ラナークエスト 作:テンパランス
ヴィクティムの言葉が通じるのはナーベラルだけのようなので他の冒険者と組むのは無理そうだった。
ラナーに判断を任せると面白そうと言って仲間に加えるかもしれない。
問題は他にもある。
アルシェの言葉が正しければヴィクティムのレベルはとても高い。なのでかなり経験値が減ってしまう。
「レベル5に落ちてもらえばいい」
「いや、それでは色々と弱体化して能力が喪失してしまう」
レベル5のヴィクティムは弱い
動きは鈍そうだし、手足が短いので殴打は無理。武器は重いものは持てそうにない。
あと、死んでも何も起きないなら無駄死にだ。
「……
「ヴィクティム様。あなた様は守るべき役目がございましょう」
「……
諦めの悪いヴィクティムに対し、ナーベラルは返答に困った。
階層守護者の気まぐれは今に始まったことではない。それに異見できるほどナーベラルは偉くはないし、良い解決策が見つからなければ強引な手に出られてしまう。
レベルダウンが起きなければ見学は構わないかもしれない。けれども、不測の事態が起きては一大事だ。
ヴィクティムはただの階層守護者ではない。
ナザリック地下大墳墓の最大戦力を守護する最重要人物だ。人というか生物だが。
「……まことに申し上げにくいのですが……」
「
「……やはり安全を考慮しますに、冒険者として参加なさるのは危険かと……。そもそも、アインズ様からご許可はいただいているのですか?」
もし、主から許可が出ているならば何も言う事は無い。
というより、先ほどから組合の中で臣下の礼を取っている二人に他の冒険者達が色々と話し始めている。
一体何事だと。ある者は興味津々に眺め、またある者は他の冒険者と話したり、人差し指を突きつけたりしている。
そんな状態でもナーベラル達は意に介していない。
所詮は下等生物の集まり。有象無象の小言など耳に入らない、とでも言うような態度だった。
† ● †
そもそもヴィクティムが勝手に外に出る事はありえるのか、という疑問に思い至るナーベラル。
最重要の
「……
レイナース達の耳には未だに難解な言葉として聞こえているがラナーは違った。
メモ用紙に色々と文字を書き込み、法則性を模索している。
レベルダウンで
それでも同じ単語が複数出てくると難易度が上がる。
「興味本位で御身を危険にさらすのはいかがなものかと」
「……
「あー、おほん。こちらの言葉は普通に通じるんですよね?」
と、ラナーはナーベラルに確認の為に尋ねた。
彼女は少しだけ眉を寄せて頷いた。
「同じ言語でなければ通じないと思っていましたわ」
「ヴィクティム様独自の言葉だが我々の耳には翻訳されて聞こえている」
こちらの言語が通じるならば相手の言葉だけ理解できれば問題は無い。それはつまり相手側が有利という意味でもある。
交渉ごとでは意外と苦戦するかもしれない。
「初めまして。私は冒険者チーム金の玉……ではなく黄金の仔山羊のラナーと申します。以後、お見知りおきを」
ドレスではなく軽装鎧なのでスカートをつまむ動作は出来なかったが丁寧に挨拶した。
レイナースはラナーにとって『金の玉』は割りと気に入っている名前なのだな、と呆れてしまった。
正体を早めに教えないといつまでも連呼されて、最終的に改名させられる気がした。
「
「見学だけならば飛行して……。ああ、他のモンスターと思われて……」
ヴィクティムはどう見てもモンスターだ。異形種だから当たり前なのだが。
野良のモンスターと一緒に退治される可能性が高い。
それでも冒険者ギルドまで問題なく
「……おそらくシャルティア様の計らいかと。あの方は転移魔法『
使用できるというよりは
普段はナザリック地下大墳墓の地下一階から三階を守護している階層守護者だ。
敵が攻めて来ない時は各階層の様子をチェックしたり、自分の住処で優雅なひと時を過ごす事が多い。
攻撃に特化した強さを与えられているので戦わない日々が続くと退屈に感じるのかもしれない。
「
「私も非力ではありますが……。きちんとした装備なり身につけていないと危険ですわよ」
ヴィクティムはどう見ても全裸だ。裸過ぎるほどに。
魔法に自信があるとしてもレベルダウンなど起きては一大事だ。
アルシェはもう一度、ヴィクティムのステータスを確認する。
物理攻撃と物理防御はかなり低い。HPが異様に高いだけで集中砲火を浴びたらひとたまりもない。
さすがに習得している魔法までは確認できなかった。
頭に浮いている天使の輪が武器だというのならば、強引な戦闘は思いつく。
「種族は何なのだ? 正直、こんな生き物は見たことが無い」
「頭に天使の輪があることから
自然界で
王国から南下した場所にあるスレイン法国は天使を使役する、と言われている。
物理攻撃に対して耐性を持ち、治癒能力を持つ。
浮遊する能力を持っている為に地上戦闘を得意とする戦士達には戦いにくい相手だ。
天使の対極となる悪魔も存在する。
「
「ヴィクティム様!?
「
ナーベラルが心配する気持ちは理解出来る。確かに重要施設の守護を任されている自分が興味本位で冒険者として世間を知るのは無謀だったかもしれないと思った。
外出はちゃんと許可を取ったのだが、それを伝えるべきか悩む。
ナーベラルが気付いているのかヴィクティムには分からないが不可視化したシモベを十体以上は護衛として借り受けている。尚且つ、即座に転移で撤退できるように配慮された上で行動している。
レイナース達の基礎レベルが低いお陰で感知はされていないようだが、元々のレベルであったら色々と察してくることもありえたかもしれない。
少なくとも
「……
「……ヴィクティム様……。そこまでおっしゃるのであればお止めすることはこのナーベラルにもできません。ですが……」
「
奇妙な生物とずっと片膝を付いたナーベラルの会話が続いているので待っているレイナースやアルシェは恥ずかしくなってきた。
クルシュは既に椅子に座って大人しく待機していた。
「冒険者になると言っても
「
唸る時も特殊な言語とは恐れ入る、とレイナースは感心した。それと今のは態度や雰囲気からも理解出来た。