ラナークエスト   作:テンパランス

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#072

 act 10 

 

 戦闘が終わったのを確認し、立花の下に向かう頃には変身が解けていた。

 顔や腕は流石に治っていなかったが、ターニャは冒険者から包帯を受け取った。

 

「あっあーっ! 痛いっ!」

 

 戦闘による興奮が冷めたせいか、尋常ではない痛みが襲ってきた。

 

「よく頑張ったな、お前さん」

「……腕が無くなるほどとは……。次の戦闘は無理じゃないのか」

「高い位階魔法には腕を再生するものがある。神殿に頼むには高い料金を払う事になるが……」

 

 位階魔法は詳しくないが女神アクアの力でどうにかできないか、という事が浮かんだ。

 蘇生する方法があるとか言っていた気がするので。

 

「……しかし、銅プレートであんな化け物と渡り合うとは……。将来が楽しみだな」

「やはり、あいつは相当強いのか?」

アダマンタイト級でも歯が立たないんじゃないか。難度は確か……250超えだった筈だ」

 

 それがどれくらいのことなのかはターニャは分からない。

 単純に雑魚モンスターを倍化させたとしても見当がつかないほどだから。

 それと先ほどまで()()()()()()()()()()()()であった筈のキャロルが今は十代ほどの幼い少女に変わっていた。

 豊満な胸は無く、金髪のようなクリーム色の髪の毛は後ろで一本に編みこまれているのが見えた。

 服装は簡素なものになっていた。

 

「オレの事を知っているお前に尋ねるが……。キャロルというのが……、オレの名か?」

 

 少女なのに口調は男性的。それも個性だとターニャは思い、指摘しなかった。

 

「そうだよ。想い出を焼却して自分の事も思い出せなくなったの?」

 

 会えて嬉しいところだが血が止まらないのと痛みで涙が止まらず、顔色も悪くなってきた。

 早く病院に行きたい気持ちを懸命に押しとどめる立花。

 

「……そのようだな。だが、胸の内にあった激しい感情は覚えている。……今はそれすら無い、という事は……。きっと解答を得たのだろう」

 

 霧が晴れた空を見上げるキャロル。だが、それも数分後には新たな霧で覆われていく。

 

「どうしてオレがここに居るのかは分からん。……だが、お前の側に居れば何か分かるかもしれない。……なんだかお前、というかお前()にたくさん迷惑をかけたような……、そんな気がする」

 

 キャロルの苦笑に立花も苦笑で迎える。

 ただそれよりも無くした腕をどうにかしたい。とても痛くて涙が止まらない。

 この涙は感動ではない。痛みによるものだ。

 ターニャは痛覚遮断術式が使えるが他人に使えるのか試した事が無かった。

 専門の医療スタッフが存在していたので出来なくはないと思い、挑戦してみることにする。

 さすがに再生まで出来るのかは分からないけれど。

 演算宝珠魔力を注ぎ、立花の回復に術式を使う。

 

「痛みくらいは軽減できるだろう」

「あ、ありがとう」

 

 損失部位が多いせいか、再生は起きなかったが大きな傷口は閉じていった。

 大量出血による意識障害は食い止められたと思う。

 

          

 

 行く当ての無いキャロルを引き連れて立花達は帝都に戻る事になった。

 仕事は最後の方でイレギュラーがあったが完遂は出来た。

 それから一日かけて帝都に戻り、無事に昇進を果たした。

 相手が影の国の女王(スカアハ)という事もあり、余計な戦闘についてはお咎め無しとなったが一応の注意は受けてしまった。

 

「あのモンスター相手では何が起きるかわかりませんので、ご退場願えただけで良しとします。その腕に関しては自己責任という形になりますよ」

「……ごめんなさい」

 

 右腕と顔の片方を包帯で包んだ立花は始終、頭を下げてばかりだった。

 他の冒険者達の嘆願もあり、無事に鉄プレートが貰えた。腕が再生できれば仕事の再開もできるように取り計らってもらえた。

 罰金は無いとしても仲間達を救ったことは立派だ、ということで。

 無謀な点で飛び級は認められなかった。

 色々と言われたが昇進は出来た。次のランクに行くか、少し休暇を取るか選ぶ事になる。

 腕が無くてもギルドは平然と対処してくる当たり、この世界では別段普通の事かもしれない。

 普通というか想定内という言葉が適切か。

 冒険者ギルドを出た後、待っていたキャロルの処遇も考えなければならない。

 

「クビにはならなかったけれど……。腕の再生って出来るのかな? 義手はちょっと考えちゃうな」

 

 こんな状態で仲間達に会えば怒られたり、泣かれたりと散々な状況に確実になる気がする。後、元の世界に戻った場合は家族に怒られたりと、やはり色々とありそうだ。

 もちろん学校の友達からも絞らる筈だ、絶対に。

 

「……死者を出さなかっただけ運がいいと思わなければ……。そこまで元気を無くすとはな……」

 

 と、他人事のようにキャロルは言った。

 

「だって、腕が無くなったんだよ。痛いのは治まったけれど……。このまま帰るのが怖い、と思って……。すぐに戻れるとは思ってないけど……」

「オレの錬金術でできる事は義手をくれてやることくらいだ」

「……そうだよね。オートスコアラー達はみんな機械だったし」

 

 口が裂け、右耳が無い為に喋るたびに顔が引きつり、とても痛々しい姿となった。痛み事態は術式の影響か、幾分かは楽になっている。

 キャロルは立花の残っている右腕を優しく(さす)った。

 最初は敵として出会ってまともに話した事は無かったけれど、人の心配をする優しい心を持っているんだ、と感心した。

 何かがあって復讐心に囚われていたようだけれど、今は嫌な気持ちを感じない。

 

「アクアさん、治癒魔法とか使えるといいな」

魔法か……。魔術とは違うのか?」

「この世界ではありふれた能力のようだが……、よく分かっていない」

「それは興味深いな。奇跡を成す魔法……。無から有を生み出す」

「そんなことは私には分からない。とにかく、お前は私達と共に来るのか? そうであれば冒険者登録をした方がいい」

 

 移動するにも戸籍を確保した方が何かと便利だから、とターニャは思った。

 一人くらいの登録料くらいは出してもいいと思った。

 三人並ぶと女の子友達のようにしか見えないんだろうな、と少し残念な気持ちにはなるけれど仕方が無い。

 そういう歳格好なのだから。

 

          

 

 一旦、アクア達が滞在している宿に向かい、改めて自己紹介を始める。

 キャロルは名前以外は完全に忘れているし、立花も名前しか聞いていなかったのでフルネームが分からなかった。

 

「キャロルちゃんかー」

「一人増えて大丈夫なのか? 金銭的に」

「一人くらいは大丈夫だろう。皆で助け合えば」

 

 助け合い精神が欠如したカズマ達にとってみれば余計な人間が増えるのはもってのほか。

 

「……そうなると私達が人間のクズみたいじゃないですか」

 

 と、めぐみんが不満を漏らす。

 金銭的に少し逼迫(ひっぱく)するかもしれないがキャロルも冒険者としての仕事をすればいいだけだ、とターニャが言うと不満はあるものの話しはすぐに落ち着いた。

 それと先ほどから気になっていたカズマはターニャに尋ねる。

 

「どうして立花の服を掴んでいるんだ?」

 

 腕が無くなったのは驚いたけれど、と。

 

「念のためだ。こうしていないと痛覚遮断が途切れるかもしれないからな」

 

 本当に腕が無いのか直接見て気持ち悪くなってはいけない。そう思い、カズマは確認作業は願い出なかった。

 女性の裸は男の子なので嫌いでは無いけれど、と。

 

「……しかし、腕の欠損か……。とんでもないモンスターという事だが……。我々も無謀にモンスターと戦わなくて良かったな、カズマ」

 

 大怪我をするかもしれないが強大な敵と戦ってみたい気持ちはあるとダクネスは思った。

 あとあまり活躍の場が無くて寂しさも感じている。

 

「……う~む。だが、モンスターが倒せないと地味で低賃金の仕事しかないわけだろ? この先が不安で仕方が無い」

 

 とはいえ、モンスターに負けたわけではなく、撤退させたのだから外に脅威が居座ったままではないのは安心できる材料の一つだ。

 あと、無謀な事をしなければ立花のような大怪我はしない確率が高い。

 

「しばらく立花は仕事休みに入らせる。というか、アクアは治癒できないのか?」

「一回死んでくれれば出来るかもしれないけれど……。いくら私でもグロいのは勘弁願いたいわね」

 

 役に立たない女神なのは良く分かった。

 好き嫌いがはっきりしている分、好感は持てるのだが、なんか残念だなと思った。

 とにかく、痛みや失血による身体の不調は止められたようなので安定してから治癒方法を探す事にする。

 激しい戦闘を乗り越えた戦士にわずかばかりの恩給とて。

 


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