ラナークエスト 作:テンパランス
一人だけ特訓の続きをするように言われたラナーは孤軍奮闘の為に
レベルは2。
3になる権利があるだけでレベルアップしたわけではない。
「ラナー様。お一人で戦われるのもお疲れでしょう」
と、従者クライムが冷たい飲み物を王女に渡す。
「一人でモンスターと戦うというのは頭で思っている事と違うので大変ですわ」
「そうですね。もともと非力ですし。武器を持ってすぐ戦闘できるわけがありません」
慣れない事を無理矢理やっているせいでラナーは大変な事になっている。
モンスター一匹倒すだけで息が上がる。
一般の男性よりも筋力が低い。防御が厚くても敵を倒せなければ意味が無い。
「そういえば、剣をお使いですが……。このままだと戦士系の
「まず……私は何を取ればいいのでしょうか?」
「レベル75を参考にするのでしたら……、使用する武器は
槍という武器は騎乗戦闘に特化している。軽いものから重いものまで。
現段階のラナーにも装備出来るものはある。
重いハルバードは除外するとして軽い素材で作られた一般兵士用の槍を用意する。
「色んな武器があるのですね」
「はい」
ラナーの言葉に従者はニコリと笑う。
スピア。ランス。ジャベリン。ハルバード。パイク。パルチザン。矛に薙刀。
重かったり使いにくい武器を除外すると新兵用としては一メートルほどの長さのスピアが手ごろだ。
刺突攻撃が主なので避けられると隙が大きい。最初の内は慣れる事から。
いきなり実戦では辛いので数時間かけての練習からはじめる。
「レベル5までの道のりはなかなか遠いものですわね」
「……普通は数値が分からないものですよ」
そもそもどうして数値が分かるのか、クライムも不思議だった。
そういうものだと理解するしかないのだが、世の中には不思議な事がたくさんあるものだと驚いた。
刺突攻撃なので確実に急所を狙わないと反撃を受ける。
最低限の攻撃箇所をクライムから学ぶラナー王女。
† ● †
夕方に実戦として
練習とはいえ
森を
学習能力の低いモンスターとも言える。
それをレベル上げの為に殺す自分も色々と学習能力の無い野蛮な存在のように思えてしまう。
「刺してすぐ抜いてください。一撃に甘えてはいけませんよ」
「はい」
的確に攻撃が出来てもモンスターを確実に仕留めたわけではない。中には生命力に溢れたモンスターも居て心臓を突かれたくらいでは倒れない場合もある。
確実に動かなくなるまで油断してはいけない。
大事なことは心臓と頭を潰す事。その後で部位の搾取。
「死んだ振りする場合もありますからね。アンデッドの場合はまた違う方法が必要ですが……」
アンデッドモンスターは刺突攻撃に対して高い耐性を持っている。現段階で槍装備のラナーには
「はい」
素直に返事をするラナー。
真面目な指導に対して敬意を払っているだけだが、普段の兵士はもっと大変な仕事をしているのだなと感心する。
今はまだ
そうしてモンスターを三匹まで倒したところで一日が終わる。
熟練の戦士ならば二十匹くらいは倒している気がするけれど、効率が上がらないのは
城の自室に戻り、風呂に入ったり着替えを済ませたり、マッサージを受けると異常な睡魔が襲ってきた。
魔法によるものではなく、単純に疲労によるものだ。そして、身体が悲鳴を上げ始める。
ひ弱な王女が重労働するのだから筋肉痛は確実だ。
翌朝には動けなくなるほど。
「……毎日、モンスターを倒せば楽になりますか?」
「適度な訓練を一ヶ月くらい続ければ楽になってきますよ」
「……身体全体を動かす訓練というものは大変なのですね」
「そうですよ」
姫の弱音に対し、クライムは素直な感想で返す。
まだまだ駆け出しとはいえ逃げ出さずに続けている。それには驚いていた。
骨折を経験したとはいえ恐れずに立ち向かうのはひ弱な女性では出来そうで出来ない事だ。
明け方まで眠り込んだラナー。
昨日の労働による筋肉痛は最初の頃に比べればだいぶ軽減されていた。とはいえ、手足は重く感じた。
城で権謀術数するのも退屈だと感じて冒険者になったのだが、結構な重労働は甘く見ていた自分にとっては良い刺激になったと思う。
今はまだ低級のモンスターしか倒せないけれど、いずれは大物を仕留めてみたい。
† ● †
日が昇り、国全体が陽の光を受けて明るくなる早朝の時間、クライムと数人の従者と共に馬車に乗り込む。行く先は蒼の薔薇のメンバーの一人『イビルアイ』が住むところ。
移動時間は数時間程度の距離にあるのだが一般人はあまり寄り付かない。というか素通りが大半だ。それに外に出る市民は少ない。
王国の周辺には多くの村が存在しているけれど一般市民の多くは外壁に囲まれた都市の中で安全に暮らすのが大半である。
危険度で言えば村は充分に危ないのだが冒険者達の防衛のお陰で今まで目立った被害は出ていない。
「ついに諦められるのですね」
ため息混じりにクライムは言った。その言葉にラナーは苦笑する。
確かに彼の言う通りの部分はある。とにもかくにもさっさとレベルアップしないと仲間達に置いていかれる。割りと足手まといな気がしていたし、効率の悪い方法にも思えたからだ。
「極端に突出したいわけではありませんわ」
「そうでしょうね。そうしないとお仲間に白い眼で見られてしまいますからね」
「
とはいえ、そのチームワークが出来ないから困っている。
ほぼレイナース頼り。それでは意味が無い気がした。
それぞれ自分の能力を発揮してこその冒険者だ、と。
仲間内でお喋りするだけの為に冒険者となったわけではない。
モンスターを倒すだけなら一人でも出来る。
チームワークで苦難を乗り越える事に異議は無い。
「ラナー様がやる気になっていることに私はただ応援する立場です。あまり極端に強くなると不信感が生まれますよ」
「分かっています。なので
「では、私は合間に武器を選定しましょう。剣と槍がございますが……」
「手ごろな槍にしましょう。接近戦はまだ早いと思います」
「了解しました。……とはいえ、柄の長いものはオススメいたしません。あれは相当な筋力を必要としますので」
「筋骨隆々になってしまいますか?」
「なってしまいそうですね。特に腕が」
「あらあら」
と、口元に手を当てて微笑むラナー。そして、太い腕になった自分を想像し、声に出して笑う。
見た目には面白いかもしれないけれど、対外的にはよろしくないと思った。
「体型が崩れると着る物に困ってしまうと思います」
「平均を取ると更に変な王女となってしまいますわね。とはいえです。強くなれば筋肉というものはどうなりますか?」
「多少は付くと思います。ラキュース様も見た目は細いようで引き締まった身体になっていると聞いた事があります」
「……クライムに裸を見せたかと思いましたよ」
「いえいえ。そこまでは……」
ラキュースはアダマンタイト級の冒険者で女性だ。
それでも普段の立ち居振る舞いは冒険者だと思わせない気品がある。そして、大剣を扱う彼女の手足はとても細い。だが、華奢という訳ではない。
必要な筋肉はちゃんと付いている。
ドレスで見えないだけだ、とクライムは思っている。