ラナークエスト   作:テンパランス

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#035

 act 9 

 

 帝都の中心に皇帝『ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス』の住まう皇城があり、その周りを帝国魔法学院などの重要施設が取り囲んだ形となっている。

 魔法文化が発達しており、多くの魔法詠唱者(マジック・キャスター)を育成している。

 軍事国家でもあるので兵士の育成も(おこな)われている。

 海軍を除く地と空の部隊は豊富だ。

 道路の整備。下水道の完備。治安維持も徹底されていた。

 もちろん、影の部分もあり、高級住宅街の殆どは没落貴族が今も存在し、色々と騒動を巻き起こしている。

 皇帝が今の地位を得るまで多くの貴族を粛清してきた為、没落貴族には恨まれているが国民の人気はとても高い。

 先の戦争に勝利し、帝国の発展に貢献したとも言われている。ただ、新興国家『魔導国』の後ろ盾になった事でかの国の建国の為に多くの国家予算が投じられ、実は財政がかなり悪化している。

 なので次の戦費が捻出できず、兵士達の訓練にとどまっている。ただ、そのお陰で国民視点では平和な時を過ごしているように見えている。

 

          

 

 ターニャ達は村の青年たちによって帝都の案内を受けていた。

 まずは場所の把握や店の様子などの確認作業だ。

 食文化などを伝えていく。

 無一文に近いターニャ達に僅かばかりの金銭を貸し付けておく。これは日頃、冒険者にお世話になっているお礼を兼ねている。

 今年も無事に農産物を収穫できた事で村には多大な利益が入ってきた為だ。

 

「冒険者になって余裕が出来たら返してくださいよ」

「善処させていただく」

「ありがとうございます」

 

 それぞれ頭を下げて感謝の意を表す。

 さすがにカズマも頭を下げた。

 

「仕事をするにも帝国民になる必要があります。一番簡単なのが冒険者になることです。ただ、一度帝国民になると帝国内でしか仕事は出来ません」

「王国や法国に赴くと捕縛されるのか?」

「それは無いと思いますが、許可が必要になるはずです。農民の我々は勝手に他国と商売はできませんからね」

 

 噂話などは冒険者ギルド魔術師ギルドに行けば比較的、手に入る事を教えられた。

 物価の事も()()()()は教えてもらったが、御礼が出来ないのは申し訳ないと思った。

 あまりにも親切な場合は裏があるものだが、完全な善意という事もある。

 年中戦争をしている国家ではないようだが、平和に慣れていないのかもしれない。というよりは彼らの本来の敵は王国よりはモンスターだという。だからいくつか常識に乖離がある。

 南方に人を食う亜人が居るのだから人間同士で争っている場合ではない、という理屈でもあるのかもしれない。

 

「カズマ、カズマ。さっさと冒険者ギルドに行きましょうよ」

「この世界の冒険者が向こう(アクセル)と同じとは限らないだろう」

「ここまでお世話になりました」

「有名になってください」

 

 そう言って村の青年達は立ち去っていった。

 随分とあっさり引き下がったが、それが帝国の国民性なのか、とターニャは首を傾げる。

 悪辣な存在Xならばどんな嫌がらせをしてきても不思議ではない。不思議ではないのだが呆気に取られていた。

 これが親切というものならば正しく奇跡だ。

 


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