ラナークエスト   作:テンパランス

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#011

 act 11 

 

 休日を設けてラナーはクライムと共に近場の訓練場に向かう。もちろん、護衛の騎士を十人ほど引き連れて。

 ラナーは王女であり、モンスター以外にも狙われるおそれがあるので必要な措置だ。

 

「そろそろレベル3になれるほどの経験値が溜まってきた頃でしょうか?」

「目標は5ですから先はまだまだ長いですよ」

 

 一人で小鬼(ゴブリン)を倒すほどにはまだ強くない。

 机上の空論をいつまでも喋っていても強くはならない。

 ラナーは剣を構えて敵に向かう。

 物理攻撃は低いがミスリル製の武器ならば多少はダメージ量が多くなるはずだとクライムは思っている。もちろん、技量も必要なのは分かっている。

 最初はモンスター退治ではなく経験値になる様々な鍛錬や行動でレベルを上げていく。その中で強くなったと実感したものが冒険者に狙いを付ける。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)がいい例だ。

 多少の攻撃魔法でもモンスターが倒せれば収入になるのだから。

 

          

 

 用意されたモンスターとはいえ倒すべき敵だ。ラナーは剣を構える。

 普通の女性ならモンスターと戦うというだけで恐れおののく。だが、ラナーは違う。

 城での醜い争いをたくさん経験している彼女にとって弱い生物を殺す事に悲しみなど感じない。

 退屈を紛らわせる意味しか最初は無かったがクライムから色々と学んで考え方は少しずつ変わってきた。

 自分でも生き物を殺してみたいという風に。

 とはいえ、今はまだ非力で世間知らずなお姫様だ。

 以前まであった『女優(アクトレス)』を失ったとしても記憶としては残っている。

 問題があるとすれば、やはり。

 

 レベルアップとは何なのか。

 経験値の割り振りとは何なのか。

 

 この二つを解明しない限り闇雲な戦闘は徒労でしかない。

 楽して強くならない事は理解している。だが、推測は実証してこそ価値があるものだ。

 

「では、ひと狩り行ってきますわ」

 

 軽快な動作で小鬼(ゴブリン)に向かい、武器を奮う。

 ガス、という鈍い音。

 さすがに一撃では殺せない。当然、小鬼(ゴブリン)も殺されまいと反撃する。

 

「ギャア!」

 

 耳障りな雄たけびを上げる小鬼(ゴブリン)が反撃してくるがクライムは腕を組んだまま見守った。手助けすることは王女の為にならないと判断しているからだ。

 多少のケガは控えている信仰系の従者や回復アイテムで癒せる。

 

「!?」

 

 棍棒による反撃は驚きつつも痛いと感じた。

 相手は命を取られると思っているのだから殺されまいと手加減などしない。

 動きの鈍いラナーに更なる追撃を仕掛けてくる。

 

「クタバレ」

「……そうは行きませんわ」

 

 と、棍棒を剣で受けるラナー。その時、ボキリとはっきりと音が聞こえた。

 

「……うぁ!」

「ラナー様!?」

 

 自分の意思に逆らう右手は武器を持ったまま垂れ下がる。それも本来は曲げられるはずの無い角度で。

 痛みが時間差で襲ってくる。武器を取り落としたところを小鬼(ゴブリン)は殴りかかってきた。

 数値的に言えば4ポイントのダメージか。更なる殴打で2ポイントのダメージ。

 数字だけの戦闘であれば怯む事はない。だが、実際の戦闘は数値では表せない様々な事態が起きるものだ。

 身体は強固な鎧に守られているので小鬼(ゴブリン)の攻撃はあまり通じない。

 露出している頭部や間接部は意外とダメージを受ける。

 ラナーは頭部に受けた一撃で視界が暗転した。すぐに復帰するも手負いの小鬼(ゴブリン)は生きる為に襲い掛かってくる。それしか道が残されていないからかもしれない。

 

「……はぶぇ……?」

 

 意識がはっきりしてきたところで左手で武器を取ろうとするのだが手が震えて掴めない。

 動けないラナーに小鬼(ゴブリン)の追撃が迫るが、それは止められた。

 

「このまま死ぬのが実際の冒険者ですよ、ラナー様」

「……あはぁぶ……? う、びゃへぅ?」

 

 言葉にならないラナー。

 手を振ろうとしているのか、何を訴えたいのかクライムにはすぐには分からなかった。

 殴られた場所が悪かったようだ。目の動きが激しい。左右で違う動きをしている。

 クライムは治癒魔法をかけるように命令する。

 

          

 

 意識が定まってくる頃にはラナーはつい今しがたまで眠っていたような気分を感じた。だが、戦闘の記憶は残っているので右手を確認する。

 鈍痛は残っていたが指などはちゃんと動かせる。

 

「……王女は小鬼(ゴブリン)より弱いようですわね」

「普通、王女は武器を持って戦いませんよ。しかもレベル2でなんて、無茶もいいところです」

「……言葉もありませんわね」

 

 それはそれで情けないなと思った。自分が想定していたより戦えない事に。

 まだまだ相当な鍛錬が必要だ。

 

「鍛錬なので引き返せますよ」

「……いえ、続けます」

「分かりました」

「身体を押さえつけてモンスターを倒すのは()()()()()でしょうね」

 

 既に処分された小鬼(ゴブリン)の死体に顔を向ける。

 

「倒せればいいので。ご要望であればそのような討伐方法もありえますよ」

 

 王女としての特権を行使することもやぶさかではない。

 卑怯なのは百も承知。そうであっても戦いは面白くなくては続けられない。

 

「楽をしたところで皆さんに経験値が割り振られるのでしょう?」

 

 人数が多いのでかなり少なくなる。

 

「多くて……2ポイントでしょうか」

「確実に1ポイントは貰える……。そうであるのならば、それはそれでありがたいと思うことに致しましょう」

 

 命のやり取りにたった1ポイントしか手に入らない。それでは命を賭ける意味が無い、と考えても不思議は無い。

 それでも手に入る経験値はありがたく思わなければならない。

 ナーベラルの(アインズ)ならば『骨折り損のくたびれ儲け』と言うかもしれない。

 


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