ラナークエスト   作:テンパランス

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#076

 act 14 

 

 本来ならば七の宝物庫『ケレース』から六の宝物庫(ユーノー)へと至るのが近道だが封鎖されているはずなので大浴場から向かう事になる。

 折角なので封鎖されている証拠としてリイジーは扉の前まで行ってみた。

 

「ここから先が七の宝物庫(ケレース)じゃ」

 

 説明の後で慎重に扉に近づいて行く。

 ミルヒオーレ達を驚かせる為ではなく自分でも何が起きるのか少し怖かった為だ。

 ただ単にメイドが封鎖するのか、それともそのまま何所かに飛ばされるのか分からないので。

 聞いた話しでは確か近くに行くだけでよかった筈だ、と思いつつ少しずつ近付く。

 

「無理して危険な事をしなくても……」

「ここが自分の施設なら何も怖くはないんじゃが……。やはりこの施設を作り上げた者でもないと本当の案内は難しいの」

 

 自分は今まで地上の店で研究するのが多かったし、孫達に任せてばかりだった。

 今日くらいは色々と働いてみるのも悪くはないかなと思っただけだ。

 姿無き(あるじ)に自分はおそらく()()()の部分で世話になっている。特に素材アイテムを好きに使わせてもらった点で。

 

「今回は初めてのお客さんということで挑戦させてもらっているんじゃ」

「……初めての……」

 

 雪音達にとっては良い実験台にしか聞こえない。

 リイジーに客を危険な場所に行かせる気はないかもしれない。けれども危なっかしい姿は年寄りのようで気になってしまう。

 どう見ても三十代の筈なのだが、どうしてだろうか、と。

 扉に手を伸ばす姿は若者には見えなかった。または本当に危険だから慎重なのか。

 手が扉に触れる。そしてすぐさま一歩下がるように逃げるリイジー。

 悪戯小僧のようにも見えなくはない。

 

「どうじゃ?」

「………」

 

 軽く触れた程度では何も起きない、という事でもあるのか。景色に変化は無かった。

 もう一度、リイジーが扉に触れる。

 最初より長く触れているが何も起きない。

 場所を間違えたかな、と疑問に思うリイジー。

 それだけ見ると何をしているんだか、と呆れる面々。

 

「触ったら襲ってくるのか?」

「メイドが現れるんじゃ。瞬間移動で」

 

 久しく利用していなかったから勝手が分からない、ということもある。

 何も起きないなら封印が解除されている、という事になる。だが、七の宝物庫(ケレース)は自分が知る限り人間が入る事を素直に許可するとは思えない。

 この部屋は魔導国の者がよく利用する。中身も説明で聞いているから知ってはいる。

 それゆえに一番メイドが現れやすいところの筈だ。

 

「中だけ確認するから待っておれ」

 

 何かが起きない限り怪しい行動を取り続けるのならば他の面々は全力でリイジーを助けようかな、と思った。

 そうしないといつまでも解決しそうに無い。

 聞き分けの無い年寄りにしか見えなくなってきた。

 

          

 

 リイジーは意を決して扉を開こうとした、その時、彼女の腕を掴む者が居た。より正確に言うならば()()()

 それは誰の目にも信じられない光景となった。

 

「……おっ。ちゃんと現われおったな」

 

 強引に扉から手を離させようとする存在。その者はメイド服を着ていた。

 姿は人間の女性のようだが無表情。

 冷酷な眼差しにも見える瞳でリイジーを睥睨する。

 

「……あれがメイド……」

 

 本当に一瞬で現れた、とそれぞれ驚いていく。

 

「……対象を確認。……リイジー様。こちらの部屋に人間の立ち入りは許可されておりません」

「分かっておる。お主達がちゃんと現れるかの実験じゃ」

「………」

 

 軽く首を傾げるメイド。

 

「……主が不在の時は代理の影の国の魔法戦士(オイフェ)の許可が必要な筈……。……影の国の魔法戦士(オイフェ)も不在?」

「……孫のンフィーレアから一任されている、では駄目なのか?」

「……ンフィーレア……。確認。リイジー、……確認。……命令の状態の検索に……完了いたしました」

 

 謎のメイドはリイジーの腕を放す。

 そして、丁寧にお辞儀する。

 スカートを両手でつまむ様に広げ、片足を後ろに下げて交差させるように折り曲げる。

 

「ようこそマグヌム・オプスへ。機能停止した部屋が多く、お客様には不自由を()いられる事と存じますが……。ごゆっくりと……」

 

 にこりと微笑み、流暢に喋りだすメイド。

 その仕草は機械的で雪音は気持ち悪く感じたが、他は目を輝かせながら興味深く観察していた。

 

「なんだか分からんが……。瞬間移動するメイドか~」

「邪魔するぞ、メイドよ」

 

 と、それぞれ感心したり言葉をかけたりしていく。それに対してメイドは全て無視した。

 話しを聞いていないのかもしれない。

 与えられた命令だけを忠実に実行する存在。

 

「……そのメイド。特定の命令にしか反応しないんだな」

 

 という雪音の言葉にリイジーは頷く。

 

「まあ、そうじゃな。どういう原理なのか(わし)にも分からんが……。こういうメイドを用意した主は相当の存在じゃわい」

 

 とにかく確認は出来た。

 リイジーの興味はもう次のものに移っている。

 

「そいつは機械なのか? 生き物なのか?」

「どうじゃったかな。見た目は人間じゃが……、何らかのモンスターじゃった筈じゃが……」

 

 人間の姿をしたモンスター。

 そのモンスター名までは覚えていない。

 人間型のモンスターは意外と多く存在するし、メイド服を着せてしまうと区別しにくい。

 三つの頭であれば三相の悪魔(ヘカテー)だとすぐ分かるけれど。

 

七の宝物庫(ケレース)は立ち入り禁止が分かっていたが……。何も無いとつまらんのう」

 

 一番の宝は厳重に封印されているのかもしれない。けれども誰も居ない、何も無い部屋の案内は寂しいと思う。

 自分が見せてもらったところではもう少し色々なものがあった。ただ、()()案内されたのかは思い出せないけれど。

 それがいつから何も無い場所になってしまったのか、担当者から聞けば早いが今は二人共不在だ。

 

          

 

 一通りの確認が終わったので六の宝物庫(ユーノー)の地下一階部分に向かう。

 活動している人材がほぼ居ない。無駄に広大であること以外は楽しみが殆ど無い施設だといえる。

 

「広大な施設の割りに何も無いのが現状じゃ」

 

 この施設は本来は何がしかの目的があり、それぞれの部屋は目的に必要となる()()が埋め尽くすほど存在していたのかもしれない。

 五の宝物庫(カエルス)の金貨など。

 何も無いわけではなかった。おそらく何所かに移動させたか、消費したと考えるが自然だ。

 

「この広大な部屋を埋め尽くすほどとなると……。簡単には想像できんな」

 

 各部屋は正方形。七つの部屋を持つ。

 金貨とアイテム貯蔵庫として使われている部屋は相当な広さがある。それらを用いるほどの目的とはどんなものなのか、雪音達は少なくとも()()を想像する楽しみは得た。

 あと光り物である鉱石類も貰えたし。

 外に出た瞬間に砂と化すのではないか、と思わないでもないけれど。

 

「外の施設はしばらく使ってもらっても構わん。掃除などは各自で(おこな)うように」

「はい」

 

 食材は定期的に各農村から届けられる事になっているのだが、今回は客人用に改めて取り寄せる事にした。

 あまり見せられなかったお詫び、というわけではないけれど。

 困っている者に手を差し伸べる。という()()かの言葉が脳裏によみがえったので。

 

「孫が来たら色々と分かることもあるじゃろ」

 

 自分の店以外の客は滅多に来ないので、使わないとどんどん荒れそうな気がする。

 特に外の施設は。

 中は七の宝物庫(ケレース)からメイド達が現れて定期的に掃除してもらえるけれど、それらは決して人間に気を許さない連中だ。という事を魔導国の王から聞いていた。

 

「広い空間に我々だけだとかえって不気味なのです」

「……ん~、もう少し賑やかな時はあるのかや?」

「過去にはあったかもしれんな。とはいえ、一般人がそうそう見学に来る事は無い」

 

 研究所に頻繁に民間人が来ては秘匿出来なくなる。

 賑やかになるのはたまに来る査察くらいかもしれない。

 例え王が来ても封印は解除されないけれど。

 

「さっきの化け物を放置するとアイテムを全部取られたりしないものか?」

「棚の様子を見る限り、物取りとは思えんの。さすがにあやつとて一の宝物庫(ユピテル)は破れんじゃろ」

「確信があるのか?」

魔導国の王が許さない。どういうわけか、かの王はこの施設の封印に関して承知しており、手を出さない事を約束しておる。少なくともこの施設の中身全てを知っていると言えるのは現時点では魔導王くらいじゃ」

 

 孫たちもかなり部屋に詳しいけれど、それでも封印された部屋に入ることは難しいと言っていた。

 一の宝物庫(ユピテル)はリイジーですら中身を見た事が無い。

 作った職人の言葉が正しければ大きな部屋があるだけだが、完成後に何を置いたのかはさすがに知らないと答えている。

 

「あの化け物とて魔導王の手の者なら迂闊な事はせんじゃろ」

「……他人から見れば訳が分からないけれど……。今まで平和ならあたし達が文句を言っても仕方ねーよな」

 

 それも来たばかりの異邦人だ。急に怒涛の新展開が始まるわけもない。

 何事も無く地上に出れば新鮮な空気が雪音達を出迎える。

 一応、アイテムの存在は各自確認した。

 

「……外に出られて良かった、と思ったのは久しぶりのような感じね」

「一生閉じ込められる事も想定してたけど……。無駄に広いのも考え物だな」

「そうじゃろう。初めて来る研究者とて三日くらいしか(こも)れないと言われておる。だが、うちの孫たちは随分と慣れておるから一ヶ月くらいは生活できるぞ」

「……今ならその孫とやらが凄いと思えるよ」

 

 この魔女(リイジー)の孫とは何者なのか、少し興味が湧いてきた。

 見た目の年齢から考えれば赤子としか思えないけれど。

 


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