ラナークエスト   作:テンパランス

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#034

 act 8 

 

 立花の所用が済んで尚、検問は続いていた。

 一応、ターニャは立花にアクア達の補佐を命じておいた。

 同じ女性なのだから扱いは()()に任せた方がいいと判断する。

 検問の様子を確認する為に荷台から降りて、御者(ぎょしゃ)台に相席する。

 

「検問方法はどんなものですか?」

「荷物検査の後で気になる事があった場合のみ、魔法詠唱者(マジック・キャスター)の魔法での検査を受けます。いちいち裸にしませんので大人しくしていただければ、特に問題は無いかと。……あ、向こうのアクアという女性とか目立つ髪の色の方は狙われるかもしれませんね」

 

 現地民の多くは黒髪と金髪。目立つものほど検査を厳しくされるかもしれないという。

 持ち物も怪しければ検査対象になる。

 ターニャは演算宝珠。立花はアームドギア

 アクア達はそれぞれの武具類だ。

 

「皆さんが冒険者ならば武器を持っていても問題は無いのですが……」

 

 マジックアイテムを探知する魔法が存在し、検知されると事態がややこしくなる。

 敵意がない事を主張するしかない。少なくとも軍事国家とは相性がいいはずだ。

 変に隠匿するよりは堂々としている方が騒ぎの度合いも変わる。

 魔法に対抗できるのは魔法だけだろうし、それはそれで検知されやすくなり事態は悪化するばかりになるのは自明だ。

 

「我々のせいで迷惑を被るかもしれない。先に謝罪させていただきたい」

「いえいえ。色んな旅人さんにはそれぞれの事情がありましょう。帝国にあだなすような事件はせいぜいがモンスター関連です。この国の皇帝陛下は寛大な方ですので、滅多な事は起きないと思います」

 

 にこやかに答える青年。

 これが自分の祖国なら即刻捕縛し、数時間の尋問の後、拷問か射殺対象ではないかと思う。

 さすがに射殺は言い過ぎか、と思わないでもない。

 とにもかくにも検査とやらを実際に確認せねば対処の仕様が無い。

 ここから見える限りにおいて馬車を憲兵などで取り囲んでどこかに連れ去るような事は確認できなかった。

 この世界は科学技術は低く、魔法技術が高い世界なのかもしれない。

 兵士の武装は腰に下げている剣のみ。

 銃剣類の開発が未発達とも言える。

 なるほど、とターニャは呟く。

 同じ()()()でも色々と差異があるようだ。

 

          

 

 立花が戻ってきた十分後にようやく検問の順番が回ってきた。

 早朝はもっと込むらしい。

 いわゆる商店街に商品を(おろ)す関係で。

 いくつかある検問所はどこも似たようなもので、ここだけ特別込むという訳ではないらしい。

 もっと簡単に通る場合は冒険者登録をする事と城詰めの兵士になること。帝都に住居を構えたり、貴族になったりすればいいという。

 

「王国で麻薬の取り引き事件がありまして、農家の積荷は厳重に調べられるんですよ」

「いやしかし……。一般人に売人が居た場合はどうするのかね?」

「もちろん、怪しければ調べます。外から中に入るより、中から出る方が楽だと聞いた事があります」

 

 それは普通に考えれば当たり前のように聞こえる。

 外から品物を受け取って中に持ち込むのが困難という事だ。

 つまり意外と検問というのは簡単な手続きなのかもしれない。

 それでいいのか、とターニャは疑問に思う。

 とはいえ、オープンな(開かれた)国と言えなくも無い。

 仮想敵国が今のところ王国ならば王国民に対する偏見などは無いものなのか。

 

「国民というよりは……、そろそろ我々の番ですね」

 

 青年はターニャ達に中で大人しく待機するように言いつける。

 別に隠れなくてもいいので大人しくしている様に、と。

 検問所入り口まで馬車を進めると兵士達が二人ほどやってきた。

 

「旅人を案内してきました」

 

 青年はバカ正直に兵士に告げる。それはターニャの耳には密告に聞こえた。

 もちろん、それは自分の祖国での話しだ。ここでは当たり前の会話かもしれない。

 

「旅人か……。カッツェ平野を越えてきたのか?」

「それは……、分かりませんが……」

 

 兵士の一人が荷台を覗き込む。

 

「二名か?」

「はい」

 

 荷台を覗き込む兵士に青年は正直に答えた。

 そして、すぐに連れの存在も告げる。

 

「武器は……、携帯していないようだが……。見慣れない格好だな」

 

 一人は軍服。

 一人は普段着。ただし、立花の世界ではの話しだ。

 

「……念のためにお前たちは降りろ」

「お手柔らかに頼みますよ。我が村のお客人なので」

「怪しいマジックアイテムがないか調べる程度だ。さすがに麻薬類は持ち込んでいないだろうな?」

「お疑いならお調べ下さい」

 

 毅然とした態度で青年は言い放つ。

 

          

 

 検問所から一人の人物が姿を現す。

 検査の数が多く、交代制で魔法を行使している魔法詠唱者(マジック・キャスター)の一人で杖を持っていた。

 バハルス帝国は魔法技術に関して先進的な国で、多くの人材を保有している。

 朝の大行列には多くの人員が動員されて慢性的な人材不足に陥っていた。それでも経験値を積ませる意味では有効的なので改善策はずっと議論され続けている。

 

魔法探知(ディテクト・マジック)……おおっ!

 

 早速魔法を行使した。

 ターニャの目には確かに何がしかの魔方陣が見えた。

 呪文を唱えるのが仕様のようで少し興味が出た。

 

「……その胸の宝石はマジックアイテムだね。しかも、凄い代物だ」

 

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)は見た目には十代後半の若者に見える。

 ローブをまとっているが女性も居るようだ。

 

「没収されるのでしょうか?」

「う~ん……。道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)。……魔力増幅の(たぐい)のようだが……。凄まじい能力を秘めているようだね。実に興味深い」

「次が控えているんだから早くしたまえ」

 

 と、兵士が魔法詠唱者(マジック・キャスター)を促す。

 

「すみません。えっと、そちら……おおっ!

 

 魔法の効果が残っている内に立花の方に顔を向けた魔法詠唱者(マジック・キャスター)は更に驚いた。

 

「……君は身体全体が凄い事になっているね……」

「えっ!?」

 

 慌てた立花は自分の身体を見下ろす。そして、数分後に理解する。

 かつて胸全体というか身体を聖遺物に侵食された出来事を思い出す。おそらく、その事だと思い至り納得する。

 

「ちょっとした事故で……。でも今は大丈夫ですよ」

「両人共に胸のアイテムがマジックアイテムのようだけど……、召喚物や爆発は……。もっと高位の鑑定なら分かるかもしれないな……」

 

 唸り続ける魔法詠唱者(マジック・キャスター)の青年。

 それは不味い事なのかターニャは判断できなかった。

 だが、確実に道具を鑑定する能力があるのは確かだ。ポケットに隠しておくことは無理かもしれない。

 

「……ミスリル級冒険者以上ならこれくらいは妥当か……。悪用しない限りにおいては……、大丈夫だと判断いたします。あと、馬車の中は特に問題はありません」

 

 と、端的に告げると兵士は安心したのか、胸を撫で下ろす仕草をした。

 一応、街中で暴れれば拘束する旨が書かれた『制約書』を渡された。

 

「もし書かなかった場合は?」

「アイテムを置いていってもらうことになるよ」

 

 ターニャはともかく立花の場合はどうしようかと、魔法詠唱者(マジック・キャスター)は苦笑を浮かべながら対処を模索していた。

 身体そのものがマジックアイテムというのは動像(ゴーレム)のような人造物なのか、と疑問に思った。見た目には人間の女性なのだが。

 面倒ごとを避けるため、ターニャは名前を書こうとした。ここで帝国語で書くべきか村の青年に尋ねた。

 

「帝国の人が分かる文字なら帝国語だね」

「了解した」

 

 ターニャは青年に代筆を依頼する。どの道、帝国の文字はまだ分からないので。

 二人分の名前を書き終えて制約書を提出する。

 怪しいマジックアイテムを持っている人間ではあるけれど素直な態度に兵士と魔法詠唱者(マジック・キャスター)は安堵した。

 

「ようこそ、アーウィンタールへ。では、次の検問があるので失礼致します」

 

 軽く頭を倒した魔法詠唱者(マジック・キャスター)は次の馬車に向かった。

 ターニャ達は無事に通過できる事になったが、カズマ達の方は色々と騒ぎになっているようだ。

 賑やかな連中だ、とターニャは呆れつつ思った。出来る事なら他人を装いたいほどに。

 帝国の目下の問題はモンスターと麻薬で増幅系のマジックアイテム程度は問題が無いという。

 怪しいものは捕縛して尋問が普通ではないのかと。という事を興味本位で尋ねてみた。

 

「王国ならばありえたでしょうが、ここは比較的魔法関連には寛大な国なので」

 

 王国こと『リ・エスティーゼ』という国は確かにターニャの懸念を表現したような国で怪しい者はどんどん捕縛するらしい。

 ただ、それは噂であって実際に確認したわけではない、と付け加えられた。

 戦争と言っても戦うのは騎士達で色々と規則があるらしい。

 無闇に他国の人間だからと排斥しているわけではない、とか。

 ターニャにとっては信じられない言葉が続いている。

 血と硝煙にまみれた我が国と比べてなんと平和な事か、と。

 自分の耳を何度も疑う事になろうとは思っても見なかった。

 村の青年が入国料を支払った後はすんなりと帝都の中に通された。

 こんな警備は自国ではあり得ない。他国ですらありえない筈だ、と声を大にして叫びそうになった。

 


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