ラナークエスト   作:テンパランス

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#007

 act 7 

 

 次の日も同じモンスターを討伐していく。

 モンスターの発生頻度や生息数は無限ではないが日によってバラバラだと非効率的だ。

 冒険者が育たない。または育ちにくい環境のように思える。

 だからといってモンスター溢れる世界では人々は安全に暮らす事が出来なくなる。特に農村部は大打撃を受ける。

 

「今の段階でもっと強いモンスターと戦えますでしょうか?」

「無理だな」

 

 ラナーの無謀な一言にレイナースは冷静に答えた。

 

「強者を楽に倒せたら苦労はしない。今は地道な活動に専念してください」

「……はい」

「アルシェも遠慮せず倒していいんだからな」

「だ、大丈夫です。三匹は倒しましたから」

「今は撲殺程度だが……。いずれは魔法も使えるようになるだろう」

 

 ラナー以外は人食い大鬼(オーガ)討伐をやらせてもいいのかもしれない、などとレイナースは思った。

 経験値は多くもらえるのだがチームである限り人数分配分されてしまう。

 最初なので仲間割れが起きにくいけれど、それぞれ焦りが見え始める。

 元のレベルに戻すのは並大抵ではないし、毎日大量のモンスターと戦える保証も無い。いや、あるとすればアンデッドが多発する城砦都市エ・ランテルの墓地を利用する手があった、とレイナースは目まぐるしく思考する。

 急に戦闘の仕組みを変えるのは得策ではないし、まだ二回目だ。

 

「今のまま戦闘を続けてもいいなら、私はこのまま続行を選択する」

「異論は無い」

「急に新しいモンスターと戦うのも身体が慣れないでしょうから。それと使える魔法は無いのですか?」

「あるにはありますが……。攻撃魔法ではありません」

「無駄打ちも経験値になればいいのではないでしょうか? 戦闘が終わってから色々と試すのも良いかと」

 

 ラナーの意見に魔法を使うナーベラル、アルシェ、クルシュは頷いた。

 レイナースも異論は無かった。

 

          

 

 更に次の日も依頼を受けるのだが、積極的に仕事をする冒険者が()()()居なかったのが不思議だった。

 小鬼(ゴブリン)以外の弱いモンスターには(ウルフ)などの動物系が居る。

 家畜も実はモンスターとして倒せる。

 人間すらも敵性エネミーとなりえる。だが、人間の国では殺人は禁止されている。戦争や犯罪者以外では、という条件が付くけれど。

 特例がアンデッドモンスターかもしれない。

 

「連続戦闘だが、みんな身体は大丈夫か?」

 

 戦闘になれているナーベラルとクルシュは平気そうだがラナーはやはり筋肉痛で動きが鈍かった。アルシェは少し疲労を感じている程度だった。

 適度に収入になっているせいか、やる気は感じられる。

 武器はラナーが貸与する事になっているが、今のところ自分達の武器を使用している。クルシュは肉体が武器のようなものだが無理をしないようには言いつけていた。

 

「敵は小鬼(ゴブリン)十三体のみ。飛び道具を持っている。それぞれ気をつけるように」

「はいっ!」

 

 ナーベラル以外は良い返事だった。

 返事はしなかったが頷いたので良しとする。

 まずレイナースが先行する。戦士のレベルが一番高いので突貫役がよく似合う。

 身軽で的確に攻撃を入れるのは熟練の騎士である証拠かもしれない。弱体化したとしても染み付いた行動は今も健在のようだ。

 

「魔法一回でどれほどの経験値になるのでしょうか?」

「信仰系は育ちにくいと言われていますから、10ポイントとかではありませんか? 魔力が少ないので大した数は使えませんが……」

 

 MPが6なら十倍した値が『ユグドラシル』風となる。だが、そのことを知っているのは五人の中でナーベラルただ一人。あと、下等生物(ラナー達)にそのことを教えるつもりは微塵も無かったし、実のところ本人もよく分かっていない。

 消費量は位階に依存する。MP6なら第一位階を60回使える。第三位階なら20回相当だ。あと、休憩すれば少しずつMPを回復させられる。

 能力を看破する魔法やアイテム対策の為に10分の1にした値にする事で相手に正確な情報を与えない、という仕様があるのかもしれない。だが、ここはユグドラシルではないので()()()()()()()(おこな)われている。

 ナーベラル達のようなユグドラシルからの来訪者のHPとMPは通常の10分の1で表記されているが、それ以外は数値通りだったりする。能力値は双方共に同じ。

 アイテムによってMPを回復させるものは()()()()には存在しない。

 レベルが上がれば当然、得られる経験値は少なくなる。

 

          

 

 的確な攻撃により仲間が傷つく事無く敵は全滅する。

 地味な攻撃だが戦闘は命のやり取りをする。

 

小鬼(ゴブリン)達もそれぞれレベルの違う個体が居ると聞きましたが、飛び道具を持っているのは少し高いのでしょうか?」

「魔法を使う者は高いだろうな。それでもこの辺りに出現するのは10以下だ。人食い大鬼(オーガ)も色違いなどが居るけれど」

 

 細かい強さまではレイナースにも判別できない。

 

「明日は休日にしようか。冒険者はモンスター退治だけが仕事ではないぞ」

「そうですね」

 

 魔法を使い終わって休憩していたクルシュは言った。

 後始末を終えて宿屋に帰還にする。

 依頼の報酬は少ないけれど、しばらくは今の生活を続ける事になる。

 王女が色々と我がままを言わないので浪費は今のところ無い。

 銅貨と銀貨を並べて家計簿のようなものを(しる)していくレイナース。

 

「食に関しては近所の店を利用しても大丈夫だろう。ラナーは城に帰ればいいか」

「下着の替えが必要ならば持ってきましょうか?」

「今の調子では数週間も同じ服を着る事になると思うが……。それぞれ何か意見はあるか?」

 

 クルシュは特に問題は無さそうだ。

 

「異論は無い」

「アルシェはどうだ? あまり我慢するのも良くないと思うのだが……」

「リーダーの意見に従います」

「では、明日にでも持ってきますわ」

「活動を始めたのはいいが、なかなか強くなれないものだ。普通の冒険者が一週間で劇的に変わることは無いようだが……」

「もっと早くアダマンタイトになったりはしないんですね。外の世界はモンスターがたくさん徘徊しているものとばかり思っておりましたのに」

 

 王都ではモンスターより犯罪者の活動が多かった。

 村を襲うモンスターの情報というのは意外と手に入らない。

 冒険者組合でも森の中や洞窟の中にでも行かない限りは平原でモンスターに出くわす機会は滅多に無いらしい。

 生態系に影響するようなモンスター討伐は原則として禁止されている。

 色々と束縛が多いのも冒険者が育たない理由ではないかと思う。

 請負人(ワーカー)はそんな中で冒険者組合に囚われない仕事を(おこな)う。当然、事前調査も自分達が(おこな)うので危険度は高い。

 

          

 

 討伐を終えた次の日は魔法詠唱者(マジック・キャスター)の三人は独自に経験値を稼ぐため、手ごろな魔法を唱えていく。

 レイナースは資金管理と装備の管理。

 ラナーは城に戻り、優雅な時を過ごす。ただし、午前のみ。

 午後からクライムと鍛錬を始める。

 

「楽して強くなれれば戦争に負けたりしないんでしょうね」

「そうですね。モンスター退治は順調ですか?」

「優秀な騎士さんがいらっしゃるので。ここはやはり例の施設(チート)からモンスターを融通してもらうのが良いのでしょうか?」

「駄目ですよ、楽ばかりしては。……堕落(だらく)しそうです」

「……そうですよね。……ところで小鬼(ゴブリン)というのは繁殖力が高いモンスターなのでしょうか?」

「聞いた話しでは高いようです」

 

 話しながら武器を奮う王女。

 筋力をつけなければモンスターとは戦えない。もちろん、つけ過ぎないように城での業務もこなしていく。

 不自然に体型が変わらなければ問題は無いが、少し心配だった。

 武器と防具にも慣れた頃に宿屋に持っていく品物を選定していく。

 使い古しとはいえ清潔な下着類だ。

 

「お仲間の分のポーションを各5本ずつ用意しました。今のところ厄介なモンスターの出現例はありませんが気をつけてください」

「ええ。危険と判断したら逃げますわ」

 

 おほほほ、と笑いながら王女は言った。

 地道な作業を乗り越えて楽な戦闘が出来るようになるまで、自分の見積もりでは一ヶ月ほどだと試算する。もちろん、今の調子での計算だ。

 予定外の事もありえるし、退屈しなくて済むかもしれない。

 

「他の武器も試しましょうか」

「そうですわね。グレートソードくらいは装備してみたいですわ」

「結構重いと思いますが……。大きければいいというものではありません」

「……不恰好になってしまいますものね」

 

 持ちきれずに地面に落すイメージが浮かんだ。

 無理な装備で命を危険に晒す事もない。

 クライムの言う事も一理ある。堅実な方が安全度が高いのは理解した。

 王女(プリンセス)だからといって躍るたびに『スキル発動』と言ったりはしない。だが、少しは憧れがある。特に武技を叫ぶところなど。

 人を避けるたびに『回避』と言ってもうるさいだけだが。

 


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