ラナークエスト   作:テンパランス

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#031

 act 5 

 

 畑を歩き続けるが建物が見つからない。

 三十分ごとに立花に確認作業をさせるターニャ。

 それを三回ほど(おこな)ってようやく人家を発見できた。

 報告にあった五キロメートルをゆうに超える。素人の目算はあまり宛にならない、ということかもしれない。

 駆け足ならば一時間もかからない距離だ。

 

「たかが十数キロメートル……。文句を言わずに歩けないものか」

 

 多少の装備品があるとはいえダクネス以外は軽装だ。

 ターニャとしては手を差し伸べられるとすればダクネスくらいだ。

 

「……いや、マジでこんなに歩いて何故、お前が平気なのか信じられないんですけど……」

 

 ターニャだけではなく、立花もまだまだ体力を持て余していた。それはターニャも驚く事だった。

 

「いや~、あはは。体力があるのが取り柄みたいなものですから」

「短距離で潰れるよりかはマシだ」

 

 立花は変身はできても魔法は使えないようだ。少なくとも索敵能力は肉眼のみ。

 銃を持つ敵国兵士が居ないだけマシだけれど、平和だなと思った。

 争いの絶えない世界に放り込むのが存在Xの趣味かと思っていた。今は平穏すぎて逆に怖いくらいだ。

 薄暗くなってきたのでもうじき夕方になり、夜になる。

 野宿する前に建物に行かなければ後ろの外野が騒ぎ出して(うるさ)くなる。

 

          

 

 愚痴を聞きつつ人家というか小さな集落にたどり着く。

 まだ完全に日が落ちる前だった。

 新たな異世界だと仮定して言葉が通じるのか疑問だが、問いかけは必要だ。

 軍服に反応して逃げ出せば敵国である可能性は高い。

 ターニャは後ろの役立たずに任せるより自分で行動した方が話しが早く済む気がしたので、率先して中に入る。

 検問は無く、一般的な農村のようだ。既に晩御飯の準備の為に村人と思われる人間達が動いていた。

 変なモンスターではなく、人型。カズマ達とも祖国の人間とも何ら変わらぬ姿。

 服装は貧相だがターニャの記憶には無いものだった。

 

「村よ、カズマ。これで安心して眠れるわ」

「よ、ようやくたどり着きましたか……。お腹が空きました」

 

 という声を聞き流し、近くに居た村人に声をかける。

 

「そこの君、一つ尋ねたいが、いいかな?」

「えっ? ああ、旅人さんですか?」

 

 ごく普通に返答したが言葉が通じたのは驚きであり、ここが自国領内ではないかと思ってしまった。

 

「ま、まあそうだ。この村は……、いや我々は旅人だが……。この国の名前が分からない。色々と迷い込んでしまってね」

 

 軍服に反応を示さないのだから少なくとも敵国意識は持っていないようだ。いや、幼女にしか見えない風体で油断しているのかもしれない。

 相手の表情は焦っているような感じだった。仕事の途中に引きとめたのだから焦っていてもおかしくはないか。

 

「ここはバハルス帝国の領内です」

「……ばはるす帝国……」

 

 違う帝国名に内心で驚きつつも冷静さを保つターニャ。

 聞いた事の無い単語はすぐには受け入れられないものだ。

 存在Xによって似て非なる世界に()()送り込まれた、と考えるのが自然かもしれない。

 ただ、今回は何も警告を受けていない。

 いつもなら時間を止めてご大層な説教が始まっても良い頃なのだが、それが起きないという事は存在Xの干渉を受けない世界なのか。

 それが事実だとしても部隊を()()()の世界に置き去りにしたままだ。急な失踪は死亡扱いとなって二階級特進になってしまうし、今までの努力が水泡(すいほう)に帰してしまう。

 

「長旅で休める場所を提供してほしいのだが……。馬小屋でも構わない。それから事情通の(かた)は他にも居るのか?」

「は、はい」

 

 村の青年と思われる人物は見知らぬ集団を村に入れてくれた。

 まず立花とカズマ達には勝手に休むように言いつけた。

 ターニャは少しでも情報が欲しいので村長の下に向かう事にした。

 


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