柵川中学から、一人の少年が下校していた。暇そうに大きな欠伸をしながらスマホをいじっていた。時刻は16:30。そろそろ仕事の時間だ。というか、遅刻していた。
どうせ怒られる未来は見えている。なら、どんなに遅刻しても一緒だと思ったので、たこ焼きを食べてから行く事にした。
「らっしゃい」
スキルアウトがたくさんいそうな場所にも関わらず、全く気にした様子を見せずに屋台の前に立った。
「1パック」
「400円だよ」
「はいはいどーも」
財布から500円玉を渡した。
「100円のお返しね」
「うい」
ベンチに座って食べようとしたところで、携帯が震えた。
「もしもし?」
『白井ですが、佐倉先輩?今、どこにいますの?』
「あふっ」
『はい?』
「はふっ、はふっ、アムッ、ごくっ……えっと、なんだっけ?」
『いや、ですから今どこにいますの?』
「たこ焼きの屋台の前……これ美味いなおい……」
『さっさとこっちに来てください‼︎ただでさえ最近は忙しいというのに‼︎』
「あふっ、美味っ」
『いや、美味っ、じゃありませんの‼︎』
「桜エビ入ってんだこれ。道理で美味いわけだ」
『話聞いてます⁉︎はやく支部に……‼︎』
「わーったようるせーなハゲ。おっちゃん、お代わり2パックお願い」
『お代わりしてんじゃありませんのおおおお‼︎』
うるさくなったのか、携帯を切った。
「美味っ」
*
一時間後、ようやく佐倉は一七七支部に来た。
「うぃーっす」
「遅いですの‼︎」
「まぁそう言うなよ、これお土産」
言いながら、たこ焼きを2パック机の上に置いた。
「わぁー、ありがとうございます。佐倉先輩」
初春がすぐに飛び付いた。
「こんな物のために遅れてくるなんて……風紀委員としての自覚は……‼︎」
「白井も食べるっしょ?」
「……いただきますが。って、そうではなくてですね……‼︎」
「はい、爪楊枝」
「ああ、申し訳ありません。……ですから、じゃなくて!」
「マヨネーズはかけない派?ソースは?」
「掛けても大丈夫ですの。……って、人の話を……!」
「固法先輩は?」
「先ほどパトロールに……っていい加減にして下さいまし‼︎」
「わっ、美味しいですねこのたこ焼き」
「でしょ?これは固法先輩と3人で食べていいよ。俺はさっき食ってきたから」
「ありがとうございます」
「………もういいですの」
説教は諦めた。
佐倉円理は『置き去り』の施設にいた。回復力がズバ抜けた不死身の人間を作るという計画によって、身体中をいじくり回されたが、その途中で警備員の突入によって計画は中止され、保護された。
その結果、体は「
そんな人間回復薬となった佐倉は、黄泉川に拾われて風紀委員に入って、なんやかんやで現在に至るわけである。
「で、今日はどうすんの?」
「パトロールですの。いつもと同じように」
「うい」
「また前みたいにラーメン屋でサボったりしないで下さいよー」
「分かってるよ、初春。つーか、お前はお土産買ってくれば許してくれるじゃん」
「いやー、私が許しても白井さんが……」
「私は許しませんのよ。次はありませんからね!」
「そんな幸せそうにたこ焼き食いながら言われてもな」
「う、うるさいですの!」
「じゃ、パトロールってくるわ」
そう言って、ゲーセンに向かった。
*
翌日、佐倉は学校から帰宅していた。帰りにお腹が空いたのでクレープ屋に寄ろうとすると、その付近に初春、黒子の姿が見えた。
「⁉︎」
慌てて物陰に隠れる佐倉。周りにもう二人、茶髪常盤台と黒髪柵川が見えたが、気にしてる余裕はなかった。
「やっべー、サボってんのバレるとこだった……」
ちょうど、買い終えたのかクレープ屋の列から離れる四人。だが、気が付いた。別に奴らが買ってるなら俺も買ってもいんじゃね?と、で、列に並ぼうとした直後、後ろから爆発音が聞こえた。
振り返ると、いかにも銀行強盗といった外見の男が3人、アタッシュケースを抱えて出てきた。
「うーわ、仕方ねえな」
佐倉は鞄の中を漁って風会員の腕章を取り出そうとした。だが、
「あれ?腕章、腕章……」
探しても出て来ない。そうこうしてるうちにテレポートした黒子が突撃してしまった。
「おいおいおい、腕章ないと始末書なんだけど!」
まだ探してるバカは置いておいて、黒子は一人目を捕獲する。
「あった!」
そう言って腕に装着した直後、男の中の一人が車に乗った。
「うわやっべ」
慌てて佐倉はその辺に止めてあるバイクに乗った。
エンジンをかけて、ブォンッと音を鳴らしながら車を追った。
「あれ?佐倉先輩?」
通り過ぎざまに初春に声をかけられた気がしたが、無視して走る。
バイクを飛ばして、車に並んだ。コンコンと窓をノックする。すると、窓が開いた。
「すんませーん、風紀委員っす。車止めろボケ」
「なっ……⁉︎風紀委員だぁ⁉︎」
「止めろって。俺も無免許運転とバイクの盗難で長時間はマズイんだわ。だから止めろ」
「ああ⁉︎知るかボケがァッ‼︎」
「いやいや、ツッコミもいけるよ俺。ったく、しょーがねーな」
そう呟くと、佐倉はバイクの上に立って、ジャンプした。車の上に飛び乗ると、両手を広げて車の屋根に掴まりながら窓の中に拳を叩き込んだ。
「っらぁっ‼︎」
「いたっ⁉︎」
「……もう、一発‼︎」
「ごあっ⁉︎て、テメェ……‼︎」
車を揺らす強盗犯。それでも佐倉は手を離さなかった。もう一度、拳を中の運転手に叩き込む。
「て、テメッ……‼︎」
「く、る、ま、を、止、め、ろ‼︎」
「ガッ、グオッ、……なら、止めてやるよ‼︎」
直後、急ブレーキが掛かる。佐倉の身体は前に投げ出された。
「ッ……‼︎」
前に転がったところで、再び走り出す車。佐倉は横に転がって回避しつつ立ち上がり、再び車の開いてる窓に飛びついた。走行しながらもなんとか右手だけで掴まってる状態である。
「てめっ、しつけぇ野郎だな……‼︎」
「悪く思うなよ‼︎」
「あ?」
全身の力を右手に込めて体を持ち上げると、中の男の胸ぐらを左手で掴んだ。
「えっ?」
「舌噛んで死ぬなよ‼︎」
無理矢理、窓から引っ張り出し、上半身だけ窓から出てる状態になった。
「いやああああああ⁉︎ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいもうしません許してください‼︎」
「だったらブレーキを踏め!」
「お前が引っ張ってるから上手く踏めねえんだよ‼︎」
「って、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿‼︎前前前前‼︎」
「お前が引っ張ってっから前向けねぇんだよ‼︎」
「何でも人の所為にすんじゃねぇ‼︎」
「いや純度100%でお前の所為だからね⁉︎」
「あっ……」
「えっ、ちょっ、何その諦めたような声」
「…………」
2秒後、車は壁に追突して大破し、二人は黒子のテレポートで間一髪、助かった。