 聖騎士伝説
2学期開始!
今、冒険が進化する!