ラナークエスト   作:テンパランス

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#014

 act 14 

 

 低レベルのモンスターを討伐するのは非効率的なのだが今のラナーには上位モンスターとの戦いは無謀だ。

 時間がかかっても数をこなさなければならない。

 勢いに乗れるほど世の中は甘くなかった。三体目を撃破したところで嘔吐するラナー。

 死体の臭いに身体が拒否反応でも起こしたかもしれない。

 生き物を殺す冒険者にとっては登竜門的な事だ。

 

「……苦しいですか、ラナー様」

「……はぁ、はぁ、はぁ……。……うぇお」

 

 内臓が奇妙な動きをするのが良く分かる。

 一通り吐き終えたところで、水と手拭が渡される。

 

「王女がモンスターの血で汚れるのはいささか問題ではありますが……。まだ、続けますか?」

 

 クライムとしては続けてほしいと思っている。折角、やる気になってくれたのだから途中で挫折されるのは勿体ないと思った。それに仲間が居る。

 彼女たちもラナーが欠員になれば少なからず動揺する筈だ。

 

「身体が慣れれば……。それまでは続けますよ」

 

 ラナーとて折角、冒険者登録が出来たのだから急にやめるのは勿体ないと思っている。

 今は努力の期間だから仕方がない。

 身体の変調は想定内ではあるが正直に言えば辛かった。

 慣れない運動は事前に下準備しなければ駄目だと思い知った。

 クライム達が普段から身体を鍛えているのは強くなる為ではあるのだが、こういった不調を防ぐ意味合いもあった事を身を持って知った。

 

「まだまだ続けます。……ですが、今日は終わりにしましょう」

「分かりました。それと訓練ですが小鬼(ゴブリン)達の部位を切り取っておくと良いですよ」

「……クライムも意外と鬼ですわね」

「何のことでしょうか」

 

 クライムは苦笑しながらとぼける。

 とにかく、大きな怪我が無くて良かったと安心したのは嘘ではない。

 

          

 

 一日の休暇の後、レイナース達と合流する。多少は筋肉痛が残っていたが仕事が出来ないほどではない。

 

「……雰囲気が変わりましたね」

「そうですか?」

 

 レイナースの目から見たラナーは戦士っぽく見えていた。

 まだ幼さは抜け切れていないけれど、仕事に対する意気込みは感じた。だが、今回の依頼は都市の清掃だ。

 銅プレートは雑用が多い。あまり危険な仕事は請け負えない。

 

「……清掃も仕事の内ですか?」

「清掃しながら治安維持も兼ねている筈だ。武器を持った冒険者が目を光らせていれば多少は大人しくなる」

 

 弱いからと言って手を出せば上級の冒険者が駆けつける。

 冒険者ギルドは監視の仕事も(おこな)っているので。

 戦士系の冒険者ギルドの他に魔術系の魔術師ギルドも存在する。

 こちらは魔法用の巻物(スクロール)などを販売している。

 スクロールはとても高価で取得している職業(クラス)が『習得できるけれど選べなかった他の魔法』などを使う場合に使用する。

 ただの一般人には使うことが出来ないマジックアイテムだ。

 スクロール一枚が金貨一枚から。これは平均的な市民の一ヶ月の生活費と同等の額だ。

 王国貨幣は帝国と価値は同じだ。全国共通で使われる『交易共通貨幣』なるものがある。

 これは両替時に貰う貨幣で、国内で使用する時に自国通貨と混ざらないようにするためのものだ。

 王国では銅貨二十枚で銀貨一枚。銀貨二十枚で金貨一枚。金貨十枚で白金貨一枚となっている。

 金貨一枚は銅貨四百枚相当だ。白金貨は貴族でもない限り使われないほど貴重な貨幣である。

 ナーベラルは二重の影(ドッペルゲンガー)の種族スキルで色々なスクロールを使うことが出来る。同じように錬金術師(アルケミスト)も魔法のクラスに依存せず扱うことができたりする。なので意外と購入者が多い。

 

「王都の清掃となると大規模そうですわね」

「さすがに全部ではない。決められた区画を複数の冒険者が担当するようだ。もちろん、サボればそこだけ汚くなる」

 

 自分の国、というか都市が汚れるのは気分的にも嫌なものだ。

 下水道は専門の職の人間が担当するようで冒険者は地上部分が多い。

 

「自分の国を自分で掃除するのも悪くはありませんわね」

「王女がこんな仕事を請け負うのもどうかと思うが……。良い宣伝になるのではないか?」

「目立ってしまうと六大貴族の方々に睨まれてしまいますわ」

 

 既に王女が冒険者をしていることは伝わっている筈だ。だから、今さら顔を隠しても意味が無い。

 嫌味を言われるか、何らかの嫌がらせ、圧力などを加えてくるのか。

 色々と嫌なことは浮かぶ。何も無ければ仕事に集中できる。

 

          

 

 それぞれ汚れてもいい前掛けなどを身につけて顔に布を巻き、頭巾をかぶる。そして、道に落ちているゴミを拾ったりする。

 指定された区域を重点的に掃除していくのだが、ラナーは仕方がないとしてナーベラルは道具の扱いに苦労しているようだった。

 戦闘メイドのはずなのに。

 

「とても非効率的な道具だな」

ナザリックはもう少し扱いやすいのか」

「魔法と粘体(スライム)を駆使すれば早いものだが……。野外清掃は経験が浅くてな」

 

 地下大墳墓なので室内清掃が主だった。

 一般メイド達は天井を隅から隅までは無理なので、大々的な掃除は滅多にやらない。

 やらない、というか天井までが高くて出来ない。

 第七階層は溶岩地帯なので掃除がしにくい。熱く煮え(たぎ)る溶岩は掃除できない、が正しいかもしれない。

 

「見よう見まねで覚えてくれればいい」

「了解した」

 

 ナーベラルは仕事に対してはとても聞き分けがいい。

 それ以外の気楽な時間の過ごし方が苦手なのかもしれない。あと、人間蔑視が酷いのだが、それは異形種なので仕方がないと諦められる。

 ラナーもあまり掃除しない人種だがレイナースが色々と指導する。

 アルシェは手馴れたものだった。クルシュは森の中での生活が長かった為か、掃除をする意味が見出せていないようだ。多少の片付けは出来るが、徹底的には出来ない感じだった。

 

「……教え甲斐があるようだな」

「それぞれ出身がバラバラですものね」

 

 失望は無い。

 賑やかで結構だと思うくらいだ。

 アンバランスさは退屈しなくて済むし、むしろ良いチームかもしれないと思うほどだ。

 


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