ラナークエスト   作:テンパランス

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#113

 act 51 

 

 カズマ達は改めて互いに名乗りあい、求められれば握手もした。そして、謎の中華風の女性は聞きなれない名前だった。

 聞けば皇女という存在で自国で一番偉いのだとか。だが、カズマは彼女の事はまったく知らなかった。

 その国は地球の太平洋上に存在する浮遊国家

 

「……浮遊というだけで荒唐無稽だな……」

 

 少なくともカズマの知識にある地球に浮遊する国家など存在しない。存在しない筈だ。

 ゲームばかりしていて外の世界に疎いから気付かない、ということもあるかもしれない。

 同じく地球が本来の故郷であるターニャも首を傾げていたし、立花も首を傾げた。

 自分たちが知る地球に浮遊する国家は無い。それが共通認識となっていた。

 

「……ようは似て非なる平行世界の地球には存在するということだな」

 

 キャロルの言葉にターニャは納得する。

 それぞれ同じ世界の住人という保証は無い。だが、そうなるとカズマ達と別々になる。

 それが良い事なのか悪い事なのかと言えば分からない、と答える。

 

「この出会いはここだけの奇跡か……。それはそれで寂しくもあるな」

「アクア様の知る地球は複数あるなんて聞いてないんですけど~」

「……普通に考えて女神が管理する地球っていうのも変だけどな」

 

 というよりは女神が存在する事自体が荒唐無稽であり、そこに疑問を持つべきではないかと薄っすらカズマは思った。

 気にしたら負け、という言葉が脳裏に浮かんだのでアクア案件の事は追い出した。

 

「その……じぐ国とかいう国は……何なんですか?」

「兄ちゃんが()()()()持ってきた国家。元々は何処かの世界の国だったらしいよ」

 

 また奇怪な単語にカズマは眉間にしわが出来る。

 

「なんじゃ貴様。我が国は国連にも加盟している由緒正しいお主らの一員じゃぞ」

「……知りませんよ、そんな国の事なんか」

 

 もちろん、彼女の国どころか国連に加盟している国の全てをカズマは知らない。

 せいぜい大国の名前が出る程度だ。

 

「カズマ君の世界には『東京タワー』に巨大な剣が刺さっていないんだよね?」

「はあ!?」

「うちの世界には刺さっているんだよ。二千メートルくらいの巨大な剣がざっくりとね」

 

 流石にカズマとて東京タワーは知っている。けれども二千メートルほどの剣が刺さっている話しは聞き覚えが無い。

 神崎という人間達と自分は平行世界によって別々に存在している日本人という事になる。

 もちろん見た目では分からないけれど、相手方の世界をのぞければ異様な状況を目撃するかもしれない。

 

          

 

 文化自体に大きな差異は無いようだが世界の様相はカズマの想像を超えている。

 そもそも太平洋に浮遊する島国は無い。

 東京タワーに巨大な剣は刺さっていない。

 他にもありそうだが、聞くのが怖い。

 

「……あれ? 俺達の世界とは違うから別に良いのか?」

 

 違う日本の風土にケチをつけても仕方が無い。

 向こうの世界はそういう文化だ、と理解しておく。

 そもそもよその世界を否定する権利は無いので。

 

「それで……。兄ちゃんはこの人達を殺すとか条件あるの?」

「神が望むのは私が苦戦して負けるところだ。条件は酷いが……、それはそれで面白い」

 

 負ける気は無いがカズマ達が勝てない限り元の世界には帰れない。

 相当な努力をしてもらいたい意図でもあるのか、と考えてみるが兎伽桜がそんな事を考えるような人ではないので、他に何か理由があるのかもしれない。

 龍緋としては未来ある若者との戦闘は嫌いではないが命を落とされるのは困る。

 かといって手加減して勝たせてしまうと神様はきっと怒る。

 

「今日一日で全てを解決しろ、とは言わない。そこは神様だとしても譲りはしないが……。私とて怒ることもあるから、最終的に兎伽桜さんと戦う事も辞さないさ」

 

 穏やかな口調でカズマ達に話しかける龍緋。

 カズマとしては上から物を言う高圧さが無かったので少し安心した。

 説教癖のある人物がすぐ浮かぶので、という()()を持っているので説教臭い流れになると危惧していた。

 

「サトウカズマ君だったね?」

「はい」

 

 急に名前を呼ばれたので条件反射的に背筋を伸ばした。

 

「誰か一人でも私に勝てれば条件を満たしたと認めるよ。一年と言ったけれど、猶予はとにかく私に勝てればいい。……他に仲間を見つけた方が得策だとアドバイスしておくよ」

「……ありがとうございます」

 

 年上という事でカズマも丁寧に相対する。

 どの道、魔法でも物理攻撃でも龍緋に勝てそうにないと思った。

 安心する頃に立花の変身が解けてしまった。

 

「君たちが負けたところで二度と戦闘資格が得られない、とかいう条件は無い。何度でも挑んでくれて構わない」

「はい」

 

 場が落ち着いたところで宿のことで話し合うことになった。

 敵である龍緋はベアトリーチェと相部屋になる事を了承し、それ以外はどうすべきかの議論が始まる。

 


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