ラナークエスト   作:テンパランス

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 act 41 

 

 五分ほど会話が途切れた後、遣いに出したルプスレギナ・ベータが戻った。

 街の中に入れてすぐ別れたので対象の人間を探すのに手間がかかった、などと言い訳をしていたがタブラ・スマラグディナ達は無視する。

 

「おい、赤龍。お前、どこまで行ってたんだよ」

「適当に街中を散歩してただけだよ」

 

 口を尖らせる龍美の隣りに赤龍(せきりゅう)は座った。

 兄妹が揃ったとしても話す話題はタブラ達には出て来ない。せいぜい自己紹介くらいか。

 

「君達に何かあればあの獣が暴れだすかもしれない。ということなら、我々はこれ以上は何も出来そうにないな」

「……じゃあ特別にそちらから我々の姿について質問でもしていいよ」

 

 本当にそれくらいしか尋ねる事が無いのではないか、と。

 個人情報を詳しく聞き出すのは相応しくない気がしたので。

 毎回不必要に相手の事を探るのは物語としてはありかもしれないが、逆に聞かれる立場となれば実に不愉快極まりない。

 一応、男性が赤龍という名前は聞こえたので仕方が無い。それは不可抗力だ。

 

「喋るモンスターなんでしょ?」

 

 素直な龍美の返答に武人建御雷弐式炎雷は苦笑した。

 ルプスレギナも頷いている。これが彼女以外の者なら怒りの形相になっているところだ。

 異形種を一目見て、その者が王様や偉人だと分かる人間はほぼ居ない。もちろん、王冠などの装飾品もない条件が付く。

 

「否定はしないが……。一言で済まされると言葉も無いな」

「知らないモンスターだらけだもんね」

「じゃあ、この猫について知りたくはないか? 今まで姿も出てこず、出番もほぼ無い奴だったから」

 

 引き合いに出されたるし★ふぁーは腕を組んで唸り始めた。猫特有の威嚇音のように。

 表に出て来て活躍する二次創作がほぼ皆無のキャラクターだ。それにまだ原作にすら登場していない。

 声での出演はあくまで彼が吹き込んだライオン型動像(ゴーレム)であり、るし★ふぁー本人ではない。

 

「いっそ全ステータスを晒すよ」

「こら~!」

 

 仲間の気軽さにるし★ふぁーが憤慨する。

 

「折角の出番なんだぞ。少しは妥協しろ」

「……そこまで卑屈になってまで出番を欲しがったりしないよ。タブラさんとかステータス出しにくいんじゃないですか? よく分からない魔法系統だし。ぷにっとさんだって指揮官職程度でどういう活躍するのか分からないし」

 

 というかギルドメンバー全員よく分からない職業(クラス)構成となっている。

 中にはオリジナル職業(クラス)もあり、完璧に特定する事はほぼ不可能。

 

世界(ワールド)を冠する職業(クラス)とか未公開のも新たに出ると困りますよ、色んな読者とか」

「……だよねー」

「既に知られた職業(クラス)だけでステータス作っていいじゃん。どうせ二次創作だし」

「……身も蓋も無い事を……」

 

 と、互いに言い争いだした得体の知れないモンスター達。

 その様子を見ているしか出来ないクライムと龍美達。

 

          

 

 数分後に落ち着いた後、クライムに龍美達に飲み物などを出すように命じる。

 現在のクライムは魔導国王国双方の付き人となっていた。

 モンスターであるタブラ達と平然と接する事が出来る中で優秀なのは彼くらいだと言われている。

 アダマンタイト級冒険者蒼の薔薇』達が不在である事も原因のひとつだ。

 本来ならばイビルアイが居なくてはならない。

 

「まず解決しておきましょうか。あの猛獣は王国に危害を加えない、という約束は出来ますか?」

「させます」

「こちらの言葉は理解出来るんですか?」

「出来ると思う。私が貴方達の言葉を理解出来るように……」

 

 という言葉を別の兵士にメモさせる。

 本来はルプスレギナにやってもらいたいところだが、適当に書きそうで怖いので念のために字が書ける警備兵の一人に担当してもらった。

 龍美に尋ねても意味がないとすぐに気付くが、彼らにもある程度の約束を交わしておくのも無駄ではないと思った。

 

「形式的なものですが……。それはさておき、あなた方はこのまま観光なさるのですか?」

「そうですね。せっかく来たので。後からお姉ちゃんも来る事になっていますし」

「暴れはしないと思うけど……。外に待機させてて大丈夫?」

「たぶん大丈夫です」

 

 たぶんでは困るのだが龍美にこれ以上、責め立てても進展は無いと思い会話を切り上げる事にした。

 拘束しようとすれば獅皇が暴れるかもしれない。

 ここは様子見で決着をつける事にする、とタブラ達はそれぞれ納得していく。

 大人しく話しを聞いていたるし★ふぁーにも何か意見が無いか尋ねてみた。

 

「俺の出番はもう終わりでいいよ」

「せっかく出て来たんだ。彼らの案内でもすれば?」

「そうだぞ。お前のキャラ紹介は数年先になるかもしれないし」

 

 仲間達の言葉を受けて不満の吐息を吐くるし★ふぁー。

 個人的には早く帰りたいのは本当だった。いきなり呼ばれて、いきなり張り飛ばされれば気分が悪くなるのは当たり前だ。

 それに出番は別に欲しくない、と。

 

「だいたい俺、異形種だよ。君ら、こんな俺の案内でいいの?」

 

 復活したるし★ふぁーの顔に嫌な気持ちは湧かないと龍美は言った。

 赤龍も猫は嫌いではないと答えた。

 

「うち、兄ちゃんの都合でペットを飼ったこと無かったからな……」

 

 だからこそ兄が獅皇を連れて来たのかもしれない。

 神崎家は一軒屋でペット不可ではないけれど、病弱の兄に得体の知れない病気が感染したり、勝手に部屋を荒らされるという危惧から敬遠されてきた。

 

「先ほどはうちのさくらが大変ご迷惑をお掛けしました。本当に申し訳ありません」

 

 と、丁寧に謝罪する龍美にるし★ふぁーはたじろぐ。

 誠実な対応は久しぶりのような気がして、口をモゴモゴ動かすばかり。

 彼らに対する怒りや(わだかま)りは一気に消沈する。

 場が和やかになったところで会議を終え、るし★ふぁーを龍美達に押し付けてタブラ達は引き上げて行く事にした。

 控えていたクライムに城に報告に向かうように指示する。

 


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