ラナークエスト   作:テンパランス

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#037

 act 11 

 

 冒険者組合は四階建てほどの大きさがあり、両開きの木製の扉が入り口にはまっていた。

 時代を感じさせる風情は転生する前にやっていた()()()のようだった。

 入る分には制限が無く、依頼をする者と依頼を受け者が利用する。

 ターニャはめぐみんを伴ないつつ扉を開ける。

 待合室と思われる一階の空間は広く、無数の人々がたむろしていた。

 殆どが男性だが女性も居た。性別による制限は無いようだ。国によっては男女不平等が当たり前ということもありえる。時には黒人の奴隷を引き連れている事だって歴史の中にはあった。

 この国の人間の多くは白人系。東洋系は見当たらない。

 奥に受付があり、近くの壁には依頼書が無数に貼り付けられた掲示板があった。

 中に居る人間達を見て気づいたことがある。

 

 誰一人として軍服を着ていない。

 

 場違い感はあるが冒険者の集まりならば仕方が無い。それが一般的な日常風景だと思われるから。

 軽く息を吐いてターニャは歩み始める。

 そこで気付いた。お金は全て立花に預けている事を。

 それでも話しだけでも聞いておく必要がある。

 受付と思われる場所に向かって、そして気付く。

 自分の背丈では受付嬢の顔がほぼ見えない事を。

 周りに居る人間達は屈強な筋肉質に背が高い者ばかり。

 小さな子供の姿など殆ど無かった。

 ターニャは近くにあった椅子を受付まで運んで、それに乗ってようやく受付嬢の顔を見据えられた。

 

「よ、ようこそ。冒険者ギルドへ」

 

 受付嬢は顔を引きつらせていたがターニャとしても彼女の気持ちは手に取るように理解出来る。

 

 何しに来たんだ、この子供は、と。

 

 好きで来たわけではない。必要に迫られて来たのだ。

 

「冒険者になりに」

「へ、へー……」

「まずは冒険者とは何かを教えてもらおうと思って」

 

 周りの冒険者に尋ねても子供だと思って嘘を吹き込まれてはたまらない。

 ここは素直に専門の人間に直接尋ねるのが正しい。

 

「めぐみんはそこの掲示板でも眺めているといい」

「……全く読めません……」

「……だろうな」

 

 めぐみんは読めそうなものが無いか探していたが全て帝国語なので全く理解できなかった。

 

「冒険者になるのに年齢制限はあるのか?」

 

 文字は読めないが言葉が通じる不思議世界。

 そういえば理不尽な世界というのは一体どれだけあるのか。

 

          

 

 冒険者には(カッパー)級からアダマンタイト級まで八つの階級が存在する。

 駆け出しは()()()()()の依頼しか受けられない。無理して背伸びする事は規定で許可が降りない事になっている。

 脅威の規模によっては飛び級が認められることが特例であるらしいが、基本的に規定の依頼を達成した後で昇級試験を受ける資格を得て、その試験を達成する事で昇進が認められる。

 報酬は依頼達成時に支払われる。

 入社して一ヶ月怠惰な生活をして給料がもらえたりはしない実力主義の内容だった。

 依頼失敗時や不正に対しては厳しく、戦争に参加する事も禁止されている。

 普通なら屈強な冒険者を兵士として使いそうだが、そうなると冒険者同士の殺し合いになり、本来の冒険者としての仕事が出来なくなる、とかなんとか。

 とにかく、色んな制約がある仕事だった。

 登録は最初だけ有料で国の領内を移動する為だけに登録する人が多い。

 

「帝国民と認められれば家を持ったり、仕事に就くのは自由です。その後で引退されても構いません。その時は冒険者プレートメンバーカードを返却していただきます」

 

 メンバーカードを返す前に住民票のような書類を手に入れておけば冒険者として働く必要は無くなる。

 ただし、ミスリル以上は国の異変に対する召集に応じなければならない義務が発生する。

 

「仕事内容は?」

「それは冒険者の人達にしか教えてはいけない決まりになっています」

 

 事前に情報が得られるのはここまでか、とターニャは納得して椅子から降りる。

 一応、靴跡が付いてないか確かめて元の場所に戻し、受付嬢に感謝の意を伝える。ただ、受付嬢側からターニャの様子は死角になっていて見えなかった。

 一旦、帰ろうと思ったターニャが出口に顔を向けるとカズマ達が入ってくるのが見えた。

 

「おうおう、たくさん冒険者が居るわね」

「我々の居た街と似ているな」

 

 立花を含めた四人がめぐみんと合流する。

 

「立花。預けた金を渡してくれ」

「うん」

「えっへん。あれからだいぶ資金は増えたわよ」

 

 アクアが自信満々に言いながらもう一つの皮袋をターニャに見せる。

 

「そうか。無駄遣いするなよ」

 

 それだけ言って自分達の皮袋の中身を確認するターニャ。

 登録料は銀貨一枚。代読料は銅貨十枚だと聞いている。あまり多用できないが仕事内容次第ではしばらく利用する事になる。

 他の収入源は思いつかないし、店で働くにも給料制なら結局はたくわえが必要になる。

 借金するにもバハルス帝国の法律はまだ知らない。

 あまり頭を使わなくて済みそうなのが冒険者の仕事だ。聞いた感じでは日雇い労働者と同義のようだ。

 

「立花も登録しておくといい。そうしないと色々と就職も大変らしいから」

 

 アクアを無視して受付嬢のところに向かうターニャ。

 

「なによ~、あの生意気な子供は~」

「現実主義者なのかもな、ターニャって」

 

 カズマ達の視線を気にせず銀貨を台に乗せるターニャ。

 

冒険者登録をしたい」

 

 立花も台に銀貨を乗せる。

 

「お二人でパーティを組むんですか?」

「ソロでは駄目なのか?」

「いえ、別々でも問題はありませんが……」

 

 椅子を持ってきてターニャは改めて乗った。

 毎回、椅子に乗らなければならないかもしれないと思い、専用の台を探しておこうと思った。

 料金を支払ったのだから受付嬢は仕事をしなければならない。だから、気合を入れる。

 

「では、まず冒険者の規則から説明を始めます」

 

 冒険者ギルド名物の長文説明が始まる。

 役目や報酬、罰則規定が長々と説明されるがターニャは眉一つ動かさず聞き入っていた。

 途中で質問を受け付けるが立花は最初の説明を忘れるくらい頭から抜けてしまっていた。

 

「戦争に関われない、というのは?」

「冒険者は基本的に国に関わる仕事は出来ません。よほどの緊急事態でもない限り」

 

 と、定型文的な言葉が続く。

 ターニャは気になった質問はどんどん投げかけていき、受付嬢はしっかりと答えていった。

 

「生態系を壊すことも禁止……」

 

 モンスターを絶滅するまで討伐してはいけない、というものだ。

 他の冒険者の仕事が無くなる、ということと人間以外の人種の保護という観点があるらしい。危害を加えてくるようなモンスターは倒していいが、無闇に生物を虐殺してはならない、ということらしい。

 

「冒険者になったからといって税金を納める義務はありませんがいくらかの手数料は発生します。それらは冒険者に報酬を支払う時に天引きいたしますから」

「なるほど」

「事前に天引きって……、半額くらい?」

 

 と、カズマが受付嬢に尋ねて来た。

 

「それはお教えできません」

「例えば月一千万の収入があったら半額は税金として徴収されるとか」

「金貨一千万枚ともなれば広い領地が買えますよ、きっと。そこまで高額な報酬は聞いた事がございません」

 

 それが銅貨だとしても基本的に冒険者組合は両替はしていないので適切な金額を支払うシステムになっている。

 他国の貨幣を両替する場合は検問所で手続きをする必要があると受付嬢は教えてくれた。

 ちなみに王国と帝国の貨幣価値は同等。

 

「それから信仰系の方はお仲間にいらっしゃいますか?」

「んっ? 信仰?」

「回復役のことじゃないか」

「冒険者の規定では仲間同士の癒し以外の回復処置は禁止されております」

「はっ!?」

 

 カズマだけではなく、アクアやターニャもつられて驚いた。

 

「治癒は神殿関係の収入源なので、ケガ人を見つけた場合はお近くの神殿まで案内してください。……つまり勝手な無料奉仕は営業妨害に当たりますので」

「……なんと世知辛い国なんだ」

「ここにも宗教の魔の手が……」

「冒険者は色々と制約があるようだな」

 

 入国管理が甘い分、どこかで厳しい制約が生まれている。

 楽ばかりではない事はターニャの他にダスティネス・フォード・ララティーナことダクネスも理解した。

 

「この国の兵士に志願する場合は?」

「それは役人にお聞き下さい」

 

 質問が無くなったので残りの規約などを端的に受付嬢は言い続けていく。

 質問無しでも五分は続いた説明が終わると受付嬢は軽く息を吐く。

 

「そちらの方も冒険者になるなら登録料をお支払い下さい。今なら説明が省略出来ますよ」

 

 カズマ達は唖然としたままそれぞれ料金を払った。

 それは洗脳に近い。

 

「以上で説明を終わります。ではまず、メンバーカードを用意しますので氏名を書いてください。もし、字が書けない場合は代筆いたします。その場合は手数料として銅貨二枚を頂きます」

 

 識字率が低いからこそ出来る収入。

 なかなか油断の出来ない世界だとターニャは思った。

 


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