ラナークエスト 作:テンパランス
談笑しつつ宿舎に戻る頃、女神アクアとすれ違う。
水色という目立つ色合いにアルシェ達はつい気になって振り返ったり、様子をうかがった。
「……綺麗……」
「ありがとう」
「……あなた、神聖な気配を感じるわ」
クルシュの言葉に首を傾げる女神アクア。
とても耳に慣れた声だったが、誉めてくれている気がしたので愛想笑いだけ向ける。
白い
出会ったのも何かの縁とばかりに地下施設の事を訪ねる女神アクア。
それに対してクルシュは苦笑するばかり。どう説明すればいいのか、正直困る施設なので。
モンスターを量産して殺しまくる、が適切なのか判断できない。
はたで聞いていたラナーはクルシュとアクアの声がよく似ていることに気付いた。
同じ声を持つ人間が何人か居る、という情報を得ていたので気になってしまった。
「地下に降りる時は
と、気を利かせたつもりのラナー。それに対し、顔を青くするアルシェとレイナース。
自然体だが実はとても物騒な発言をしている事に気づいたからだ。
降りる事自体はレイナース達に止める権利は無いが、それが正しい答えなのかは判断できない。
むしろ止められないからこそ事態が複雑化している。
「ふ~ん。分かったわ。ありがとう」
「どう致しまして」
にこやかに挨拶を交わし、ラナーとアクアはそれぞれ別方向に歩き出す。
レイナース達はとにかく休憩に入る事にしてアクアは地上から施設の様子を窺うことにした。
† ● †
近くに鎮座する巨大生物は黙ってその場で寛ぎ、暴れるそぶりは見せない。
何人か人間が近付いても顔を少し上げるだけだ。
そこへ地下から出て来たメイド達が巨大生物である『
「……目標の危険度は確認できません」
「こちらも」
淡々とした言葉が続く中、白銀の獅子は黙って聞き入っていた。
全身を覆う鎧に触れる者は無く、新たな命令が来るまで待つことは出来る。けれれども、本来は別の星の守護者である。だからこそ、長い期間、見知らぬ土地に居る事は良くないと思っている。けれども自分ひとりではどうしようもないことも自覚している。
そうして三十分ほど静かな思索に耽っていると元飼い主である『神崎龍緋』と彼の
神崎家の長男である龍緋は白髪頭だが実年齢は三十代。すでに故人ではあるが見た目は生前のまま。
長女『
年齢では兄を超えてしまっているが、それは仕方がない。人間の年齢は止められないのだから。
「大人しくしているな」
軽く手を挙げて挨拶する龍緋にさくらは軽い頷きで応える。
「ずっと放ったらかしには出来ないと思いますが……。
姉の疑問に答えられる者はこの場には居ない。
弟達も首を傾げていた。
「異世界で
次男『
龍美とほぼ姿形が同じである三女は性格的に大人しく、人見知りするような気弱な印象を与える。けれども内に秘めた力は姉に引けを取らない。
現在、
† ● †
神崎一家が獅皇のすぐ近くまで移動すると配置されていたメイド達が集まってきた。
客人の安全を考慮して守ろうとする行動のようだ。
一様に無表情で問いかけても微動だにしない。
「……お兄ちゃん、この人達は何なの?」
「お客さんの安全を守る人達かな。それより……、異界に来て結構時間が経ったが……。挑戦者が現われないと退屈だな」
ラスボスとして何かしなければならないのか、と思ったのだが自分が率先して動くと困る人達が大勢居るような気がした。
だからこそしばらく家族と一緒に大人しく過ごしていた。特に新しい命令も無い。
本来ならば元凶の一人である『
今のままでいいのか、龍緋自身不安になってきた。
「……ラスボスがのんびりしている状態もどうかと思うけれど……」
「……火雅李ちゃん、今頃どうしてんだろう」
バハルス帝国という国に置いてきたっきりで会いに行っていないことを思い出す。
一人きりで寂しい思いをしているのか、それともちゃんと兎伽桜が面倒を見ているか。
とっとと元の世界に戻されているか、だ。
いくら兎伽桜とて彼女を無視する事は出来ない。何かあれば龍緋の逆鱗に触れる。
武神『
龍の逆鱗は例え神が相手でも牙をむく。
何らかの計画を立てて龍緋たちを見知らぬ世界に呼び込んだのだから責任はちゃんと取ってもらわないと困る。
「あ、あの……」
と、急いで駆け寄ってきた人物が声をかけてきた。
王都で出会った立花響だ。朝食を終えて朝のランニングを済ませたところのようだ。
今回は腕も再生し、コンディションはバッチリといった雰囲気になっていた。
「鍛錬にお付き合いください」
拳を向けてきた立花に龍緋は笑顔で頷いた。
赤龍達は気を利かせるが三女の鈴怜は兄の腕を掴んだまま離れなかった。
三つ子の中で一番の甘えん坊でもある彼女はせっかく出会った兄を見知らぬ人物に取られたくない気持ちでいっぱいだった。けれども、立花の立場も理解している。
自分がわがままだという事も。
だから三分ほどで手を離す。
「……お邪魔虫」
「……す、すみません」
鈴怜の冷徹な表情と言葉に気圧されて謝罪する立花。
言い知れない不穏なオーラを漂わせる鈴怜を怒らせてはいけないと身体が警告を発する。