新世紀エヴァンゲリオン 連生   作:ちゃちゃ2580

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番外編というかおまけ。
但し今回はレン視点。


Ex.Past and future.

 ミサトさんに同居を提案された次の日。

 

 使徒の残骸の回収と解析、方々への根回しに追われていたネルフの動向も落ち着き、わたしの引越しの日がやって来ました。例の記憶で馴染み深い赤のジャケットを羽織った姿のミサトさんに、お昼過ぎに迎えに来て貰って、出発です。

 

 元々ごちゃごちゃと物を持つ事は好きじゃなかったので、荷物はミサトさんと買いに出た洋服に、学校の用意ぐらいしかありません。他は全部、嫌な思い出と共に、此処へ来る前に処分しました。ぽいっです。ぽいっ。

 

 故に荷物といえば段ボールニ箱に収まるもの。

 それをひとつはわたしが、もうひとつは木崎さんが持ってくれて、三日間お世話になった宿舎をあとにします。

 

 ミサトさんのルノーは、昨日わたしをネルフに戻した後、修理に出されたらしく、今日は彼女の別の車に案内されました。

 シンジくんの記憶では進路相談の際に乗ってきた……って、これフェラーリ? こんな高級車買うから偶にえびちゅ飲めなくなるんじゃないの? ルノーだって無駄に電動機駆動に改造してるらしいし。そういえば左ハンドルで純正のルノーだって持っていた気がするし。

 そんな事を考えて、わたしは思わず金欠のくせにとぼやきます。すると彼女は横目にちらりと見てきて、フェラーリは二人乗りなんだと意味深な笑顔と共に言いました。……おい、わたしを置いて行こうとするなよ。

 

「では、わたしは保安部の車にて向かいます」

「あ、宜しくお願いします」

 

 一応フェラーリのトランクはフロントボンネットにあるのですが、そこには残念ながらスペアのタイヤが入っているそうです。なので段ボールを置く場所が無く、ついでにフェラーリ自体が二人乗りなので、荷物は全て別車両で移動する木崎さんにお任せする事に。

 もう見慣れてきた相変わらずの鉄仮面っぷりですが、表情ひとつ変えない彼だからこそ、下着の入った段ボールを預けられます。……他の男性職員には預けたくないですね。木崎さんが留意するようにと注意してくれましたが、わたしって何だかエロい目で見られてるそうですし。そ、そりゃあ本部内をお洒落着で歩き回ってるから目を引くのは分かるけど……男って不潔だ。

 

 別に露出度が高い服を着ている訳じゃないんですけどね。何でだろ? やっぱり胸が()()()()()()()大きいからなのでしょうか……。

 

 

「……はぁ」

 

 第三新東京市内を走行するフェラーリの助手席で、わたしはあからさまな溜め息を吐きました。

 すると左の運転席でハンドルを握るミサトさんがちらりとこちらを見て、「うん?」と小首を傾げます。

 

「どったの?」

 

 そして少し舌っ足らずに聞こえる口調で問い掛けてきました。

 

 わたしはちらりと見返してから、再度視線を前へ。首を横に振っては、扉に肘を突いて、右の頬を預けます。

 

「別に、なにもー」

 

 ゆっくりとした口調で返しました。

 

 とすれば何を思ったのかミサトさんはくすりと笑い、「考え込むと酔うわよ」と注意してきます。

 しかしそう言われると考えたくなくても考え始めてしまうのが人間という生き物。成る丈酔い難いように正面を見据えて、わたしは思案に耽ります。

 

 まあ、考えなければいけない事が多すぎですし。

 考えたくないのが本音でも考えざるを得ません。

 

 第三使徒戦で感じた懸念要素。そして、人類補完計画の阻止をする為に必要な事。特に後者については、重要な事こそ理解していないくせに、まるで樹形図のように考えるべき事が派生していくようにも思えて、もう考える度に蕁麻疹(じんましん)が出るんじゃないかってぐらいです。

 それでも考えなきゃ死んじゃうし、死ぬのと蕁麻疹が出るのとじゃ比べるまでもなく死ぬ方が嫌ですし……あー、やだやだ、ほんっと何でわたしがあのクソッタレなお父さんの所為でこんなに悩まなくちゃいけないのか。

 

「……まあ」

 

 まるでわたしが思案に耽っているのを見越したように、ミサトさんはハンドルを握って前を向いたまま、ぽつりと零しました。改まったような言葉に、わたしは首を向き直らせます。

 

「貴女の夢の話は未だに半信半疑っちゃ半信半疑なんだけども……」

 

 そして前置き。

 ルノーが信号待ちで停止したのを見計らって、ちらりとこちらを見てくるミサトさんの視線は、とても優しいものに見えました。

 

「貴女がそこまで必死じゃなければ、あたしは同居なんて言わなかったわよ。だから――」

「いや、シンジくんは一人じゃ可哀想だから同居しようって言われてたよ?」

 

 わたしの素早い指摘にぴしっと音を立てるような雰囲気で表情を凍らせるミサトさん。『前例』を基に、「それはお世辞か嘘だ」と言われたのだと察したのでしょう。

 

「い、いやぁ、そ、それはわからないんじゃないかしらー……? ねぇー?」

 

 途端に焦った風な様子で身じろぎするミサトさん。

 もう語るに落ちてますね。

 思わずわたしの中にある嗜虐心が擽られて、悪戯っ子のように笑って返します。

 

「つまりシンジくんなら一人じゃ可哀想だと思って誘うミサトさんでも、わたしは誘いたくなかったからと?」

「そ、それはいくらなんでもネガティブ過ぎやしない!? いや、ほんと、違うのよ?」

 

 更なるわたしの指摘で大慌てのご様子。

 もう何時ハンドルを手放してこちらに身振り手振りで否定してくるかという程の焦りっぷりでした。

 

 その様子が……こう言っては失礼なのですが、可愛くって、わたしは声を上げて笑います。

 するとミサトさんはすぐに弄ばれたと自覚したようです。目を丸くしたあとハッとした様子で表情を改めて、前を向きました。

 

 ちょっとからかいすぎたかな。

 

 そう思ってフォローを入れようと唇を開こうとしました。が、しかし――。

 

「スリー、トゥー……」

 

 ぶつぶつとカウントダウンを始めるミサトさん。

 その様子に気がついたわたしは思わず呆然とします。しかし彼女は前を向いたままこちらを振り向きもしません。

 

「ワン……」

 

 そして、ミサトさんはそう零します。

 

「ゴー!」

 

 まるで青信号になった瞬間を待っていたかのように、身体に力を籠めたようでした。

 

「――ひゃっ!?」

 

 即座にぐんとした加速度を感じて、わたしはシートに叩きつけられるような感覚を覚えます。

 どうやらミサトさんは思いっきりアクセルを踏み込んだらしく、ちらりと横目で見てみれば、ハンドルの裏にあるギアを忙しなく操作していました。その表情は、頬が赤く染まっていて、恥ずかしさの名残こそ見てとれますが、獲物を見つけた獣のような笑い方をしていました。

 

 ハッとして正面を見れば――とんでもない速さで景色が流れていました。

 

「ひ、ひゃぁぁああっ!?」

 

 思わず内臓がギュッと締め上げられるような感覚を覚えて、表情を凍らせます。

 そんなわたしを横目に見たのか、ミサトさんは含むような醜悪な笑い方で声を上げました。

 

「……知ってるのよぉ? レンちゃーん」

「な、なに……を?」

 

 わたしは冷や汗を掻きながら視線と共に問い返します。

 すると先程のわたしより、倍は増した嗜虐心を顕にするかのような表情で、こちらを見返してくるミサトさん。

 

「貴女が酔い止め飲んできてるって事。ちょーっち荒っぽくっても、大丈夫よ、ねえ?」

 

 言われてドキリと音を奏でる心臓。

 それと出所は全く同じ筈なのに、バクバクと鳴る音が頭を埋め尽くすようでした。

 

――ヤバイヤバイ!

 

 思わずそんな言葉が脳裏に流れます。

 視線をミサトさんから逸らし、正面に正せば、緩やかなカーブが見えました。

 

 っていうか街中で何キロ出してるのこの人!?

 凄まじい勢いでガードレールに近付いて――。

 

「ああああ、事故るぅぅううう!!」

 

 わたしが悲鳴を上げるのと同時に、ミサトさんは素早くハンドルをきります。それと同時に凄まじい衝撃を感じ、身体を押さえているシートベルトが肩に埋まって痛みさえ覚えます。

 視界の先は目まぐるしく流れていく景色。

 先程まで見ていた景色が真横へ方向を変え、反動と言わんばかりに右へ左へ動きます。

 

 完璧なドリフト。

 絶対に一般道でやるべきじゃない走行方法。

 

「……なにか言う事はぁー?」

 

 ミサトさんは尚もアクセルを踏み続けて、勝ち誇ったような笑みと共にわたしを見てきます。

 もう形振り構っていられませんでした。

 

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさぁぁあああぃ!!」

 

 必死の謝罪も虚しく、まるで昨日の分も含めた復讐だといわんばかりに、ミサトさんの表情はどす黒く染まったままでした。決して緩まぬアクセルはその後、わたしの神経をずったぼろにしてくれました。

 

 

「この世に神様なんていない。この世に神様なんていない。この世に神様なんていない。……いたとしたら殺してやる。絶対に殺してやる。絶対に絶対の絶対、殺してやる。自動車なんてものをこの世に生み出す知能を人類に与えた事をたっぷりと後悔させた後、人類……いや、わたしを生み出した事を更に後悔させて、ものすごーく苦しい死に方をするように六二秒のユニゾンキックソロバージョンでぶち抜いてやる。ふふふ……あはは……素敵、素敵、素敵だよぉ。神様を殺すなんて本当に出来っこないって分かってるけど、今のわたしなら()れる気がするもん。素敵だよぉぉ。ふふふ……あはは……あはははは……」

 

 わたしはフェラーリが止まった事を気にも留めず、うわ言を呟き続けます。時折抑えきれなくて笑い声まで上げてしまう程に浸っているので、きっと表情は愉悦を表している事でしょう。

 ああ、第三使徒を倒した時もこんな感じだったなあ。なんて思いながら漏らす言葉は、意味も意図するところも無いのですが、ただただ思いつく限りの恨み言を言葉にして発散しているのです。それが気持ち良くて楽しいのです。ふふふ……。

 

「ちょ、レンちゃん?」

 

 そんなわたしの様子に気がついて慌てるミサトさん。わたしを辱めた極悪人です。

 

 ギロリ。

 わたしはその神様の前に消してやりたいとさえ思える極悪人を()()()()()で睨みました。

 

「ひっ」と短い声を上げて、顔を引きつらせ、身を引くミサトさん。すぐにわたしから視線を逸らし、「あの、あのね」とたどたどしく話を逸らそうとします。

 

「着いた……んだけど」

 

 そして指をフロントガラス越しに上へ向けます。

 わたしはスッと視線を細めつつ、指された方向へ視線を向けて――。

 

「あ」

 

 そこでハッとします。

 わたしの視界には懐かしいと思うものの新鮮に映るマンションが一棟。

 

 思わず先程まで抱いていた醜悪な感情を忘れる心地で唇を開きました。

 

「着いたんですね」

「え、ええ……」

 

 コンフォート17。

 ミサトさんの自宅があるマンションです。

 これからわたしの住居になると思うと感慨深く思います。

 

 って、あれ?

 

 と、そこでわたしは何か重大な事を忘れている気がしました。

 

 まだ時刻はおやつ時にもなっていないので、食事時でもない。ご飯時までに買い物に行かなければなりませんが、事前に木崎さんの部下が家具を設置してくれたそうなので、荷物を片付けるのにそんなに時間は――。

 

「…………」

 

 うん?

 

 片付け?

 

「あ、あああ、ぁぁああああ!!」

 

 わたしは思わず大声を上げて、口を両手で押さえます。

 

 しまった。

 完っっ全に忘れてた!!

 

 どうしたの? と小首を傾げているミサトさんを素早く振り向き、すぐに「木崎さんに電話して」と頼みます。彼女は「はい? どうして?」と理由を求めてきましたが、そんなものはどうでもいいから掛けろと急かします。

 やがて怪訝な表情で電話を掛け、繋がったらしい端末をわたしに寄越してくれました。

 

 わたしは電話口で『どうしました?』と問い掛けてくる木崎さんに、泣きそうな声を出しながらお願いします。

 

「木崎さん! 掃除用具買ってきてください! ミサトさん家すんっごい汚いらしいんです!!」

『……分かりました。では葛城一尉宛で一式揃えて参りましょう。先日の家具の配置の際にどの程度か見ている職員から詳しい事情を聞いてきます』

「お願いします!!」

 

 そして終話。

 

 キッとミサトさんを睨めば、彼女は呆然とした表情で頬を赤らめていました。

 やがてわたしの視線にハッとした様子で、「あ、えと」と言葉に詰まって、そして――。

 

「……ちょ、ちょっち――」

「『ちょっち』って言うのはミサトさんだけだから!!」

 

 わたしは怒りを顕にして叫びます。

 

 

 小さな戦争が始まったのはそれから間も無くの事でした。




どうも、ちゃちゃです。
この小説は法定速度を守ってます。守りに守りまくってます。因みにちゃちゃは事故った事ありませんが、一瞬眠気で飛んで、危うく事故りかけたトラウマがあります。

懲りずにまた解説します。
続きが気になる方は飛ばしてって下さい。

・『御伽噺と傷痕』
 御伽噺は現在と、これからの一年。傷痕は過去。を、表している。
 意図は読んでの通り。十分表せたと思っているので、解説しません。

・オリキャラ木崎ノボル。
 主要キャラ。
 レンの状態的にいない方が不自然。
 CV:玄田哲章様のイメージ。
 シュワちゃんのお方。

・レンの給料って?
 適当。
 戦闘機パイロットの出撃手当て二〇人分。
 成功しないと世界滅びるので成功手当て。
 つまり使徒撃破報酬みたいなもの。

・てか冬月先生ぺらぺら喋りすぎじゃね。
 愛弟子の娘。顔はそっくり。元自殺志願者。そりゃ心配するだろって事で。

・冬月ハウスとリツコハウスの描写。
 冬月先生→適当。自宅は地上に在る筈だけど、仮眠用の部屋がある。
 リツコ →パチンコから。半ば適当。

・ビールを飲んで溺れ死ぬ猫って?
 我輩は猫である。のオチ。

・ミサトの車
 右ハンドルルノー(電動機駆動)
 左ハンドルルノー(純正かどうか不明)
 フェラーリ
 が、本編で登場してる。個人的にフェラーリの加速感は乗らなきゃ分からないと思う。昔知人の助手席に乗りましたが、これは日本で走らせる車じゃないよねって思った。


おまけ。

・書式
 縦書き用。
 どうしても漢数字じゃ違和感がある部分はアラビア数字を使用。また、明らかに見辛い桁は万や億といった漢数字で省略しているけど、正しい書き方ではないよね。でも見易さが一番だと思うからある程度見逃して欲しいなって。
 ある程度は大らかな日本書式の自由という言葉によって受け止めて貰えるだろうという希望的観測で書いてる。
 誤字脱字誤用については……自分でも見直すけど中々気付けない。報告欲しいです。出来る限り調べて書いてるけど、作者馬鹿なんです……。

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