ラナークエスト   作:テンパランス

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#016

 act 16 

 

 経験値の話しは長くなりそうなので一旦、宿屋に帰還して頭を冷やす事で双方が納得した。いつまでも争っていては経験値は獲得できない。

 冒険者となってまだ日は浅いが収入は増えている。下着は頂き物なので出費も抑えられていた。

 アルシェは空いた時間にいくつか魔法を唱える。少しでも経験値とやらを獲る為に。

 クルシュも同様だがナーベラルは瞑想状態だった。

 

「アルシェの分の給金だが……、今は自分の為に使え」

 

 レイナースの言葉にアルシェは何も答えない。

 余計なお世話だし、他人に心配されたくない気持ちはある。

 とはいえ、他人の生活より自分の事しか考えられないのはチームとしては良くないは分かっている。

 家が貧しい為にお金しか頼れるものが無い。

 

「……もっと楽にお金を稼ぐ方法ってあるんですか?」

「あっても危険な事に変わりは無い。天秤にかける()()を間違えるな」

 

 レイナースは優しく言った。

 強くなれば良いというものでもない。命を落せば全てが台無しになる。

 戦力になるまでは徒労の連続だ。

 

「明日はどうする? 予定が無ければ冒険者ギルドで依頼探しだ」

 

 レイナースの意見に反対者は居ない。

 クルシュも長期間の滞在について問題は無い。それは何故か、自分の預かりがトブの大森林ではなくナザリック地下大墳墓だからだ。

 特別な場合が無い限り、自分の意思で行動できる。

 

「クルシュは正直、いつまで滞在できる?」

「永遠とは行きませんが一ヶ月は……。資金が尽きれば帰らなければならないでしょう」

 

 多少の野宿は出来るし、歩いてトブの大森林に帰還することも可能だ。だから、取り立てて急ぎの用事は無い。

 

「では、引き続きモンスター討伐だな。出来るだけ大物を倒すとしようか」

 

 現時点での大物は人食い大鬼(オーガ)くらいだ。

 出来るだけ多く倒したいところだ。だが、帝国騎士たるレイナースとて一度に二体が限度だ。

 午後は休憩時間にあて、翌日冒険者ギルドに向かう。

 相変わらず賑やかな雰囲気だが依頼を受ける者は少ない。

 世間話しばかりで大丈夫なのか心配になってくる。

 

「私はイミーナ。ってアルシェ、あんたこんなところに居たの?」

 

 と、声をかけられたアルシェは驚く。

 元請負人(ワーカー)チーム『フォーサイト』の仲間で半森妖精(ハーフエルフ)のイミーナという女性だった。

 森妖精(エルフ)特有の長い耳に紫色の髪の毛。華奢な体型で胸が小さいのは種族の影響だと本人は思っている。

 

 

 イミーナのステータス。

 職業(クラス)

 『野伏(レンジャー)』レベル13

 『盗賊(ローグ)』レベル7

 『遊撃者(ブッシュワーカー)』レベル3

 HP128

 MP35

 物理攻撃25 物理防御21 素早さ27

 魔法攻撃13 魔法防御18 総合耐性26 特殊29

 

 

 武器は軽量であれば弓も扱える。

 

「なにこの『ステータス』って? 強さの目安ってやつかしら。根拠があるのかどうかは分からないけれど……」

 

 アルシェはイミーナのステータスを()()()()()()眺めて小首を傾げる。

 強いのか弱いのかよく分からなかった。というよりは他人のステータスが見えるとは思わなかった。

 

「そんなことよりイミーナはどうしてリ・エスティーゼに?」

「出稼ぎ」

 

 至極当たり前のように言った。

 ()()()()()()()()()辿()()()()()()()()()()()()()()()()というのに。

 

「悲惨な末路?」

「気にしたら駄目よ。色々と()()()()()が出るかもしれないけれど」

「そ、そうお? うん、分かった」

 

 レイナースはアルシェの友達を見て、少し安心した。

 彼女にも友達が居たのだな、と。

 一人で思いつめていたので心配だった。気軽に話せる存在が居るなら相手に任せよう。

 安心したのもつかの間、天井近くを飛ぶ気持ち悪い存在に気づいた。というか誰も気づいていないのか騒ぎにはなっていない。

 それは一メートルほどの大きさで桃色の身体だが何も身につけていない。胎児に酷似していて、頭と思われる部分には光り輝く天使の輪が浮いており、背中には羽のような枯れた木の枝っぽいものが生えていた。

 尻尾も有り、元々がどういう生き物なのか想像できない生物だ。

 

「なんだ、あれは」

「あのお方は我等の仲間『ヴィクティム』様だ」

 

 と、言ったのはナーベラルだった。

 

「最初に見た時はびっくりしたけど、大人しくしているから放ったらかしにしているだけだ」

 

 と、近くに居た冒険者が言った。

 ラナーも軽く見上げてヴィクティムを見る。

 世の中にはまだ未知の生物が居るようで少し嬉しくなった。

 

 

 ヴィクティムのステータス。

 種族

 『天使(エンジェル)』レベル10

 『大天使(アークエンジェル)』レベル10

 『権天使(プリンシパリティ)』レベル1

 『能天使(パワー)』レベル1

 『力天使(ヴァーチェ)』レベル1

 『主天使(ドミニオン)』レベル1

 『座天使(ソロネ)』レベル1

 『智天使(ケルビム)』レベル1

 『熾天使(セラフ)』レベル1

 『黙示録の獣(マスター・テリオン)』レベル2

 職業(クラス)

 『愛国者(パトリオット)』レベル1

 『聖人(セイント)』レベル4

 『殉教者(マーター)』レベル1

 HP671

 MP71

 物理攻撃15 物理防御11 素早さ25

 魔法攻撃14 魔法防御15 総合耐性18 特殊57

 

 

 ナーベラルは空を飛ぶヴィクティムの側に行き、片膝を付く。

 ナザリック地下大墳墓でのナーベラルの立場では階層守護者であるヴィクティムは畏敬すべき対象だった。

 見た目はひ弱そうだが立場はかなり上に位置している。

 

「階層守護者であらせられるヴィクティム様。戦闘メイドのナーベラル・ガンマでございます」

くろ()ぼたん()くろ()ぼたん()ひと()はい()もえぎ()きはだ()あおみどり()

 

 奇妙な言葉を話すヴィクティムは空いているテーブルの上に降りてきた。というより枯れ枝のような羽でよく飛べるものだと周りに居た冒険者は呟いた。

 『飛行(フライ)』などの魔法を習得していれば特段、不思議な事ではないし、種族的なスキルでも飛行自体は可能だ。見た目が奇怪な為に飛べるようには見えなかっただけだ。

 レイナース達の耳にも奇怪な言葉として聞こえていた。

 

「……こいつは何を言っているんだ?」

 

 レイナースの言葉にナーベラルは眉根を寄せる。

 

「普通に挨拶してきただろう」

「今のが挨拶か? というか分かるのか?」

 

 ナーベラルの耳には普通の『日本語』として聞こえていた。

 通称『エノク語』と言われているのだが、どう考えても色の名前にしか聞こえない。

 

そしょくやまぶきだいだい()あおみどり()シンシャ()()ハダ()タマゴ()()ムラサキ()ニュウハク()アイ()ハクジ()あおみどり()にはいだいだいぬればしんしゃ()ひと()くわぞめ()しんしゃ()こげちゃ()こくたん()しろねり()だいだい()はだ()

「……全く分からない」

 

 ひたすら色の名前を言っているのだが雰囲気は伝わってこない。

 耳で聞く分には全く分からないので、ナーベラルに通訳を頼んだ。

 奇怪な言葉を即座に理解出来るのは彼女だけかもしれない。

 それぞれレベルが低いし、便利な翻訳魔法は誰も取得していない。

 多少は棒読み気味だがヴィクティムの言葉を一つたりとも間違えないように伝えていく。

 

「……言葉が通じないのではチームは組めそうにない」

 

 レイナースの言葉を受けて、ヴィクティムは身体を震わせる。

 

「……あかね()おうど()!? ちゃ()おうど()ぞうげ()はだ()ねり()やまぶき()ときわ()もえぎ()……」

 

 ナーベラルが通訳して初めてヴィクティムががっかりしたことが分かる。

 異形種も冒険者として登録は出来るのだが、冒険者向きではない気がした。

 聞けば死ぬことで足止めスキルを発動する能力があるという。それはモンスター退治を生業(なりわい)とする仕事向きではない。

 毎回蘇生費用がかかる、という意味になるからだ。

 レイナースの指摘に更にヴィクティムはがっかりした。

 

「やる気は買うが……。もう少し犠牲以外で能力を使わないと……」

 

 ナーベラルのお陰で奇妙なモンスターとも普通に話せる自分に気づいて驚くレイナース。

 特に違和感無く眺めているクルシュ。

 見た目が気持ち悪いと思っているアルシェ。

 ラナーはただ現場の雰囲気を眺めて微笑んでいた。

 

「攻撃魔法などは使えないのか?」

たまご()ねり()きみどり()はだ()あおみどり()きみどり()()くわぞめ()くりうすいろ()()あおむらさき()たいしゃ()ぞうげ()……」

「ステータスでは攻撃より支援が得意そうですね」

 

 ()()()()()()()()()()ステータスを見てアルシェは発言する。

 ただ、そのステータスは他の冒険者には見えないようだ。

 

「レベルの割りにHPが凄い事になってますね」

「……どうやってそのステータスとやらを見ているんだ?」

「……たぶん、私の『生まれながらの異能(タレント)』かも。種族。職業。それぞれの数字みたいなものが見えます」

 

 簡易的な部分しか分からないけれど。

 ずっと見えるわけではなく、見たい人物を見つめると出て来て、数分後には消えていく。全員ではないようで受付嬢を見てもステータスは出てこなかった。

 便利なのか不便なのかは今は分からない。

 

「相手の能力を見る魔法というのは聞いた事がありますが……。便利ですね」

「そうかな」

 

 クルシュは素直に誉めてきたのでアルシェは少し恥ずかしさを感じた。

 


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