ラナークエスト   作:テンパランス

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#150

 act 88 

 

 変身を解いた後で自分のアームドギアに触れる立花。

 普段は戦っている最中でしか感じない物体だが、ほんのりと温かい。

 

「……ガングニールの欠片を受けて変身出来るようになったんですよね、私って」

「そうだったな」

「既存の聖遺物が立花以外にも適応されるとは限らない」

 

 物質と何かが合わされば変身出来る。

 その仕組みはたぶんすぐ解析できそうな気がした。

 

「私は武器が欲しいわけではなく、何かの材料になるものです。……しかし、色々と変化させられると興味が湧きますね」

「ほんとあたしらよく分からないまま運用してるよな」

「せっかく貰えるのならば新しい本拠地に案内したいところだが……。今はまだ人間には少し暮らしにくい。ちなみに私は各国と戦争しない事を正式に取り決めていますので、争いごとを自分から起こそうとは思っていません」

 

 大事な事なのでオメガデルタは正式な書面も見せてみた。しかし、文字は現地の言葉で書かれているので三人の装者には読めないものだった。

 真偽を確認出来ない事で偽証を疑われても仕方が無いのだが、仮に日本語で書かれていても彼女達が納得するかはまた別問題の気がした。

 それと雪音の爆発系は起動しないように出来るのか色々と改めて確認してみた。これは流石に慎重に扱いたかったので。

 

          

 

 一通りの素材が床に並んだわけだが安全そうなのを優先的にメイド達に運ばせる。

 貰うものを貰ってさようならとはいかない。

 立花の治療の件は了承しておいた。ただし、いちいち患者は連れて来ないことを約束させる。表向きには勝手に治療活動してはいけない事に世間ではなっているので。

 

「残りの装者も欲しい所だが……。本音としては君たちの肉体そのものも含めて欲しい。こういう特殊な能力は君達自身の肉体が無ければ機能しない場合も考えられるので」

 

 物騒な雰囲気になるのだが、それはあえて避けずに説明する。

 

「たかが治療の代償としては大きいのだが……。何ごとも理解から、という事で説明をした。もちろん、約束は守る主義だ。私に頼ったからにはこういう物騒な事もあると分かってほしい」

「……聞いている分には安心できないのだが……。おそらく、他の者にもそうやって説明してきたのだろうな」

「肉体が欲しいってところでかなり怪しさがプンプンするんだけど……。いや……、モンスターを量産するとかの話しに繋がるのか……。それだけの事をする施設という意味で……」

「使えないアイテムを貰うより、貰える部分から研究する。一つしか無いアイテムの場合は……、無理に欲しがったりはしない。必要とするのはあくまで量産出来るものだけだ」

「これだけのものを集めて貴女は何がしたいんだ? 世界の覇者ではない気がするのだが……」

 

 宇宙の覇者になろうと思えば出来る。

 そこに人が居るかどうかの違いだが、言った者勝ちともいえる。それを楽しいとは到底思えないので、単なる長い宇宙旅行の為の下準備だと答えた。

 何ごとも研究から始めなければならないので、将来の事はそれほど明確に考えていない。

 分かった状態よりは未知のまま冒険したいので。

 

「折角の技術を腐らせるより有効利用した方がいい。ミサイルみたいに爆発させたら終わりでは面白くない」

 

 オメガデルタは合図を送り、メイドを呼び出して立花たちに飲み物を提供するように伝える。

 

「無闇に人を殺して目的を達成しようとするよりかは生きたままお帰り願った方がいいだろう?」

「生きたままか……。だが、それしか方法が無かったのかと……」

 

 殺さなければ何でもいいのか、と言えばうっかり頷きそうになる。

 人が死なないために自分達は戦っている。ならば死なないと確定した上での実験ならば自分達はどれだけ許容できるというのか。

 それにアームドギアを奪うのではなく、未知の魔法によって奪取する方法は全くの想定外だ。ここに『エルフナイン』が居ればすぐに飛びつく案件だ。

 

「……ちなみにですけど、拷問とかされるんでしょうか?」

 

 申し訳なさそうな小さな声で立花は尋ねてみた。

 

「似たような事はあるよ。方法が君達の言う手術と一緒だからね。何事も腕とかぶった切らないと手に入らないから。見つめるだけで身体が二人に増殖しないだろう? 勝手に増殖するタイプは……苦手だ。手に負える範囲じゃないと怖い、と私だって思うよ」

「……ありゃ~」

 

 聞かなきゃよかった、というのと素直に答えてくれた事に驚きも感じた。

 色々と聞けば教えてくれそうな雰囲気があるけれど、何処まで教えてくれるのか、聞いてしまうと怖いと言う思いと(せめ)ぎ合う。

 

          

 

 用意された飲み物を飲みつつ気分を落ち着かせる三人。

 運ばれていく武器を眺めつつ新たなメイドが数人、オメガデルタの側に寄り添う。

 

「おっ、居た居た」

 

 和んでいるところに新たな来客が降りてきた。

 橙色の長い髪の毛に元気な足取りと眩い笑顔を振り撒く天羽(あもう)(かなで)と表情の乏しいクリーム色の髪を持つ少女『キャロル』の二人だ。

 

「三人共変身してたんだ。じゃああたしも……」

「奏は無理をしてはいけないとっ!」

絶唱じゃなけりゃいいんだろ? クロ~イツァル、ロンツェル、ガングニール、ヅィール……

 

 風鳴の悲痛な叫びを無視して階段の途中から飛び降りつつシンフォギアを起動させる。

 元々のガングニールの装者であり、立花のアームドギアにそっくりな様相が現れる。ただし、こちらは大きな槍が出せる。

 

「うん、今日も絶好調だぜ」

 

 奏の有様に顔を覆う風鳴と苦笑する雪音。

 既に顔合わせは済んでいるので立花はただただ驚いていた。

 

「……で、三人で何してたんだ?」

「聞く前に変身してどうする」

「彼女達の武器を量産して遊んでいた」

「へー。ああ、例の魔法でかい? そりゃまた何で? 軍隊とか作るの?」

「研究対象。君達の使用方法から予想してあまり軍隊向きではない気がするけどね」

 

 特に自分専用の武器というものは。

 そうしている間にゆっくりとキャロルが下りてきて立花達の下にたどり着くまで三分ほどかかった。

 メイドに彼女達の分の椅子と飲み物を用意させる。

 

「シンフォギアはそもそも『ノイズ』を打倒する為に作られたはずだ。対人専用の武器は考えられていない」

「人々の思いを束ねて明日を掴む。……けれども人は結局争ってしまう」

「そんな辛気臭い事言ってもお前たちで解決したんだろ? ならいいじゃねーか。過去を振り返っても何も変えられたりしないんだし」

「それはそうなんだがな」

 

 彼女が今までどんな戦いをしてきたのか、オメガデルタには窺い知れない。

 目下の目的であるシンフォギアの利用方法はこれから検討されるのだが、軍隊を作るためではない。危険と分かれば破棄するだけだ。

 今はただ新しい存在を手に入れた満足感しか無い。

 


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