ラナークエスト   作:テンパランス

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#126

 act 64 

 

 新しい住人はここ最近に転移してきた、という話しだった。

 一年経てば諦めに襲われるかもしれない。

 実際オメガデルタ達は何年もこの世界に滞在している。そして、元の世界に帰る方法は未だに確立されていない。

 だからこそミルヒオーレ達に出来る事は殆ど無い。

 出来るのはせいぜいモンスターに殺されないように強くすることくらいだ。

 それと強くなる気が無くとも服はちゃんと与える。

 今回の転移者の多くは身なりがボロボロという話しだ。どういう経緯があったのかは聞かないが、生活するのに困るのであれば対処する。

 金銭には興味は無くともステータスには興味がある。

 煩悩にまみれているのがオメガデルタという存在だ。

 

「……うちの尻尾に顔を埋めながらブツブツと呟くのは気持ち悪いからやめてほしいのじゃ」

 

 説明口調でクーベルが言うがオメガデルタにとっては手触りと肌触りのいい大きな栗鼠の尻尾は初体験である。

 本当に千切って持ち帰りたいくらいだ。

 この世界に居る巨大ハムスターの鱗に覆われた伸縮自在の尻尾に驚いたものだが。あれは特殊な(クラス)によって身に付くものらしい。

 そういう生物ではなく、後付けの能力だ。

 

「何も出来ないとしても……。帰還方法が分かれば伝えてやりたいところだ。私は自力で戻る気でいる。物凄い年月がかかると思うけれど」

「……そうなると我々はここで朽ち果ててしまいますね」

 

 普通に考えればそうなる。

 これは決して意地悪を言っているわけではない。

 転移物は何らかの原因があり、その大元となる原因を見つける冒険が主流だ。

 もちろん見つける気を持たなければ永住する羽目になる。

 

          

 

 まず衣服の調達を(おこな)う。

 着物に関して文句は出なかった。特別な服装で無ければ駄目な場合もあるかもしれないので。

 例えば変身するという雪音はペンダントは必須という風に。

 ナーベラルだとふっくらと膨らんだ金属製のメイド服。

 カルカだと女王なので農民服を着せるわけにはいかない。

 

「代金の代わりにうちの尻尾をぶった切ると……」

「切った後はちゃんと癒します。物騒な方法以外では貴女達が勝手に分裂するような生物でなければなりません。……分裂するような生物は嫌いですけど」

「話しは聞いておる。何となくどうなるかも……。そうであっても恐ろしいと思っているのじゃ」

 

 怖くない人間は恐らく居ない。

 だから怖くないように事を進める。

 痛がる顔を見るのが好きだ、という趣味は無い。悲鳴はただただうるさいだけだ。

 

「とにかく、いきなり物騒な事はやめておきます。……別のストーリーなら遠慮は()()()しませんけどね」

 

 ちくしょう、と呟きつつ諦める選択をするオメガデルタ。

 それはそれで後が怖いとミルヒオーレ達は少し震え上がった。

 この施設の主はとても欲深く煩悩にまみれていると聞いていたので。

 それは真実だった事を確認した。

 

「ちなみに意地悪はせずに元の世界に戻る方法は考えますよ。というかあったらもう少しこの世界を弄り回しますけどね」

「……恐ろしい御仁じゃな、お主は」

「そろそろ次の人を迎えますが、まだ何か聞きたいことはありますか? 私はまだここに滞在する予定です」

「この施設の利用料はどうすればいいのかと……」

 

 今さっき聞いた内容に関係しそうで聞くのが怖いけれど、頑張って尋ねてみた。

 普通ならば獣の耳とか尻尾だ。

 

「イビルアイが招いたのであれば彼女の意見に従うよ。方向性が定まるまでここを拠点としてもいいし、何らかの指針が出来たらリイジーの店で相談を受けるといい」

「は、はい」

「……個人的には君達の能力が気になるけれどね。それと持っているアイテムは取り上げたりしないから安心するといい」

 

 あまり安心できないと思うけれど、と小さく付け加えた。

 アイテムも少し気になるけれど、集めたいほどではない。

 自分が欲するのは『女体』であり、様々な能力だ。

 雪音のようなペンダントによる特殊な能力も少し気になるけれど。

 


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