融合騎は『闇の書』を自分の前に出現させると、『闇の書』のページがパラパラと独りでに捲れる。
「・・・・!」
融合騎が両手を伸ばすと、魔法陣が展開され、そこから無数の鎖のバインドが出現し、全員を絡めとる。
『ああっ!!』
融合騎が力一杯両手を振り回すと、バインドに捕まった一同は、ビルの屋上に炎真と獄寺と山本が、ツナとリボーンとなのはとフェイトがアスファルトに叩きつけられた。
「・・・・・・・・」
さらにページが捲れると、一同を拘束していたバインドが桃色や金色に変わった。
「これ・・・・!」
「私やなのはの、魔法・・・・!」
「蒐集した魔法を、使えるのか・・・・!」
「これはかなり厄介だぞ・・・・!」
「私の騎士達が、身命を賭して集めた魔法だ」
融合騎を見上げると、前髪で目元は隠れていたが、その頬には涙が零れた。
「『闇の書』さん?」
「お前達に咎が無いことは、分からなくもない。だが、お前達さえいなければ、主と騎士達は心静かな聖夜を過ごすことができた。残り僅かな命の時を、暖かな気持ちで過ごせていた・・・・」
「はやてはまだ生きてる! シグナム達だって、まだ!」
「もう遅い。『闇の書』の主の宿命は、始まった時が終わりの時だ」
「終わりじゃない・・・・まだ終わらせたりしない!」
なのはは涙混じりにそう訴えるが、融合騎は左手のパイルバンカーの先端から、闇色の魔力砲を放った。
「くっ! ナッツ!!」
「ガァウッ!!」
ツナがナッツを召喚すると、ナッツは『大空の調和』の波動の咆哮で、ツナのバインドをコンクリートに変化させ、バインドを砕いたツナはナッツを『防御形態』に変化させ、砲撃を防いだ。
「ツナさん!」
「なのは! 伝えろ! お前の気持ちを!」
「っ! はい! 『闇の書』さん! 泣いているのは、悲しいからじゃないの!? 諦めなくないからじゃないの?! そうじゃなきゃおかしいよ! ホントに全部諦めてるんなら! 泣いたりなんか、しないよ!!」
涙を流しながら伝えるなのは。
しかし、融合騎は一筋の涙を溢し、パイルバンカーを再び構えて、砲撃魔法を放った。
「バリア・ジャケット、パージ!」
フェイトがそう叫ぶと同時に、砲撃魔法が炸裂し、闇色の爆発が起きた。
「ツナくん! フェイト!」
「リボーンさん!」
「なのは!」
炎真がバインドを引きちぎると、爆発の中から、リボーンを肩に乗せたツナと、なのはの手を掴んだフェイトが現れた。
フェイトのバリア・ジャケットはレオタードのみの姿であった。防御力をギリギリまで減らし、攻撃力の速力に特化させたフェイトの新たな姿、『真・ソニックフォーム』である。
炎真達はホッとしながら、上空に飛んで合流する。
炎真を一瞥したフェイトが、融合騎に向けて声を発する。
「伝わらないなら、伝わるまで、何度でも言う。助けたいんだ! 貴女の事も! はやての事も!」
なのはも、潤んだ瞳で融合騎を見つめる。
「・・・・・・・・・・・・」
しかし、融合騎は沈黙する。
その時ーーーー。
ドクン!
融合騎から、もといパイルバンカーへと変じた『ナハトヴァール』から、鼓動のような音が響くと、火柱が上がっていた町に、今度は水柱が天へと昇り、アスファルトの地面が砕け、周りのビルを押し退け、海からも、岩の柱が現れ天へと昇る。
『っっ!』
驚く一同を無視して、融合騎は口を開く。
「早いな、もう崩壊が始まったか。私も時期、意識を無くす。そうなればすぐにナハトが暴走を始める。意識がある内に、主と騎士達の望みを叶えたい!」
融合騎が『闇の書』を開くと、矢のような、槍のような魔力弾が幾つもの現れた。
「眠れ」
融合騎がそう呟くと、魔力弾が発射された。
「「っ!!」」
「この駄々っ子!!」
[ソニックドライブ]
ツナと炎真が持ち前の推進力で、フェイトは金色の魔力光を全身に纏うとスピードを上げて融合騎に迫る。
真紅と金色の閃光が、魔力弾を回避して、融合騎に迫る。
融合騎は手をつき出すと魔法陣を展開させた。
「ハァーーッ!!」
「ふっ!!」
フェイトと炎真が拳と魔力刃を魔法陣に叩き込むと、魔法陣から漆黒の闇が溢れ、炎真とフェイトを包んだ。
「「っっ!!?」」
「お前達にも、心の闇があろう・・・・」
「くっ・・・・」
「なっ・・・・」
闇に呑まれ、炎真とフェイトの身体が粒子状となって、『闇の書』に吸い込まれていくーーーー。
「炎真っ! くぅっ!!」
「フェイトちゃん!!」
魔力弾に阻まれ近づけないツナとなのはが声を上げるが、炎真とフェイトはそのまま『闇の書』に吸い込まれた。
[吸収]
二人を吸い込んだ『闇の書』が閉じて、二人を吸収したことを告げた。
「炎真さんっ! フェイトちゃーーーーん!!」
なのはが二人の名前を叫ぶ。
「我が主も、主の想い人も、“シモン=コザァートの子孫”も、あの子も、覚める事のない眠りの内に、終わりなき夢を見る。生と死の狭間の夢。それは永遠だ」
「・・・・永遠なんて、無いよ」
「(炎真。フェイト・・・・!)」
「(夢の中で安らいで死ぬか、それとも・・・・いずれにしても、二人の踏ん張りしだいだな)」
リボーンは帽子を被り直して、融合騎を鋭く睨んだ。
ーフェイトsideー
目を覚ましたフェイトは子犬形態のアルフ。死んだはずのアリシア、リニス、そしてプレシアと共に幸せで温かな日々を過ごしていた。
それが現実ではない事は、夢である事は分かっていた。しかし、あまりにも幸せ過ぎるその光景に、涙を流した。
ー炎真sideー
「・・・・・・・・ここは、何処なんだ?」
通常モードに戻った炎真が目を覚ますと、目の前に扉があり、その扉が開くとソコにはーーーー。
『炎真』
『炎真』
『炎真お兄ちゃん!』
「父さん・・・・! 母さん・・・・! 真美・・・・!!」
死んだはずの両親と妹の真美が笑顔で炎真に向かって手を伸ばした。
「また、四人で・・・・っ!?」
炎真もこれが夢である事は分かっていた。しかし、目の前の両親と妹に手を伸ばしそうになった。
その時、背後に誰かの気配を感じ、ゆっくり振り向くとーーーー。
『・・・・・・・・・・』
「ーーーーーーーーっ!」
真紅の死ぬ気の炎、『大地の死ぬ気の炎』を燃やした“戦闘モードの自分”が、静かに炎真を見据えていた。
ー雲雀sideー
「・・・・・・・・・・・・」
そしてここに、はやてと同じく『闇の書』に取り込まれた雲雀恭也が、美しい日本庭園が見える和室で、愛らしい着物姿のはやてと庭園を見ていた。
「・・・・・・・・・・・・」
雲雀は静かに立ち上がると、和室から庭園に出る。
『雲雀さん? どこ行くん?』
着物姿のはやてが首を傾げて雲雀に尋ねると、雲雀はソッと振り向いて、口を開く。
「そろそろ飽きて来たから行く」
『ここに居ればええやんか? 静かで平和やで?』
「退屈は嫌いだよ」
『そうかぁ・・・・』
少し目を伏せて、寂しそうな声色のはやてに、雲雀はツナ達も聞いたことがない優しい声で呟いた。
「ここでの一時は悪くなかった。だけど、“本当の君”に、僕は“聞きたい事”があるからね。それを聞くために、行くよ」
『そっか・・・・“本物の私”を、よろしゅうな』
「ああ」
そう言って、雲雀は庭園をゆっくり歩くと、“幻影のはやて”と“夢の世界”が、静かに、ゆっくりと、消えていったーーーー。