ラナークエスト   作:テンパランス

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#005

 act 5 

 

 一通り装備品が決まった後、王宮内にある一般兵の訓練施設で基本的な武器の扱いを学ぶ。

 戦士職を持たないラナーに出来る事は今のところ攻撃を回避することだ。

 後は的確に武器を振るう事が出来れば大丈夫のはず、とクライムは思っていた。

 低いレベルは何かと不安要素がいっぱいだ。

 軽装ではあるが武具を装備したラナーの見栄えは良かった。

 

「モンスター相手なので動きをしっかり見て対処してください」

「はい」

 

 訓練と実戦は違う。

 実際の戦闘を(おこな)う時になって初めて恐怖心を覚える事もある。

 

 カン。キン。

 

 と、小気味良い金属音が響く。

 武器に慣れてもらうので、軽く使ってもらい、それから少し体力づくりの鍛錬を始める。

 楽してモンスターは討伐できない。それが弱い小鬼(ゴブリン)であっても。

 

「伝説の武器を装備したからと言って(ドラゴン)は倒せません」

 

 特にレベル2で。

 理想と現実は違う。

 (ドラゴン)の鱗を断ち切る筋力が無ければ伝説の武器だろうと弾かれる。仮にスパスパ切れるとしても黙ってやられる(ドラゴン)は居ない。

 

「一日では何の効果も無いと思いますが……。適度に頑張りましょう」

 

 頑張って戦士のレベルをクライムは上げてきた。

 あまり技術を磨かなかった彼は実直なクラスを得ている。

 小技を絡めるクラスを得ていれば駆け引きも色々と出来たかもしれない。

 

「ラナー様はどんなクラスを身につけたいのですか?」

「面白いクラスでしょうか」

 

 王女に相応しいクラスを取る気は無いけれど、色々と身につけたら面白そうと思った。

 そもそも職業(クラス)はどれほどの数が存在するのか。

 自分の知りうる限りではかなりあるはずだと推測する。

 

「専門書があればいいのですが……。事細かに記された書物は……」

 

 あればあったで国家機密級のような気がした。

 魔法の知識も一般に出回っているのは少ないと聞いた覚えがある。

 

「暇だからといってお遊び気分で命を落としては一大事ですものね。ちゃんと頑張ります」

「その意気です」

 

 鍛錬しても新しい技は簡単には覚えられないし、ステータスも大して上昇しない。

 それでも身体を慣れさせる上では必要だ。

 

          

 

 激しい運動を(おこな)った身体は翌日、筋肉痛となって襲ってくる。

 適度に運動していけば苦しみも和らぐが、今は苦労の連続だ。

 剣の鍛錬の他に王女としての振る舞い、勉強も(おこな)う。

 本来はもう少しレベルが高かったが冒険者になる上で様々な特技が消えてしまった。なので改めて覚えなおしている。

 さすがに頭が急に悪くなる事は無かったようだ。

 

「知識は問題ないようですわ」

「戦闘以外でも経験値を積めるところはありがたいですね」

「数字が見えないのがもどかしいですわ。123ポイントほど増えたとか」

「専門のアイテムがあればすぐに分かる筈ですが……」

 

 舞踊を学び、歴史の勉強にテーブルマナー。これで経験値が入らないのは勿体ない。

 そもそもレベルを上げる必要があるのか、という問題がある。

 様々な恩恵は得られるが上がれば上がるほど必要経験値の量は増えていく。

 より強いモンスターというものは意外と少ないものだ。

 強くなれば弱いモンスターから獲得できる経験値は減少する。それが中々強くなれない原因の一つとなっている。

 生息しているモンスターの種類や強さは無限ではない。

 王国の周りにありとあらゆるモンスターが居るのであれば、それはそれで脅威だ。

 自然淘汰されていけば危険なものばかり残るのは必然。

 

「モンスターを倒す前に倒れそうですわ」

「最初は何でも大変ですよ」

「大怪我をしないように頑張ります」

 

 冒険者組合に行く途中で気がついた。

 獲得した経験値をどうやってレベルアップに使うのか、実は知らないということに。

 

          

 

 受付嬢に尋ねても首を傾げられた。

 自然と強くなるものだと言われた。

 既に集まっていたレイナース達にも聞いてみるが一様に首を傾げていた。

 

「自然と強くなる事がレベルアップなのではないか?」

「必要経験値と言うくらいですから、何らかの方法があるのでしょう」

 

 そもそもどうして王女(プリンセス)のレベルが2となっているのか。

 

 

 ナーベラル・ガンマのステータス。

 種族

 『二重の影(ドッペルゲンガー)』レベル1

 職業(クラス)

 『戦士(ファイター)』レベル1

 『戦闘魔術師(ウォー・ウィザード)』レベル2

 『装甲魔法使い(アーマード・メイジ)』レベル1

 HP19

 MP18

 物理攻撃21 物理防御25 素早さ20

 魔法攻撃23 魔法防御23 総合耐性22 特殊25

 

 クルシュ・ルールーのステータス。

 種族

 『蜥蜴人(リザードマン・)覚醒古種(アウェイクン・エルダーブラッド)』レベル1

 職業(クラス)

 『森祭司(ドルイド)』レベル1

 『精霊祈祷師(スピリット・シャーマン)』レベル2

 『召喚士(サモナー)』レベル1

 HP17

 MP15

 物理攻撃15 物理防御14 素早さ13

 魔法攻撃17 魔法防御14 総合耐性17 特殊19

 

 レイナース・ロックブルズのステータス。

 職業(クラス)

 『貴族戦士(ノーブルファイター)』レベル4

 『呪われた騎士(カースドナイト)』レベル1

 HP16

 MP12

 物理攻撃24 物理防御21 素早さ23

 魔法攻撃15 魔法防御23 総合耐性22 特殊18

 

 アルシェ・イーブ・リイル・フルトのステータス。

 職業(クラス)

 『魔術師(ウィザード)』レベル3

 『学問魔術師(アカデミック・ウィザード)』レベル1

 『上級魔術師(ハイ・ウィザード)』レベル1

 HP12

 MP16

 物理攻撃8 物理防御12 素早さ10

 魔法攻撃7 魔法防御18 総合耐性14 特殊16

 

 

 全員がそれぞれ基本的なステータスを把握し、数値の謎に首を傾げる頃、もう一つの問題を思い出す。

 チーム名だ。

 ラナーは特訓の為に全く考えていなかったが残りのメンバーが代わりに議論してくれたのか。そうでなければ改めて考えるしかない。

 

「チーム名か……。最終判断は王女がするといい」

 

 結局のところ決まらなかったらしい。

 

「というか、リーダーが私でいいのですか?」

カリスマを持つ……、今は無いか……。持っていた事にしようか。王女の風格は色々と役に立つ」

 

 レイナースの判断にナーベラル意外が頷いた。

 ナーベラルは社交的ではないようだが、参加しているところは仲間だと思うことにしたのか。その辺りは見た目ではうかがい知れない。

 

「『金の玉』はいかがでしょうか?」

 

 天真爛漫の笑顔でラナーは言った。

 

「……それはやめた方がいいな。……うん、それは王女として何かを失う気がする」

「そうですか? 金の……」

 

 レイナースはラナーの両肩に手を叩きつけるように置いた。

 

「絶対に却下っ!」

 

 血走った目でレイナースは拒否してきたのでやむなくラナーは諦める事にした。

 何が駄目なのか後でクライムに聞いておきましょう、と思った。

 

「で、では『黄金の仔山羊』はいかがですか? 何となく強そうですし、モンスターを蹂躙しそうな気が致します」

「仔山羊か……。確かに()()()()()な気配を感じる」

 

 ナーベラルが反対意見を出さなかったので了承と受け取る事にした。

 仔山羊(こやぎ)の中に蜥蜴(とかげ)が居るけれど。

 反対意見が出ない内に登録を済ませた方がいいと判断した。

 重複しなければチーム名は割りと自由だった。

 レベルに関しては冒険者組合も詳細を把握していないとのこと。

 とにもかくにも冒険者パーティ『黄金の仔山羊』は無事に結成した。

 まず目標は下がった分のレベルを元に戻すこと。

 

「雑魚モンスター相手では何年もかかりそうだが……。何事も最初が肝心だ」

王女(プリンセス)ラナーと愉快な仲間達」

「愉快そうな顔ぶれではない気がしますよ」

 

 結成した冒険者はいきなり仕事はせずにお祝いなどをして結束を固めると聞く。

 それぞれの装備はバラバラ。職業(クラス)も違う。

 こんな状態で戦闘に入るのはまだ少し危険だ。

 慎重な冒険者ならば綿密な計画を立てる。力に自信がある者は気にしないところだが、女性パーティで銅プレートならば無理に命を危険に晒すような真似は無謀以外の何者でもない。

 

「……社会勉強に関して異論は無い」

 

 と、ナーベラル。

 

「失ったレベルが気になりますが……、自分の可能性が広がるのであればリーダーに従います」

「改めて聞きますが……。リーダーは私でいいのですか?」

「代表者としてなら文句は無い。的確に指示も出してくれそうだしな」

「副リーダーならば私が努めさせて頂きますわ」

 

 クルシュの言葉にレイナースとアルシェは頷いた。

 

「本格的な活動は明日から……、ということでよろしいでしょうか?」

 

 ラナーの言葉に四人は同時に頷いた。

 早速、拠点とする宿屋の選定から。

 女性五人の冒険者が泊まれる大部屋のある安い宿は比較的、あった。

 贅沢を言わなければ寝床とシャワー、多少の食事も付いてくる。

 ラナーは自分の資金が豊富なので数人分は肩代わりできる。レイナースはバハルス帝国から支給された給金のたくわえがあった。クルシュは見聞を広めに来ているので最低限の資金しか持っていない。

 トブの大森林で集めた薬草などを売って得たものだ。

 アルシェは元々持っていた資金があるが、心許ない額だった。だが、仲間から借りるのは気が引ける。

 

「私は冒険者となってモンスター退治がやりたいだけなので、報酬は皆さんで分けてくださいな」

「諸君、命は金よりも重い。変に我慢せず相談してほしい」

 

 レイナースは周りに向かって言った。実際はアルシェのための言葉なのだが、あえて全員を対象にした。装備を見れば大体の事を把握する事が出来る。まして、アルシェとは同郷の仲だ。

 ナーベラルは主より活動資金を頂いているので、生活する事には問題は無い。

 弱体化しようが窮地を仲間と共に切り抜ける報告書を提出するように(めい)を受けた。あと、装備に関しても『戦闘メイド(プレアデス。またはプレイアデス)』のままで構わない許可を得ている。

 当たり前だが、チームを組んだ以上は仲間を殺してはいけない。後で色々と問題が発生するから。

 それぞれ明日からの活動に少しばかりの不安を覚えつつ宿屋で本格的な戦略会議を始める事になった。

 亜人と異形も特に問題なく宿が取れたことは後々になって気づいたが、気にしても仕方がない事もあるのかもしれない。

 


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