「いだだだだ‼︎ちょっ、もっと優しく優しく!」
初春に消毒液を塗ってもらいながら悶絶する佐倉。それを全く無視して初春は聞いた。
「というか、佐倉先輩はなんであそこに?」
「クレープ食べようと思ってたら巻き込まれた」
「へぇ〜。私達と同じ目的だったんですね」
「ま、なんにしろ、」
と、割り込んで来たのは固法先輩だ。
「これ、始末書。他人のバイク勝手に盗んで無免許運転、運転中の危険行為、ほとんどやってることスキルアウトと同じだからね」
「いやいやいや、俺はレベル0なりにちゃんと働いたつもりですが⁉︎」
「何がレベル0よ、能力者の癖に」
「システムスキャンでは0って扱いなんですよ。なんというか、原石?みたいな扱い」
佐倉の能力は、自分で調節ができない。相手がどんな怪我や病気であっても、問答無用でフル回復させてしまうのだ。
「そんなことはどうでもいいのよ。ほら、早く始末書」
「やれやれだぜ」
「はっ倒すわよ」
「ごめんなさい」
そんな事を言いながら、とりあえず傷の手当を終わらせた。
*
翌日、アホかってほどの日本晴れの日。佐倉は路地裏を歩いていた。
すると、女の子が一人、ヤンキーに絡まれてるのが見えた。昨日の今日でまたまたお仕事か……と、ため息をつきながら歩いて近付いた。
その直後、電撃がそのヤンキーたちを全滅させた。
「えっ?」
思わず声を漏らした。そして、視線の先には昨日の強盗の時に近くにいた茶髪だ。
「まったく……絡むなら相手を確かめなさいよね。……って、ん?」
その女は佐倉を見る。高位能力者なら自分の出る幕はなかった、と思い佐倉は形だけでも怪我はないか確認しようとした。
「あの、大じょ……」
「あら、一人やり損ねたみたいね」
「へ?」
直後、飛んでくる電撃。慌てて避けた。
「あっぶなっ!何すんだあんた⁉︎」
「はぁ?人に絡んでおいて何言ってんの?」
バチバチと好戦的に電気をちらしながら佐倉を睨む。そこで、佐倉は自分もヤンキーの一味だと思われてることを知った。
「いや、違うからね」
「は?」
「俺、この人たちの仲間じゃないから」
「何、今更言い訳してんの?人に胸触らせろとか言っといて」
「いや、言ってねーから。俺、貧乳に興味ないし」
プチッと音がした。何かがキレる音がした。目の前でバチバチと電気が唸っている。
「誰が貧乳だあああああああ‼︎」
「ふおおおおお⁉︎」
慌てて後ろに飛び退いた。ギリギリ当たらなかったが、当たってたら間違いなく入院コースである。
「お、おおおまっ、お前何してくれてんのいきなり⁉︎連行するぞこの野郎‼︎」
「あんたは許さない……絶対ブッ殺す……‼︎」
「待て待て待て!あんたなんか勘違いしてんだろ‼︎俺はそこの不良とはマジでカンケーないんだって!」
「関係ないわ……あんたがなんだろうと、言っちゃいけないことを言った時点で許さない……!」
「言っちゃいけないこと……貧乳?」
「殺す」
「待て待て待て!それは長い人生という過程の中で女性にしては小さいなという意味で、あなたが中学生くらいなら平均くらいなのではないでしょうか⁉︎」
「お前の理屈なんか知るかああああああ‼︎」
「ああああああああ⁉︎」
電撃を慌ててまた避けた。これ以上はぶっ殺されると判断したので、逃げ出した。
「逃すかああああ!」
「すいまっせーん!」
「許すかああああ!」
鬼ごっこが始まった。
路地裏から出た佐倉は、停めてあった自転車をパクった。そのまま漕いで逃げる。その後を御坂は追い掛けた。
「逃す、か‼︎」
「うおっ⁉︎」
電撃で自転車が壊される。地面に転がりながらも受け身を取り、佐倉はポケットから携帯を取り出した。
「もしもし、白井⁉︎」
『佐倉先輩⁉︎今、どこに……!』
「あとで怒られてやるから後ろの奴なんとかしてくれ!電撃バチバチ散らしながら殺気放ってる奴が追いかけてくんだよ⁉︎」
『は、はぁ。どこにいますの?犯人の特徴は?』
「場所は第七学区!特徴は茶髪、常盤台!以上!」
『お姉様⁉︎今、参りますわ!』
「知り合いかよテメェ‼︎」
『知り合いも何も、第三位のレベル5、御坂美琴お姉様ですわよ?』
「」
言葉を失った。第三位といえば……、
「れ、超電磁砲んんんんッッ⁉︎」
「今更気付いても遅いわよ‼︎」
「早く!白井早く!狩られる!」
『はいはい……まったく、何やってるんだか』
数秒後、テレポートして来た黒子に止められた。
*
「と、いうと、そこの奴は風紀委員なのね?」
腕を組んでイライラした様子で御坂は確認した。現在、3人は落ち着いてカフェにいる。
「そうですの。で、佐倉先輩。こちらは御坂美こ……」
「知ってるよ、今更言われなくても」
「黒子、こんな人にいきなり貧乳とかいう奴を風紀委員にしちゃダメよ。風紀が乱れる一方だと思うから」
「乱れてんのはお前の頭の中の風紀だろ。自分がムカついたらとりあえず電撃飛ばしちゃうとか、オモチャ買って貰えなくて泣きわめく子供と同レベルだからね」
「ああ⁉︎」
「はい、そういうところね。そもそも人間に電気流しちゃダメなんてことは幼稚園児でもわかることだから。それでも構わず放電し続けるとかどういう教育受けてたんですかね」
「ち、ちゃんと加減してるわよ!」
「すりゃいいってもんじゃないでしょ。どうせあれだろ、パパから何でもかんでも買ってもらえて、恵まれた環境で勉強してエリートに自動的になれて幸せ街道を順調に走って来た自分がかわいいお姫様だろ。牛乳パックで本棚も使ったことのない苦労を知らないお嬢様なんだろ。喧嘩で友達を傷付けても執事が百葉箱の陰から現れてお金払って解決する世界で育って来たんだろ」
「それどんなお嬢様⁉︎私の知ってるお嬢様と随分違うんだけど⁉︎」
「言っとくけど、俺たち平民はお前らと違ってなんでも自分でできるから。本棚だけじゃなくて机も椅子も床も天井も全部牛乳パックだから。牛乳パックで人生街道走って来てるから」
「そんな牛乳パックハウスで暮らす平民なんていないわよ⁉︎ていうかどんだけ牛乳パック持ってんのよあんた‼︎」
「お前にはわからねーよ、牛乳パックの気持ちが」
「分かりたくもないわよ‼︎」
肩で息をする御坂。黒子がまとめるように言った。
「まぁ、大事にならなくて良かったですわ。金輪際、このような事は控えて下さいな、お二人とも」
「で、でも黒子!先に喧嘩売って来たのはそいつよ⁉︎」
「そもそも、お姉様が勝手に不良の一味と勘違いしたんですのよね?」
「うっ………」
「そうだよ、まずは自分の非を認めるところから始めような。そして、自分の非を認めたら牛乳パックで本棚を作ろう」
「どこまであんたは牛乳パックをプッシュすんのよ‼︎」
「じゃ、俺そろそろ支部に行くわ。悪いな、白井。急に呼び出して」
「いえ、一応風紀委員の仕事ですので」
「じゃ、」
佐倉は一七七支部に向かった。二人に代金を押し付けて。