ラナークエスト   作:テンパランス

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#146

 act 84 

 

 ルプスレギナが早々に姿をくらました後で訪れたのは結構な人数の人間達だった。

 亜人や異形も少しは混ざっているかと覚悟していたが、寝泊りさせる分には問題なさそうだ。

 後ろに見える巨大生物以外は。

 

「……しかし、デカイな……」

 

 完全にガルガンチュアを凌駕している。

 ここまで巨大だとソロプレイヤーにはどうすることも出来ない気がする。

 大人しくしているようだから手は出さないが、襲ってくるようであればメイド達を配置するしかない。けれども一撃で蹴散らされそうだ。

 アーグランド評議国竜王(ドラゴンロード)もここまでは大きくない。

 

「……警戒はしておくか……。不屈(インドミタビリティ)

 

 様々な魔法のスクロールは用意しているが姿が変わっても機能するところは安心する。

 一撃死しないための魔法だが無いよりマシな程度にしか役に立たない。

 今は迂闊に死ねないので。

 

「ようこそ我が『マグヌム・オプス』へ」

 

 社交辞令的にまずは挨拶する。

 馬車から降りてきた人間達は学生が多く、赤子の姿もある。

 髪の色は黒いのが日本人で水色とかは分からない。

 服装もバラバラ。

 

「宿舎に泊めて頂きたいのだが構わないだろうか?」

 

 代表者と思われる白髪の男性。

 見た感じでは最年長者だ。肉体的にしっかりしていて足腰も強そうだ。

 奥に居るのは家族かな、と。

 

「宿舎はあちらです。……後ろの巨大生物はここまで来ませんよね?」

「あの辺りで休んでよいなら命令しますよ」

 

 声の感じでは人当たりのよさそうな男性に思える。しかし、オメガデルタはこの白髪の男性の顔を何処かで見たような気がした。

 直接会った事は無く、何かの書籍かデータの中だったような。

 

「地下施設の利用者でしょうか?」

「いいえ。そういう予定はありません」

 

 普通は地下施設を利用する人間しか来ない。ただの寝泊りで来る者達は大抵が何かしらの目的を持つ。

 ここは王都と近くの大都市の中間地点だ。

 休憩所にするには(いささ)か不似合いなところにある。

 

          

 

 オメガデルタは宿舎の利用について伝えると後ろで黙って突っ立っていた連れたちがゾロゾロと歩き出した。

 残りの人間達に見覚えのある者は居ない。

 森妖精(エルフ)闇妖精(ダークエルフ)が居ればまた違っていたのだが。

 

「……あの二人は早々にゲームをやめてしまったっけな」

 

 やめた、というか現実の方が忙しくて連絡も滞り、自然と忘れていった者達だ。

 もちろん、そういう者達が他にも居ないとは限らない。

 退会手続きが面倒だからと放置したまま引退するのは珍しい事ではないので。

 

「くんくん。ここは何だか不穏な空気が漂っているわよ。そこかしこに浮かばれない霊が……」

 

 水色の髪の女性が辺りを本当に嗅ぎまわっていた。

 見慣れない服装も水色。この世界では珍しい色だ。

 

「………」

 

 オメガデルタが合図を送るとメイドが一人出現した。そのメイドに指令を与えて一分後にまた再出現し、皮袋を主に渡して消えた。

 持ってこさせたのは金貨だ。

 

「……そろそろまとめて浄化しないとな。どの辺りが効率的かな……」

 

 水色の女性を無視してオメガデルタは施設の中心地点を目指す。

 長いことイビルアイに任せたまま放置した施設だが、やはり何もせずに居るのは良くない。

 

幽霊探知(ディテクト・ゴースト)

 

 自我の無い肉の固まりといえども身体が完成すると魂の概念が出来上がる。それが長い時間を経ると自我が芽生えると予想しているのだが、それが本当に起きるのかは未検証だ。

 黙って百年も待っていられないので。

 とにかく魂があるならば蘇生の魔法が通用する。それもまた世界の秘密の一端である。

 

「この辺りか……。清浄の地(ハロゥ)

 

 金貨を消費する魔法だが発動まで二十四時間かかる。

 相殺する魔法に『不浄の地(アンハロゥ)』があり、こちらも同様のコストがかかる。

 イビルアイに頼むのを忘れていたが後で伝えておこう、と思った。

 

          

 

 するべき仕事は終わった筈だが何か忘れていないかと辺りを見渡す。

 先ほどの水色の女性がこちらを睨むように見つめている以外は何もなさそうだ。

 オメガデルタとしては来客に対して無理に対応したいとは思っていない。その役目はリイジー・バレアレに任せていたのだが、どうやら現在この施設には自分しか居ないようだ。

 イビルアイはリ・エスティーゼ王国の王都。リイジーとンフィーレアはおそらく実家で子供たちの面倒を見ている。

 ラナー達は地下で頑張っているし、やはり対応はオメガデルタしか出来ないという結論に至る。

 

トイレですか?」

違うわよ! 貴女、今何をしたの? っていうか男?」

 

 イビルアイの為に声を変えていたっけ、と思い出したが変更は色々と面倒なのでそのままにしておく。

 それと彼女の声には聞き覚えがある。

 

「……クルシュさんと同じ声質か……」

 

 説明は面倒なので両手を左右に広げて肩をすくめる仕草で誤魔化す。

 細かく説明しても伝わるか分からないので。

 

「こことても気持ち悪いんですけど。……それも極悪に。大量殺人の現場とか? それは女神としては困るんですけど」

「いきなり来て気持ち悪いと言われる筋合いは無い。……それにこの世界での殺人はありふれた日常だ。それに文句があるなら貴女は何処にも暮らせないですよ」

 

 とはいえ、この施設は桁違いだが。

 もちろん普通の一般人は殺していない。

 膨大なモンスターを討伐する場所なだけだ。

 物騒な単語をつい言ってしまったが客人をもてなす気持ちはある。

 宿泊施設は常に清潔に保っている。というか地上はほぼ清浄だ。

 地上はどうしても建物の倒壊が気になる。だから地下に広大な空間を作った。各種排水やゴミ処理、風呂に下水もしっかりと完備させた。

 その上で文句を言われると腹が立つものだ。

 

「う、うるさいわね。とにかく女神アクア様の目がある内は物騒な事はさせないんだから」

 

 じゃあその目を潰せば何をしてもいいんだな、と言ってやろうかと思ったがやめた。

 そういう物騒な発言は自分の本来の物語でやるべきだ。

 ここは制限のある()()()物語だから。

 


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