ラナークエスト   作:テンパランス

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#065

 act 3 

 

 そうして二十年の月日が流れましたとさ、めでたしめでたし。

 という事になったら立花たちはどういう暮らしをしているのか。

 

「……まだ数日しか経ってないですよ。……それはちょっと考えたくないですね」

 

 仮に二十年経ったと仮定して、自分達はそれでもまだ三十代。

 立花は社会人として何らかの活動はしている、というのは漠然と浮かんだ。

 カズマも同様なのだが、こちらはずっと引きこもりで精神的に病んでいる気がする。

 ターニャはスタイルの良い女性か、栄養失調となって死んでいるか。

 

「……栄養が充分であればスタイルの良い女性になっている、かもしれないけれど……」

 

 元々が男性体だったので、女性としての生活はまだ受け入れがたいものだった。

 

引きこもりか、ニート以外の選択肢はないものか」

「カズマの場合は本気を出さないから仕方が無いわ」

「しかし、二十年後も今と同じ仕事についている保証は無いな。私の場合は貴族として生活している気がする」

「爆裂魔法を撃ち続けても倒れない状態になっているかも」

「女神は全く変化しないだろうな」

 

 実年齢自体非公開だし、と。

 女神アクアは二十年後も女神のままだと思う、ずっと。

 

「……わー、急に先の将来設計なんて出来ないよ~」

 

 異世界の文化はまだ分からない。

 戻る方法は出来る限り探っている筈だ。

 転生したターニャは現地で十年の月日を過ごしている。新たな土地で二十年過ごすのは理不尽かもしれないが受け入れるしか無い場合は自分を殺すかもしれない。

 元の地球に戻せ、という気持ちは転生した時に失っているも同然だが。

 どうせなら殉職にしてくれればまだ諦めも付いた。

 首に提げられている『エレニウム九五式』がある、という事は存在Xによる救済の可能性も否定できない。

 もし、これが存在Xによる干渉であればどうにも出来ない気もするけれど。

 

「住み易ければここでの生活を余儀なくされるわけだが……。女神が役立たずなら早いところ覚悟を決めなければならない、かもしれない」

 

 今のところ魔王討伐という物騒な事件の臭いは無く、比較的平和な世界のようだし、カズマとしては大人しくしている分には問題が無さそうに思える。

 もちろん、アクセルの街に残した知り合いの顔は浮かぶけれど。

 

「よく考えても見ろよ。ここと向こう。どちらが住み易い? 実家のある向こうかもしれないけれど……」

 

 ダクネスとめぐみんには少なくとも待っている家族が居る。

 女神は良く分からないけれど、カズマとしては地球以外はどこも異世界だ。

 

「わざわざ混乱渦巻く世界に戻りたいだ、などというのは……。臭い三文芝居のようだ」

「……私は戻りたいです」

「待っている家族とか友達とか居る人はそうだろうな」

 

 立花の言葉にカズマは無理して否定使用とは思わない。それは正しい、と。

 戻る方法が何も分からない。時には諦めも必要かと思って議論しているだけだ。

 

「転移した序盤の街で大して情報が得られないのはお約束みたいなものだ。もっと先に進まないと何も見えてこないかもしれない」

 

 一応、帝国の首都に滞在はしているけれど、戦争の準備をしているような慌しさは無く、のんびりとさせてもらっていた。

 他の国に行くべきかもしれないが旅費が心許ない。あと、もうすぐ昇進試験を受けられそうなので少しでも賃金アップを狙った方が事態が進み易くなるのではないかと思った。

 無理して他の地域にいけるほど金が豊富では無い。

 前のアクセルの町にいた時も滅多に他の町には行けなかった。それと似たようなものだと思えば我慢できる。

 

          

 

 進展しない話しをしつつ食事を終えれば安宿に帰るだけだ。

 転移して一年経ったわけではないけれど、新たなイベントはなかなか簡単には現れてくれない。

 特に魔導国との接触以降は変わった事が起きなかったし。

 それから更に三日が過ぎた。

 慣れとは恐ろしいものだとカズマは思う。

 それぞれ仕事に出かけて決まった時刻に集まるようになる。それはターニャとて同じであった。

 ランクの低い冒険者は外の仕事が殆ど無い、というのも原因かもしれない。

 無理に昇進すると危険度が一気に増すようだし、少しずつのランクアップが無難なのだが時間がかかり過ぎる。

 焦る気持ちを抑えれば意外と平気になるけれど。

 

「大きな事件でもあれば我々も何か活躍できるのではないか?」

 

 普通ならそうなのだが、キャベツの襲撃とかデストロイヤーの襲撃とか無いので冒険者として地味な仕事を続けている。

 全冒険者が強制参加するような仕事は無いらしい。

 そういう非常識なイベントがある前の世界はそれなりに賑やかだったと言える。

 立花としてはノイズの事件が無い分、平和的に過ごさせてもらっているけれど仲間や家族の事がどうしても気になる。

 ターニャも既に死亡扱いされているのでは、と諦めかけていた。

 カズマとしては見せ場が無い以外は地味で面白みのない毎日だが、平和的には暮らせているので、これはこれで良いのかな、と思わないでもない。

 元の世界に戻ってもヒキニート生活に戻るだけで面白くないけれど。

 有名になる選択は魔導国によって防がれているも同然だ。

 悪の魔王として倒すには敵が強すぎる予感がする。しかも、帝国の国民に危害を加えているわけではない。

 前の世界なら魔王の幹部が怪しい策略を巡らせて嫌がらせをするものだが、こちらの世界では国民生活に密着している。

 警備しているアンデッド兵なるものが暴れればいいのに、今までそういう事件が起きていない。

 

「冒険者より何か店でも開いた方がいいんじゃないか?」

 

 別段、凶悪なモンスターが帝国に攻め込んでいるわけではないようだし。

 ただ、闘技場なる施設では血生臭い試合が(おこな)われているのを知って吐き気を催したものだ。

 本物の殺し合いエンターテインメントにされているのだから。あと、奴隷市場

 こちらは想像していたものと違い、金の為に自分の人生を売る人が多く、何処からか(さら)ってきた人間の売り買いは滅多に(おこな)われていないという話しだった。

 高額だが森妖精(エルフ)が主に流れてくる、らしい。

 あくまで噂に過ぎなく、直接確認していないので。

 

人身売買が合法というのは信じられんな」

奴隷制度があっても不思議じゃないけれど、街中を見る限り、強制労働している雰囲気は無いんだよな」

 

 道端で森妖精(エルフ)に暴力を奮う場面は今まで見た事が無い。

 

「……なによりもこの世界の冒険者ギルドには上のランクの仕事が請け負えない規則がある事だ」

 

 前の世界では危険な依頼も特に制限無く請け負えた。それがこの世界では安全を考慮された親切設計。

 ある意味ではありがたいのだが、規則に束縛された仕事というのは自由を愛するものの敵としか思えない。

 文句があるなら昇進するしかない。

 

「村人から借りた金も返さなければな」

 

 金貨数枚程度とはいえ物価から考えて結構な大金になると今更ながら知った。

 今の冒険者ランクでは返すまでにまだまだかかりそうだ。

 それほどの額を見ず知らずの異邦人に貸したのだから、恩は必ず返さなければ相手に悪い。それくらいはカズマも思っている。

 借金を踏み倒した事は無い。それだけは自信を持って言える。

 

          

 

 あくる日、冒険者ギルドに行った立花は昇進試験の権利を得た。

 カズマ達は少しサボり気味だったので後日となるようだ。

 

「昇進試験は鉄級冒険者と共に仕事を請け負ってもらい、依頼を完遂することです」

「はい」

 

 カズマ達の意見では今のところ出来る限り収入面の向上に務める事にしていた。

 大きな事件性のあるものに無闇に首を突っ込まない。そういうスタンスを取ろうと決めていた。

 立花も命と引き換えにするようなことには否定的だったのでカズマの意見に同意した。

 

カッツェ平野の中にある兵士の訓練場に出てくるアンデッドモンスターの討伐です。他の冒険者と共に(おこな)ってください。兵士達は訓練に集中するので冒険者の手伝いは基本的にしません」

「分かりました」

 

 討伐予定のアンデッドモンスターは昔からバハルス帝国に現れる骸骨(スケルトン)など。弓や剣を持っている者も居るけれど強敵という程ではないと言われている。

 他の冒険者と一緒に行動するとはいえ無理に一人で戦え、という内容ではないことは何度か言われた。

 準備期間を設け、仕事開始は次の日から五日間ほどの予定で始められる。

 カズマ以外ではターニャの二人で(おこな)う事になった。

 

「現場は少し遠いが……。やれるのか?」

「無闇に生き物を殺す仕事ってわけじゃないみたいだから……。たぶん大丈夫だと思う」

 

 同じような声で会話する二人に対し、共に仕事をする鉄級冒険者チームは全員が大人だ。

 普通に考えれば子供達と一緒に仕事をする事になるので不満があって当たり前と言える。だが、彼らは黙って立花達を受け入れる事にした。

 首から提げているプレートは偽物ではないので。

 

「亜人も出るかもしれない。君らはアンデッドだけに集中していい。いくら多く倒そうと仕事内容にはあまり関係ない」

 

 あくまで五日間無事にやり遂げるのが目的。アンデッドモンスターを多く倒すことではない。

 

「多少のケガは信仰系が治癒するがマジックアイテムの使用は無いと思ってくれ」

 

 回復アイテムはとても貴重で高額だから低ランクの冒険者に使うメリットが無い、という意味だ。

 飲食に関しては出来るだけ自前で用意するように、と言われた。

 

「了解した」

「よろしくお願いします」

「倒せそうにないモンスターなら遠慮なく逃げるから、君らは自分の身を守る事に集中しているといい。合同の仕事はいつだって誰かが足を引っ張るもんだ」

 

 と、にこやかに語るのは経験者だからだ。

 彼らとて昇進試験を受ける冒険者だ。自分たちが通ってきた道を若い者に教えることも生き延びる為に必要だから言っている。

 請負人(ワーカー)と違い、ある程度の責任意識を持つのが冒険者というものだと思っている。

 


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