ラナークエスト 作:テンパランス
大浴場は下の階層に存在し、植物モンスター『
随分と会っていないので枯れて死んでしまったかもしれない、と思いつつ部屋を覗く。
普段なら高い位置に植木鉢が設置されてて
常に水気に覆われているので、無理に水を注ぎ入れる必要が無い場所となっている。
定期的に光りを入れると活発に動き出す。
「……誰か居ますか?」
返事は帰ってこない。
モンスターである
大浴場の中は薄暗いが湯気が扉の方に近づいてきた。
稼動しているのが確認出来る。問題は天井付近だ。
普段なら『
これから向かう『屠殺場』も多少明るい程度だ。
中に入ったラナーは上空に顔を向ける。
普段なら植木鉢が浮かぶように置いてあるのだが、今は形跡のみで
移動させたのか、処分したのか。
王国ではまずお目にかかれないモンスターなので城の一角で育成させることも検討されていた。
植物モンスターだが肉食でもあり、消化液で人間すら食すらしい。ただし、推測だが。
実際にのこのこ
まして、このモンスターは自走しない。しっかりと根を張ってしまうと基本的に移動できなくなるからだ。
蜜の甘い臭いで獲物をおびき寄せて、身体に生えている
森の奥で育った為か、難度は高く。意外と強い。後、当たり前だが
† ● †
誰も居ないようなので次の部屋に向かう。その部屋が目的の『屠殺場』だ。
吹き抜けになっていて天井がとても高い。部屋の広さはイビルアイ達が居た研究室の四分の一。高さは二倍。そして、とても薄暗い。
造った人間も無駄に高くなった事を後悔したほどだ。
初めから血生臭い使い方を想定しているのでタイルは張られておらず、素っ気ない外壁となっている。
遥か上の天井には天窓が設置され、日の光りが入るようになっている。そうしないと時間の経過が分からず、精神的におかしくなるからだ。
当初は時計が設置されていなかったので地下にこもると気分が荒み、気が付けば一ヵ月後ということがよくあったらしい。それくらい体感時間を狂わせる。
時計を持ち込んだラナーでさえ一日たりとも
事前の準備無しにマグヌム・オプスを使用する事はとても危険である。
屠殺場と呼ばれる部屋は使用後には徹底的に掃除されるので衛生的には問題が無い。
仕上げに使われる掃除用の
破損箇所は手作業で修復する。
ついでに小さいながらも風呂と
まず最初にラナーは小型の風呂場の部屋を確認する。
ここは大浴場と違い、小部屋程度の広さしかなく、自分達で掃除するのが一般的だ。
当然、厠も。下水道の完備は全ての部屋に適用されている。汚れる事を最初から想定しているからだ。あと汚水対策も施されている念の入れようだ。
以前は施設の
イビルアイが居るのだから点検していないことはない筈だ。
他の部屋もどうなっているのか、気になるところだが今回は特訓が主な目的なので諦める。
今しなければならない目的を忘れてはいけない。
部屋を使う時、モンスターの体液を浴びてしまうので基本は
だからこその風呂施設だ。
防具や服を着たままだと洗うのが大変なのと仮に肌を焼くような事態になっても治癒する算段が取られているので裸の方が効率的だと説明を受けた。
意味も無く裸を観賞する為に作られたわけではない。
「……さて、いよいよ始めますか……」
部屋の外には服を入れる
何から何まで用意のいい施設は今も健在のようで安心した。
† ● †
武器はスピア一本のみ。破損した時の事を考えて予備は必要だと思い、取りに帰る。
イビルアイは隣の部屋に居るのですぐに用事が済むのだけれど、クライムが慌てるから服は着た。
改めて服を脱げば実に開放的になる。
クライムを除けば脱糞したとしても気にならない。
はしたないと言われるかもしれない。けれども、この施設の恐ろしさを知れば誰もが黙る。
一言で言えば『数の暴力』だ。
その現実を前にすればたとえバハルス帝国の皇帝『ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス』だろうと竜王国の女王『ドラウディロン・オーリウクルス』だろうと脱糞に失禁は確実だ。
正気を保っていることが憎くなること間違いなし。
『蒼の薔薇』の全員。つまりイビルアイを含めてみっともない姿をさらした事でも凄まじさは伝わる筈だ。
ついでにクライムもガゼフ・ストロノーフもブレイン・アングラウスという人間も。
人間である者は
リグリット・ベルスー・カウラウでさえも。
「平行世界の
少なくとも一回や二回ではきかない。
『ぱわーれべりんぐ』なる儀式は並大抵のことではない。
もちろん、楽してできる方法はあるのかもしれない。ただ、それは飽きやすく、死に易くなる。
人生を犠牲にするようなもの。だからこそ中途半端が一番良い結果だと聞いた事がある。
今回の自分は75まで行く気は無い。適度に戦える程度で充分だ。別に敵対貴族を殺したいわけではないので。
冒険者として当たり前の事を自分もやりたいだけだ。それには足りないものがたくさんある。
良い武器を持っていても
スピアを手に持ち、見えない敵に向かって一突きする。
「篭手は装備していた方が負担も軽減されそうですわね」
多少の汚れは諦めて身体が壊れないように最低限の装備は必要かもしれない、と判断する。
数分後に改めて装備品の確認をし、モンスターの出現まで精神統一する。
急な運動は身体に悪いとクライムから言われているので、深呼吸も欠かさない。