ラナークエスト   作:テンパランス

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#117

 act 55 

 

 新たな闖入者にして施設の正当な主は居並ぶ客人に改めて挨拶をした。

 現在のオメガデルタは名前を名乗れない呪いにかかっており、外で警戒任務中のラキュース・アルベイン・デイル・アインドラの夫である。

 ただし、それらの記憶は彼女どころか世界から消されており、その事実を知っているのはナザリック地下大墳墓の関係者とイビルアイを含む一部のみだ。

 

「並みの呪いじゃなかったが……。後数年もすれば解呪されるタイプだから心配はしていない」

 

 急遽現れた不可解な存在の話しに各自耳を傾けるが理解不能な事態に頭を痛めていた。

 特に騎士団長『レメディオス・カストディオ』は唸ったり、声を荒げたりうるさかった。

 

「……夫と言っているがコイツ、本当は女だけどな」

「おい変態エロゲ師匠。迂闊な発言をすると折角薄まった呪いが濃くなるかもしれないから、ネタバレはほどほどにな」

「そういう設定だっけ? 十年効果って奴だから……もう過ぎたのかと思ってた」

「……あと少しだ」

「……ごめん」

 

 この手の呪いは『制約(ギアス)』という高位の魔法に似ている。

 世界規模のようだから超位魔法並み。しかも効果が長いのが恐ろしい。

 

「お、オメガデルタ様……と呼称すればよろしいのでしょうか?」

「この姿の時はそれで頼むよ。改めてこんにちは。この変態じみた施設(マグヌム・オプス)を作らせた張本人です」

 

 オメガデルタは一礼する。

 それに対し、事情を知る者以外は呆気に取られていた。

 相手のステータスを見抜く生まれながらの異能(タレント)を持つアルシェ・イーブ・リイル・フルトは先ほどからオメガデルタを見つめていたが何もデータが出て来ない。

 対策されているようだ。

 それにしても難度300のペロロンチーノを見ても()()()()()()のは何故なのか。

 自分なりに分析したところ、(ペロロンチーノ)魔法詠唱者(マジック・キャスター)よりは戦士系なので怪しいオーラの強度は強くなかった、と考えると納得出来る。

 それでもかなり驚いたけれど。

 これが魔導王であればみっともない姿をさらしているところだ。

 普段の魔導王はちゃんと対策しているので、ステータスを見ようとしても何も出てこず、尚且つ吐くような事態には陥らない。

 

          

 

 自己紹介らしいことを終えた後は竜王国の女王『ドラウディロン・オーリウクルス』が握手を求めてきた。

 久方ぶりの知人に対する形式的な挨拶だがオメガデルタは快く受け入れた。

 代わりに聖王国側は話しが突飛過ぎて固まっていた。

 

聖王国の女王様自らこんな施設に来られるとは……。この施設をお使いになられて何か得るものはありましたか?」

「驚愕の連続でありました。……しかしながら……、自分たちが強くなったかどうかは実感がありません」

「そ、そうだ。ただモンスターを倒し続けるだけだった。それで我々は本当に強くなったのかはどう証明されるのだ」

 

 イビルアイは事前にメモした書類をオメガデルタに渡す。

 施設を良く理解している人物に見てもらうのが一番の早道だと思ったので。

 ペロロンチーノも使()()()は知っている。けれども()()()使()()()()()いないので失敗が怖かったから知らない振りをしていた。

 

聖騎士(パラディン)は調整が難しい……」

 

 職業(クラス)の取得の中でカルマに左右されるものの一つだ。

 いくら『つまみ食い』が出来る『ユグドラシル』とはいえ、ここは別世界。

 気軽に調整できるものと出来ないものがある。

 経験値は既にかなり溜まっているのでどんどん職業(クラス)に投入する事自体は可能だ。ただ、それによって新しい職業(クラス)に割り振り難くなる。

 それらを解決する為に一覧表を作っていたのだが、どこに仕舞ったかとイビルアイと共に書類を納めている棚を物色する。

 

「急に出て来た新キャラだけど……、あいつ本当に偉いのか?」

「見た目で判断されると何とも言えないが……。この施設の主なのは間違いないよ。俺が保証しよう。折角だから仲間も呼ぶか」

 

 六の宝物庫(ユーノー)は外部連絡を阻害していないし、と。

 外敵が現れると施設の中に居る人間の安否が優先されて、条件次第では連絡を絶つ事がある。

 

「おいこら。呪いを拡散する気か?」

「そこはちゃんと忠告しておく。お前は黙って彼女たちの相手をしていろ」

 

 ペロロンチーノとオメガデルタのやりとりにイビルアイや他の面々も驚く。

 あまりにも気軽過ぎる態度に。

 既に連絡を始めてしまったペロロンチーノを今更止める事は出来ないので思考を切り替えるオメガデルタ。

 

          

 

 まずイビルアイを手招きし、今までの事を簡単に聞いておく。

 詳細は今は重要ではない。

 来客に何を見せて、何をさせているのかを聞く。

 

「利用者は急に現れたのか」

「その前は見学者が数人程度だが……。大半が農業関係者だった」

 

 パワーレベリングは楽をする方法なので鍛錬には向かない。だからこそクライムガゼフ・ストロノーフは研究以外での利用には否定的だった。

 

「私達は興味本位ですわ」

 

 にこやかに言ったのはあいも変わらず笑顔が絶えないリ・エスティーゼ王国の第三王女。

 今回は武装しているので見た目の雰囲気が違っており、オメガデルタはそれでも素敵だと思った。

 高レベルの王女様を育成してみたい、という欲求があったので。

 

「もちろん無理な事はしておりません。ただ……、強制的にレベルダウンさせられたのです……。特にナーベラルさんが」

 

 ラナーに言われた武装メイドナーベラル・ガンマは口をきつく結んで佇んでいた。

 今の自分は弱くて人前に無様な姿を晒している愚か者だ、と言わんばかりの屈辱を味わっているかのような顔になっていた。

 

「……概ねその通りで弁解も出来ない……」

「チームメンバーとして平均的に扱うなら平等なレベル帯が望ましいよね。特に一番低い者に合わせたりとか」

「彼女の場合は下がりすぎだ。これは元に戻るものなのか? 悪質なモノローグの所業が酷いのだが……」

「一人ずつなら難しくない。特に君たちならデータは保管してある。……向こうの新顔は分からないな。あれらもチームなのか?」

「あちらはあちらで別個のチームだ。一斉にこの施設を使う事になっただけだ」

 

 代表としてレイナース・ロックブルズが言った。

 ラナーはただ黙って彼女の言葉を聞いていた。

 その後、外の宿舎にもまだ利用者が居る事が伝えられる。

 現場の把握は急務であり、大事な事だった。そして、それらを把握した上でも深刻な事態は起きていないとオメガデルタは結論付ける。

 自分が居なくても施設はちゃんとイビルアイ達によって適切に運用されてて少し気恥ずかしい。

 よくこんなふざけた施設が今も存続しているものだと自分の事ながら呆れてしまう。

 

「その前に……。皆さんは五の宝物庫(カエルス)は見学されましたか?」

「金貨の部屋か? 見せてもらった」

「はい」

 

 女性陣の殆どが頷いた。

 別に見てはいけない部屋ではない。駄目な部屋はちゃんと封印しているので。

 

「では、とっておきを見せてあげましょう。そこの鳥は駄目だからな」

「別にいいじゃん。……だいたいの予想は出来るけどな。……まあ、色々と不都合なこともあるか……、お前にとっては」

 

 鳥人間ペロロンチーノは何度かため息を吐きつつ、部屋を後にする。

 連絡した仲間を足止めするためだ。

 

          

 

 金貨の部屋を見学したい者だけ集めて移動を開始するのだが、鍛錬は主の特権で中止してもらうことにした。

 どの道、休憩中だったようなので異論は出なかった。

 『マグヌム・オプス』に来た当初、それぞれ五の宝物庫(カエルス)の中は既に知っている。床一面に金貨が広がる部屋である事を。

 その部屋に再度、集めさせられる面々。

 

「下の階の扉は危険なので開けないように。……念のための注意事項です」

「はい」

 

 ラナーは素直に返答したが他の者は無言だった。

 一度見た部屋という事で飽きたのか。興味を失ったのかは知らないが、ラナーは仲間達に顔を向けて口を尖らせる顔になる。

 自分だけ楽しみにしているようでバカみたい、と。

 そんなラナーの気持ちなど露知らずオメガデルタは複数の扉を開けていく。

 普段ならば封印されている扉があり、イビルアイとて気軽には(ひら)けない。それを主特権だからか、何の支障も無く開けられていく事に代行者(イビルアイ)は驚きを感じた。

 ここが自分の施設ならばオメガデルタとは逆の立場になる筈なので文句は言わなかった。

 

「……おお、随分と減ってますな……。最後に確認した時はもう少しあったような……」

「実験によって自動的に使われたらしくてな。後で気付いた時は驚いた」

 

 イビルアイ達に好きに使っていいと言い残していたので別に責める気は無い。

 ただ、ここまで減ったのなら連絡を寄越してくれても良かったのでは、と少しだけ残念な気持ちになる。

 

「下に生体反応は?」

「ございません」

 

 オメガデルタの問いかけに付き添いで連れて来たシズ・デルタの一体が即座に答えた。

 

「さて、これから凄い光景をお見せします。……折角来たのに鍛錬だけでは面白くない。記念に感動していってください」

「はい」

 

 ラナーはもちろん、聖王国の女王『カルカ・ベサーレス』とドラウディロンも何が起きるのか、期待に胸が膨らむ。

 予想は出来る。ただ、空想と現実では感じ方が違う。それはよく理解していた。

 

「……本来なら地道な資金稼ぎが急務だけど……、世の中にはのんびりしていては先が進まないこともあります。では……」

 

 そう言ってオメガデルタは『飛行(フライ)』によって部屋の中心地の少し上。

 あらゆる廃棄物を処理する宙吊りにされた『エクスチェンジ・ボックス』の近くに向かう。

 部屋の上空に四方から板の橋がかけられているが今は血まみれとなっていた。

 つまりモンスターの残骸が先ほどまで放り込まれていた証しでもある。

 これらはちゃんと綺麗に清掃される。

 オメガデルタは部屋の入り口で静かに様子を窺う女性陣を一瞥する。数百メートルも離れているのでちゃんと見えるのか気になるところだ。

 

「……五個程度でいいか」

 

 放り込む最大個数は三十個。それ以上は部屋からはみ出す。というより扉を破壊してしまう。

 世界三十個と同等の部屋。

 地道な処理()()で満たす場合は軽く試算しても五年以上はかかる。稲ならば数百年かかってもおかしくない。そして、それだけの容量がある。

 


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