ラナークエスト   作:テンパランス

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#092

 act 30 

 

 食事を終えた後、一先ず片付け作業に入り、それから改めてテーブルを囲みなおす。

 会話に参加しない者も同席を許して。

 その中で雪音は手持ち無沙汰だった。さっさと活動を再開したいと言わんばかりに不満をにじませる。

 

「俺個人としては原作で不遇な運命に見舞われた弱者に救済の手を差し伸べたいと思っている。それと……、聖王国死ぬ予定のような弓使いの人……」

「……不吉な事を言わないでください」

 

 と、きつく睨むように抗議するネイア。

 さすがに今の発言に対しては()()()()()で睨み付けた。

 

「……どう見ても死亡フラグが立ったとしか……。ごほん、失礼……」

 

 全てはあの骸骨(アインズ)が悪い。という事にする。

 (さち)薄そうな顔をしているけれど、健気(けなげ)な従者は嫌いではない。

 

「普段は強化できそうにない君たちが、どんな風に強くなるのか興味はある」

「期待に応えられないかもしれませんよ」

「戦闘に特化する必要は無い。まだ見ぬ可能性は何だってわくわくするものだから」

「それをお前たち(魔導国)は搾取するわけだ」

「……姉様。少し黙っててくれませんか? あの方は我々の為に話してくれているのですから」

 

 思った事をすぐ口にする性格にほとほと呆れる。

 魔導国の者の言葉を実際に聞ける機会などそうそう無いのだから、他の騎士達が懸命にメモに残そうと必死になっている。

 

「気になる人材は欲しくなるものですよ。でも、聖騎士団を引き抜く予定はありません」

 

 個人的には女王が欲しいです、と言いたいところだが、それだと国を簒奪する事に匹敵するので我慢する。

 単なる興味だけで引き抜いても仕方が無い事くらいは分かっている。

 異形種アバターと人間が仮に結婚したとして幸せになれるかと言われれば疑問を感じる。

 所詮はコレクションの域を出ていない。

 容器が並ぶ部屋のように飾りたい気持ちはあったりするけれど。

 

 剥製にするのは勿体ないけれど。

 

 定命の生物はいずれ死ぬ。それを恒久的に保存する方法を確立していないと手に入れても虚しくなるだけ。

 ()()()数百年もこの世界で過ごす気ならば色々と思うところはあるけれど。興味がある内が華だ。そうペロロンチーノは思う。

 

          

 

 魔導国の人間であるペロロンチーノとしてはこのまま女性陣の強化は続けてもらって結構なのだが、興味本位で随分と深入りしてしまった気がする。けれども今更だ。

 折角お近づきになれたのだから彼女たちの動向を見守るくらいは許してもらいたい、特にに。

 会話を打ち切り、戦闘準備に入ってもいい許可を出すが聖王国側は疑心暗鬼になったようでペロロンチーノをとても気にしていた。

 

「……じゃあ、この子の増強を俺が手伝おうか? 弓兵(アーチャー)を延ばすのなら……」

 

 と、ネイアに顔を向けて言うとカルカは了承したがケラルトは慌て、レメディオスはほぼ即答で『構わん』と言い切ってきた。

 そのはっきりした物言いは実に竹を割ったような清々しさがあるほどだ。

 どことなくたっち・みーに通じるものがあるように思えて苦笑する。

 

「よろしいのですか、ペロロンチーノ様」

 

 あまりに心配になったナーベラルが腰を低くした態勢で迫ってきた。

 

「少しは外国の人達と交流しないと不健康だからね。そこはきっと姉貴も許してくれると思う。……あと、裸に剥いてないし……」

 

 不純な気持ちは確かにあるけれど今のところは健全な対応をしている。だから、まだ姉に文句を言われる筋合いは無い。ついでに骸骨(アインズ)にも今は黙っててもらいたいものだと思った。

 その後は運動をして戦闘が始まる。

 討伐自体に変更は無いが意外な存在が居るので聖王国は戸惑っていた。

 ネイアには屈強な牛を割り当て、ひたすらに弓矢を放ってもらった。

 自分の神器級(ゴッズ)アイテムを渡してもいいかなと思ったが、ナーベラル達が慌てふためくと思うので別の適当な弓を与えておく。もちろん、少しでも攻撃力を上げる為に割りと良いものを。

 手伝う事は想定していなかったので(ろく)な武器が無かったけれど。

 

「な、なんか脈打ってますけど……」

「呪われていないから心配はない。後で色々と持ってきてあげるから。……とりあえず、それで我慢してね」

 

 職業(クラス)を持っているからといって何でも装備できるわけではない。というのがゲームでの常識だ。それがこの世界でも適用されているのか確かめる上では良い研究対象と言える。

 女の子と一緒に活動する事になったのはありがたい事だと二次創作にこっそりと感謝するペロロンチーノ。

 だが、俺はロリコンではない。という所ははっきりと言い切りたいところだが、きっと信じてもらえない。いや、信じてもらえそうな点が無い事は多少、自覚している。それでも少女()()が好き、というわけではない、と言いたい。

 もちろん森妖精(エルフ)女淫魔(サキュバス)のような女性モンスターも大好物です、と。

 ペロロンチーノの手ほどきというほど大層な事は無く、指示された通りに武器を使うネイア。

 放たれる矢のほとんどを皮膚で跳ね返す家畜用の牛

 とんでもない世界に来てしまった、という気分で目が原作のようにグルグルと回りそうになる。

 

「……この弓でも動じないのかよ。……スゲーな、あの牛……」

 

 撃つたびに小さく聞こえるペロロンチーノの声。遥か高みに居る筈の存在なのに庶民的な反応をするので、少し戸惑う。

 それにしても大きな弓なのに凄く軽い。他の弓もだいたい軽く、どれも凄い武器なのだが、今のところ全ての攻撃を牛は見事に弾いていた。

 

「当たっているから多少の経験値にはなっているはずだが……。数字が見えるわけではないから……、実感は無いよね」

「……すみません。せっかくお借りしているのに……」

「武器だけ素晴らしくても使い手が貧弱では当たり前だ。君自身が強くなる意思を持てばいいから、ひたすら頑張って」

「はい」

 

 素直な性格なのか、ネイアの反応はとても心地よい。というか持ち帰りたい気持ちになりそうだ。

 素直だけで持ち帰っても後で何をするでもないし、邪魔になってしまう可能性があるけれど。

 

「憎たらしい牛だな。……なんであんなのが居るんだろうか」

 

 他にも憎たらしい動物が居るらしい。

 実験とはいえ酷い事をするものだ、と他人事(ひとごと)のようにペロロンチーノは憤慨する。

 


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