ーシグナムsideー
シグナムは、他の次元世界にて、魔力を持つ生物達から魔力を蒐集していると、シャマルが、はやての容態を通信で報せていた。
その報告は、他の世界に行っているヴィータとザフィーラも聴いていた。
《『闇の書』がはやてちゃんを侵食する速度、段々上がってきてるわ。このままじゃ、もって一ヶ月・・・・ううん、もっと短いかも・・・・》
「案ずるな、大丈夫だ」
シャマルの方向を聞きながら、シグナムは過去の記憶を思い出していた。
古代ベルガの時代の記憶。
【一体誰が付け加えたものなのか、この呪いの鎖は、どうやっても私から外れん・・・・時に主やお前達すら危険にさらし、望まぬ無限転生の宿命を強いる】
守護騎士達に向けて、『長い銀髪の女性』が、悲痛な顔で懺悔するように告げる。
【お前達には、本当にすまない】
その記憶を思い返しながら、シグナムは『闇の書』を手に持つ。
「主はやて・・・・あの優しい主を、お前に殺させるような事はしない・・・・!」
ーヴィータsideー
降りしきる豪雨の中、ヴィータは殺した魔法生物に背を向けながら、グラーフアイゼンを引きずるように、弱々しく歩く。
「(痛くねぇ・・・・。こんなの、ちっとも痛くねぇ・・・・!)」
身体はボロボロ、顔に血を流すヴィータは、それでも歩みを止めない。
「(はやては、もっと痛いんだ・・・・)」
すると、ぬかるんだ地面に足を滑らせ、倒れる。
「(はやてもっと、ずっと苦しいんだ・・・・!)」
ヴィータは、次の魔法生物がいる沼にたどり着いた。
「(『闇の書』のほんとの主になったとして、はやてが嬉しいか分からねぇ・・・・。怒るかもしんない。アタシ達のこと、嫌いになるかもしんない)」
泣き出しそうな顔になるヴィータが、浮遊魔法で沼の真ん中まで飛ぶと、沼からミミズに大口に不揃いな歯を生やした異形の魔法生物が次々と、そのおぞましく醜悪な姿を現し、雄叫びを上げた。
「(優しいはやてが、痛いのも苦しいのも、嫌なんだ・・・・)」
顔を俯かせたヴィータが、泣き顔を浮かべながら顔を上げる。
「はやてが死んじゃうのなんて、絶対嫌だ! だから・・・・アイゼン!」
[分かっています]
グラーフアイゼンは、ヴィータの叫びに応えるように、薬莢を射出させると、その形態を巨体ハンマーに変形させた。
「ぶっ潰せーーーっ!!」
ヴィータは、魔法生物〈沼竜〉に向かって、グラーフアイゼンを振りかぶった。
ーはやてsideー
はやては石田先生から病気の経過を聞いていたが、その顔は晴れやかとはとても言えない状態だった。
ー雲雀sideー
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
雲雀は並森中学の応接室、現在は風紀委員長の執務室になっているその部屋で、雲雀は全身から不機嫌オーラ全開で応接室のソファーに寝そべるが、苛立たしげに身体を揺する。
少しでも風紀を乱す者が現れれば、仕込みトンファーで半殺しにしたい心境だった。
コンコン。
「失礼しま~す。雲雀さん・・・・ひぃっ!!」
「あわわわわ」
「ちゃおっす雲雀」
応接室の扉が開くと、そこにツナと炎真とリボーンが入ってきた。ツナと炎真は雲雀の全身から放たれる不機嫌オーラに小さく悲鳴を上げるが、リボーンは気にすることなく雲雀の向かい側のソファーに腰かける。
「赤ん坊に小動物達かい? 僕は今機嫌が悪いんだ。・・・・噛み殺すよ」
起き上がった雲雀が仕込みトンファーを構えようとした。
「まぁ待て雲雀。先ずは俺達の話を聞け。『闇の書』に関する情報だぞ」
「・・・・・・・・」
リボーンの言った言葉に、雲雀はピクッと反応すると、トンファーを下ろしてソファーに再び腰かけた。
「どういう事だい」
ツナと炎真は恐る恐るリボーンの両隣に腰かける。
「お前も知っているだろう。白蘭の能力、『平行世界にいる自分と知識から共有できる能力』をな」
「・・・・・・・・・・・・」
そこから、リボーンは白蘭から聞いた『闇の書』の正式名称『夜天の書』の情報を聞いた。
『夜天の魔導書』。
各地の偉大な魔導師の技術を収集し、研究するために作られ、主とともに旅をする魔導書だった。
しかし、歴代の持ち主の中の誰かがプログラムを改変してしまい、魔導書は狂ってしまった。
それによって『旅をする機能』、破損したデータを修復する『自動修復機能』が暴走を起こし、『主に対する性質の変化』が起こった。一定期間の蒐集が無ければ、持ち主の魔力を侵食して、完成すればその持ち主の魔力を使って破壊を呼び起こす。
原因は、改変で付け加えられた『自動防衛運営システム ナハトヴァール』。
それが主への侵食と、暴走の原因となっていた。『闇の書』には、『融合管制システム』、“『闇の書』の意思”とも言える管制人格が存在しているが、『闇の書』が完成すれば一定時間で自動防衛システムである『ナハトヴァール』が優先され、溜め込んだ魔力と主の命を全て使い尽くし、『闇の書』は次の主を求めて転生する。そうして、『闇の書』の主達は完成してすぐその命を『闇の書』、いや『ナハトヴァール』に食らいつくされた。
リンディの夫、クロノの父、クライド・ハラオウンも、その暴走の犠牲者だったのだ。
「ここまでの情報は、おそらく管理局の方も掴んでいるだろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
雲雀はリボーンの話を聞きながら、いつの間にか雲雀は、『雲のブレスレット Ver.X』から雲の死ぬ気の炎を燃え上がらせていた。
「「(ガクガクガクガクガクガクガクガク)」」
明らかに怒っている雲雀の様子に、ツナと炎真は戦々恐々だったが、リボーンは冷静に話を続ける。
「白蘭の話では、停止と封印は無いと言っても良いとの事だぞ」
「ーーーーーー!」
雲雀は目を、カッと開くと立ち上がる。
「ひ、雲雀さん、ど、どこに・・・・!」
「ま、まさか、『闇の書』を破壊するつもりですか?」
「君達には関係ない・・・・」
雲雀が応接室を出ようとするが、リボーンが待ったをかけた。
「落ち着け雲雀。停止と封印は出来ねえが、“別の方法”ならあるぞ」
リボーンの言葉に、応接室を出ようとした雲雀はピタっ、と止まった。
「“別の方法”・・・・?」
「あぁ、“停止と封印が出来ない”なら、“切り離しちまえば良い”って事だ」
「・・・・出来るのかい?」
「その為の手段として、お前の力も必要だぞ」
「・・・・・・・・・・・・」
「俺達と群れたくない気持ちは分かるが、急いだ方が良いぞ。管理局が“ヤバい物”を持ち出しそうだからな」
「“ヤバい物”?」
雲雀が聞き返すと、リボーンとツナと炎真も渋面を作る。
「あぁ、これも白蘭からの情報だが、管理局はアースラに、下手をすれば、『闇の書』だけじゃない、俺達の世界すら危険を及ぼす最終手段だ。・・・・その名を『対艦反応消滅砲 アルカンシェル』だ」
ーなのはsideー
翌日の朝、学校の教室でなのはとフェイトとアリサは、すずかから友達の事を聴いていた。
「友達が、入院?」
「うん、先週急に・・・・」
「“はやて”って、すずかが図書館で知り合った?」
「うん、クリスマスも病院なんだって・・・・」
「「ああ・・・・」」
せっかくの聖夜を病院で過ごさなければならなくなったすずかの友達に、なのはとフェイトは気の毒そうに顔を曇らせる。
「じゃあ、みんなでお見舞い行こうか」
アリサの提案に、なのはとフェイトは笑みを浮かべ、すずかも笑顔を浮かべる。
「いいの?」
「いいわよね?」
「「うん」」
「じゃあ、折角だからイブの日、クリスマスプレゼントとか持ってさ!」
「そうだね!」
「どうせならさ! ツナさん達も呼んで、みんなで楽しみましょう!」
「炎真達、来てくれるかな?」
「来てくれるよ! 絶対!」
アリサの提案に少女達は、来る聖夜を心待ちにしていた。
ーシグナムsideー
その頃シグナムは、渓谷のような次元世界にて、魔法生物の魔力を『闇の書』に蒐集し終えると、シャマルからの念話が届いた。
《ザフィーラがこっちに戻ってくれたから、交代で私が出るわね》
「ああ」
《そういえばはやてちゃんね、お友達がお見舞いに来てくれるんだって、すずかちゃん達》
「そうか」
《はやてちゃんも、イブの夕方から夜までは、外出許可をいただけたの。お見舞いのあと、みんなで食事でもしましょって》
「ああ、それがいい。その日には、私達も戻ろう」
《うん、じゃあまたあとで・・・・》
シャマルとの念話を切ると、シグナムは『闇の書』の残りページを確認した。
「残り、あと160ページ・・・・」
イブの日までに、残りページを埋められるか、シグナムの不安そうな呟きは、砂が混じった風に流された。
ーツナsideー
「うん、その日は俺達もみんなで集まろうって予定していたから・・・・うん、実は“海外にいる友達”もやって来るから、その友達も紹介するよ。・・・・じゃ、またね」
ツナはなのはからの連絡を受け取ると、集まっていた獄寺・山本・了平・クロームたち守護者、炎真達シモンファミリーと、ディーノとロマーリオを見据える。
「みんな。白蘭からの情報なら、イブの日が勝負だ。お願いね」
『(コクン)』
ツナの言葉に集まった一同が頷く。
聖夜の日、その日に全てに決着をつける。