ラナークエスト   作:テンパランス

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#160

 act 98 

 

 それから十分ほどの沈黙の後、新たに現われたのは背が高めで短く丸みを帯びた金髪。赤みの瞳で白人系の肌の女性。大きなおっぱいがあるから女性。大事な事を二度三度言うのが定番であり()()()()だ。

 容貌からは猫を思わせる雰囲気があった。

 服装は動き易さを目的とした軽装鎧。武器は腰に細身の剣が一本下げられていた。

 

「緊急という事で人選が適当だが……。改めてオメガデルタです」

 

 と、現われた女性は言った。その声は先ほどのオメガデルタ(シズ・デルタ型)と同一であった。

 

「いやはや、急に妙な建造物が現われると色々と……。それはどうでもいいか……。さて、声変わりしては混乱すると思って同じにしたのだが……。違和感はありますか?」

「……姿が変わっただけでもすっげー違和感あるよ」

「適当なものを選べなかったのでね。急には立ち回りできないと思うけれど……。この身体は実戦仕様のものだから武器の扱いはかなり熟達したものになっている。魔法はその分威力が落ちるけれど……」

 

 第六位階までの魔法で充分な活動が出来るから人体の解体程度は問題ない。

 それよりも太歳星君(プロメテウス)の近くにあった建造物がとても気になって仕方がない。

 巨大な物体は移動だけでも相当なエネルギーを必要とする。仮に転移だとしても天体クラスの物体の転移を魔法で(おこな)うのは想像を絶する。

 オメガデルタの手持ちの知識ではまだ実験に入っていないので何とも言えないが、簡単ではないはずだ。

 

「……折角手に入った武器も解呪されれば霧散するようだね。それはそれで勿体ない事だが……」

 

 消えた武器は持ち主の元に戻ったのか、それとも大気に紛れて消え去ったのか。

 その辺りも検証しないとペンダントに不具合が生じてしまう。

 予想はしていたが魔法の恩恵も解呪により無効化されるのは残念な事だと思う。だからとてペンダントそのものを奪う気は無いし、予定も無い。

 

「……その身体も増やしたものか」

「命を大事にしないなら身体を貰う……、それが私の持論でね」

 

 戦闘に特化した生き方をしている人間にはなかなか思いつかない境地だが、教えられて納得するおぞましい方法が確かに存在する。

 出来なければ普通に過ぎていく日常で終わる。それが何の拍子か、摩訶不思議な様相を呈してしまった。

 

          

 

 オメガデルタが使っている身体の大元こそ二次創作界隈では人気者となっている『クレマンティーヌ』という女暗殺者

 この物語の序盤に出たきりで今は何をしているのやら。と思いきや、実は彼女は現在記憶を失っているが『蒼の薔薇』の一員となっている。

 もちろん仕事は至って真面目。

 

「……記憶喪失ネタというよりはある一定の期間分をごっそりと削り取るようなものだから……」

 

 殺していないし、と小声で呟く。

 

「もとより珍しい人種は全て手に入れる主義でもある。敵だろうと味方だろうと私には関係ない。……ということで逃げてみますか?」

 

 そう言えば大抵は身構えるのがお約束というもの。

 立花たちが慌てる前に天羽とキャロルが前に進み出る。

 

「あんたはきっとあたしらが思っているよりも易しい方法をとってくれる。……ただ、その方法がとても恐ろしいだけだ」

「意識があるままの解剖はしないのだろう? もし、違うのであればオレが最初に犠牲になってもいい」

 

 二人の言葉に対し、オメガデルタは既にこの施設に来た者全員を対象にしている。だから、誰一人として逃がす気は無い。

 収集癖もあるので興味を無くさない限り、どこまでも追い続ける。

 

「私は……自分の欲望に忠実だ。だから、諦めたりはしない。戦闘行為は不毛だからしないだけで出来ないわけじゃない。その上で改めて聞こうか。君たちはちゃんと元の世界に戻りたい気持ちがあるのか。そういう未練を持っているのか」

 

 異世界への転移において現地で永住する場合、寿命の問題がある。

 装者達は最近来たばかりだから戻りたい気持ちが強いはずだ。それでも中には諦める者も居ないとは言えない。

 

死人であるあたしは未練は特に無いな」

「オレも」

「こちらの世界で生を受けたから死人ってことでもないのか……。そこは良く分からないけれど……」

「我々は戻らなければならない。待っている人達が居るのでな」

「この世界で暮らす覚悟は今のところ無いわね」

 

 マリアが両腕を組んでオメガデルタを見据える頃、立花がまたも手を挙げた。

 

「……あ、あの~。元の世界に戻れる……かもしれない条件を知ってるんですが……。聞いていただけますか?」

 

 立花の言葉の後で少し眺めの沈黙が降りた。

 オメガデルタも首をかしげたまま黙っていたので初耳だったようだ。

 


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