ラナークエスト 作:テンパランス
それからは流れ作業が続いた。
痛めつける役に神崎。とどめはメイド達。
死体処理までこなす。
辺りは普通ならば血の海と化すのだが時間経過と共に蒸発しているようで、今のところは綺麗な大地に点々とした流血の跡があるだけだ。
「新たな敵影を確認」
「対象は
「
「
敵は日本だけではなく中国神話も混じっている。
更に合間に北欧神話や他の神話系も出てくるようになった。
とはいえ、神崎は実物を見た事が無いので名前を告げられても『そうなんだ』という感想しか出て来ない。
巨大なモンスターには驚くがそれがどういったものなのか全く分からない。
ほぼ伝説や神話の中の存在なので。
円卓の騎士だろうと伝説の騎士達だろうとモンスターであるならば倒すだけだ。
全く聞いた事の無いモンスターも出てくる。とにかく倒してしまえば皆同じだ。
物理攻撃が通用しないものはメイド達が特殊な力で殲滅していく。
そうして2500体に達するまで倒し続ける。
メイド達の協力を受けているとはいえ少しずつ丈夫なモンスターが出てくるので時間がかかる。
思っているほど数は稼げていない筈だ。
歯ごたえがあるのは良い事だ。
棒を大剣に変化させ、一薙ぎしても受け止めてくるようになってきた。
硬い鉱石系のモンスターが少ないのは運がいいといえる。
狼に象。後はたまに空から襲ってくる
英雄が出てくるのは構わないのだが、海から上がってくるのは滑稽だ。つい苦笑して攻撃を受けそうになる。
「殲滅数が2000体に到達」
後500体。
数が少なくなるに連れて倒すのに時間がかかったり、巨大化したものが現れたりする。
五メートル。十メートルは既に驚きに入らないほどだ。
それでも小さな人間である神崎に倒されるのだから強さ的には大した事がないのか、と思わないでもない。
形状変化する武器を使っているとはいえ無効化は今のところされていない。
無効化されてもメイド達の攻撃には太刀打ちできていないようだが。
「
ついに出て来たか、と神崎は思った。
空飛ぶ巨大モンスターの代表格ともいうべき相手。
だが、その数は想像を超えていた。
様々な色合いの
ブレス攻撃をされれば神崎と言えど耐えられる自信は無い。
一体くらいならどうとでも出来ると思うけれど。
今まで素手攻撃だったメイド達も新たな脅威に対し、武器を携帯し始めた。
それぞれが得意とする得物のようだ。
「危険度を一段階引き上げ、各自散開」
「了解しました」
七人のカラフルなメイド達が一足飛びにモンスターの群れに飛び込み、蹂躙していく。
的確に首を落とすのでダメージを与える、というよりは確実に死を与える戦法だ。
大して神崎は無闇に武器を奮うのみ。それでもモンスターからすれば脅威ではあるけれど。
単純な破壊によって戦闘不能に至らしめる。これが人間であれば一撃でも受ければ戦闘の継続はほぼ困難だ。
それに耐えるモンスターの肉体の強固さは素直に凄いと思った。
なにしろ
「
小屋に待機しているメイドが淡々と告げてくる。
そのモンスターは海から来るのだが、身体が大きい。
今までの二倍以上はあるかもしれない。
さすがに神崎でも逃げ出したくなる規模だ。
少なくとも
海から上がる巨大モンスターの影響で津波が押し寄せてくるが、それらはメイドによって防がれる。だが、それでも限界がある。
黙っていると小屋が流されるので移動しなければならない。
辺りに安全なところは無さそうだ。無いなら作るしかない。あるいはメイドの一人に支えてもらうか、だ。
「……しかし、これだけのモンスターが居るんですね」
「この島の近辺に深い海溝があるからでしょう」
「とにかく、小屋は波の影響の無いところに移動させてください」
「畏まりました、ご主人様」
赤い髪のメイド、閼伽井は語尾がほぼ『ご主人様』となっている。それは誰に対しても同じだ。
どうしてそうなのか、他のメイドにはうかがい知れない事らしく不明と言っていた。
言うが早いか、二人のメイドは小屋を意図も簡単に持ち上げてモンスターが少ない場所に向かって突進し、そのまま姿が見えなくなった。
巨大モンスターの事は気になるが火雅李の身の安全も大事なので、他のメイド達に任せて後を追う。
途中、たくさんの女性型モンスターと出くわしたが一部はメイド達に潰されたようだ。
† ● †
東方の島だと言われているが全体像は把握出来ていないので現在位置が分からない。
一応、平原と森があるようだ。あと、川も見つけた。
無いのは人の営みか。
ほぼモンスターといってもいいくらいだ。
「残り300体。邪神系の存在を確認」
邪神と言われても詳しくないので分からなかったが人型。
そろそろ
「この世界は普段からこうなんですか?」
「分かりかねます」
もし怒涛の攻防ならば現地の住民は暮らしにくいのではないか。
それとも妥当しえる力を持っているのか。
持っていないのであればモンスターしか住んでいない弱肉強食の世界だ。
それでも彼らは互いと殺し合いはしていない。少なくとも秩序はある気がした。
神崎達という共通の敵を倒す、という。
先ほどの獣人の国のように文化がある事を思い出した。
あまりの展開につい忘れていたが、文明があるだけ安心する材料にはなった。
「とにかく規定数は倒さなければ……」
光る剣を持った英雄とかを蹴散らしながら神崎は取っておきを呼び出す。
手持ちの棒をひとまとめにし、粘土をこねるように混ぜ込んで一つの大きな塊を作り上げる。
それを宙に放ればその場で停止する。
それから先は自動的な現象が起きる。
「大型モンスターには巨大ロボット……。さすがにこれ以上の巨大モンスターは出て来ない事を祈ります」
「
モンスター名を言われても困るけれど、やってくるモンスターはとにかく倒すのみだ。
黒い玉のようなモンスターが近付く前に姿を現すのは確かに巨大ロボットと言われても仕方の無いものだった。
「メエエエェェェ!」
全体的に黒い人型で無機質な外観はロボットそのままだが、その形状の由来は日本のアニメが多大に影響している。
身長は
変形するので更に大きくなれるし、神崎を潰さない程度に小さくなる事も出来る。
意思ある武器は『これは使える』と単純な理由から姿を想像し、今に至る。これは神崎が設計したものではない。
本質的には機械的なロボットではなく意思ある無機物の集合体というだけだ。それが何で出来ているのか調査したところで結果は古木に類する植物としか出ない。
それが何故、多種多様な形態変化を起こすのか。今もって謎である。使っている神崎はそういう細かい部分は知りえていない。
ただ、出来るから出来る、という認識だ。
その神崎が持つ意思ある黒い棒の名前は『
そのロボットモドキに神崎は乗り込む。
形態変化の武器の発展型とも言うべきものなので動きはとても流動的だ。
自分の動きを完全に真似てくれる優れもの。
そして、神崎の力によって自壊しない強さを秘めている。
手を長大な剣に変えて横薙ぎすれば黒い玉のモンスターが弾き飛ばされる。
今の一撃で両断できなかった事と手に伝わる感触で相当な硬度があると神崎は認識する。
受けるダメージはある程度、緩和されるが一通りの感触は操縦者である神崎に伝わる仕組みになっていた。
生体リンクとか色々と言われたが、原理は不明。
分かるから分かる、という程度だ。
自分の動きたいイメージそのままに黒い巨大ロボットの武神『
「神崎様は
「分かりました」
と、普通に答える神崎。
担当したとはいえ硬い敵に少し苦労しそうだと思い、苦笑する。
複数の触手の動きは辛うじて捉えられるが、球形の身体は傷つけられるのか疑問だ。
斬撃に特化しているわけではないので叩き潰すしか無いけれど、潰せるのかな、と不安はあった。
「メエエエェェェ!」
五本の太くて短い足を器用に動かす
こういう奇妙な生物が存在する世界にほとほと感心させられる。
多数の
「なかなか丈夫で感心した」
苦笑する神崎は敵性モンスターに向かって駆け出す。
普通であれば視認が困難な触手の動きは感覚的に読み、適度に武器で弾いたりする。
二体同時に相手にしても引けを取らない姿を現地の住民の誰にも目撃されていない事が悔やまれる。