ラナークエスト   作:テンパランス

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#030

 act 4 

 

 畑が見えても肝心の作物は既に収穫された後なのか、食べられそうなものは見当たらなかった。

 邸宅を求めて一同は歩き続けた。

 これだけの田畑で生産される作物ならば大きな都市があるはずだとターニャは思った。

 少なくとも知的生物は居る筈だ。

 

「お腹へった~」

「そろそろ休みたいのですが」

「休みたければ休めばよい。それくらいの自己判断くらい出来よう」

 

 都合の良い時だけ頼って文句を言う輩は嫌いだ、と胸の内で言うターニャ。

 自分の部下ならば制裁を課すところだが、残念ながらアクア達は赤の他人であって仲間ではない。

 ただ単に自分が進む道についてくる野次馬でしかない。

 それでも目的地に来たのだから彼らがどう判断しようと口出しする気は無い。

 

「道なりに行けば民家が見つかるかもしれません。諦めずに頑張りましょう」

 

 水分補給を恩義着せがましく言ってきたのは最初だけ。

 ターニャは少なくとも歩調は多少は緩めていた。それだけでも相手側に譲歩していたのだから文句を言われる筋合いは無い。

 

「さて、立花」

「はい」

 

 敬礼は(くせ)になったのか、元気がいいのは嫌いではない。

 

「体力に余裕があるのであれば彼らの面倒は君が見たまえ。正直、文句を言う連中とは一緒に旅などしたくはない。……後は自己判断で行動しても良い」

「……けっ。散々アクアの水を飲ませてもらったクセに……」

 

 これ見よがしにカズマは言った。

 当然、そんな事を言うだろうとターニャは想定していた。それは元々、ターニャ・デグレチャフという肉体より前は()()()だったから、ある程度のカルチャーはたしなみ程度に知っている。

 カズマのような自堕落そうな連中の思考は()()()()()()()()()()()()()だった頃にそれなりに熟知しているといってもいい。

 無能の思考パターンの把握は相対評価を決定する上で必須だからだ。

 この手の相手はひと睨みで充分だ。相手をするだけ無駄。だが、雑音が続くのは勘弁願いたい、というのが本音だ。

 

「私は歩けと命令したか? 君らの要望に答えねばならない理由が水の供給だと言うのならば筋違いだ」

「はあ?」

 

 カズマとアクアはあからさまに嫌な顔をする。ターニャとしては至極当然の反応で驚くに値しない。

 

「人命救助に見返りを求める卑しい者とは交渉しない。それだけだ。何か不服があるのならば反論したまえ」

 

 こちらは強制していない。ゆえに文句を言われる筋合いは無い。

 付かず離れず一緒に歩いてやっただけでもターニャとしては譲歩したとも言えるかもしれない。

 

「旅する仲間としてもう少し……」

「それはそちらの勝手な判断だ、ダスティネス・フォード・ララティーナ

「うっ」

 

 フルネームで呼ばれる事がほとんど無かった為に驚いてしまった。

 

「とはいえ……。違う道を行け、とは言わんが……。君達の体力の無さを私に押し付けることを筋違いだと何故、理解しない? そして、それを何故、私が考えねばならない? めぐみん、その理由を述べたまえ。私は寛大だ。言い分があるなら……、言いたまえ」

 

 無駄に会話しているが、その間に少しは休めて頭の回転も少しくらいは良くなる筈だ、とターニャは思うからこそ話しに付き合っている。

 見捨てるよりは叩き潰しておいた方が後ろから来る雑念も軽減されるかもしれない、という程度のことだった。

 

「ふ、ふん。正論ばかり言っても無駄です」

 

 杖を支えにめぐみんは答える。ただ、足腰が少し震えていたのは疲れからか。

 

「お前はアクアに貸しがある。だから、それを返すのが筋だ」

 

 とは、カズマの言い分だった。

 ターニャはそう答えてくる事は分かっていたので表情はピクリとも変化しなかった。

 

「……なるほど。君らは慈善活動に見返りを求めるタイプか」

「うるせー。頼られっぱなしで潰れるのはこっちなんだよ」

 

 軍人らしく『国の為に死ぬ兵士の気持ちを理解しているのか?』と言ったら定型文が返ってくる気がした。

 打算あり気で会話する相手は結局、ろくでもないという事か。その中にはきっと自分も含まれている。

 本国であれば『チップ』で済む話しも確かにある。だが、今は手持ちが無い。

 無いものを寄越せと言われても困る。

 少なくとも民間人に対価を払うことはターニャだって出来る。だが、今は出来ない。

 適当な獲物を仕留めて肉を提供するくらいはしてやってもいいが、残念ながら今はボランティアを受け入れてもらわねばならない。

 いわゆるタダ働きだ。

 それに今は『休息』という見返りを払っている最中だ。それに気付かない彼らは相当なバカかもしれない。

 喋る元気があるなら足を動かせ。自分の兵士であったなら声に出すところだ。

 無能と会話する労力に対して見返りが無いのはターニャとて理不尽だと思う。

 

「さて、言い分は聞いた。そろそろ行動を開始しようではないか。まだ喋る体力があるようだからな」

 

 ターニャは歩き始めた。

 言い分が全く通じない相手にアクアやダクネスは呆然となったが反論できないのは事実だ。

 普段ならばカズマなり、アクアが解決する展開になるのだが揃って何も出来なかった。

 


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